女帝が引っかき回すお話   作:天神神楽

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職場が変わり、中々投稿出来ずスミマセン。
因みに二期編からエレーナは原作にグイグイ介入していく予定。
それまではクール組が沢山登場します。


悪巧み

 

「いやー、杏ちゃんがあんなに活躍するとは思わなかったわ。それに、幸子ちゃんは相変わらずだったし。沙枝ちゃんもバンジー楽しかった?」

杏たちの番組を見学しに行ったエレーナは、後日346カフェで沙枝とお茶を飲んでいた。

「初めてのバンジーやったから、ドキドキしましたけど、結構楽しかったですよ」

「私もモスクワにいたころは、何度か友達としたけど、結構面白かったわ。ロシアの人たちって恐れ知らずだから。ほら、おそロシアっていうじゃない?」

「それって、手作りのやつとかやありまへん?」

「さすがにその時のは違ったけどね。でも、ウインタースポーツはたくさんやったわ。スノーボード、結構得意なのよ」

「一度テレビの企画で滑ってるのを見ましたけど、確かにプロ並みでしたなぁ。私はスポーツは苦手やから、憧れます」

「じゃあ今年の冬は北海道にスキーしに行く? 私でよければ教えてあげるけど」

ちなみに、エレーナの腕前はインストラクター級である。

「あら、とても嬉しいお誘いやけど、エレーナはんに教えてもらったいうたら、事務所の方に嫉妬されてしまうわ」

「ふふふ、お上手ね。たぶん、何人か呼ぶことになるとは思うけど、その時は連絡するわ。今日はこれからお仕事?」

「はい。幸子はんたちと一緒にお仕事です」

「それじゃあ幸子ちゃんたちによろしく言っておいて。ここは私が払っておくから、先に失礼するわね」

エレーナは伝票をとると、手を振ってカフェから出て行った。そんな細かい仕草も様になっており、会計をしていた菜々がぼんやりしていた。

カフェを出たエレーナは、仕事までに時間があるためエステに向かう。そこには、やはりというか、先客がいた。

「あら、瑞樹さん。こんにちは」

「エレーナさん? ここに来るのは珍しいんじゃないの?」

先日ラジオで仕事を一緒にした川島瑞樹である。曰く、エステルームの主。

「折角こんなに立派な設備があるのに使わないのは勿体ないですからね。どうしても肩が凝っちゃいますし」

それを聞く瑞樹の視線はエレーナの胸部にいく。瑞樹も決して小さくないが、エレーナには負ける。瑞樹は世界の不条理を感じた。

「あら、どうかしました?」

「なんでもないわ。もしよければ、同じ部屋で受けない? お話もしたいし」

「もちろん。文香ちゃんの可愛いところ、たくさんお話したいですしね」

前からと言えば前からだが、エレーナの一番のお気に入りが文香である。シンデレラプロジェクトのメンバーを抑えて、今、最も注目されているアイドルである。

「話は聞いてるわ。文香ちゃん、今大注目のアイドルだものね。エレーナさんとも話が合うし、声もとても澄んでいるわ。因みに最近話した話題は何?」

「最近? そうね……最近は近代文学ばかり話していたから、平安期について話したわ。私も文香ちゃんも西行は好きだから、桜の話題と新古今の話で盛り上がってるわ。今夜からは歌についてお話する予定よ。凄く深い分野だから、半年は話し合えるわ」

「……ホントに《TITANIA》の人たちは博識揃いね。クイズ番組とかには呼ばれないんじゃない?」

「あら、高学歴芸能人には呼ばれたことあるわよ」

「そりゃ、飛び級でモスクワ大学出てればね。下手な東大卒の人よりも高学歴よね。専門は何だったの?」

「言語学よ。外国語専門にしていたから、色々な国の本を読めるようになったわ。ロシア文学も面白いのだけれど、そうね、ベトナムの文学も好きよ。日本の文学との関わりも深いしね」

346プロには天才と呼ばれるような人材もいるが、エレーナはそのなかでも飛び抜けている。科学分野ではなく文学分野だが、世界中の多くの言語に精通しており、特に日本文学に関する論文については評価も高い。

「私も元アナウンサーとして勉強はしていたけど、エレーナさんには負けるわ」

「勉強は勝ち負けではありませんよ。そういう意味では、アイドルのお仕事も日々勉強です。まだまだ学ぶことは沢山あります」

そんなことを話しながら、マッサージを受けるエレーナと瑞樹。346プロのアイドルの中でも年長者である二人が、事務所内でリラックス出来る場所はあまりなく、そのうちの一つであるエステルームは二人にとって大切な場所であった。

「ここの子たちって、十代の子ばっかりだから、あんまりエステに来ないんですよね」

スタッフの言うとおり、346プロのアイドルは学生が多い。つまりエステなどが必要ない年齢なのである。

「そうねぇ、文香ちゃんなんて、メイクしなくても睫毛長いし、お肌スベスベだし、特に気を付けてないのに髪の毛サラサラだったからね。まぁ、文香ちゃんに関しては特例なのかもしれないけど」

ちなみに、文香の美貌は、アイドル達を含む世の女性達の羨望の眼差しの対象となっている。

「前に話を聞いてまさかと思ったけど、本当にお肌スベスベだものね。……本当に羨ましいわ」

瑞樹の笑みに陰りが生まれたが、エレーナは笑うだけであった。そこにスタッフが追い打ちをかける。

「あら、エレーナさんだってお肌スベスベじゃないですか。衰える気配が皆無じゃないですか。髪だってサラサラですし、私からしたらエレーナさんも川島さんも憧れの存在なんですからね?」

「あらあら、うふふ。嬉しいこと言ってくれるわね」

「嬉しいんだけど、何だか複雑よ。隣にこんなのがいると尚更ね」

こんなのと言われ、頬を膨らませるエレーナ。そんな仕草も様になるのだから、瑞樹は内心ため息をついていた。

二人ともエステから出る。瑞樹は仕事が終わった後に来ていたが、エレーナはこの後仕事があった。

「よければ、瑞樹さんも来ます? 監督さんが是非お会いしたいって言ってたから、喜ぶと思うのだけど」

聞けば、この後のラジオ収録の監督は、アナウンサー時代の瑞樹と何度か仕事をしたことのあるスタッフであった。瑞樹もその人物のことを覚えていたため、是非にと一緒に行くことにした。

「そう言えば聞いたかしら。《TITANIA》のライブの後に、美城会長の娘が日本に戻って来るらしいわ」

「そうなの? 以前アメリカに行ったときに顔を出してくれたけど、凄く凛々しい女性で、思わず少佐って敬礼したくなるような女性だったわ。……確か今は常務だったはずだけど、ふふふ、何だかお祭りが起こりそうね」

何を考えているのか、エレーナはクスクス笑っていた。

「私はお会いしたことがないから何とも言えないけど、さっきのを聞いた後だと笑えないわよ?」

「あら? それだって素敵な魅力の一つじゃない。それに、みんななら何があっても何とかすると思うしね。だってほら、346プロのアイドルって個性が大爆発してるじゃない。言うじゃない、《芸術は爆発だ》って。アイドル足るもの、芸術というのも必要よ」

その筆頭が何を言っているのかと思ったが、敢えて口に出すのを諦めた。分かって言っているのだ。いくら言っても無駄である。

「それに、あの人なかなかやり手として有名みたいだし。ふふふ、華耶さんと打ち合わせでもしておこうかしらね」

何やら不敵な笑みを浮かべるエレーナ。そんなエレーナの様子に、なまた何かやらかすのだと思いつつ、巻き添えを食らわないために気にしないことにしたのであった。

 

この日の仕事を終え、エレーナは楓と共にマスターの店で乾杯していた。

「そうだ、楓ちゃんは美城常務のお話は聞いた?」

「噂程度ですが聞きました。随分なやり手の方みたいですね」

楓も346プロの看板アイドルである。このような噂には敏感であった。

「それで、何を企んでいるんですか?」

楓の問い掛けに、エレーナは意味深な笑みを浮かべる。

「企むだなんて人聞きの悪い。ちょっと一つ企画を華耶さんに出してみようと思っただけよ」

「企画、ですか?」

「えぇ。346プロには沢山のアイドルがいるでしょう? そして、それぞれ色々なキャラクターを持っているわ。その中には歌歌声を中核にしている子もいる。私はそういう子達のことを《歌姫(ディーヴァ)》って呼んでいるわ」

「《歌姫》、ですか。素敵ですね」

《ディーヴァ》とは、オペラにおけるプリマドンナを指す。主役をはれるほどの歌唱力を持つアイドルは、多くのアイドルを抱える346プロといえども多くはない。

「でもどうやって選出するんですか?」

「もちろん、アイドル全員の歌を聞くわよ。一応CDは全部持ってるけど、新人の子達や上手になっている子もいると思うから、デモテープも送ってもらいたいとも思ってるわ」

何でもないように言っているが、アイドル全員の歌を聞くなんてことは簡単なことではない。

楓もそう思ったため愕然としていた。

「それは、いくらエレーナさんでも大変なんじゃ?」

「そうね。出来ないことはないだろうけど大変ね。華耶さんにも手伝ってもらうつもりだけど、だからこそ楓ちゃんにお話したのよ」

「だからこそ?」

「楓ちゃんには、このプロジェクトに参加してもらいたいの。そして、一緒にオーディションをしてもらいたいと思ってるわ」

エレーナの誘いに、楓は困ったような表情になりながらもすぐに頷いた。

「そんなお誘い、断るわけないじゃないですか。とても楽しそう」

「ふふふ、楓ちゃんならそう言ってくれると思ってたわ」

楓が了承してくれたことが嬉しかったのか、エレーナはグラスを一気にあけた。そんなエレーナの前に、マスターがお猪口と徳利を置く。

「どうぞ。お猪口じゃ乾杯になりますけど、お二人にはこちらの方がいいでしょう? お二人のプロジェクトの前祝いに。私からも応援させて下さい」

マスターから受け取ったお猪口に酒を注ぐと、エレーナと楓は小さく乾杯する。

「でも、このプロジェクトが実現すれば、エレーナさんの全力の歌が聞けるんですか?」

「あら、私はいつでも全力よ?」

「それは分かっていますけど。それでも、歌に100%力を注ぎ込んだエレーナさんの曲は本当に素晴らしいですか」

エレーナが仕事で手を抜くようなことはない。しかし、100%歌に重きを置くということもあまりなかった。

エレーナの持ち味は、その歌声は勿論、ダンスにもあった。

ポップなダンスはもちろん、本場ロシアで指導されていたバレエの実力も相当に高く、クラシカルなダンスも高い評価を得ている。

そのため、エレーナのステージでは歌とダンスが注目されているのである。

「そう言われてみると確かに、最近は歌一本ではやってなかったわね。そうね、久しぶりに全力全開フルパワーで歌うことにするわ。華耶さんに相談しておかなくちゃ。新曲案はあるしね」

そういうとエレーナは音楽プレーヤーを取りだし、とある曲を流す。それはピアノとエレーナが口ずさむ簡単なメロディーだけであったが、楓としては良いと感じた。

「もちろん、これで決定というわけじゃないけど、色々試してみるわ」

そう言いながら、エレーナと楓はお酒を飲みつつ、新作案(悪巧み)をするのだった。

 


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