ありす回は説明臭くなってしまいますが、ちゃんと説明しないとありすが納得しなさそうなのでご容赦ください。
着替えてから346カフェに向かったエレーナは、ニコニコしながらありすの話を聞いていた。
「アリスちゃんのお母様は、本当に凄いのね」
「はい! 将来はお母さんみたいな女性になりたいんです」
母親のことを話し、ご機嫌なありす。ウサミン特製イチゴオレを美味しそうに飲んでいた。
「エレーナさんは、ロシア人のお父さんと日本人のハーフなんですよね?」
「えぇ。父は元々軍に勤めていて、母は日本舞踊の家の出よ。二人が並ぶとどう見てもお嬢様とガードマンとしか見えないの。ほら」
見せられた写真には、どう見ても二児の母には見えない若々しい着物の女性と、どう見ても軍人にしか見えない銀髪の男性が写っていた。
「す、すごいです」
「今でもラブラブでよくデートに行っているみたい。私はほぼロシア育ちだったけど、お母さんに日本語を教えてもらっていたし、大学では言語学と文学を学んでいたから、言葉に不自由することはなかったわね」
「大学って、どんなことを勉強するんですか?」
早く大人になりたいと思っているありすにとって、エレーナの話には興味津々であった。
「そうね……ハイスクール、高校生までとの大きな違いは、自分で勉強するテーマを見つけることかしら。ありすちゃんは先生から出された問題とかを勉強しているでしょう?」
「はい。でも、それが普通なんじゃないですか?」
「そうね。高校生までしっかりと知識と勉強のやり方を学んで、大学で研究するの。私は世界各国の言語を、そして文学を研究していたの。《不思議の国のアリス》なんかは典型的なテキストなのよ」
《不思議の国のアリス》の話題に、ありすはぴくんと反応した。
「そうなんですか? 私も本は読みましたけど、変な言葉遣いだなとしか思いませんでした」
「その変な言葉遣いの理由ね。《アリス》の原文は勿論英語なのだけど、元々の始まりが語り文学、つまりお話してあけた物語なの。だから、あのお話では発音が重要になる。同じ音で違う意味を持つ言葉がたくさんあるの」
「原文ですか……英語はまだ分かりません」
悔しそうなありすに、エレーナは苦笑する。
「あれは、大人でも難しいわ。でも、《アリス》の醍醐味は音にあるから、意味は分からなくても口に出してみるだけでも面白いわよ。今度アリスちゃんにプレゼントしてあげる」
「本当ですか!?」
先程の悔しそうな表情はどこへやら。再び笑顔になったありすに、エレーナも嬉しそうに微笑んだ。
「あら、結構時間が経っちゃったわね。そろそろかしら?」
「あ、そうですね。エレーナさんのお話とても面白かったです! もしよければ、また……」
そこでありすの携帯から着信が入る。頭を下げてから電話に出ると、その相手はありすの母親であった。
しかし、電話を切ったありすの表情は雲ってしまっていた。
「アリスちゃん? どうしたの?」
「その、急に仕事が入ってしまったみたいで、迎えに来れなくなったみたいです。あ、でも、お家の鍵は持っているので大丈夫です」
慌てて大丈夫なことをアピールするありすだったが、エレーナは何かを考え込んでいた。
「エレーナさん?」
急に考え込み出したエレーナに、ありすは首を傾げる。
「うん、決めたわ。アリスちゃん、この後は予定はないかしら?」
「へ? あ、はい」
「それなら、私とご飯に行きましょう。折角アリスちゃんと知り合えたんですもの。これでお別れだなんて寂しいわ」
「で、でも……」
急に誘われて困惑するありす。そんなありすの頭をエレーナは優しく撫でる。
「あ……」
「遠慮しなくていいのよ。アリスちゃんはおねーさんに甘えなさい。アリスちゃんは私と一回り以上年下なんだから。……自分で言って何だけど、ダメージが……」
自分の言葉に勝手に傷付くエレーナの姿に、ありすはクスリと笑ってしまった。
「もう、子供扱いしないで下さいっ」
そう言うありすの表情は、普段とは異なり、とたも可愛らしい笑顔であった。
次回はありすと晩御飯。
しかし、ありすの「子供扱いしないで下さい」を笑顔で言わせるとは……。女帝の恐ろしさ。
ありす可愛い。