女帝が引っかき回すお話   作:天神神楽

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エレーナが後輩をやたら可愛がる理由を少し。
あと、サマーシーズンのSレア楓さん二枚ゲットしました。
5STEP一周で二枚ゲット出来たのは奇跡だとおもう。
なので、次回は楓さん回になると思います。


後輩

テレビでの初出演を終え、エレーナ達《TITANIA》は大きな好評を得た。エレーナや楓の人気はもちろんであったが、文香の評価も非常に高かった。

そんなエレーナは連日レッスンにラジオにインタビューにと忙しかったが、その合間にシンデレラプロジェクトルームを訪れていた。言わずもがな、未央のことである。

アナスタシアには手は出せないといっていたものの、心配であったのである。

「失礼します」

部屋の中に入ると、雨のせいもあってか、室内はいつもより暗かった。中には仕事なのか凛以外はいなかった。

「あら、凛ちゃんこんにちは」

「え? あ、エレーナさん……」

凛はエレーナに気が付いたが、それでも元気なく頭を下げるだけだった。エレーナは凛の隣に座る。

「今日は二人ともお休みかしら?」

「あ、はい。だから手持ちぶさたで」

「そっか……。…………」

「エレーナさん?」

急に黙り込んでしまったエレーナに、凛は首を傾げる。

「ちょっと待っててね」

エレーナは急に立ち上がって奥の部屋に入ってしまった。だが二三分で出てくる。

「さ、行きましょ」

「行きましょう、って……どこに? それに、勝手に」

「大丈夫。武内Pには了解取ったから。それに、そんな暗い顔してたら、出来ることも出来なくなっちゃうわ」

エレーナはどんどん凛のことを引っ張って、あるレッスンルームに入った。

「エレーナさん……と、渋谷さんでしたか? こんにちは」

「こ、こんにちは」

中で休憩していた楓と文香が、エレーナに連れられた凛を見て驚いていた。

「どうしたのです? また誘拐でもしてきたんですか?」

「せっかくだからね。凛ちゃん、明日は予定あるかしら?」

「は、はい。明日はお休みです。学校もないですから」

「じゃあ今日は家にお泊まりしていきなさいな。楓ちゃんと文香ちゃんもね」

突然のお誘いに、ポカンとする凛(と文香)。

「いいですね。帰りに色々買って行きましょうか」

楓はいつものことなのでノリノリだが、凜と文香はそうではなかった。

「そ、その、いきなりすぎて、どうすればいいか」

「文香ちゃんくらいのサイズの服ならあるから大丈夫よ。凛ちゃんのもあると思うから、安心してね」

「え、えと、その」

あたふたとしつつも、家に連絡をする凛。初めは両親も渋っていたようだが、その相手がエレーナと聞いた瞬間、即座にOKした。

「……大丈夫みたいです」

「よかった。今日は車で来たから、駐車場に行きましょうか」

帰ることを連絡すると、エレーナ達は駐車場に向かう。エレーナの車を初めて見た文香と凛は、車のエピソードを聞いて硬直していた。

そんな二人を余所に、エレーナのマンションに着く。

「お、お邪魔します」

「し、します」

「はい、いらっしゃい。今お茶を淹れるから、待っててね。楓ちゃん、二人とお話ししてて」

「えぇ。さ、こっちです」

エレーナはハーブティーを淹れると、三人の元に持っていく。楓達は、以外にも楽しそうに話していた。

「あら、私だけ仲間はずれ?」

「ふふっ、エレーナさんの恥ずかし話を話していましたから。ありがとうございます」

エレーナは三人にお茶を配ると、自分も楓の隣に座る。

「それで、どんなお話をしていたの?」

「エレーナさんのライブの時に、違う衣装が届いてしまったときの話です。あのとき、違う衣装を着て歌いきったんですよね」

楓の話を聞いて、エレーナは苦い顔をする。

「あー、あれね。華耶さんが海外に行ってたときだったわね。まぁ、いつもと違う感覚で楽しかったけど」

「帰ってきた華耶さんがもの凄く怒っていましたね」

のほほんと話すエレーナと楓だったが、まだまだ新人に近い文香や新人そのものである凛にとっては笑えることではない。

「確かその時撮った写真があったわね。ちょっと待ってて」

そう言うとエレーナは自室に行ってしまった。とはいえ、すぐに帰ってくると、持ってきたアルバムを広げた。

「えーっと、あぁこれよ。ほら、可愛い衣装でしょう?」

アルバムに収められた写真には、フリフリのゴスロリ衣装を着たエレーナと楓がポーズを取っていた。

「本当はスポーティーな衣装のはずだったんだけど、まさか真逆のタイプの衣装が来ちゃったのよ。流石にそのままの振り付けじゃ大変だったし、急遽曲とダンスを変更したの。音源はあったし、楓ちゃんとはいつもダンスを一緒に踊ってるから、合わせるのは簡単だったわ」

「スタッフの皆さんは顔を真っ青にしていましたけど。特に音響さんと照明さん」

何でもないようにクスクス笑うエレーナと楓。しかし、凜と文香は先輩達のトンでもエピソードに絶句していた。

「そ、その、お二人は本当に凄いんですね」

「あら、文香ちゃんだって、これからは私達の一員よ? 頑張らなくっちゃ」

「あぅぅぅぅ……」

蹲ってしまった文香の頭をよしよしと撫でるエレーナ。その間凛は苦笑しつつもアルバムをめくっていると、一枚の写真が目に入る。

その写真には、満面の笑みを浮かべるエレーナと、そのエレーナに後ろから抱きしめられ、困りつつも嬉しそうに微笑んでいる女の子が写っていた。

エレーナの後輩と思われる女の子との写真は他にもたくさんあったが、この写真のエレーナの笑顔は他のものよりも一段と華やかに見えた。しかし、凛はこの少女に見覚えがなかった。それは文香も同じようである。

「エレーナさん、この人は?」

文香が写真の女の子について訪ねると、楓があっと声を上げる。エレーナも少し困った顔をしていた。

「この子はね、私の初めての後輩ちゃんなの。とっても頑張り屋さんで、すっごく可愛らしい子だったわ」

エレーナは寂しそうな顔をしながら、その写真を眺めていた。

「その、この人は?」

「この子は宮城やえちゃん。今は……実家のケーキ屋さんにいるはずよ」

エレーナの言葉に、部屋の空気は固まった。

「えと、そ、その……」

この雰囲気を作り出してしまった文香は涙目になってしまい、凛も気まずそうな顔をしていた。

「ごめんなさいね。そうね、折角だから、お話ししましょうか。あながち凛ちゃんも全くの無関係というわけでもないしね」

「え?」

「やえちゃんはね、私がまだモデルを始めたばかりの頃に華耶さんがスカウトしてきた子なの。だから、本当に私の初めての後輩ちゃんね」

アルバムをめくっていくと、やえの写真がたくさん収められていた。

「これはやえちゃんが初めて取材を受けたときの写真。こっそりついて行ったから華耶さんに怒られちゃったわ」

クスクスと笑うとエレーナは話を続ける。

「一年間くらいしたころかしら。アイドル部門はなかったけど、私も華耶さんも欧州ライブで忙しかったから、殆ど日本にいなかったの。だから、やえちゃんとは離れ離れだったんだけど……」

「そういえば、やえさんがいなくなってしまったのもその頃でしたね」

「いなく、なった?」

楓の言葉を聞いた凛が、ぽつりと呟く。

「えぇ。最終日が終わった後、華耶さんに聞かされたわ。急いで日本に戻ったけど、あの子がどこにいるかは分からないままよ。華耶さんも知らないみたいだし。実家の方にも行ったのだけれど、お店もお休み状態で連絡もつかなかったの」

それっきりやえには会っていないというエレーナ。

最後のページに一枚だけ収められている写真には、エレーナとやえ、そして華耶の三人が写っていた。

「これは私がロシアに行く前に撮った写真。やえちゃんがどうしても三人で撮りたいっていうから、喜んで撮ってもらったんだけど、まさか最後の写真になるとは思わなかったわ」

寂しげな表情で写真に触れるエレーナ。エレーナはアルバムを閉じると、凛の目を真っ直ぐ見る。

「凛ちゃん、未央ちゃんのこと、聞いているわ」

「っ!? 分かっていますけど……私達には何も出来なくて……」

「未央ちゃんのことは、武内Pが頑張っていると思うわ。だから、凛ちゃん達は、待っていてあげて?」

「でも……そんなことしか出来ないなんて」

待っているだけしか出来ないことに不安を覚えていた凛。そのため、悔しそうな顔をした。

エレーナはそんな凛の手を握り、微笑みを向ける。

「そんなこと、ではないわ。それを出来るのは、凛ちゃん達しかいないわ。帰ってこられる場所を、また笑顔でいられる場所を守ることは、とっても大切なことなのだから。だから、私もずっとやえちゃんの居場所を護り続けているんだから」

エレーナの言葉に、凛は無意識に涙を浮かべる。そんな凛のことをエレーナはいつもよりも優しく抱きしめた。

数分後、エレーナは凛を話して立ち上がる。

「さっ、しんみりしちゃったから、今からは楽しみましょう!」

ちょうどよいタイミングでチャイムが鳴る。玄関から戻ってきたエレーナは袋をいくつか持っていた。

「ちょうどよく頼んでいたケータリングも来たことだしね。ここの料理、とても美味しいのよ。楓ちゃん、フランスのお友達からシャトー・ラフィットもらったのよ。今日は飲み明かすわよ!」

「はいっ! あぁ、楽しみすぎて待っていられません!」

急にテンションが上がり始めたエレーナと楓に、文香と凛は戸惑う。

「ほら、二人にも美味しいジュースを用意してあるわ。お酒はまだ駄目だけど、香りだけでも楽しんでね」

その後は、それまでの喰らい雰囲気は消え去り、ワインの香りに中ってしまった文香と凛が眠ってしまい、そんな二人をエレーナと楓は優しい瞳で見つめていた。

「ふふふ、本当に可愛らしいですね」

「えぇ。色々大変だとは思うけど、頑張って欲しいわ。そこだけは私でも助けられないからね」

二人をベッドに運んでから、二人は新しいワインを開ける。

「こんなに高級ワインをあけても良かったんですか?」

「大丈夫よ。ワインは一緒に楽しみながら飲むことが一番なんだから。それに、初仕事を終えて初めてのお食事なんだから、豪華にいきましょう」

その後、エレーナと楓は朝まで飲み明かし、迎えに来た華耶にしっかりと説教されるのであった。

 


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