女帝が引っかき回すお話   作:天神神楽

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ということで、幕間第一段はありすです。
ありふみは至高だけど、ありえれも良さげ。
うちの女帝はツンデレキラーです。


幕間
ハートの女帝と黒髪のアリス その一


 サマーアイドルフェスが終わり、346プロに束の間の休息が訪れていた。

 とはいっても、社員達には仕事があるし、レッスンをしているアイドルもいる。

 エレーナもその一人であり、休息もそこそこに、一人自主レッスンをしていた。そして、新人どころか、ベテランのアイドルでも厳しいレベルのレッスンを終える。

 「さてと、そろそろあがりましょうかねー」

 しっかりと柔軟をした後で、エレーナはレッスンルームの鍵を閉め、ドリンクを買いに行くことにした。

 ご機嫌な様子で鼻唄を歌いながら自販機の所に到着すると、そこには小さな先客がいた。

 「ん、もう、ちょっと……」

 黒髪が綺麗な小さな少女が、自販機の一番上の段のボタンを押そうと頑張っていた。

 エレーナはその少女の元へ近寄り声をかけた。

 「どれがいいのかしら?」

 「へ? あ、えっと、一番右の……」

 「これね。じゃあお姉さんの奢りよ」

 エレーナはサッと2つジュースのボタンを押した。その片方を少女に渡す。

 「あ、ありがとうございます」

 「どういたしまして。貴女、新人さんかしら? 初めましてだと思うのだけど……あ、私はエレーナよ。よろしくね」

 エレーナには、この少女に、見覚えはなかった。可愛い子には目がないエレーナに見覚えがないということは、新人ということである。

 「はい。最近アイドルになった、橘ありすです。よろしくお願いしますエレーナさん」

 「アリスちゃんね。ふふふ、貴女にピッタリの名前ね。ご両親はとても博識なのね」

 ありすの黒髪を優しく撫でながら、ありすの名前を褒めるエレーナ。

 普段は名前のことを指摘されるとムッとしてしまうありすだったが、エレーナの発音が綺麗だったことと、本当に褒めてくれていることが伝わってきたため、気分が悪くなることはなかった。

 「私にピッタリですか? でも、私は金髪じゃないです」

 その言葉にエレーナは、クスリと微笑んだ。

 「そうね……あら、そのタブレットはアリスちゃんの?」

 「はい、そうですけど……」

 「ちょっと借りていいかしら? 今の言葉の意味を説明してあげるわ」

 ありすからタブレットを受けとると、エレーナは何かを検索し、それをありすに見せる。ありすが横から覗き込むとそこには古そうな本の挿し絵が表示されていた。

 「この絵は?」

 「これはね、アリスちゃんの名前の由来……よね?」

 「ま、まぁ、《不思議の国のアリス》が由来だと思いますけど」

 「なら大丈夫ね。その《不思議の国のアリス》の元々というか、原型とも言える《地下の国のアリス》の挿し絵よ。作者のルイス・キャロルが描いたもので、今は大英博物館にあるのだけど……ともかく、この女の子がアリスなのよ」

 「え? でも、髪が黒いです」

 ありすの言う通り、挿し絵に描かれた少女の髪は黒い。

 「このお話は元々はモデルの女の子、つまりアリス・リデルの為に書かれた本なの。だから、そこに登場している《アリス》は、アリス・リデルの姿をしていたの。まるで、自分が不思議な国に迷い込んだかのように思えるでしょ?」

 「そうだったんですね。私、アリスといえば金髪だと思っていました」

 「それも間違っていないんだけどね。そこら辺の話は複雑だから省くわね。で、英国では《Alice》って名前は凄くありふれた名前なの。そうね、日本でいえば花子さんってところかしらね」

 「そうなんですか?」

 「そ。だけど、日本でありす、って名前をつけるということは、何時までも可愛い女性でいてほしいって願いを込めたのかもしれないわね。それに、日本にも有栖という言葉があるから、気品ある女性でいてほしいという思いもあるかもしれないわ」

 こう書くのよと、《有栖》という漢字を見せるエレーナ。そんなエレーナの言葉を、ありすは目をキラキラさせて聞いていた。

 「凄いです! 名前だけで、こんなにお話が出来るだなんて!」

 「ふふふ。ありがとうアリスちゃん。雑学みたいなものばかりで申し訳ないけどね。名前の由来については、ご両親に聞いてみるといいわ。一番アリスちゃんの名前を愛しているのはご両親なんですから」

 「はい! あ、その……」

 元気よく返事をしたかと思うと、急にもじもじし始めたありす。そんなありすにエレーナは優しく声をかける。

 「どうしたの、アリスちゃん?」

 「その、私、レッスンが終わったんですけど、お母さんが迎えがくるまで、まだ時間があるんです。なので、もう少しだけお話を聞かせてもらえませんか?」

 断られるのではないかと不安げにエレーナのことを見上げるありす。エレーナはそんなありすの手を取る。

 「喜んでご一緒させてもらうわ。アリスちゃんは私の可愛い可愛い後輩ちゃんですもの」

 そう柔らかな笑顔を向けられたありすは、ホッと安心したように笑みを浮かべたのであった。




というわけで、エレーナ×ありすの場合は、デレ100%となります。

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