女帝が引っかき回すお話   作:天神神楽

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ありす編は終了です。


ハートの女帝と黒髪のアリス その四

 食事を終え、二人は仁禛に見送られていた。

 「はい、ありすちゃん。これ、お母様にも食べてもらって。それと今度はお母様と食べに来てね」

 「はい。必ず来ます」

 「あら、仁禛さん。私には?」

 「今日は早く上がれるから、貴女の家に行くわ。その時お酒持って行ってあげるから、それで我慢なさい」

 「うふふ! 仁禛さん大好き! 私もとっておきのワイン用意しておくわね!」

 「はいはい、じゃあ、またね」

 仁禛と別れ、車に乗る二人。

 「さてと、ちょっと遅くなっちゃったわね。住所教えてもらえるかしら?」

 カーナビにありすの家の住所を入力すると、その通りに走り出す。

 「仁禛さんのお店はどうだった?」

 「とっても良かったです! 今度、お母さんと一緒に行きたいです」

 「そっか。お母様もきっと喜ぶわ」

 とても嬉しそうに語るありすに、エレーナも嬉しそうに頷いていた。

 「あ、このマンションです」

 「じゃあ、前に停まるわね」

 マンションの前に車を停め、ありすと共に車を降りる。

 「エレーナさん、今日はありがとうございました。とても楽しかったです」

 「それはこちらのセリフよ。私もとても楽しかったから。今度、一緒にレッスンしましょうね」

 「はいっ!」

 そうして、ありすはエレーナと別れた。家の鍵を開け家に入ると、部屋の明かりがついていた。

 「おかえりなさいありす。今日はごめんなさい」

 既に母親が帰ってきており、迎えに行けなかったことを謝った。

 「ううん。今日はエレーナさんのお陰でとても楽しめたから。お母さんにもお土産があるんだよ」

 「あら、何かしら?」

 ありすは仁禛から受け取ったレシピとお土産を母親に渡す。母親は渡されたものの大きさに、内心冷や汗をかいていた。

 「あ、ありす。お夕食に連れて行ってくれた先輩って、どなただったかしら?」

 「え? えっとね、エレーナさんって綺麗な先輩だよ。銀髪がとっても綺麗なの」

 まさかの世界的トップアイドルに娘が招待されていたことに、母親はお返しをどうしようか考え始めたのであった。

 そんな母親をよそに、ありすはおずおずと口を開く。

 「そ、それでね。今度一緒に料理してくれる?」

 心配そうに見つめてくる娘に、ニッコリと笑みを浮かべる。

 「もちろんよ。今度一緒に作りましょうね」

 その言葉に、ありすは今日一番の笑みを浮かべたのであった。

 

 

 

 一方、自宅に戻ったエレーナは、仁禛を招待するために部屋を片付けていた。

 「あ、華耶さん。そのお野菜、洗っておいてもらえるかしら?」

 そこには同じく仕事を終えていた華耶も来ていた。

 「はいはい。でも、私も来てよかったのかしら」

 「もちろんよ。仁禛さんも最近華耶さんが来てくれないって言ってたわよ。さっき連絡したら嬉しそうにしてたしね」

 「最近は忙しくて行けなかったのよね。楽しみだわ」

 華耶も仁禛とは仲が良い。具体的に言えば、エレーナに振り回される側としてである。

 そのうちにマンションのベルが鳴る。そのまま招き入れた仁禛は結構な量の荷物を持ってきていた。

 「少し遅くなっちゃったかしら。ごめんなさいね」

 「そんなことはないわ。それにしてもたくさん持ってきたわね」

 「日持ちするものを持ってきたから、冷蔵庫の中に入れておいて。さ、とっておきの陳年紹興酒を持ってきたわよ」

 「私は上物のウイスキーを」

 「で、私はワインね。ウォッカもあるけどどうする?」

 三人が三人とも二日酔いになったことがない枠である。一度も介抱されたことなどなく、介抱する側な三人であった。

 次々と酒を開けていく三人。日付も変わりそうになってきた頃。話はありすのこととなる。

 「それにしても、ありすちゃん、可愛かったわね」

 「そうでしょ? 実は今日が初めましてだったのだけど、仲良くなれてよかったわ」

 「……聞いたときはびっくりしましたけど、後でご両親にお礼の連絡をしておいてくださいね。橘さんはまだ12歳なんですから」

 ありすは華耶の担当部署ではないが、華耶はしっかりと把握していた。

 「今回に関しては許して? アリスちゃん、寂しそうだったんですもの」

 「まぁ、それはそうなのですが……」

 華耶も事の次第は聞いていたので、これ以上責めることはなかった。

 「それなら、今度お母様といらっしゃった時には、最高の家族メニューを用意しておかないとね」

 「あ、それ、私も混ぜて。メニュー開発してみたいわ」

 橘家をおもてなしするための計画を三人で考えている内に、夜が更けていく。

 「あ、それなら今度のコンサート。二人を招待しましょうか。家族の為の歌も歌うし、ちょうどいいんじゃない?」

 「そうですね。エレーナが確保しているチケットも余っているし、差し上げましょうか。橘さんもアイドルですから、問題はないでしょう」

 「あら、私にはくれないの?」

 少し顔を赤らめた仁禛が流し目でアピールする。そんな仁禛にエレーナと華耶は顔を見合わせながら笑いあう。

 「ん? どうしたの?」

 「仁禛さんには、世界で一番早くチケットをプレゼント。No.00001のチケット。超レアだから転売しないでね」

 「ついさっきチケットが刷り上がったの」

 まさに出来立てホヤホヤのチケットに、流石の仁禛も驚いていた。

 「全く……不意打ちでこられると、どう反応したらいいか分からないじゃない。でも、ありがと」

 仁禛は嬉しそうにチケットを受け取った。

 「それで、今回は誰を招待するの?」

 エレーナは、コンサートを開く際、関係者を招待することが多い。

 「今回は私のワンマンライブじゃないから、そんなに招待するつもりはないわ。だけど、後二人だけは決定してるわ」

 「二人? あぁ、折角仲良くなれたんだものね。じゃあ、一緒に私のお店の招待券も送ってもらえるかしら?」

 名前を聞かずとも、誰を招待するのか分かった仁禛は、エレーナに便乗することにしたのだった。

 

 かくして、憧れの女性達が何事かを画策している頃。ありすは、母親と同じベッドの中で幸せな夢を見ていた。

 キラキラと輝くステージに立つ自分。そしてその隣には、何よりも美しく煌めく憧れの女性が満面の笑みで立っていた。

 これが夢のままで終わるのか、それとも正夢となるのか、まだまだ不明だが、ありすにとっては既に決定事項となっていたのだった。


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