改めて見てみたら2年掛かっていたのですね……
最後の歌詞を歌い終え、音楽が止まる。14人のシンデレラの卵達は、息を切らせながら、ばっと顔を上げて客席に目を向けた。
一瞬の後、盛大な拍手が送られ、大きな声援に包まれた。
「「「ありがとうございました!!!!」」」
整列して感謝の言葉を贈られ、更に大きな拍手と声援に送られて、CPのメンバーはステージから降りたのであった。
「みんな、お疲れ様。とっても素敵だったわよ」
「お疲れ様です。とてもキラキラしていました」
袖に戻ると、エレーナと楓に迎えられたCPのメンバー。そんな中、アナスタシアが涙を浮かべてエレーナに抱き着いた。
「お姉ちゃん、ワタシのステージ、どうでしたかっ!」
エレーナはアナスタシアの涙を指で掬うと、優しい笑みでアナスタシアの頭を抱きしめた。
「最高にキラキラしていたわ。まるでお星さまみたいに素敵だったわよ」
「お姉ちゃん……ありがとう!!」
エレーナの胸からパッと満面の笑みを見せるアナスタシア。普段はクールと言われがちな彼女だったが、その姿は、姉に甘える、只々可愛らしい妹であった。
「それよりエレーナさん、その衣装って……」
アナスタシアがエレーナから離れた頃、卯月が目をキラキラさせながらエレーナの衣装に興味を持っていた。
エレーナは着替えており、先ほどのドレス衣装とは異なり、装飾が抑え目で、体の線がくっきり出ている衣装となっていた。楓もエレーナの衣装の色違いのものを着ており、二人の次の曲を物語っていた。
「そうよ。次の私たちの曲は《Madonna》。他のアイドルの子とやるのは初めてだけど、とっても見ものよ。ね、楓ちゃん?」
「はい。とても難しかったですけど、遣り甲斐がありました」
346プロの象徴的なアイドルの一人である楓と、346プロだけでなく、日本を代表するトップアイドルのエレーナがともに歌い踊る《Madonna》。
卯月は最難関の曲をどのように表現するのか、アイドルとして、一人のファンとして、楽しみで仕方がなかった。
それは他のアイドル達も同じなのか、美嘉や美穂、瑞樹やまゆ達も舞台袖を訪れており、二人に対して激励を送っていた。そんな姿をみなまぶしそうに見つめていた。
そんな一人である南は、文香に声を掛けられていた。
「お疲れ様です新田さん。お体は大丈夫ですか?」
「え? あ、はい。鷺沢さん、今日は本当にありがとうございました。突然出演をしてもらってしまって……鷺沢さんのおかげで、アーニャちゃんがステージに登ることができました」
「そんなことは……でも、私にとってもとても良い経験となりました。それもこれも、全てエレーナさんが私に指導をして下さったお陰であり、新田さんが私のことを信じて下さり、そしてアナスタシアさんを託して下さったからこそです。こちらこそお礼を言わせてください。ありがとうございました、新田さん」
「鷺沢さん……では、私のこと、美波って呼んでください」
「では、私のことも文香と。よろしくお願いしますね、美波さん」
「えぇ。よろしく、文香さん」
エレーナ達の輪から少し離れたところで、友誼を結ぶ文香と美波。美嘉達と会話しつつも、同い年の二人が仲良くしている様子を見ていたエレーナは嬉しそうに微笑むのであった。
「エレーナ、楓さん。準備は出来て、って……相変わらずですね」
エレーナ達の様子を見に来た華耶だったが、大勢に囲まれている二人を見て、苦笑しながらため息をついた。
「ふふ。そろそろ時間なのね。じゃあ、皆さん、行ってきます」
エレーナは敬礼のポーズをして、ステージへと向かっていった。
「全く、いつまで経っても子供みたいなんだから」
そう言いつつも、そう呟く華耶の顔は嬉しそうであった。
「華耶さん嬉しそうです」
「へ? 文香さん? 今の、文香さんが?」
「はい。エレーナさんのことを信頼していて素敵だな、と」
「お、お願いですから、文香さんまでエレーナのようにならないで……」
華耶の必死な懇願に、みな笑ってしまったのだが、党の文香本人だけは首を傾げていたのであった。
ステージ袖で待機していたエレーナは、後ろが賑やかになっていることに気が付いていた。
「あら、何だか賑やかね」
「皆さん、仲が良くて何よりじゃないですか」
エレーナはともかくとして、これから難曲に挑もうとしている楓もリラックスしていた。
「こんなときにいうのも何なのだけど」
「? はい」
エレーナの声色がいつもより固いことに楓は首を傾げる。
「楓ちゃん。いつも私の勝手で振り回してしまってごめんなさい。私の相手は大変でしょう? それでも着いてきてくれること、とても感謝しているわ」
エレーナの突然の謝罪と感謝の言葉に、楓は目をパチクリとさせてしまう。しかし、すぐに目を細くして悪戯気な笑みを浮かべた。
「確かに、エレーナさんは、ワガママで直感的で皆の度肝を向いたりしますから、着いていくのは、とっっっっっっても大変ですよ」
「うぅ、自分で振っておいて何だけど、もう少しお手柔らかに」
わざとらしく肩を落とすエレーナに、楓は悪戯気な笑みを満面の笑みに変えた。
「それでも私は貴女に着いていきたいんですよ。私だけじゃなくて、華耶さんも文香さんも、みんなみんな、貴女のそんな姿に憧れたんです。だから、自信満々でみんなを導いて下さい。何せエレーナさんは346プロアイドルみんなの先輩なんですから」
楓のその言葉に、エレーナは嬉しそうに微笑む。そして、ぱちんと頬を叩いて気合いを入れる。
「楓ちゃんにそんなこと言われたら、私も全力以上を出さないといけないわね。楓ちゃん、着いてきてね」
そう言うエレーナの姿は、彼女の通り名に相応しい、気高き女帝のようで。
「……私が憧れたエレーナさんですね」
「ん?」
気合いを入れていたからか、楓の呟きを聞き逃したエレーナ。しかし、楓は言い直すことはせず、エレーナと同じように気合いを入れる。
「私だってエレーナさんのスペシャルレッスンを受けてきたんです。全力で追いかけますから、追い抜かれないようにしてくださいね」
楓の挑戦的な言葉に、エレーナも嬉しそうに頷く。
「勿論よ! お客さんだけじゃなくて、みーんなをメロメロにさせちゃうんだから!!」
その笑顔は、今まで見たものよりも晴れやかで。それを間近で見た楓は、まだまだ敵わないなと思ってしまうほど綺麗な笑顔だった。
この日最後の楽曲となった《Madonna》。メロディーもダンスも複雑で歌い切るだけでも一苦労だと言われるこの曲を、エレーナと楓は見事に歌い切った。
一瞬の無音の後、会場にはこの日一番の歓声が鳴り響いた。観客達の中には涙を浮かべて号泣している者も少なくなく、エレーナと楓の《Madonna》の出来の素晴らしさを表していた。
盛大な拍手に見送られ、手を振りながらステージから降りると、再び盛大な拍手に迎えられた。
「エレーナさん、楓さん! とっても素敵でした!!」
「二人とも流石ね。凄かったわよ」
「わ、私、感動してしまって」
卯月が真っ先にエレーナに感想を叫び、瑞樹、美波と続く。その後も次々に二人に感動の言葉を伝えていく。
エレーナも楓もそれを嬉しそうに聞いていたが、不意に楓の体がよろめき、エレーナに支えられる。
「楓さん!?」
皆に囲まれている様子を後ろから見ていた華耶が慌てるように二人の元に駆け寄ってくる。
「ご、ごめんなさい。みんなの顔を見ていたら、ホッとしちゃって。気が抜けちゃったのかしら。もう大丈夫です」
すぐに立ち直った楓に、皆ホッと胸を撫で下ろす。
「大丈夫楓ちゃん?」
「はい。エレーナさんに着いていこうとしたので、張り切りましたから。まだまだレッスンを頑張らなくちゃいけませんね」
笑い合う二人に、アナスタシタと文香が前に立つ。二人の手には大きな花束があった。
「お姉ちゃん、とってもステキでした!」
「楓さんも素晴らしい歌とダンスでした。これからもよろしくお願いします」
二人からのサプライズに、エレーナと楓はお互いに顔を見合せて笑い合う。
「私達は幸せね。こんなに可愛い後輩に囲まれているんだもの」
「はい。なら、お返しは盛大にしなければいけませんね」
二人の《Madonna》が終わり、残すはアンコール曲。
「それじゃエレーナさん。掛け声よろしく」
瑞樹に促され、エレーナは円陣を組んだ全員の顔を見る。みな、エレーナの言葉を期待し、目をキラキラさせていた。
「みんな、ステキな贈り物をありがとう。遂にライブも最後の曲。だから、みんな笑顔でいきましょう! 346プロ、ファイトー!!」
「「「「「「オー!!!!」」」」」」
大きな掛け声の後、エレーナがマイクを持ってステージに戻る。
「みなさーん! 私と楓ちゃんの《Madonna》、どうだったかしら?」
エレーナこ再登場に、会場のボルテージは再燃する。
「プログラムは終わったのだけど、最後にスペシャルアンコール! 聞いてくれますかー!」
そこら中から勿論! と叫ばれ、エレーナは嬉しそうに曲名を告げる。
「最後の曲だから最高に豪華にいくわよ! 出演アイドル全員での《ススメ☆オトメ》!!」
エレーナのコールの後にイントロが流れ、楓達やCP、それに加えて文香までもがステージに現れ、観客の歓喜の絶叫が響き渡る。
最初の歌詞は勿論エレーナから。だが、今回は楓と文香を巻き込んで《TITANIA》からとなったのだった。
こうして、346プロサマーアイドルフェスは大好評の内に幕を下ろしたのであった。
今後の予定としては、二期編に入る前に色々なアイドルとの絡みと《TITANIA》のライブ編を挟みます。
二期にもなるべく早めに入りたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
とりあえず、ありすや美優さんは出演確定です。