ヴィヴィオの言葉をアインハルトは、朦朧とする意識の中で聞いていた。すると
「3……4……5!」
とノーヴェのカウントの声を聞き、今が試合中だと思い出した。だからアインハルトは、直ぐに立ち上がり
「戦えます!」
と構えた。ノーヴェは、アインハルトの申告が虚偽ではないと察して
「試合再開!」
と僅かに距離を取った。その直後、二人は同時に動いた。ヴィヴィオは今まで通り、僅かな隙間を狙って拳を繰り出して一撃て意識を奪おうとした。だが、それをアインハルトは防御を固めて強引に接近し、蹴りを放った。ヴィヴィオは回避したが、一連の光景を見てジークが
「強引やけど、正解や……」
「そうね……ヴィヴィの攻撃は、一撃一撃は軽い……それを身体能力を活かして接近するのは、正しい選択だわ」
ジークの呟きに、ヴィクターが同意した。
確かに、ヴィヴィオの一撃の威力は低く、アインハルトやミウラのように一撃で致命傷にはなりにくい。それを補う為に、カウンターと急所を狙うという戦い方を編み出したのだ。
それに対して、アインハルトはご先祖譲りの高い身体能力を活かして、多少の被弾は無視出来る防御力と一撃で致命傷に至れる攻撃力の高さを有している。
対極の二人だが、二人の攻防戦は一進一退だった。
その時、アラームが鳴り
「そこまで! 第1ラウンド終了! 両者、離れてインターバルへ!!」
どうやら、何時のにか3分経っていたようだ。
ノーヴェの言葉を聞き、二人は即座に攻撃を停止。それぞれのセコンド役が待つ椅子に座って休憩を始めた。
今のところ、ヴィヴィオが優勢ではある。
だが、アインハルトは一撃が重い為に、直撃を入れれば逆転出来る可能性は十二分にある。
そう判断したアインハルトは、次のラウンドでは強引にでも懐に入ろうと考えた。
「インターバル終了! 両者、前へ!」
ノーヴェの宣告を聞いて、ヴィヴィオとアインハルトは再び前に出た。二人が前に出たのを確認して、ノーヴェは
「第2ラウンド、開始!」
第2ラウンドも、先に動いたのはヴィヴィオだった。ヴィヴィオは一息に接近すると、いきなり
「セイクリッドスマッシュ・W」
新技の二連撃を放った。それをアインハルトは間一髪で防いだが、威力に殺しきれずに押し飛ばされた。
何時もならば、ここでヴィヴィオは興奮した様子で
『アインハルトさん、凄い!』
位は言いそうだが、言わないでアインハルトを睨んでいた。
(ヴィヴィオさん……怒っている!?)
アインハルトが動揺していると、ヴィヴィオはまた一息に接近し拳を繰り出した。アインハルトはそれを、防御を固めて耐えた。だが、何発も叩き込まれたことで僅かに防御の空き、隙間が出来た。
ヴィヴィオはそれを見逃さず、そこからアインハルトの顎を狙って拳を叩き込んだ。
その一撃で、アインハルトは一瞬だけ意識を持っていかれ、体がフラついた。ヴィヴィオはチャンスを逃すまいと、次撃に左フックを繰り出したが、偶々その一撃は足から力が抜けて回避され、アインハルトの目前には無防備な腹部が見えたので、条件反射の域で右フックを叩き込んだのだが、その手応えに驚いた。
なんとその一撃で、バリアジャケットが破けた。
「ヴィヴィオさん……」
「まだ、ダメですよ、アインハルトさん……試合中です……」
アインハルトが近寄ろうとすると、ヴィヴィオが息絶え絶えな状態で静止。そして、ヴィヴィオが何をしていたのかは、試合を観戦していたジークやヴィクター達も気付いた。
「なるほどな……魔力運用が上手やから、出来たことやな……」
「流石、と言いたいところですけれど……」
「やれやれ……危ないことをする」
ジーク、ヴィクター、剣士郎の言葉を聞いて、シャンテが
「え、何々? どういうこと?」
と首を傾げた。
「えっとね。試合中って、常に魔力コントロールするよね? 攻撃の時には、攻撃に7。防御に3って感じに」
「ああ、うん。するね。魔力コントロールが上手い子は、それが凄いスムーズだけど」
「そうそう。ヴィヴィオだけど、常に100%振ってるの。攻撃にも、防御にも」
ルーテシアの説明を聞いて、シャンテは理解したと同時に固まった。
「え……それって、他の所の魔力が無くなるわけだから……もし、そこに攻撃を受けたら……」
「んー……例えるなら、水着だけの状態でトゲ付きハンマーで殴られるような感じ?」
「いやぁ!? その例えが怖い!!」
笑顔で説明したからか、シャンテは怯えた。
「ヴィヴィオさん……それは、非常に危険です……」
「分かってます……けれど、アインハルトさんに勝って、私達の思いを届ける為です……」
呼吸を整えたヴィヴィオは、腰を低くして構え
「だから……勝たせてもらいます!」
そう宣言したヴィヴィオは、突撃した。