魔法少女リリカルなのは 集う英雄達    作:京勇樹

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想い

そして、一同が向かったのは、区民センター内のスポーツコートだ。

ノーヴェがそこの管理者と知り合いで、今回はその内の一室を貸し切りにしてもらったのだ。

 

「じゃあ、あの! アインハルトさん! よろしくお願いします!」

 

「……はい」

 

トレーニングウェアに着替えた後、ヴィヴィオは元気に言うが、アインハルトは静かに頷いた。

 

諸王戦乱期に、武技においては最強を誇った一人の王女が居た。その名は、オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。

後の、《最後のゆりかごの聖王》。

かつて覇王と呼ばれた、《覇王イングヴァルト》は、そのオリヴィエに勝つことが出来なかった。

 

『それで、時代を越えて再戦……か?』

 

それは、朝方にまで時を遡る。

 

『覇王の血は、長い歴史の中で薄れていますが、時折……その血が色濃く甦ることがあります』

 

『先祖帰り……か』

 

あの管理局施設で、アインハルトはその心中を語っていた。

彼女の家系は、確かにかつての古代ベルカの王の一人たるイングヴァルトの家系で、アインハルトはその血が色濃く出ていた。

 

『碧銀の髪や、この色彩(青と紫)の虹彩異色……覇王の身体資質と覇王流(カイザーアーツ)……それらと一緒に、少しの記憶もこの体は受け継いでいます』

 

それを聞いたノーヴェは、以前にユーノから聞いたある説を思い出した。

 

『どうも、強い後悔や心残りがあるまま亡くなると、それを子孫が引き継ぐことがあるみたいなんだ……隔世遺伝してもね』

 

と。つまりは、覇王イングヴァルトは強い心残りがあったまま、亡くなったということを意味している。

 

『私の記憶にいる《彼》の悲願なんです……天地に覇をもって、和を成せる……そんな《王》であること……』

 

アインハルトはそこまで言うと、涙を流しながら

 

『弱かったせいで、強くなかったせいで……彼は彼女を救えなかった(・・・・・・・・・・・)……守れなかったから! そんな数百年分の後悔が……私の中にあるんです……』

 

と静かに叫び、そしてそのアインハルトの言葉に、剣士郎は目を伏せた。

どうやら剣士郎も、かつての記憶に思いがあるようだ。

 

『今が、かつての時代と違うのは分かってます……だけど、やるせないんです! 私の拳を……彼の思いを受け止めてくれる人が、誰も居ない!』

 

そう言ったアインハルトは、両手で顔を覆った。どうやら泣いているらしく、小さいが嗚咽も聞こえる。

それを聞いたノーヴェは、静かに、しかし力強く

 

『居るぞ。お前の拳を受け止めてくれる奴は』

 

と確信した表情で、そうアインハルトに告げた。

それを聞いたアインハルトは、涙ながらに

 

『……本当に?』

 

とノーヴェに問い掛け、放課後にあの喫茶店に来るように言われたのだ。

そして時は戻り、今。

アインハルトとヴィヴィオは、コートに入るとラインの位置に立った。

それを確認したノーヴェが

 

「射砲撃や拘束といった魔法は無しの、格闘オンリー。四分1ラウンド! 一撃入れたほうが勝ち……それで、いいな?」

 

と二人に、ルールを確認した。

それに二人が頷くと、ノーヴェは片手を上げた。それと同時に、二人は構えた。

アインハルトは僅かに腰を落として静かに、対称的にヴィヴィオは、軽くステップを踏みながら構えた。

 

「レディ……ゴー!!」

 

とノーヴェが手を振り下ろした直後、ヴィヴィオは一気にアインハルトに肉薄していた。

予想外の速さに、アインハルトは驚いたが、ヴィヴィオの一撃は両腕を交差させて防いだ。

そこから、ヴィヴィオにラッシュが始まった。

それを見た剣士郎が

 

「歩き方で分かっていたが、かなりの力量だな……」

 

と驚いていた。

すると、それを聞いたリオが

 

「ヴィヴィオ、訓練頑張ってるから!」

 

と胸を張った。

そこ、無い胸と言わない。まだ、将来は分からないから。

話を戻して

剣士郎は、二人の戦いの様子を見ていたが

 

(確かに……手数は高町ちゃんが圧倒的だが……ストラトスは全て捌いているな……)

 

と冷静に見ていた。

端から見たら、ヴィヴィオの方が有利に見えなくもない。しかしアインハルトは、ヴィヴィオの怒涛のラッシュを冷静に見極め、全て捌いていた。

そこに、アインハルトの技量の高さが伺える。よほどの鍛練を積んだ証拠だ。

そしてアインハルトは、ヴィヴィオの拳を受け流しながら

 

(まっすぐな技に、きっとまっすぐな心……)

 

ヴィヴィオの目を見ていた。

ヴィヴィオの目に有るのは、純粋な光だ。

 

(だけど、この子は……だからこの子は……)

 

アインハルトはヴィヴィオが繰り出したフックを、しゃがんで回避し

 

(私が戦うべき、《王》ではないし……何より……)

 

掌打を、ヴィヴィオの体に入れた。

その一撃でヴィヴィオは大きく吹き飛ばされて、危うく壁にぶつかるかと思われた。

だが、いつの間にか回り込んでいたオットーとディードが受け止めて、着地した。

するとヴィヴィオは、どこか興奮した表情を浮かべながら

 

(凄い!)

 

とアインハルトを見た。

しかしアインハルトは、どこか悲しげな表情で

 

(……私とは、違う……)

 

ヴィヴィオに背を向けた。

それを見たヴィヴィオは、慌てた表情で

 

「す、すいません! 私、何か失礼を!?」

 

とアインハルトに問い掛けた。しかしアインハルトは、肩越しにチラリと見ながら

 

「いいえ……」

 

と短く答えるだけ。

しかしヴィヴィオは、それでは納得せず

 

「じゃ、じゃあ、あの……わたし、弱すぎました?」

 

と問い掛けた。

それに対して、アインハルトは

 

「いえ、趣味と遊びの範囲内(・・・・・・・・・)でしたら、充分すぎるほどに」

 

と返した。

その言葉に、ヴィヴィオが動揺していると

 

「すいません……私の身勝手です……」

 

と謝罪した。

しかし、ヴィヴィオは何処か納得しきれず

 

「すいません! 今のスパーが不真面目に感じたのなら、謝ります! 次は、もっと真剣にやります! だから、もう一度やらせてもらえませんか? 今日じゃなくてもいいです! 明日でも……来週でも!」

 

と申し込んだ。

それを聞いたアインハルトは、困惑した表情でノーヴェに視線を向けた。

するとノーヴェは、乱暴に頭を掻いて

 

「あー……そんじゃまあ……」

 

と言葉を漏らしながら、二人を見た。

流石に、このままというのは後味が悪い、そう判断したノーヴェは

 

「来週またやるか? 今度はスパーじゃなく、練習試合でさ」

 

と提案した。

それを聞いたウェンディとディエチも賛同し、リオとコロナも楽しそうに頷いた。

そして、アインハルトも

 

「……分かりました。時間と場所は、お任せします」

 

と言って、ロッカールームの方に歩きだした。

そのアインハルトに、ヴィヴィオが

 

「ありがとうございます!」

 

と頭を下げた。

そして、分かれ道で

 

「悪い、ヴィヴィオ。気を悪くしないでやってくれ」

 

「全然! わたしの方が、ごめんなさいだから!」

 

とノーヴェとヴィヴィオは、小声で会話して別れた。

この時、剣士郎がメモ用紙をヴィヴィオのデバイス、クリスに手渡していた。

そして帰宅した後、ヴィヴィオは

 

「うー……」

 

とヴィヴィオは、ベッドにうつ伏せになっていた。

そんなヴィヴィオに、クリスがメモ用紙を見せた。

 

「ふえ? 緋村先輩から?」

 

それを受け取ったヴィヴィオは、メモ用紙を開いた。

すると、几帳面な字で

 

『ストラトスは少し生真面目過ぎる故、深く考え過ぎてしまう。それと、君が遊びで格闘技をやっていないことを、俺は理解している。だから俺から言えるのは、今の君に出来る最高の技を、ストラトスに見せてやってほしい』

 

と書かれてあった。

それを見たヴィヴィオは、ムクリと起き上がり

 

「よしっ! やるぞー!!」

 

と気合いの声を上げて、来週の練習試合の為に訓練を始めたのだった。


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