女帝が引っかき回すお話   作:天神神楽

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エレーナにも過去はあるのです。
チエリエルまじ大天使。



喜びと痛み

レッスンも重ね、あっという間に時間は過ぎていく。あっという間にテレビ出演前日。そして。

「はい、これで今日のレッスンは終わりね」

前日と言うことで全体の確認程度で終える。

「明日は朝早いから、早めに休んでね」

「ふふふ、分かりました。でも、エレーナさんも急がないと」

汗を拭きながら、楓がエレーナに笑いかける。その隣では文香もエレーナの方を向いていた。

「そうです。アーニャさんのデビューの日なんですから、急がないと」

今日はアナスタシア達のデビューミニライブの日なのである。

「そ、そうね。じゃあ、先に失礼するわ。また明日」

言い当てられて恥ずかしかったのか、珍しく頬を赤くしながらレッスンルームを後にする。すると、外には既に華耶がスタンバイしていた。

「車は用意してありますよ。着替えも中に持って行ってありますから、そこで着替えて下さい」

準備万端であった。

「流石、私の旦那様。ありがと」

エレーナは華耶にウインクしながらお礼をいうと、早足で駐車場に向かった。

車の中に入ると、すぐに車を出発させる。もちろん運転手は華耶。

「時間は大丈夫かしら?」

着替え終わり、目立たないように髪をまとめながら尋ねるエレーナ。落ち着きのないエレーナの様子に、華耶はクスリと笑いながら答える。

「えぇ。時間には十分間に合いますよ。始まる前にご挨拶していきますか?」

「……いいえ。終わった後に抱きしめてあげるわ。緊張しちゃったら大変だもの」

「それがいいかと」

会場に到着し、サングラスと帽子で変装をして会場に入る。本来ならあまり目立たないようにするべきなのだが、エレーナは最前列に行く気満々だった。

すると、そこに見知った顔ぶれを見つけ、エレーナはそちらに方向転換する。

「そろ~、やっ! 美嘉ちゃんたちも見に来たのね」

「エレー、んむっ」

後ろから抱きつかれ、思わずエレーナの名前を呼びそうになった美嘉の口を人差し指で塞ぐ。

「今の私はエレンって呼んでね。きらりちゃんたちもオッスオッス。みんな見に来たのね」

「もちろん! 私達の一番手だもん! 一杯一杯応援しちゃうよ~!」

「智絵里ちゃん達もきてくれたのね。私が言うのも何だけど、ありがとう」

「我が盟友の初陣、ならば世界の果てであろうと駆けつけるのが道理というもの(大切な友達の初ステージなのですから、絶対に応援します!)」

「そ、その、私達もドキドキしてきました……」

「ふふふ、そんな智絵里ちゃんには抱きついちゃいましょう」

「はわわ」

この先輩やりたい放題である。

「さてと、そろそろかしらね」

舞台袖に動きが見え、進行役のスタッフが出てきた。エレーナは智絵里を抱きしめながらステージに集中する。

そして、《ラブライカ》の名前が呼ばれると、《Memories》のイントロが流れ、ドレス衣装で着飾ったアナスタシアと美波が出てきた。

歌が始まり、二人のしとやかで神秘的な歌声が会場に響く。

「そうよ、アーニャちゃん。お客さんに届けて」

エレーナは智絵里を抱きしめる力を強める。智絵里がエレーナの顔を見上げると、満足そうな、それでいて心配そうな表情に、思わず見入ってしまった。

そして《ラブライカ》の歌が終わり、観客から拍手を受ける。達成感に満ちあふれたような笑みを浮かべ、手を振っていた。

智絵里も拍手をしていたが、突然グッと智絵里の体に体重が掛かってきた。慌てて後ろを向くと、エレーナが智絵里の肩に顔を乗せていた。

「え、エレー、エレンさん!? 大丈夫ですか?」

「えぇ、ごめんなさいね。ホッとしたら力が抜けちゃって。少しだけ肩を貸してね」

そういうエレーナの声は少し震えていて、智絵里の肩は少し湿っていた。智絵里は周りに気付かれないように、頷くと自分の前にあるエレーナの手をソッと握った。

「ん、ありがとう、智絵里ちゃん」

エレーナは片手を智絵里の手の上に置くと、しばらくその体勢のままでジッとしていた。

そして、卯月達《ニュージェネレーション》の名前が呼ばれるとエレーナは顔を上げる。

「大丈夫ですか?」

「えぇ。ありがとう。さて、次は卯月ちゃん達の番ね。ふふふ、楽しみね」

先程までの涙はすっかり消え、笑みを浮かべるエレーナに、智絵里はホッとする。そして卯月達がステージに上がってきた。だが。

「…………」

「エレン、さん?」

その瞬間、エレーナの表情が硬くなったことに気が付いた。それを余所に、曲は始まる。

 

曲が終わると、観客からは拍手が送られる。しかし、未央は放心したようにお辞儀をするとすぐに裏へ戻ってしまった。

「未央ちゃん!」

かな子が心配そうに思わずステージに声をかける。しかし、ステージからは卯月達も下がってしまった。

「すみません! 私達、これで失礼します!」

かなこ達は急いで未央達の元へ急ぐ。その際美嘉は不安げにエレーナを見たが、エレーナの困ったような笑みを見ると、心配そうな顔をしつつ、かな子達に着いていった。

「……アナスタシアさんの所へ行かなくてよろしいのですか?」

心配そうに見つめる華耶に、エレーナは首肯する。

「えぇ。アーニャちゃんは今日家に泊まっていく予定だし、その時に抱きしめてあげるわ。それに、今は大変でしょうしね」

「……戻りましょうか。荷物は持ってきてありますので、送りますよ」

「お願いするわ」

そして、エレーナは卯月達に顔を見せることなく会場を後にする。

車中でエレーナは黙っていた。華耶は、そんなエレーナに心配そうに声をかける。

「……大丈夫ですか?」

「えぇ……。いいえ、ちょっと目を閉じてるわ。着いたら起こしてちょうだい」

エレーナはそう言うと、ごろりと寝てしまった。華耶は前を向きながらも、心配そうな顔をしていた。

その夜、アナスタシアがエレーナの家にやってきた。エレーナはケーキを用意して、アナスタシアのデビューを祝った。

食事も終え、歌について話していると、突然、アナスタシアが心配そうにエレーナに声をかけた。

「お姉ちゃん、どこか痛いですか?」

「え? どうしたの、突然」

いきなりそんなことを言われて、困ったように首を傾げるエレーナ。アナスタシアはエレーナの隣に移動しエレーナに抱きついた。

「あ、アーニャちゃん?」

「お姉ちゃん、何だか辛そうです。今日のステージで何かあったですか?」

「アーニャちゃん……。ううん、アーニャちゃんのステージは素晴らしかったわ。思わず涙が出ちゃったくらいに」

エレーナはアナスタシアのことを抱きしめ返しながら頭を撫でる。

「でも……」

「ふふ、ちょっと気になることがあってね。でも大丈夫よ。それに、私もこれから忙しくなるから、武内Pに任せないと」

「未央のことですか?」

やはりアナスタシアもすぐに気が付く。自分達に関係のあることで、心配事と言えば未央のことだ。

「そうね。やっぱり未央ちゃん、何かあったみたいね」

「はい。アイドルを止めるって……」

「そっか……」

エレーナは寂しそうに微笑むと、アナスタシアを強く抱きしめる。

「お、お姉ちゃん?」

「アーニャちゃん、未央ちゃんのこと、私からは何も出来ないけど、見捨てないであげて。直接会うことが出来なくても、待ってあげてね?」

「もちろんです! 未央は私達の大切な仲間です」

「うん。それなら未央ちゃんも大丈夫ね。あとは武内P次第かな。さ、今日は一緒にお風呂入りましょうか。髪の毛洗ってあげる」

エレーナは立ち上がると、アナスタシアの手をとる。アナスタシアはエレーナが笑顔になってくれたことに喜ぶ。

「はい! 私もお姉ちゃんの髪洗ってあげます!」

そうして、二人は仲良くお風呂に入り、ベッドの中で最近の出来事を楽しく話していたのだった。

 




未央の件に対してはほとんど関知しません。
当然といえば当然ですし。精々武内Pや他メンバーへのフォロー中心かと。
その前に《TITANIA》のお話。ふみふみ。
因みにアーニャちゃんとはニャンニャンしていません。翌日に備えて。

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