魔法少女リリカルなのは 集う英雄達    作:京勇樹

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振り返り

試合会場から場所は変わり、あるホテルの上層階の一室に、一同は集まっていた。

 

「うおー! すっげぇ!!」

 

「こんなホテル、初めて来ました ……」

 

ハリーやエルスは、高級ホテルの上層階から見える景色に驚いていた。確かにトップファイターの彼女達だが、本来はただの学生であり、今居る高級ホテルは簡単には来れない場所だ。

 

「いやぁ、ごめんなぁ。こんな時間に、来てもろうて」

 

「お詫びってわけじゃあないが、こっちで軽く晩御飯とデザートを用意させてもらったから、好きに食ってくれな」

 

はやてと当麻がそう説明すると、扉が開けられて何台ものカートで様々な料理が運ばれてきた。

 

「あ、あのはやてさん……なんか、ここに居るの場違いな気がするんですが……」

 

「ええから、気にせんでいっぱい食べな」

 

はやてはそう言って、困惑していたミウラにお皿を手渡した。そして、各々が料理を食べ始めると

 

「一応こちらから、連絡がつく各家庭には連絡したぞ。はやて」

 

と冬也が告げた。

 

「ありがとうなぁ、冬也はん」

 

「まあ、幾ら大会で遅くなるからって、この時間は心配になるからな」

 

はやては感謝し、当麻は時計を見た。時間は、午後9時半を少し過ぎた所。確かに、心配する時間だ。

そこに、ヴィクターが近付き

 

「八神司令、神代隊長。此度は、このような席を設けていただき、感謝いたします……ただ、ジークは……」

 

「分かっとるよ……ただ、今回の件は話し合わないとしこりを残すことになると思うんよ……あの試合内容……どうやら、古代ベルカ……それも、緒王戦乱期関連や……」

 

ヴィクターが言い澱んでいると、はやては真剣な表情で言った。そしてはやては、料理を食べている子供達を見て

 

「えっと、皆。料理食べながらでええから、ちょっと聞いてくれんか?」

 

と声をあげた。はやての声に反応し、子供達の視線がはやてに集中した。それを確認したはやては

 

「皆、今回の試合……アインハルトちゃんとエレミアちゃんの試合……普通じゃないって、気付いたと思うんやけど……その原因は、古代ベルカの緒王戦乱期に関係あるんや……」

 

はやてがそこまで言うと、ジークとアインハルトが頷いた。

 

「黒のエレミアに覇王イングヴァルト……それに飛天御剣流……その中心に居るのが、聖王……それだけやなく、今この場には古代ベルカに関係する子が多い……まあうちもやけど、雷帝の血を引くヴィクター……後この場には居らんけど、王直系の知り合いが居る……」

 

はやての言葉に、ヴィクターも反応して挨拶した。

 

「これから話すんは、恐らく歴史的真事実もある筈やけど……話すことでお互いに理解しあい、しこりを無くしたいんや……これは、古代ベルカの最後の夜天の王としてのお願いでもあるし、老婆心や」

 

はやてがそこで区切ると、アインハルトが語り始めた。それは、遥か過去の実話。緒王戦乱期も末期に近づいた頃、ある一つの王の国に聖王家から一人の王女が来た。

それを出迎えたのは、若いというよりも幼いと言える、後の覇王たるクラウス・イングヴァルト。

その王女というのが、後にゆりかごの聖王と呼ばれるオリヴィエ・ゼーゲブレヒトだった。

二人は年齢が近いのと、以前から文通をしていたために直ぐ仲良くなった。

その後、オリヴィエはクラウスに友人達を紹介した。

一人は、オリヴィエの護衛をしている剣士、緋村剣治。剣士郎の先祖である。

そしてもう一人は、オリヴィエの義手を作り、格闘技を教えたヴィルフリッド・エレミア。通称リッド。ジークの先祖にあたる。

そこまで聞いて、ジークとヴィクターが

 

「やっぱり、ウチのご先祖と関連あったんやね……」

 

「ジークは、そのご先祖様の事を覚えてないの?」

 

「……残念やけど、ウチは個人の記憶は覚えてないんや……」

 

どうやら、ジークは個人ではなく先祖全員の知識を継承しているらしい。すると、剣士郎が

 

「……個人の記憶を継承するのは、強い未練が理由と聞いています……そして先祖全体は、先祖全体の何らかの思いが強いと起きるらしい……俺やアインハルトの場合は……オリヴィエ王女を助けられなかったという未練が理由だ……」

 

と語った。つまり、クラウスと剣治はよほど未練が強かったことになる。

そこから、またアインハルトは語る。四人は仲良くなり、共に勉強や武術を切磋琢磨していった。

平和な一時が続いてほしいと、四人は思った。しかし、それは時代が許してくれなかった。

四人が成長し、青年と呼ばれる年齢になった頃、聖王家に対して緒王連合が宣戦布告。

戦端は開かれ、その影響は四人とその周囲にも波及した。

どちらが先か分からないが、禁断兵器と呼ばれる兵器が開発され、戦場に投入された。禁断兵器の影響で自然が破壊され、農作物にも大打撃を受けた。

空は常に灰色の雲に覆われ、例え雨が降っても恵み等ではなく、病をもたらした。

そんな時代を終わらせようと、四人は必死に駆け抜けた。戦場を、国と国を駆けた。

しかし、そんな四人を嘲笑うかのように状況は悪化していき、聖王家はある決断を下した。

それが、ゆりかごの投入である。

聖王家が有する決戦兵器、ゆりかご。その力は絶大で、あっという間に戦争は終結した。

そしてクラウスは、オリヴィエと再会することは無かった。

 

「クラウスは、オリヴィエに拳を繰り出してまで止めようとしました……しかしクラウスは敗れ……二度とオリヴィエとは再会出来ませんでした……」

 

「……ウチのご先祖様は……」

 

「リッドは、時々フラりと居なくなっては半年程連絡も無いことがありまして……その時も、居なかったんです……」

 

ジークの問い掛けに、アインハルトが答えると、ヴィクターがジークの耳元で小声で

 

「その放浪癖……貴女(子孫)にも受け継がれてますわね」

 

「うぅ……い、今は違うんよ……」

 

ヴィクターの言葉に、ジークは苦い表情を浮かべながら一応反論した。今は八神家に居候してるジークだが、その前は色々な場所に行っており、ヴィクターでも所在地を把握するのが難しいことが多々あった。

 

「それで、クラウス殿下は不義理な友達を恨んでたんやろうか……」

 

「それは無い筈です!」

 

ジークが俯くと、そんなジークの手をヴィヴィオが握った。そしてヴィヴィオは、アインハルトを見て

 

「クラウス殿下は、大切な友人を一度に失ったんですから……悲しかったんですよね?」

 

「……そうですね……リッドと緋村にもやむにやまれないことがあったとは理解していましたが……リッドに関しては一度殴りたいとは思っていたようですが」

 

「あぁー」

 

アインハルトの言葉に納得したのか、ジークは頷いた。そしてアインハルトは、剣士郎を見て

 

「緋村に関しては、途中から人斬り抜刀斎の噂が聞こえてきて、何となくは察していたようですが……」

 

「だろうな……剣の鍛練を、何度も行った記憶があるからな……」

 

アインハルトの話に、剣士郎も納得していた。記憶が残っていたらしい。そこまで聞いて、ハリー達が

 

「いやぁ……凄い話を聞いたなぁ……」

 

「貴重な歴史の授業っすね」

 

「謎に包まれてた、緒王戦乱期……そんな経緯があったなんて……」

 

と感心していた。やはり学生なだけあり、かなり興味深いようだ。

 

「そうなると……ウチのご先祖様がどうしてたか、どう思ってたんが気になるなぁ……」

 

「そういった書物は、無かったん?」

 

「元々、ジークの一族は流浪の民……私の先祖が敷地と家を提供するまであちこち行ってたみたいで……家に残ってるのは、エレミアクランツに関する物ばかりで……」

 

エレミアとはやての会話を聞いて、ヴィクターが横から説明した。すると、ヴィヴィオが

 

「今のお話を聞いて、一つ思い出したんですが……エレミアの手記に関する本が、管理局の無限書庫に有ったような気がするんです」

 

と発言した。それを聞いて、リオとコロナの二人も

 

「あ、はいはーい! 私も見覚えがある!」

 

「私も、見た記憶がある!」

 

と手を挙げた。それを聞いて、エルスとミカヤが

 

「なるほど、無限書庫ですか……」

 

「確かに……あそこならば、有っても可笑しくはないね」

 

と納得していた。三人の話を聞いて、行ってみようという話に纏まり

 

「八神司令、神代隊長……そちらから無限書庫の閲覧許可が取れますか?」

 

とヴィクターが問い掛けた。

 

「んー……確かに、ウチらからも取れるけど……」

 

「それよりも、早く確実な方法がある……ヴィヴィオ、リオちゃん、コロナちゃん」

 

冬也が視線を向けると、ヴィヴィオ達は頷き

 

「実は私達、無限書庫の司書の資格を持ってます!」

 

と資格を提示した。

 

『ええぇぇぇぇ!?』

 

それを知り、ほとんどのメンバーは驚愕した。そして、いの一番にハリーが

 

「そんな資格を持ってるって、お前らどんな小学生だ!?」

 

「あははー」

 

「まあ、ちょっとした伝がありまして……」

 

ハリーの言葉に、リオとコロナは困ったような笑みを浮かべた。すると、ヴィヴィオが通信ウィンドウを開き

 

「あ、ユーノパパ? 今大丈夫?」

 

『ん? 大丈夫だけど、どうしたんだい?』

 

ユーノと通信を始めた。

 

「明日なんだけど、エレミアの手記を探しに行きたいんだけど……平気かな?」

 

『……ああ、大丈夫だよ。ただ、未整理区画だから気をつけてね?』

 

「大丈夫だよ! 八神司令に冬也パパも居るから!」

 

『ああ、その二人が居るなら平気かな? ただ、僕も司書長室に居るようにするから、何かあったら直ぐに連絡するように』

 

「はーい!」

 

ヴィヴィオとユーノの通信が終わると、ミカヤが

 

「今、ユーノ総合司書長を、パパと呼んでいたが……神代隊長もパパと呼んでいたね?」

 

とヴィヴィオに問い掛けた。

 

「あー……えっと」

 

「正確には、なのはとユーノが義理の両親で、フェイトと俺はヴィヴィオが小さい時から一緒に面倒を見ていたから、ヴィヴィオからしたら第二の両親という認識になったんだ」

 

ヴィヴィオがどう説明すればいいか迷っていると、冬也がヴィヴィオの頭を撫でながら説明した。その間に、ヴィクターがはやてに歩み寄り

 

「申し訳ありません、八神司令……このような大人数になってしまい……」

 

「かまへんよ……今確認したけど、確かにエレミアの手記は有る……けど、ユーノ君が言ってた通りに無限書庫の未整理区画や……」

 

はやては快諾すると、ユーノから送られてきたらしいデータを確認しながら告げた。

無限書庫、その名前の通りに無限に広がる書庫で、開拓と整理が始まって約10年近く経つが、未だに新しい区画が見つかったりするために終わる目処が立たない。

しかしその分、非常に珍しい書籍が見つかることも多く、確認された一番古い本は6500年前の本になる。

 

「はやて、本局内部の空いている部屋を、人数分確保したぞ」

 

「流石や、冬也はん。ありがとうな」

 

冬也の考えに気付き、はやては

 

「ほなら、今から各家庭に電話するから。子供達は皆集まって!」

 

と子供達を呼んだ。こうして、格闘技選手達による無限書庫探索が決まったのだった。


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