女帝が引っかき回すお話   作:天神神楽

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ちょい長いです。
下せか四話、ひどい(褒め言葉)


妖精女王とロバと小妖精

エレーナは蘭子のPV撮影を見学し、その後デビューすることになったかな子達《キャンディアイランド》の所にも顔を出していた。

そして現在、エレーナは文香と共にプロジェクトルームに来ていた。

「かな子ちゃんのお菓子はホントに美味しいわね」

「はい。このマフィン、とても美味しいです」

文香ももふもふと美味しそうにかな子のマフィンを食べていた。

最近はエレーナ達に慣れてきていたメンバー達だったが、今回に限っては緊張していた。

その理由は、テーブルに乗せられた様々な焼き菓子にある。

「そ、そんな、お二人のお菓子には敵いません」

 この日はエレーナもお菓子を持参していた。曰く、先日泊まりに来ていた文香と一緒に作ったものである。

「そんなことはないわ。お菓子に上下なんかないんだから。はい、智絵里ちゃんも、あーん」

「あ、あーん?」

エレーナにとって、可愛い子を可愛がるのは、何よりの癒しである。戸惑いつつもしっかりと応えてくれる智絵里のことは特に可愛がっていた。

「智絵里ちゃんたち、今度バラエティ番組に出演するのよね。華耶さんから聞いたわ」

「は、はい。川島さんと十時さんが司会の番組です」

「あの番組は新人アイドルにとっての最初の洗礼だから、頑張ってね。私も少しなら顔を出せると思うから」

「き、来てくれるんですか?」

「もちろんよ。武内PにもOK貰ってるし、今が頑張り時の子達を応援しないわけにはいかないしね」

パチリとウインクするエレーナの気障な仕草は、彼女にとても良く似合っていた。

「みなさん、っと、エレーナさんに鷺沢さん、来ていたのですね」

そこに、書類を持った武内Pがやってきた。

「お邪魔しているわ。番組の打ち合わせかしら?」

「はい。では三人はこちらへ」

「は、はい」

「それじゃあ、失礼しますね。杏ちゃん、起きて」

「む~」

約一名引っ張られながらも、奥の部屋に入っていくかな子達。エレーナも椅子から立ち上がった。

「それじゃあ私達もそろそろお暇するわ。文香ちゃん、行きましょう」

「は、はい。皆さん、お邪魔しました」

そうして二人が出て行くと、残ったメンバーはふぅと息をつく。

「エレーナさん、相変わらず綺麗だったにゃ」

「キラキラしてたよねー!」

「うんうん! すっごいオトナな女性って感じ」

エレーナに憧れているみりあや莉嘉などは目をキラキラ輝かせていた。

エレーナの話で盛り上がっていると、仕事を終えたアナスタシアと美波が戻ってきた。

「あ、アーニァちゃん、美波さん、お帰りなさい」

「はい、ただいまです、卯月」

「ただいま、みんな。何か盛り上がってたみたいだけど、何の話をしていたの?」

「さっきまでエレーナさんが来てたんだよ。たった今帰っちゃったけど」

凛の話を聞くと、アナスタシアが残念そうに眉を下げる。

「お姉ちゃん、来ていたですか? 会いたかったです……」

「また来てくれたのね。最近は《TITANIA》のお仕事で忙しいって聞いてたのだけど」

先日のライブ以来、《TITANIA》は多くの仕事が入っていた。テレビ出演は勿論、雑誌のインタビューや個々のメンバーへの取材も多く入っている。

「そう言えば、お姉ちゃん、今日はテレビに出るって言ってました」

「今日の撮影って言ったら、生放送の音楽番組でしたよね! 久しぶりにエレーナさんが出演するからって、先週すっごく宣伝してましたよね! 私、ママに絶対録画してって頼んでおいたんです!」

卯月は楽しみにしている様だったが、何故か、アナスタシアと美波が気まずそうに顔を合わせた。

「ん、どうしたの、みなみん?」

「えっと……その……」

「わたしたち、お姉ちゃんに招待されたんです、その音楽番組に」

「「「えーっ!?」」」

プロジェクトルームに絶叫が響いた。

「えー、いいないいなー! 二人だけずるーい!」

「その、今度のライブで歌う曲だから参考にって、言われたです」

「ライブって、夏の終わりのやつですよね! どんなステージになるんですか?」

エレーナのことには敏感な卯月は、すぐに飛びついた。

「まだ正式には決まっていないみたい。エレーナさんからダンスレッスンを受けてはいるけど、まだ本格的な振り付けはまだね」

「いいなー、エレーナさんと一緒にレッスン出来るなんて羨ましい!」

「ねぇねぇアーニァちゃん、エレーナさんとのレッスンってどんな感じなんですか?」

「お姉ちゃんのレッスン、とても厳しいです。ハードですし、細かい部分にまで気を配ります。でも、とても楽しいです」

「うん、エレーナさんがどんなことを考えながらダンスをしているのか分かるの。もちろん、レッスンはもの凄く濃密だから、すっごく疲れるけど……それでもとても楽しいわ」

アナスタシアも美波も、エレーナのレッスンを思い出してウットリとしていた。そんな二人をみて、エレーナの大ファンである卯月は羨ましそうな顔をする。

「う~、羨ましいです~」

「あ、あはは……でも、今度みんなともレッスンしたいって言ってたよ。エレーナさん、定期的に他のアイドルの人向けのダンスレッスンを開いているみたい。あと、予約を開けておくから、皆揃える日を教えてって言ってたよ」

エレーナのダンス教室は346プロでも大好評である。そのレッスンの予約はすぐに満杯のなってしまう。そんなアイドル垂涎のレッスンを、エレーナ自ら席を空けてくれるとなれば、受けない理由はない。

「絶対に受けるにゃ! プロデューサーに予定を開けて貰わなきゃ!」

「エレーナさんのレッスンかぁ。楽しみだね、しまむー、しぶりん!」

「はい! 憧れの人にレッスンをして貰えるなんて感激です!」

「世界のトップアイドルの人に教えて貰えるなんて、滅多にあるものじゃないからね。私も楽しみだよ」

《ニュージェネレーション》の三人も、更なるレベルアップの機会に胸を躍らせていた。

そんな新人アイドル達の羨望を集めている本人はというと。

「え、エレーナさん?」

「はい、このままこのまま。まだ時間はあるから、ほら、力抜いて」

「は、はいぃぃぃ」

文香に対して膝枕をしていた。

「昨日は芥川の話で盛り上がっちゃったからね。少しでも休んでおかなくちゃ。夜には生放送もあるんだから」

「でも、エレーナさんも一緒に起きていました、よね?」

文香と一緒に盛り上がっていたのだから、当然エレーナもあまり寝ていないことになる。が、エレーナはいつも通りハツラツとしていた。

「ちょっとだけど休憩の時間に目を閉じていたから。アイドルにとってお昼寝は必須スキルよ。楓ちゃんも得意よね?」

「はい。目を閉じて15秒で眠れますよ」

「あら、私は10秒よ。楓ちゃんもまだまだね。もっと精進なさいな」

色々間違っているが、それを突っ込めるものはここにはいない。ともあれ、10分ほど文香の頭を堪能してエレーナは文香を解放した。

「さてと、まだ入りの時間までには時間があるから、お昼に行きましょうか。二人とも、まだ食べていなかったわよね?」

二人もまだだということで、三人で昼食を取りに行く。

今世間で騒がれている《TITANIA》の三人が揃って食べにいける店は中々ない。というわけで、最近よく行くようになっている仁禛のお店に向かった。

「いらっしゃい。ランチに来るのは久しぶりね。楓さんも文香ちゃんもいらっしゃい。文香ちゃんは前のお休みの時に来てくれたわね」

わざわざ仁禛自らお茶を持ってきて三人に挨拶をしてきた。

「あら、文香ちゃん、ここの常連さんになったのね」

「は、はい。とても落ち着きますし、料理も美味しいですから」

「文香ちゃんは最近よく来てくれるのよ。エレーナも見習いなさい」

「じゃあ、とっておきのランチを注文させてちょうだい。今日は二人に奢るから、最高ランクのでお願いね」

「分かったわ。すぐに作るから、それまではお茶を楽しんで頂戴」

後から来た女性から受け取った茶器をテーブルに置くと、仁禛は厨房に下がっていった。

「ふふふ、仁禛さん手ずから作ってくれるお昼なんて、最高の贅沢ね」

「そ、その、いいんですか?」

「いいのよ。私は皆の先輩なんだから。素直に奢られなさい」

エレーナが何でもないように言ったため、最近は慣れてきた文香も大人しく奢られることにした。

相変わらず、仁禛の選んだお茶は絶品で有り、三人はリラックスをしていた。

そうしている内に仁禛が料理を持ってくる。

「あら、リラックスしてもらえたみたいね。今日は生放送なんでしょう? 何時から向こうに行くの?」

「15時には入るわ。挨拶したい方達も沢山いるし、お話ししたい子達も沢山いるから」

「それならちょうどよかったわね。なるべく早く食べられるようなメニューにしておいたわ。もちろん、あなたの注文通り、最高ランクのね」

そう自信をもって出された仁禛謹製の料理は、その言葉に違わぬ芳しい香りを放っていた。

「今日は台湾の料理よ。ちょうど台湾の友達から色んな茶葉を貰ったのよ。日本では馴染みがないかも知れないけど、とても美味しいわよ」

そういいつつ、仁禛自らお茶を淹れる。食前のお茶とは違い、今度は緑茶であった。

「餃子の中にも茶葉が入っているわ。それと、こっちの海老の方にも別の茶葉が入ってるの。それぞれ風味が違うから楽しんでね」

料理の説明を簡単にすると、仁禛は料理場に戻っていった。

「ふふふ、流石は仁禛、最高の激励ね」

「はい。香りだけでも心が安らいできました」

この料理にはエレーナも楓も嬉しそうにしていた。文香は料理に釘付けである。

「それじゃ食べましょうか」

「はいっ」

文香は、いつもとは異なり元気よく返事をした。

仁禛の言葉の通り、その料理の味は掛け値無しに素晴らしいものであった。その幽玄な香りに、三人は話すのを忘れ、黙々と料理を口に運んでいた。

食事を終え、新たに淹れて貰ったお茶で一息を吐く。そんな所にデザートを持った仁禛がやってくる。

「ご満足して貰えたみたいね。はい、杏仁豆腐」

「ありがと。全く……仁禛さんのことを甘く見ていたわ。ごめんなさい」

「ふふふ、甘いのは杏仁豆腐だけで十分よ。フルーツも切ってきたから一緒に食べましょ」

今度は仁禛も席につく。《TITANIA》の三人に加え、そこに仁禛が加わると、迫力が増す。奥の席なので目立たないものの、従業員の方が顔を赤らめていた。

「文香ちゃんは生放送の音楽番組は初めてなのよね?」

「えぇ。《TITANIA》はライブから入ることになってたから。順番が逆になっちゃったわね」

《TITANIA》にはエレーナと楓というとんでもない大物がいる。そのため、普通のユニットとは違う動きをしても十分過ぎるものであった。

「文香ちゃんなら大丈夫だと思うけどね。この二十五歳児コンビを相手にする方が大変でしょう。片や隙あらば抱きついてくるわ、片や隙あらば寒いダジャレをブチ込んでくるわ……というかそこの小さくなってる二人、こっち向きなさいよ」

「楓ちゃん、ぎゅー」

「中華料理人さんはなんちゅうか厳しいです」

全く反省していない二人に仁禛はため息をつく。

「こいつらは……文香ちゃん、辛くなったらいつでもウチに来なさい。二人に食べさせたことのないとっておきの料理を食べさせてあげるから」

「あはは……その、楽しみにして、いいんでしょうか?」

文香も素直に喜んでいいのか困っていたが、それでも仁禛に可愛がってもらえることは嬉しいと感じていた。

それを悔しく思うのが二十五歳児の片割れ――すぐに抱きつく方である。

「むぅ、仁禛さん。文香ちゃんを奪わないでよ。仁禛さん、女性にモテモテなんだから」

「あら、それなら奪い返してみなさい? 私だって文香ちゃんのことはとても気に入っているのだから」

「あらあら、うふふ。大人気ね、文香ちゃん。あの《ツァリーツァ》と料理界の至宝からラブコールを受けるだなんて、中々体験出来ないわよ」

「光栄なんですけど、素直に喜べないというか……」

その後、10分ほど二人の口論は続いたのだった。

 

テレビ局に到着し、スタッフ達に挨拶をする。今回はエレーナ達の楽屋に挨拶をしにくるアイドルや歌手たちが沢山きていた。

そんな中、挨拶しに来たユニットとお茶をしていた。

「千早ちゃんと一緒に番組に出るのは久しぶりね。一年ぶりくらいかしら」

765プロの如月千早だった。楓達と同じくトップアイドルとして名を馳せ、その歌唱力には多くのファンが涙している。

「確かそのくらいです。でも驚きました、まさかエレーナさんがユニットを組むとは思っていませんでしたから」

「中々組んでくれる子がいなくってね。文香ちゃんは私がスカウトしたのよ。とても綺麗な声をしているの」

「ライブは見に行けなかったので、今日はとても楽しみにしてたんです。鷺沢さん、今日はよろしくお願いしますね」

千早に笑顔で挨拶され、文香は慌てて頭を下げる。

「よ、よろしくお願いします!」

「ふふふ、ではこれで失礼します」

「えぇ。トップバッター、頑張って」

千早はもう一度頭を下げると、楽屋を出て行った。

「ふふ、大人気ね文香ちゃん」

「先輩として顔が高いです」

「き、緊張してきました……」

日本を代表するトップアイドル達に注目されれば緊張するのも無理はない。

「千早ちゃんも新曲を出したから、私も楽しみにしてたの。ここのプロデューサーと765プロにお願いして一緒の日に調整してもらったの。華耶さんに感謝しないとね」

テレビ局としても、トップアイドルが三人も集結することは大歓迎だったため、二時間スペシャルの日にねじ込んだのであった。

「でも、お昼に仁禛さん応援して貰いましたから、私も頑張ります!」

むん、と小さく張り切る姿を微笑ましげに見つめる二人。最近は度胸もついてきた文香に頼もしさを覚えていた。

やがて本番の時間が近づき、スタジオに移動する。今回の番組は出演者は少なく、歌の他にトークの時間も長く取られている。そのトークが非常に人気で、今回の出演者に千早と《TITANIA》がいるということで、放送日前から大注目されており、観客の抽選には万を超える応募があった程である。

今日の衣装は歌劇を意識したものである。《TITANIA》の由来、《夏の夜の夢》をモチーフにしたものである。

スタジオに入ると、すでに千早がスタンバイしていた。千早の衣装はキラキラとしたステージ衣装であった。

「素敵な衣装ね、調子はどうかしら?」

「エレーナさん達と一緒のステージに乗れるのでワクワクしています。それにしても、凄い衣装ですね」

「ふふふ、可愛いでしょう? 今度のライブでのコンセプトが《夏の夜の夢》だから、それに合わせたの。千早ちゃんに褒めてもらえて嬉しいわ。でも、私の一押しは文香ちゃんの妖精さんよ。ほら、可愛いでしょう?」

ズイッと文香を前に出すエレーナ。そんなエレーナの様子に千早はクスクス笑ってしまった。

「えぇ、とても可愛らしいです。でも、文香さんはとても綺麗な方ですね。髪の毛なんか、本当に妖精みたいです」

千早にも絶賛され、真っ赤になってしまう文香。その様子に、他の出演者もほっこりしていた。

そして番組が始まり、千早のトークが始まる。今なお小規模な事務所である765プロで起こった面白可笑しいエピソードには皆笑ってしまう。

トークも終わり、千早が歌のスタンバイに入る。千早の歌う歌は《約束》。今なお、人気のある曲である。

「この曲は、プロダクションのみんなで作った曲なのよね。私、この曲大好きなの」

「そう言えば、エレーナさんは何曲か765プロの曲をカバーしていましたよね」

「えぇ。千早ちゃん、貴音ちゃん、あずささんの曲をいくつかね。それで一枚アルバムを出したけど、それっきり765プロとはお仕事をあまりしていないわね」

この時のアルバムの初回限定版は、予約分で全てが売り切れ、今では幻のアルバムとなっている。

話している内に準備が終わり、千早の《約束》が始まる。

「あぁ……やっぱり綺麗な声。やっぱり大好きだわ」

千早の透き通った歌声を、目を閉じながら噛み締めるように聞いていた。

歌が終わると、一瞬の静寂の後、盛大な拍手に包まれる。笑顔で隣の席に戻ってきた千早にこっそり声を掛ける。

「お疲れ様。あの時の歌も良かったけど、今日の歌も素晴らしかったわ」

「えっ?」

「初めて《約束》を歌ったあのライブ、実はこっそりお邪魔していたの」

エレーナの言葉に、千早はポカンとしてしまい、そんな千早を見て、エレーナはイタズラ成功と言わんばかりにクスクス笑っていた。

 

時間は瞬く間に過ぎ去り、最後の《TAITANIA》の出番となる。

「いやー、今が一番緊張しています。最後は《TAITANIA》のエレーナ・パタノヴァさん、高垣楓さん、そして、機体のニューホープ、鷺沢文香さんです!」

ここ一番の大歓声で迎えられ、一言加えられた文香は狼狽していた。

「はい、こんばんは。この番組に出るのはお久しぶりです。今日はとっても可愛い後輩さんを連れてきましたよ。しかも妖精コスだから、録画してない人は、今すぐリモコンの録画ボタンを押しなさい。女王様の命令よ♪」

「こんばんはー。今夜の私はロバなので、緊張してろーばいしないよう気を付けます」

「え、えっと、みなさん初めまして。鷺沢文香です。テレビ番組は初めてなので、よろしくお願いします」

三人のあいさつが終わると、早速トークに入る。まず触れられたのは、衣装についてである。

「それにしても、衣装が凄いね。ユニット名の《TAITANIA》と関係があるんだって?」

「はい。私の衣装がタイターニア、妖精の女王で楓ちゃんがロバ、そして文香ちゃんがそそっかしい妖精さんです。見てください、文香ちゃんの妖精姿。まさしく妖精さんでしょ?」

グイっと文香を前に出し、文香の衣装を強調させる。文香の衣装は、エレーナの言うとおり妖精をモチーフにした衣装である。地位さん透明な羽や透き通った生地が幻想的である。

「あら、私の衣装は可愛くないのですか? シクシク」

わざとらしく泣き真似する楓の衣装も可愛らしい。ロバになったボトムがモデルであり、一番目立つのは頭に乗っているロバの耳である。ミステリアスな楓とは似合わなそうであるが、そのアンバランスさが逆にマッチしていた。

「そんなことないわ。とっても可愛らしいわ。流石346プロ衣装部渾身の作品ね」

「ははは……そういえば、エレーナさんといえば、大変な美食家としても有名だけど、最近どこかいいお店とかあるの?」

「美食家だなんて気取るつもりはありませんけど、そうね、今日ここに来る前に仁禛さんのお店に行ってきたわ。そしたら、文香ちゃんの初テレビをお祝いしてくれて、彼女自らの渾身のランチを作ってくれてね、それがとっても美味しかったわ」

「はいっ、茶葉入りの料理は初めて食べたんですけど、香りもすごく幽玄で、桃源郷に迷い込んだかと思いました」

仁禛の料理となると、文香も口が滑らかになる。司会者も文香から話を引出し、それにエレーナと楓もフォローを入れた。

「ふふふ、文香ちゃんったら、すっかり仁禛さんのファンになったわね」

「あっ……すみません。わたしばっかり話してしまって」

「いやいや、とても興味深いお話だったよ。いや、朱仁禛さんのお店には一度行ってみたかったんだけど、今の話を聞いてますます行きたくなってきたよ。あそこ、なかなか予約が取れなくてね。お三方が羨ましい」

料理の話の後は、それぞれの話に移る。エレーナや楓の話はもちろんだったが、新人ながら《TAITANIA》に抜擢された文香についてはほとんど知られていないため、今回も文香の話題について多く触れられた。それに対してエレーナが大いに協力し、楓が同意するものだから、文香はアワアワと慌てて、二十五歳児コンビの琴線を大いに震わせたのだった。

「さて、このままずっとはなしていたいけど、そろそろスタンバイに入ってもらいましょう。じゃあ、今日話題の中心だった文香ちゃん。今日歌ってもらえる曲について説明お願い」

「は、はいっ。今日歌うのは、《TAITANIA》デビュー曲の《Oberon》です。これは《夏の夜の夢》に登場する妖精王オーベロンのことで、タイターニアの夫です。彼とタイターニアにかけた魔法から始まる喜劇をモチーフにした歌で、少し面白おかしい歌になっています」

「では《TAITANIA》のみなさん、スタンバイお願いします」

そうしてスタンバイに入り、ステージの上で待機する。

「文香ちゃんお疲れ様。あともう一仕事よ」

「あは……緊張するかなって思ったんですけど、なんだか不思議とドキドキしています」

「あら、文香さんもなかなか度胸がついてきたのですね。いつものふみふみな文香さんもよいものですけど、今の文香さんも素敵です」

「ですから、そのふみふみって……」

楓にからかわれ、へにゃっとする文香。しかし、すぐに表情を戻した。

「確かに、お二人に比べたら私はまだまだ未熟です。でも、エレーナさんが教えてくれた、私しか知らない私な素敵なところをもっと見つけてみたいんです」

そういうと文香は一度言葉を区切り、エレーナと楓の顔をしっかり見つめる。

「だから、ひたすらに前に進もうって、そう思ったんです。世界で一番素敵なお二人と一緒に」

そういう文香の笑みに、二人は見惚れていた。二人は顔を見合わせると、くすくすと笑いあった。

「な、何か変なことをいったでしょうかっ!?」

「いいえ、そんなことないわ」

「はい。素敵なメンバーと一緒に歌えることをうれしく思っただけですよ」

「は、はずかしいですよぅ」

そんなことを話しているうちに、準備が完了した。

「それでは本日最後の曲です。《TAITANIA》で《Oberon》」

そうして、夏の夜に繰り広げられる不可思議な喜劇の幕が開いたのであった。

 


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