魔法少女リリカルなのは 集う英雄達    作:京勇樹

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覇王について2

「オリヴィエ・ゼーゲブレヒト……聖王家の王女にして、後の《最後のゆりかごの聖王》……クラウスとオリヴィエの関係は、歴史研究でも諸説あるんだよね」

 

ルーテシアは、そう言いながら覇王回顧録のページを進めた。

すると、コロナが

 

「そもそも、生きた年代が違うって説が主だよね」

 

と言って、ルーテシアもそれに一度は頷くが

 

「でも、この本だと、二人はまるで姉弟みたいに育ったってなってる」

 

とページに指を這わせた。

そこに、リオが

 

「オリヴィエって確か……ヴィヴィオの……」

 

複製母体(オリジナル)だね」

 

リオの言葉を補足するように、ルーテシアは告げた。

だが、オリヴィエの絵を見て

 

「まあ、肖像画とか見る限り、あんまり似てないし……普通に、《ヴィヴィオのご先祖様》の認識で、いいと思うけど」

 

「だよね」

 

「だね」

 

ルーテシアの言葉に、リオとコロナは同意するように頷いた。

すると、コロナが

 

「でも、なんで聖王家の王女様とシュトゥラの王子様が仲良しだったんだろうね?」

 

と首を傾げた。

 

「あ、そういえば」

 

二人の言葉を聞いて、ルーテシアは本をパラパラとめくり

 

「オリヴィエが、シュトゥラに留学って体裁だったみたい。シュトゥラと聖王家は国交があったしね」

 

と二人に説明した。

それに二人が頷いていると、ルーテシアが

 

「ただ、オリヴィエは確かにゆりかご産まれの正統王女だけど、継承権は低かったみたいだし……ようは、人質だったんじゃないかな?」

 

と自身の考えを告げた。すると、リオとコロナ、更には一緒に居たクリスもガタガタと震えながら

 

「せ、戦国時代の人質って、アレだよね……」

 

「逆らったりしたら、殺しますって……」

 

「そうそう、それ」

 

二人の言葉を笑顔で肯定するが、ルーテシアはあるページを開き

 

「でも、二人には関係なかったみたいだね……途中は、オリヴィエとのことばかり」

 

と言って、あるページを開いた。

そこには、椅子に座るオリヴィエとその傍らに立つクラウスの絵があった。

場所は変わり、ヴィヴィオとアインハルト

 

「クラウス殿下にとって、オリヴィエはどういう人だったんですか?」

 

「そうですね……明るく、太陽のような人でした……彼女と一緒に居ると、自然と笑みが溢れるような……暖かく感じる……何より、魔導と武術が強い方でした」

 

ヴィヴィオの問い掛けに、アインハルトは昔を思い出すように語った。

恐らく、クラウスの記憶を振り返ったのだろう。

しかし、少し暗い表情を浮かべ

 

「ただ、そんな彼女も乱世の最中に命を落とされました」

 

と告げた。

 

「ゆりかごの運命通りに……ですよね」

 

ヴィヴィオのその言葉に、アインハルトは頷いてから

 

「覇王は……クラウスは、その運命を止められませんでした……皮肉な話ですが、彼女を失って、彼は強くなりました。全てをなげうって武の道に打ち込み、一騎当千の力を手に入れて……」

 

とそこまで言うと、空を見上げた。

 

「それでも……望んだものは手に入らないまま、彼も短い生涯を終えました」

 

「望んだもの……?」

 

ヴィヴィオが首を傾げると、アインハルトは振り向いて

 

「本当の強さです……守るべきものを守れない悲しみを、もう繰り返さない強さ……彼が作り上げ磨き続けた覇王流は、弱くなんかないと証明すること……それが、私が受け継いだ悲願なんです」

 

と宣言し、それを聞いたヴィヴィオは悲しさを覚えた。

すると、我に返ったらしく

 

「……すみません、自分の話はかりで」

 

とアインハルトは、顔を赤くしながら頭を下げた。

すると、ヴィヴィオは両手を振りながら

 

「ああ、いえ、そんな!」

 

と言ったが、そこから先が言えなかった。

 

「昔話ですので、あまり気にしないでください」

 

「はい……あ、みんなの所に戻りましょうか」

 

「はい」

 

ヴィヴィオの提案で歩き始めたが、会話はなく、ヴィヴィオの雰囲気は僅かに暗い。

それにアインハルトは気づき

 

(しまった……私の話で、ヴィヴィオさんが悲しい顔を……これまでのやりとりで、思いやりの深い子だというのは、分かっていたのに……何か、ヴィヴィオさんが喜ぶような話は……)

 

と頭を抱えた。

だが

 

(何も思い付かない!?)

 

自分の話題性の無さに絶望した。

 

(困った、どうしよう……!?)

 

とアインハルトは、何とかしようと必死に考えていた。

そこに

 

「お、ヴィヴィオ! アインハルト!」

 

とノーヴェの声が聞こえた。

 

「あ、ノーヴェ!」

 

「ブラブラしてんなら、向こうの訓練を見学しに行かねーか? そろそろ、スターズが模擬戦形式で訓練始めるんだってさ」

 

ノーヴェがそう言うと、ヴィヴィオは満面の笑みを浮かべて

 

「アインハルトさん、見に行きませんか?」

 

と言った。

 

「はい」

 

ヴィヴィオの提案に、アインハルトは頷きながら

 

(ああ、よかった……笑顔が戻った……)

 

と内心では、安堵していた。

だからか、ノーヴェに

 

「ありがとうございます、ノーヴェさん」

 

と小声で、感謝の言葉を述べた。

だが、言われたノーヴェとしたら、何のこっちゃ。である。

そしてノーヴェは、ルーテシア達を呼んでから

 

「ああ、そういやあ二人共。剣士朗を見なかったか?」

 

と二人に問い掛けた。

 

「ふえ? 緋村先輩? 見てないよ?」

 

「私も見てません」

 

二人のその返答に、ノーヴェは

 

「あいつ、どこに行った?」

 

と首を傾げた。

場所は変わり、森の中。

 

「んー……後は、ここら辺になるけど……」

 

とディエチが、剣士朗を探していた。

そして、ある場所で

 

「ん……この音は……?」

 

ディエチは、激しい金属音を聞いた。

 

「あっち……?」

 

ディエチは、音のした方向に行ってみた。

少しすると、まだ建設中らしいアスレチックフィールドの一角に入った。

 

「ルーテシア、まだ広げてるんだ」

 

ルーテシアがまだ改築中だと気付いたディエチは、そのことを苦笑した。

その時、影が走った。

 

「ん?」

 

頭上を見上げたディエチが見たのは、空中で刀と爪をぶつけ合っている剣士朗とガリューだった。

 

「な……」

 

ガリューは羽を高速で動かして、空中を駆けていく。

そこに、まだ伐られていなかった大木の幹を蹴って剣士朗が追い付き

 

「飛天御剣流……龍昇閃!」

 

刀の峯に手の甲を当てて、刃を上にして飛んだ。

その一撃をガリューは、爪を斜めにして受け流した。だが剣士朗は、ガリューの上にあった枝で強引に方向転換し

 

「龍墜閃・惨!!」

 

切っ先を下にして、ガリューに突撃した。

その一撃を、ガリューは辛うじて回避した。それにより、剣士朗は地面に猛スピードで迫る。

 

「危ない!」

 

ディエチは思わず声を挙げるが、剣士朗は空中で姿勢を入れ換えて着地し

 

「……ディエチさん?」

 

ディエチに気付いた。

 

「なに、してるの?」

 

「ガリュー殿に手伝ってもらって、体を動かしてました……ガリュー殿、ありがとうございました」

 

ディエチの問い掛けに答えながら剣士朗は、刀を納刀。そして、近くに着地したガリューに頭を下げた。

すると、ガリューも爪を収納してから胸元に右手を当てて頭を下げた。

そして、剣士朗は

 

「それで、ディエチさん。どうしました?」

 

とディエチに問い掛けながら、首を傾げた。

 

(さっきまでの雰囲気と、全然違う……さっきまで、まるで人殺しの雰囲気だったのに……)

 

ディエチはそこまで思うと、一度頭を振ってから

 

「剣士朗君を探しに来たの。何処にも居なかったから」

 

と言った。

それを聞いた剣士朗は、バリアジャケットを解除し

 

「それはすいませんでした」

 

と素直に謝罪した。

そして、デバイスを仕舞い

 

「では、戻りましょうか」

 

とディエチに言って、戻ることにした。


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