『な、なんということだー!? 大番狂わせ! トップファイターが、初戦敗退だー!! それを成したのは、今回初出場のルーキー! ミウラ・リナルディーだぁ!!』
司会者の興奮した声がスピーカーを伝わって空気を震わせるが、そのミウラはと言うと
「勝ったから良し……とは言わんぞ」
「指導事項が山積みだかんな……帰ったら覚悟しろよ」
「はい……」
怒った表情のザフィーラとヴィータの前で、小さく正座していた。勝者とは思えない、残念な姿だった。
その時ミウラは、弟子達に支えられながら退場していくミカヤに気付くと立ち上がり、頭を下げた。
正々堂々と戦ったのだから、キチンと礼儀を尽くす。そう指導されていたからだ。
ミカヤも支えられてはいたが、動けないというわけではないようで、軽く頭を下げて、退場していった。
『では、期待のルーキー、ミウラ・リナルディー選手にもう一度拍手を!!』
司会者が促すと、会場全体で万雷の拍手が鳴り響いた。
まさに、順調なスタートと言えるだろう。しかし、勝者が居るということは敗者が必ず居る。今回の場合、勝者はミウラで敗者はミカヤとなる。
退場していくミカヤを、二階席で見ていたハリーとジークの二人は
「あちゃー……ミカ姉、負けちまったか……こりゃ、都市本戦での再戦は次だなぁ……」
「せやな……」
と残念そうにしていた。しかし、DSAAには年齢制限が設けられており、参加出来るのは10歳から19歳までとなっている。そしてミカヤは、今年18歳。次が最後の出場機会になるのである。
「今日はもう、ミカ姉とは会わねーほうがいいだろうし……ひとまずは、自分の試合に集中すっか」
「うん」
「ジークも、気ぃ抜いて負けんじゃねーぞ?」
ハリーのその言葉に、ジークは微笑みを浮かべて
「平気。
とそこまで言うと、下に視線を向けた。その先に居るのは、アインハルトだ。
「四回戦で、ちょっと気になる子とも当たるから」
どうやらジークリンデは、アインハルトが気になるらしい。同時刻、第2会場では予選6組の二回戦が行われていた。
「双輪剣舞ゥッ!」
「ぐうっ!?」
シャンテ・アピニオン
残LIFE 7400
VS
リリーナ・サガリス
残LIFE 0
『試合終了! 勝者、シャンテ・アピニオン選手!!』
「ま、独唱で楽勝だったね? ってか、余裕?」
司会者が勝者を宣言した後、シャンテは余裕綽々といった様子でセコンドたるセインとシャッハの居る方に帰りながら、そんなことを言った。
それを聞いたシャッハは、額に手を当てながら
「だから、戦った相手には礼儀を尽くしなさいと……!」
と言って、シャンテを睨んだ。するとセインが、そんなシャッハの肩に手を置いて
「まあまあ、勝ったんだから、褒めてあげようよ」
と言って、戻ってきたシャンテを出迎えた。
そして、同じ試合会場ではルーテシアも参加していたのだが
「リフレクト・ミラージュ!」
「うわぁぁぁぁぁ!?」
ルーテシア・アルピーノ
残LIFE 8600
VS
エルザ・エディックス
残LIFE 0
『勝者、ルーテシア・アルピーノ選手!』
司会者が勝者を宣言すると、ルーテシアは観客席に手を振ってからセコンドの方に戻るが
「んっふっふー♪ 召喚魔法無しでも、意外でやるもんでしょ?」
そのセコンドは、なんとエリオとキャロだった。
「おー! ルー、凄い!」
「うー……少しライバル心……」
エリオは素直に褒めているが、キャロは何やら複雑そうな表情だった。何を隠そう、キャロとルーテシアは
そしてキャロは、少々分が悪い状況になっているのだが、それに気付いていないのは、エリオのみである。
セコンドの二人と合流したルーテシアは、視界の端である人物を見た。
その人物は、この先でルーテシアが戦うだろう相手。名前は、ファビア・クロゼルグ。
なんとこの少女が使う魔法は、ミッド・ベルカ・近代ベルカの何れでもなく、今や使い手がほぼ居ない古式魔法だった。
科学で作られた魔法ではなく、連面と受け継がれてきた魔法。
ルーテシアとしたら非常に気になる相手だ。試合相手でもそうだが、古式魔法の使い手が表舞台に出てくるのは非常に珍しいのだ。
古式魔法の使い手は余り目立つことを良しとせず、やっていても一般人に紛れたり、薬剤師になっていたりするのみだ。それが、非常に目立つDSAAに参加してきた。
となれば、何か目的があるのは明白である。
(さてさて……あの子は、何をやる気なのかなぁ?)
ルーテシアは人知れず、心の中の両手をワキワキと動かすのであった。
再び場所は変わり、第2会場のシャワー室。
「そう……ミカヤさんが負けたの……」
先に試合を終えたヴィクターが、汗を流すためにシャワーを浴びていた。そのヴィクターの前には、サウンドオンリーと表示されたウィンドウが開いていて、その相手は執事のエドガーである。
『ええ、相手は新人……
そこまで聞いたヴィクターは、シャワーを終わらせ、ウィンドウを閉じて体を拭き始めた。
「そう……私も、足下を掬われないようにしませんと……それより、第1会場はどうなってますの?」
『今年の第1会場は、かなり粒揃いですよ。お嬢様』
ヴィクターの問い掛けに、エドガーは楽しそうに返答した。
三度場所は変わり、第1会場。
『今年の第1会場は、大波乱です! 初戦のミウラ選手のように、新人選手が次々とKO勝利しています!』
司会者の言う通り、第1会場で行われている各組の予選で、リオ、コロナ、ヴィヴィオ、アインハルトが次々とKO勝利を量産していた。
特にヴィヴィオとアインハルトの二人は、見事な戦い方で大したダメージも負わずに勝利していた。
なお、チームナカジマの初戦の成績は今のところ
高町・S・ヴィヴィオ 1ラウンド2分20秒 KO勝利 予選4組
リオ・ウェズリー 3ラウンド3分15秒KO勝利 予選5組
コロナ・ティミル 2ラウンド2分24秒KO勝利 予選1組
アインハルト・ストラトス 1ラウンド58秒KO勝利 予選1組
となっている。
そして今、モニターに剣士郎の試合が再放送されている。
「いいな、剣士郎。何時も通り、落ち着いていけ!」
「頑張ってね、剣士郎君!」
そんな剣士郎のセコンドを勤めるのは、ノーヴェとディエチだ。剣士郎はリングに上がると、対戦相手を見た。
短い黒髪に、上下白の胴着。帯は白だが、階級を示す白ではないだろう。
少女らしい体格だが、油断は出来ないだろう。
「双方、前に」
レフェリーに呼ばれ、剣士郎と対戦相手。
最高戦績、都市本戦第8位。
アリーゼ・サガラ
VS
初出場
緋村剣士郎