テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
離脱中です。なんだかまるでアルスがヒロインみたいですね←
「ぅうっ……あ、あれ……?」
ラオはぱちくりと目を開けた。徐々に覚醒する脳。もともと眠気という概念は彼にはあまりない。ガバッと体を起こした。
「ココ……どこだ…」
ラオは辺りを見回した。暗い空間だが、光はわずかにある。しかしその光結晶があるのは鉄格子の向こう側の廊下。そう、今ここにいる場所は牢屋だった。
「牢屋………」
ラオは鉄格子を触り、様子を伺っていると、向こう側に見慣れたオレンジ色が見えた。
「アッ!ルーシェ!?ルーシェ大丈夫!?」
ラオは大怪我をしていた彼女を案じ、大きな声で呼びかけた。幸いにも彼女はすぐに反応を示した。
「うっ、う~ん………?」
「生きてる!!ルーシェ!起きて!怪我は大丈夫!?」
「はれ……、私なんでこんなとこに……、頭痛い……」
ラオの大きな声に皆反応したのか、隣の牢屋、そのまた隣の牢屋からも聞きなれた声が聞こえた。
「ここぁ……どこだ……?何で俺達生きてやがる…?」
「アダダダタ……、アタシなんだかまだ腰が痛いわぁ……」
「おいノイン、腕は大丈夫か?」
「う、うん。多分……、カヤに比べれば僕は軽いほうだよ」
「ダメだ……装備品は取られてる……、あぁ、私の笛まで取り上げられるとは……」
ガット、カヤ、フィル、ノイン、クラリス達も同様、このエリアの牢屋に捕らえられていた。
「ロダリアの奴…、俺らを毒ガスで殺したんじゃなかったのか…?」
「どうやら生きてるみたいだヨ。既に死んでるボクが言ってもアレだけど」
ガットとラオは牢屋が隣同士。ガットの問にラオが答えた。ラオはひどくこの風景に既視感があった。キョロキョロと鉄格子からなるべく身を乗り出して観察した。
「でもあの変なガス、明らかアタシ達を殺しにかかってた感じだったんですけどぉ?」
「師匠……」
「だってさぁ?あのガス吸った途端体は痺れてくるし、だんだん喋れなくなってくるし、全神経やられたかと思ったわ」
フィルとカヤが言った。
「ここはどうやら牢屋のようですが……、一体どこなのでしょうね?」
ノインが呟いた瞬間、ラオは「アッ!」と声を出して思い出した。
「思い出した!ココ!グランシェスクだヨ!!!」
地下の廊下にラオの声が響いた。
「グランシェスク?」
カヤが聞き返すと、
「そう!グランシェスク!ボク昔ここに出稼ぎに来ていたんだヨ!だから覚えているんだ!ここはボクが閉じ込められてた場所!」
しかしガットは訝しむような顔で見る。
「出稼ぎィ?いつの話だよそれ?つーか閉じ込められたって?」
「多分かなり昔……。あ、その話はまた今度アルスがいる時に~」
「はぁ~?ったくアテになんねぇな。構造似てるだけかもしれねぇだろ?牢屋なんてさぁ」
「で、でも、なんとなく分かるんだヨ!いや、鮮明に覚えていると言ってもイイ!」
「ノイン、グランシェスクって何だ?」
フィルの問いにノインは答えた。
「あー、カジノのお客さんにはグランシェスクから来る人もそれなりにいたなぁ。えっとね、スヴィエートの東の大陸、ヴァストパ大陸にある工業都市だよ。お客さんは住民は技術者や工業関係者がほとんどだって言ってた。光機関が特に発達しててスヴィエートの生産の要ってトコロ。確か南東のクロウカシス山で資源を調達してるって言ってたような……」
「おぉ!ノイン、流石。詳しいな」
「はは、お客さんが言ってた事言っただけだよ」
ノインの説明は完璧であった。
そう、ここはアルスが出張で来るはずであった地、グランシェスクだ。何故このようなところにいるのだろうか?
「んっん~、あ!あった!コレは取られてなかったみたいね!」
一方カヤはと言うとノインの説明を上の空で聞き流し、自分の胸元を探っていた。そして谷間からボールペンを取り出した。
「えぇ?カヤ姉、そんなボールペンがなんだって言うんだ。そんな大事な物なのか?」
「チッチッチ、クラリス~。アタシを誰だと思ってんの?世を少し騒がせてやった女盗賊のカヤ様よ?」
「えっ、そ、そうだったのか?」
「あっ、アンタはまだ知らなかったのか!そりゃそうよね、7才の子にそんな事話さないわ普通。まぁ見てなって!」
不思議そうに見つめるクラリスを横目に、カヤは舌なめずりするとボールペンの中央部分を回した。カチチ、と音がし、出てきたのはボールペンの芯ではない。なにやら四方八方歪に広がっている針金だ。
「さーて、上手くいくかどーか…」
カヤは鉄格子の隙間から腕を伸ばし鍵穴にそれを差し込んだ。
「しっかし警備ザルね~?見張りの気配もないし、なんか案の定鍵の型古めだし手の届く位置にあるしさぁ」
独り言をボソボソ言いつつカヤは手探りで鍵穴をつついていく。確かにここにいる仲間達以外の気配はまるで感じられなかった。
「そうか!お前そういやそうゆう小賢しい特技あったな!?ピッキングやらスリやら変装やら……」
「小賢しいは余計だっての!フン、覚えてて損な事はないって事よ!あっ!嘘!?ホントに開けられたわマジ!?」
ガットの声に怒りつつ、カヤはなんとガチャリと鍵の施錠を見事開いてしまった。
「うわ本当にやりやがった!流石カヤだな!?」
「ふふふ~、アタシいてよかったっしょー?待ってて皆のも今からチョチョイのチョイッとやってやんよ!」
「イヤー、カヤさっすがー!ボクにもピッキング教えてヨ!」
そしてカヤは全員の牢屋をピッキングで見事開けてしまった。
「なんか驚く程簡単な鍵の型だったわ。むしろわざとこんな所に閉じ込めてんの?って感じな位。鉄格子もところどころ錆びてるし、見るからに古い所ねぇ?もしかして誰にも認知されてないからこんなに他の人の気配がないんじゃ…」
カヤはクルクルとボールペンをペン回しにすると少し不思議そうに鍵穴を見つめた。
「助かったぜカヤ」
「ううん、アタシ。アンタに怪我を治してもらったんだ身よ?これで貸し借りナシだし、そもそもアタシ達仲間っしょ?」
「それもそうだな。けど、ありがとよ」
「へへっ、どういたしまして~☆」
ガットの礼に鼻をかきながら照れてカヤは返答した。
「ラオ兄ばっかりずるいぞ!カ、カヤ姉!私にもピッキング教えてくれ!」
「クラリスに教えるなら小生にも!」
「フィルに教えるなら当然僕にも!」
「ちょっとアンタら!?どんだけピッキングに興味持ってんのよ!?」
「ふふ、カヤ。ありがとう!」
教えろ教えろと騒ぎ立てる4人に微笑ましいなと見つめつつ、ルーシェはカヤに向かって笑顔でお礼を言った。
「ルーシェ!ちょっと、アンタ。怪我は大丈夫なワケ……!?なんか薄々覚えてんのよ!エーテルに斬り裂かれたって…!」
「あ、うん。でも、なんかきれいさっぱり治ってるみたい。そりゃその時は痛かったけど。ガットが治してくれたみたい」
その話を聞いていたガットとラオは反応した。
「いや違うヨルーシェ」
「え?」
「あぁ、お前はな。自力で傷を治していた。再生させてたんだ。スミラ、アルスと同じように」
「………………え!?」
ルーシェは口に手を当てて驚いた。
「直にこの目で見たんだ。間違いない」
カヤも驚きを隠せない
「う、ウソォ!?アンタにもアルスやスミラさんみたいな再生能力があったの!?」
「えっ、えぇ……!そんなまさか!?確かに昔から傷の治りは人より少し早かったけど!」
カヤが慌てたようにまた言う。
「ちょ、ちょっと待ってよ!?じゃあアンタさ、アタシにナイフで斬られた時の傷はぜんっぜん治ってなかったじゃない!アンタの血が私のほっぺたに落ちたの鮮明に覚えてる!火山の時よ!」
「そう、それだカヤ。俺もそれは真っ先に不思議に思った事だ。あの時の傷は俺の治癒術で治した。勿論その時、傷は自力で再生していなかった」
「何…!?一体どういう事なのよ…!?」
「そ、そんなの私の方が聞きたいよ…!多分無意識にそうやってたんだと思う!自分の意思とは関係なしに」
「ったくどうなってんだか……!?」
「いやぁー、アルスもルーシェも便利な特殊能力持ってるネェー?」
緊迫する3人をよそ目にラオは純粋にその力を羨ましいと思った。
「ラオ!アンタね!仲間の大事な事だってのに…!」
「うんそうだネ、カヤ。でもさ、それ確か地下防空壕でも話してた事だよネ?アルスと似た能力ならアルスがいた方が話進むし、それにこんな暗い所早く出ちゃおうヨ。その件、今いくら考えても打開策思いつかなさそうだしさ。ネ?」
ラオの諭すような口調とその正論にカヤは、
「う、うん。それもそうだね……」
と、納得するしかなかった。それにクラリス、ノイン、フィルも痺れを切らしていたところだ。
「まぁまぁカヤ、ルーシェ。その話はいずれ絶対に分かる時が来るだろう。アルスと同じなら尚更、な。さぁ、サッサとこんな場所出てしまおう!」
「オッケオッケ!多分出口こっちだヨ!僕の記憶が正しければ!」
ラオの案内を頼りに、仲間達は暗い地下牢の廊下を歩いて行った。
「だぁれもいなかったわねー?ちょっとおかしいんじゃないの?ザル過ぎてむしろ罠かと思っちゃうのは私だけ?」
「そうだなぁ。武器取り上げられたけど、すぐ近くの部屋に置いてあったからな」
地下牢を出るとそこは長い廊下があり、隣のすぐ近くの部屋に武器が安置されたいた。ピッキングでこじ開けそれらを取り出した。どこにもひとっこ1人いない。所々扉がある長い廊下を歩き、一行はある梯子を見つけた。ちなみにその扉
達はピッキングでは開けられない、南京錠で外から施錠しているタイプや外から打ち付けられているものばかりあった。
「あ、アレ出口かな?」
「いかにもそうっぽいな。そうでなきゃ困るんだが」
ガットとカヤが話しつつ、仲間達はその梯子を登っていった。
地上に出るとそこは、人気の少ない裏路地のマンホール。裏路地を進み、大通りに出ると─────
「ぅ、ぅぉおおおお………!」
ガットは感嘆の声を上げた。
工業都市グランシェスク。その名の通りであった。街には数多く並ぶ工場、煙突、光機関。街にはせわしく光機関が出す独特の機関音がどこもかしこも響き渡っていた。
そしてガットが見たのは目の前にある大きな建物。
「闘技場だ………!」
円形の建物でかなりの存在感を放っている。
「スゲー!アタシ噂には聞いてたけど、ホントにスヴィエートに闘技場ってあったんだ!?」
カヤとガットは感心した。だがこれだけ賑わっていそうな街であるのに人の姿がかなり少ない。おまけに物々しく緊迫雰囲気が漂っている。
「なんか、変な雰囲気だな」
「そうだね。僕、嫌な予感がするよ」
「ノイ兄、私もだ……。アル兄もいないし、私達これからどうすれば?」
フィル、ノイン、クラリスが会話する中、ラオが提案を出した。
「まぁさ、とりあえず情報集するのがセオリーデショ。ついでに休む為とご飯のために宿屋行ってみヨ?そこでお話聞けるかもヨ?」
ラオはこの街に土地勘があった。そのおかげで仲間達は驚く程スムーズに宿屋にたどり着くことが出来た。しかし、その何故詳しいのか、という理由はいくら問いただしても彼は今話そうとはしない。曰く、アルスが強く関係しているからだそうだ。
「おっ、新聞が置いてあるぞ」
クラリスは宿屋の出入口付近の網棚にかけてある新聞を発見した。それを読むと何故このグランシェスクが物々しく緊迫した雰囲気であったのかすぐに分かった。
記事には一面トップでこう書かれている。
『首都オーフェングライスにてクーデター発生!!!
ついに皇位継承を巡る戦いが勃発。首都は内戦状態となり戦場と化す。
第二皇位継承者であったアードロイス・ヴォルフディア・レックス・スヴィエートが反旗を翻す。
以前より、軍支持のアルエンス派と元老院支持のアードロイス派で対立していたこの二代勢力。軍事的圧力、先代より培われた信頼もあり圧倒的支持を保っていた10代目皇帝アルエンスだが、アードロイス派元老院はリザーガという大きな国際テロ組織を引き入れ戦力が大幅に上がっている。
特にリザーガは光術を得意としているため光機関頼りであったスヴィエート軍は苦戦を強いられている。更に唯一の頼み綱である大将サーチス率いるスヴィエートの特殊部隊、光軍がリザーガへと寝返ることによりアルエンス派の状況は著しく悪化。
アルエンス皇帝の姿も全く見られない。一部では既に人質に取られているのではないか、もしくは殺されているのではないか、という噂も広がっている。ここグランシェスクからオーフェングライスは大陸を隔てて離れている。未だ情報が少ないと言ったところか。
グランシェスクの住民にはアルエンス派が圧倒的に多いようだ。しかしオーフェンジーク港は既にリザーガによって封鎖され首都に行くことは出来ない。このまま指を加えて見ているしかできないのか。
スヴィエートは昔から皇位継承の事柄で話題や事件になるが、これ程大規模な物はあの闇皇帝ツァーゼル以来か。ロピアスもリザーガには手を焼かされていたが、いくら平和条約があるとは言え、同盟というワケではない。今は自国の問題に忙殺されていると見られる。中立を貫くアジェスの支援はないに等しい。ともあれ、歴史が大きく動こうとしている。今後の展開が見離せないところだ』
クラリスはそれを読み終わると、ぐしゃりと新聞を握りつぶした。
「アルス兄ちゃん………!!!」
クラリスにとってアルスは命の恩人だ。
それでいて大切な人でもある。彼女は歯をギリギリと噛み締めた。
「…よりによってこんな最悪なニュースかよ」
ガットが呟いた。
「クーデター…!?何て事を……!しかもリザーガって…!」
カヤはフィルをチラリと一瞥しながら小声で愚痴を言った。
「うーん、これは、やばいネ」
ラオの一言が今の状況の全てを物語っているのだった。