悟が床に倒れた後、少しして剣士郎も倒れた。
「緋村先輩!」
「緋村君!!」
それを見て、次々と駆け寄る一同。剣士郎の怪我は酷く、今この場所に居るメンバーでは治療は難しいだろう。一刻も早く戻る必要がある、そう考えたヴィヴィオとアインハルトが剣士郎に肩を貸して助け起こした。その時
「ば……抜刀斉……!!」
と地を這うような声が聞こえた。驚きで振り向くと、なんと悟が刀を杖にしながら立っていた。それを見て、ヴィクターとハリーが身構えた。そこに
「はーい、そこまでや」
「君を、不法侵入並びに傷害容疑で拘束する」
はやてと冬也が現れて、バインドで拘束した。
「八神司令、神代隊長!」
「ごめんなぁ、その子が張った結界が厄介でなぁ」
「ここに来るまで、時間が掛かってしまった」
はやてと冬也は軽く謝罪した。立場的には、即座に動いて解決したかったのだろう。しかし、ファビアが展開していた結界に予想外に手間取り、来るのが遅くなってしまったのだ。
「あの、雪代選手……もしかして、ご先祖様に綾という方が居ませんか?」
そう言ったのは、コロナだった。それを聞いて、剣士郎と悟がコロナに視線を向けた。
「実は……こんな本を見つけたんです」
コロナがそう言って差し出したのは、明らかに赴きが違う一冊の本だった。この部屋で見られる殆どが革製のハードカバータイプに対して、その本は紙と紐で纏められている本だった。
「この本に……抜刀斉に関してという項目があったので、気になって持ってきたんです……」
コロナはそう言って、その本を開いて一ヶ所を指差した。確かにそこには、抜刀斉に関しての報告。という部分があった。
「これを書いたのが、雪代綾……という人物のようで……」
ヴィクターはそう言って、背表紙を見せた。確かに、隅にだが小さく《雪代綾》と書かれてある。
「な……」
「綾の……」
悟と剣士郎は、二人して驚いていた。恐らく、先祖の記憶でも知らなかったのか、残っていなかったのか。初めて見たようだ。
「えっと、はやてさん、冬也さん、彼にこの本を読ませてあげてもいいでしょうか……」
「うーん……まあ、データ形式でええなら……」
「本局に居る間、読ませてやれるようには手配しよう」
「ありがとうございます」
コロナのお願いを、はやてと冬也は条件付きで承諾した。そうしている間に、悟と剣士郎は軽くだがその本の筆跡を見ていた。
「間違いない……その筆跡は、綾様の……」
「綾の……」
その筆跡が、間違いなく二人の先祖に深く関わりのある雪代綾の物だと分かった。そうしている間に、はやてと冬也が周囲をグルリと見渡して
「この部屋が、一番壊れてるなあ」
「ああ……はやて、頼んだ」
「はいな。あ、皆もそのままな」
はやては頷くと、まずは回復魔法を発動させて、一同を治した。そのすぐ後に、部屋も元通りになった。
「これは……」
「これ程の回復魔法……八神司令は、回復魔法もお手の物なんですね」
「んー。部屋に関しては、ユーノ君が定期的にデータ形式でバックアップを作ってるからね。それを元にしたんや」
「な、なるほど」
はやては事も無げに言うが、それもかなりの高等技術であり、それにエルスは気付いた。そこへ、通信ウィンドウが開き
『八神司令、神代隊長、今双子と一緒に中に入って、皆の服を回収してるところです』
ノーヴェから、そんな報告が入った。それを聞いて、冬也は
「解決……と言いたいが……ジークリンデ、小さくないか?」
「そやった! ウチを元に戻してぇ!!」
『あ』
冬也の指摘とジークの叫びで、ジークが小さくなっていることを思い出した一同だった。それから、冬也は悟を連行。剣士郎は肩を貸して外に出て、一同はノーヴェ、オットー、ディードの三人が回収した服を着始めた。
その時、リオが
「あれ……これって……」
と一冊の本を見つけた。そして、着終わると
「さて、目的の本を探さないと!」
とヴィヴィオが拳を握った。だが、そこに
「その必要は無いよ! さっき、見つけたから!!」
と言って、先ほど見つけた本を見えるように掲げた。
目的の本、エレミアの手記である。
『ええぇぇぇぇ!?』
「見つけた時に言ってほしかった!」
「けれど、今言ったのは正解ですね……でないと、着ている途中で読み始めてしまう子も居るでしょうし」
「うぐっ」
「うっ」
ヴィクターの言葉を聞いて、ジークとアインハルトは思わず顔を反らした。自覚があったらしい。しかし、目的の本を見つけたのは事実だ。剣士郎も、壁に背中を預けながら座っていて、立とうと床に手を突いた。その時、視界に一冊の本が見えた。コロナが見つけた綾の本と同じ、紙の装丁の本。それが気になった剣士郎は、その本を取って表紙を確認した。
そこには、こう書かれていた。
緋村剣次日記帳。
「……まさか……」
その名前、剣士郎の先祖。抜刀斉と呼ばれた人物である。