時は経ってお昼
「皆さーん! お昼ご飯の準備が出来ましたよー!!」
というメガーヌの言葉が聞こえて、続々と集まる合宿メンバー達。しかし、そんな中の二人。ヴィヴィオとアインハルトの二人がプルプルと震えていることに気付き
「あらあら、二人はどうしたのかしら?」
とメガーヌは不思議そうにした。
すると、ノーヴェとディエチが
「いや、こいつらな」
「他の子達が上がってもずっと水切りをしてたみたいなんですよ」
と説明した。ようするに、体が冷えたのだろう。
二人の説明を聞いたメガーヌは、困った子達ねといった風体で苦笑を浮かべた。
その後、訓練組も合流して
『いただきまーす!』
と一斉にご飯を食べ始めた。
「うわっ、美味しい!」
「本当!」
「このソースがまた、素材の味を引き立てるわね!」
「ふっふーん! 我がホテル自慢のソースです!」
一日目のお昼は、バーベキュー形式のお昼で、焼きたての肉や野菜に全員は満足していた。
そして、お昼が終ると子供達による皿洗いの手伝いがあり
「その……ヴィヴィオさん達は、何時もあのような練習を?」
とアインハルトが、ヴィヴィオに問い掛けた。
するとヴィヴィオは、アインハルトから渡されたお皿を拭きながら
「いえ、そんな何時もって訳じゃないんですよ。最初は、スバルさんから格闘の基礎を教わって、一人で練習を始めたんです」
と語りだした。
「そこから独学で頑張ってたら、ノーヴェが声を掛けてくれたんです。そんなんじゃ、体を壊すぞって。そこから、時間作ってくれては教えてくれるようになって……気付けば、リオとコロナも一緒に面倒見てくれるようになったんです……優しいんですよ、ノーヴェって」
「……わかります……少し羨ましいです。私は、ずっと独学でしたから」
アインハルトのその言葉に、ヴィヴィオは悲しい表情を浮かべるが
「でも、今度からは一人じゃないですよね?」
とアインハルトに言った。
が、顔を赤くして
「あ、もちろん練習的な意味ですよ!?」
と恥ずかしそうに言った。
それに感化されたのか、アインハルトも恥ずかしそうに
「あ、はい。そうですね!」
と皿洗いに意識を向けた。
(古流武術と近代格闘……この二つは、交わることは無いけど……)
(それでも、近くで一緒に……)
二人は同じことを考えたのか、手を拭いてから軽く拳をぶつけた。
その後、ある一室にて
「あ、ルーちゃん。その本って」
「そ……アインハルトに見せたい本で、諸王時代の覇王……クラウス・G・S・イングヴァルトの回顧録」
とルーテシアが、一冊の本を出していた。
その本の表紙には、若い男性の絵が描かれてある。
短く切り揃えられた碧銀の髪に、青と紫色のオッドアイ。彼こそが、アインハルトの先祖にして覇王と呼ばれしクラウス・G・S・イングヴァルトだ。
「ベルカの歴史に名を残した武勇の人にして、初代覇王。クラウス・G・S・イングヴァルト……彼の回顧録。もちろん原本じゃなく、後世の写本だけどね」
ルーテシアはそう言いながら、本を開いた。
その本を覗き込み、リオは不思議そうにするが、コロナは
「ルーちゃん、アインハルトさんのことは……」
と視線を向けた。
「ノーヴェから、大体はね……覇王家直系の子孫で初代覇王の記憶を伝承してるって」
ここで場面は変わり、皿洗いが終わったアインハルトとヴィヴィオが、お皿を戻しながら
「記憶といっても、覇王の一生分全てという訳ではないんですが」
とアインハルトが語りだした。
「途切れ途切れの記憶を繋ぎ合わせれば、
そこまで語ったアインハルトは、遠い過去に思いを馳せつつ
「厚い雲に覆われた薄暗い空と枯れ果てた大地……人々の血が河のように流れても、終わらない戦乱の時代……誰もが苦しみ、乱世を終わらせたいと願いながらも、だけどもその為には、力をもって戦うしかなかった時代……そんな時代に生きた覇王としての短い生涯の記憶とたくさんの心残り……」
とそこまで語ったが、ヴィヴィオが少し悲しい表情を浮かべていることに気付いて、慌てて
「すみません、せっかくの旅行中に暗い話で」
と頭を下げた。
「いえ、そんな……」
「その、もちろん悲しいことばかりでもなかったんですよ? 楽しい記憶、幸せな記憶もちゃんと受け継いでいます。例えば、オリヴィエ聖王女殿下との日々とか」
アインハルトがそこまで言うと、ヴィヴィオが
「オリヴィエって、クラウス殿下と仲良しだったんですか?」
と問い掛けた。
オリヴィエとクラウスの関係に関しては、考古学者達の議題の一つに挙げられるのだ。
「仲良しとは、少し違うような気もしますが……オリヴィエとクラウスは、共に笑い、共に武の道を歩む同士だったことは確かです」
アインハルトはそう言いながら、青空を見上げた。