テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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イラスト 長次郎様
これ、部下5人達のそれぞれの容姿です。とってもかっこいいですね!
誰が誰なのか、調査編の最初のキャラ紹介欄に一人づつ追加しましたので、よろしければそちらもご覧ください。調査編のあとがきには無駄に凝ってたタバコの設定のイラストも追加しましたので(笑)


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それと、首都とシューヘルゼ村の位置関係がわかりやすいように、地図を改定しました。以前のアナログのよりは見やすくなっていると思います!スヴィエートの一番右にある小さな村がそうです。

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スミラとフレーリット  秘密編

「そういえばあの人…バラの花3本の愛の告白うまくいったのかしら…?」

 

スミラは以前来店した金髪の若い男性客を思い出した。少々印象に残った客だったので、彼のことは自分がつけている日記に書いたのである。ここ数週間の間、恋人であるフレーリットとは会っていない。以前ここに迎えに来た緑色の髪の男性を思い出した。彼に連れられ仕事に行ってから、それからご無沙汰だ。その男性が最近手紙を持ってきて、それの内容曰く、仕事が現在かなり立て込んでおり、戦争も近いためしばらく来られないだとか。

 

「そんなに忙しいってことは…、きっと戦争もう本当に間近なのね…」

 

スミラは憂いを帯びたため息を吐いた。軍事パレードであれだけ国民アピ―ルしているのだ。無論フレーリットからも聞いた。彼は仕事の話となるとあまり話したがらないが、自分が心配していた事は答えてくれた。

 

 

 

数週間前のことだ。

 

 

『戦争…、私怖いわ…』

 

『大丈夫さスミラ。君は何の心配もいらない。スヴィエートは必ず勝利を収める。誓ってもいい。先祖の屈辱、僕の代で晴らしてみせるよ、むしろ楽しみだよ。今まで散々ロピアスには辛酸を嘗めさせられたからね。今度はこっちがやり返す方さ』

 

その自信と心の奥深くに普段はしまい込んであるロピアスへの恨み。フレーリットはロピアスが大嫌いである。アジェスに関しては複雑な感情は抱いてはいるらしいが、利用価値はあるとしては見ているとその時言っていた。いつもは仕事の話をしない彼だが、その時は心配で仕方がないと自分の心のうちを明かしたら、意外とすんなり喋ってくれたので印象に残っている。勿論、重要な機密などは何があっても教えてはくれないが、彼の意思はスヴィエートという国そのものだった。戦争となれば自国優先になるのは当たり前だ。そうでなくても元から何かのよっぽどの絆や事情、利用価値がない限り、他人には興味を示さない淡泊な性格をしていて手厳しい。

 

『ねぇ…、昔はスヴィエート本土が戦場になったのよね…?首都や城にまで戦闘機やロピアス兵が攻めてきてその…、治癒術師(ヒーラー)達が多く殺されたと聞いたわ。その後もツァーゼル闇皇帝のせいで生き残りも狩りつくされたりとか…。そんなことは、起きないわよね?』

 

スミラは父親から脅しで聞かされた治癒術師掃討作戦(ラーナ・ヴェーラ)の話を持ち出した。隠せばいい、そう考えていたが戦争状態となるとまた話は別だ。もし怪我をして、それがすぐに治ったりでもしたら絶対に奇特な目で見られるに決まっている。それに父に言ったら気絶されそうな話だが、戦争の第一人者が今目の前にいる自分の恋人なのだ。

 

『フフッ、スミラは心配なのかい?やけに歴史に詳しいじゃないか』

 

『べっ、別に!?ただ聞いた話をしただけよ!それよりどうなのよ!?』

 

心配そうに、そして慌てて聞くスミラの頭を撫で一息置くと、フレーリットは淡々と答えた。

 

『むしろその逆さ。こっちがロピアスに上陸してやるのさ。何のためにあっちの国にアン・ピアを送り込んだかって、そのためさ。あ、アン・ピアっていうのは僕の部下達のスパイの事ね』

 

『アン・ピア?スパイ?』

 

『そ、僕の部下。もうすぐ長期任務を終えて帰ってくる。その人たちが帰ってきたら、僕は作戦会議や予算会議、兵器割り当てとか、軍激励とかすっごく忙しくなるだろうなぁ…』

 

フレーリットは、ふぅ、と息をついた。本当に自分はよく忘れるが、こいつは国の皇帝で、この国で一番偉く、権力がある。荷物持ちや、ビンタ、蹴っ飛ばしても文句を言われないのは世界でたった一人、自分だけなのだ。

 

『そう…、あらでも平気よ。むしろアンタが仕事に専念してるおかげで私も仕事に専念できるわ。それに、アンタが頑張ればこの国がもっと良くなるんでしょ?願ったり叶ったりで万々歳だわ』

 

腕を組み、目をそらしながら冷たく言い放つと、フレーリットはフッと笑って、そのあとにやりと笑う。

 

『もー、相変わらず素直じゃないんだから。でもそういう所も可愛いよ♡』

 

『は?キモッ。本心だっつーの。アンタの頭の中って相当おめでたい作りしてるのね。ていうかニヤけないでくれる?気持ち悪いんだけど』

 

『手厳しいなぁスミラは~♪ねぇでももっと罵ってくれてもいいんだよ、その方が僕嬉しいしなんかちょっと興奮する』

 

『ヒッ!やっ!!ちょっと触らないで変態!?』

 

いやらしく手慣れた手つきで腰にするりと手を回され、スミラは速攻で振り払った。流れるようなその手つきに思わず昔酒場で働いていた時の事を嫌でも思い出し、反射的にその場から離れる。

 

『えーなんでー?僕らもう恋人でしょースミラ~!』

 

眉をしかめて不満そうな顔をされるが、嫌なものは嫌なのだ。彼に関してはボディタッチは慣れてきたとは言え、いきなりそういう事をされると不快だ。

 

『何でアンタそうやってもう!?手が早いんだから油断も隙もありゃしない!』

 

『ダッテコイビトナンダカライイジャナイカ』

 

フレーリットはジト目でスミラを睨んだ。せっかく想いをうち明け恋人になったというのにこれでは不満になるなという方が残酷だ。

 

『そんな不貞腐れた顔しないで!イラつくわ!』

 

『ウブな反応だなぁ…。あのさぁ、スミラってさぁ…』

 

スミラを見つめ、一瞬だけその考えを口を出そうとしたが、それはやめておいた。

 

『は…?な、何よ…?』

 

『……いや、何でもない。デリカシーのない発言は控えるように心がけているからね』

 

『あ、そう。だったら行動にも表れてほしいもんだわ』

 

『それとこれはまた別♪』

 

『だー!もう!殴るわよ!?』

 

段々とイラついてきたので、スミラはそこで思考をぶった切った。

 

(まぁでも…寂しくないといえば嘘になるかもしれないけど、別に大したもんじゃないわ。仕事に専念するのはいいことだし、お互いにいったん離れて距離をとるってのも必要よね…。あいつ、今頃何してるのから)

 

 

 

いつも通り、開店時間になり、スミラは店の看板を外に出し地面に置いてセッティングする。その時、どこからかやけに視線を感じ、スミラは顔を上げ振り返った。

 

「……?気のせいかしら…?」

 

振り返り、辺りを見回したが、誰もそれらしき人物は見当たらなかった。

 

「嫌ね私ったら、疲れてるのかしら。今夜はラベンダーのアロマでも炊きながら寝ようかしら」

 

スミラは気のせいか、と流し店の中へ入り、開店準備の続きを始めた。

 

 

 

「っぶねー!!危うく見られるところだった!」

 

金髪の髪を揺らし、慌てて路地裏の物陰に隠れる青年が一人。その後ろにはもう一人の男性。

アンディとラルクだ。

 

「このバカ!アンディ!この前もそうだが、隠れてるときに監視対象に悟られてどうする!?監視とはいえ見すぎだ!!」

 

「いやだってカワイ…じゃない!いやアレっすよほら!!なんか開店を狙って変な輩が彼女の元にやって来ないかを見てたんすよ!」

 

「む…それは確かに一理あるな。誘拐するならそのようなときが一番狙われやすい」

 

(ホントに信じたよこの人…)

 

その変な輩にアンディ自分自身が一応含まれている事は自覚しつつ決して口にはしない。ラルクに言えば必ず毎日提出する報告書としてフレーリット司令にチクられるに決まっている。司令を裏切ることは自分にはできない。個人的に彼のことは尊敬しているし、昔の話を聞くに随分自分と違って女性に困らず、モテまくっていたにも関わらず、私用でアン・ピアを使う程彼女に惚れ込んでいる。その一途な姿勢に男としては大変好感が持てるし(職権乱用は置いておいて)仕事に関しても今現在は城に籠りっぱなしで勤務漬け。自分じゃ我慢できない、愛しの彼女に会えない日々が続いている。

 

(叶わぬ恋…、これは俺の胸の中だけにしまっておくべきなんだ…)

 

さようならスミラさん…、と心の中で付け足しアンディの恋は玉砕し、またこうして愛しの人の監視の日々である。

 

(そういえばこの前の報告書提出の時、今後から俺は来るなって司令が先輩に言ってたそうだけど何でなんだ?あれ以来司令に会ってないや…。ま、まさかバレたわけじゃないよな…?)

 

色んな事がすれ違い、アンディの災難は続のであった…。

 

 

 

イースとテリーは宿屋ピング・ウィーンの一階のバーにいた。そして今までに集めた情報を整理する。

 

「なるほどねぇ、はいはい。えーとスミラさんはシューヘルゼ村出身、そして本名はレイシア・エッカート、と。んでそれからだな…」

 

イースは司令に提出した報告書の内容を紙に書きだした。すでに記憶とメモしておいてある。

 

「スミラさんについて色々とわかってきたな。しかしお前よく一字一句間違わずに覚えているな」

 

イースとテリーも正反対である。

イースはどちらかというとよく考えてから動き、状況を判断し、慎重に行動しことを進める理性タイプ。

テリーは直情型、思い立ったらすぐ行動、機敏に動き、決断も早い。

 

「脳筋のお前とは頭の作りが違うんだよココが」

 

イースは嫌味ったらしく、こめかみをトントンと指さしテリーを馬鹿にした。

 

「あぁ?脳が動いても体がついていかねぇお前に言われたかねぇよ?」

 

「なんだと?」

 

「なんだよ?」

 

相変わらずお互いに売り言葉に買い言葉で口喧嘩が絶えないが、仲がいい証拠なのだと周りからの認識である。

長くなりそうなのでお互い引き、とりあえず2人共タバコを取り出し火をつける。

 

「まぁ、何はともあれ身分証明書を偽って発行しているな。これぐらいは俺らの情報網を駆使すりゃ簡単に割り出せることだ。スミラは偽名。俺が予想した通りフローレンスなんで出来過ぎた名前も納得がいったぜ」

 

「問題は何故身分を偽ったり、偽名を名乗ったりしていることだ」

 

「あ?花屋を開業するためじゃねぇのか?」

 

「お前は本当に頭も脳みそだな。普通それだけでそこまではしないだろう。身分を偽ったり偽名にしたりするのは、何か知られたくない過去や生まれがあるからだ」

 

「なるほど…、少しづつだが彼女の核心部分に近づいてきたな…」

 

「ここまでくると、トーダさんの情報を待つしかない。旅行にいってそろそろ2週間ちょっとだ」

 

「は?トーダさんは家族旅行中だろ?なのに何で情報を待つんだよ?」

 

イースはタバコの吸い殻を灰皿に荒々し気に落とし、嘲笑った。

 

「馬鹿かお前。何も考えなしに1ヶ月もあんな辺鄙な村、シューヘルゼへ向かわすか普通?家族サービス、旅行はカモフラージュであって、トーダさんはきっと指令からスミラの出身地について調査してくるように言われているに違いない。少なくとも僕はそう見てる。僕ら男3人でシューヘルゼ行く理由ある?ないだろ?この前の諜報活動じゃないんだからな、この問題は国内だ」

 

「なるほど!でも絶対家族旅行も楽しんでいると思うぜ。だって1ヶ月だぜ?それにトーダさん休みが欲しいってぼやいてたじゃねぇか」

 

「そこはまぁ…、司令の粋な計らいと言ったところだろう」

 

2人のタバコが吸い終わり、灰皿につぶすと2人はガタンと席を立った。

 

「ま、とりあえずトーダさんの情報が来たら俺らの詰まりは解消しそうだな、これ以上首都で調べられる事はあまりなさそうだから、ラルク班とそろそろ合流して警備固めようぜ。調べつくしちまって暇だ」

 

「ああ、賛成だ」

 

 

 

一方シューヘルゼ村、トーダは妻に十分なガルドを渡し、子供たちと共に5日間のグランシェスク旅行へ行かせた。なんでも、闘技場で年に一回のお祭りイベントがあるらしい。自分は健康な空気を吸いたいと適当な嘘をつき、こののどかすぎる辺境の村、シューヘルゼへ留まる。勿論、司令のおまけのような依頼をこなすためだ。シューヘルゼからグランシェスクまで行くのにもロープウェイで山を超えたりと好都合に時間がかかる。家族とは一旦離れ、この5日間をトーダは勝負にあてた。それにそろそろ情報が欲しいと部下達がごねる頃だ。家族サービスもいいが、十分やった。無論1年間も単身赴任していたわけだからまだ足りない位だが、貴重すぎる休みを無料で家族ごとプレゼントしてくれた上司に恩は報いなくては(完全に職権乱用なのはこの際置いておいて)

 

「突き抜けてここまで私用目的で使われると、国の諜報機関アン・ピアというより、ただの一介の探偵だな…」

 

トーダはふっと笑うと、タバコを取り出し口にくわえた。

 

「…たまにはいいか…。浮気調査とかじゃない分、断然マシだ」

 

スミラの写真を取り出し、それをよく観察する。自分が1年間のスパイ活動をしていた時期にあの仕事一筋(少なくとも皇帝、司令に就任してからは)の司令にまさかこのような魅力的な彼女ができるとは。

 

「まぁ、若い者応援する気持ちで、気張るか…」

 

そう、自分はもう40をとっくに過ぎ四捨五入すると50代だ。子供も上の子は思春期真っ盛りである。トーダはため息と一緒にハァーと、煙を吐き、シューヘルゼに来てから被っている農家用の帽子を整え被りなおした。

 

しかし、その時はまさか何の変哲もないあの女性にあのような秘密があるとは、トーダは思いもよらなかった。

 

 

 

フレーリットは、今日のノルマの仕事を終わらせ、トーダから届いた調査報告書の手紙の封を切った。随分時間がかかったようだが、無事に調べがついたようだ。まぁ家族旅行を楽しんで来いといったのは他でもない自分なので我慢はしていたが、これを待ちわびていたのも事実だ。内容はこうだった。

 

【  調査報告書 

スミラ・フローレンスについて 

 

フレーリット・サイラス・レックス・スヴィエート皇帝陛下殿

 

アン・ピア所属、トーダ・ストフールより、スミラ・フローレンスについての調査結果をご報告致します。なお、自身の判断で、かなり重要な機密と判断しましたので、失礼ながら全て暗号で書き記してあります。部下のイースにも同封してある別紙の調査報告書をお見せください。彼らなら解読の方法が分るでしょう。お手数ですがお許しください、これは私自身も非常に驚いた事なのです。 】

 

 

 

その手紙と共に、暗号で書かれた調査報告書が中に入っていた。

 

「チッ、暗号か…めんどくさい…」

 

しかし、曲がりなりにも彼は諜報機関に所属する人物なので仕方がないといえば仕方がない。今すぐ彼女についての情報が知りたいのに、と少しイラだつ。それもそのはず、もう最近は全スケジュール仕事詰めで、2週間半もスミラと話してもいないし、会ってもいない。それに反比例するようにタバコの吸う量が増えているのも自覚している程だ。毎日提出されるラルクの監視報告書には逐次何がこうだとか、どんな客が来てどのような対応をしていただの、今日は買い物に出かけていたなど事細かに記されているが、肝心の彼女とは自分は絶対に会うことは今は出来ない。一方テリーとイースの報告書はそれなりに読む価値はあり、彼女がどのような仕事をしてきたのか、そして案の定身分を偽っていたことだったり、偽名を使っていたことが判明した。まぁ普段の態度から見て水商売はないと踏んでいたので、その報告を聞いて少し安心したのは事実だ。(客を蹴り飛ばし泡を吹かせたというのは聞いて戦慄したが)

 

(………イースを呼びつける前に僕が解読しよう…。彼女の特に重要な情報を他の誰かに少しでも知られるのも癪だし)

 

はぁ、とため息をつき報告書の書類を全て持つと、フレーリットはタバコの吸える自分専用の喫煙室へ向かった。(自分の執務室は母やハウエル、マーシャから掃除が大変だから吸うなと言われたため)

 

 

 

村に一つだけある、小さな教会―――――――。

 

酒好きだという一人の神父に上等の酒を持ち込み、機嫌をとり、話を合わせ食事を共にとる。スミラの写真を見せ、その顔に似た女性の住民の話を聞き出し、簡単に家族を突き止めた。酒のせいで饒舌なせいもあって、すぐに本名や家族構成も聞き出せた。隙を見計らい睡眠薬を混ぜ、神父はとぐっすりと夢の中に落ちた。

 

トーダは教会の関係者部屋に侵入し、過去帳を拝借した。シューヘルゼ村は小さな村であるがゆえに、この一つの教会に住民全ての過去帳が載っているとみて、まず間違いなかった。そして何度か村人にスミラの写真を見せた時、異様な反応を示されたのでトーダはこの対応をとった。その異様な態度というのは、話を聞くに明らか知っているというそぶりを見せるのに、絶対に話したがらないし、口を割らないのだ。そのような状況で歩き回って目立ち、聞き込みをして回っても、あらぬ疑いや噂をかけられるだけだ。まだこの村に少なくとも家族と滞在するため、そのような事態は避けたい。しかし教会のこれだけでも、とてつもなく収穫があった。むしろ、この調査で全て完了だ。平和ボケしていた住民や神父に感謝と謝罪しながらも、過去帳に記してある村の一族達に共通するこの能力に、目を見張らざる負えなかった。

 

 

 

「よし、こんなもんか。えーと、何々…」

 

フレーリットは暗号コードを一通り書き出し、解読できるような状態にすると、報告書を読み始めた。

 

「調査対象、スミラ・フローレンスの本名 レイシア・エッカート。家族構成 母タチアナ、父レオニド、弟コールジェイ。

 

まず最初にスミラ氏の写真を見たとき、赤い瞳は非常に珍しいものだったので印象に残ったことを覚えています。しかし、この村に来ると、燃えるような赤色をした瞳の者はそう珍しくはないのです。むしろ多いようにも感じました。村という隔離された環境のせいかと思ってましが、この村の人間の結束力は非常に強い結びつきとなっております。狭い村特有の近親婚などの影響もあるかと考えていましたが、少々違います。

 

レイシア・エッカートは治癒術を使える一族の末裔であり、その分家一族の直系に当たります。自分はほぼ全滅したと思われている治癒術師(ヒーラー)が使うというその治癒術をこの目で見たことがないので分りませんが、彼女がその分家の生まれであることは間違いないでしょう。その生まれの事情があるが故に、身分と名前を隠していたと思われます。

 

実際治癒術師(ヒーラー)という対象は、ひと昔前のツァーゼル政権では、ただでさえ第一次世界大戦で虐殺され、希少価値があり絶対数が少なかった、能力を隠して暮らしている生き残りの者が全て集められ、人体実験の素体や先代の病を治す手段として使い捨てられていたと聞きます。アン・ピアでもそのような仕事、治癒術を使える者の調査や連行は首都やグランシェスクなどで行われていたと聞きます。この村は恐らくそれから逃れた、もしくは昔から住んでいたかのどちらか、あるいはその両方の治癒術師(ヒーラー)の末裔達の暮らす楽園となっているのです。

 

首都から遥か遠く、そして山と海に囲まれた辺境の地であるが故でしょう。この村の治安は平和そのもので、治癒の能力を使う必要性がない。村の結束力も強いので、噂が漏れたり、裏切り者が出たりしない。しかしもし仮にレイシアがその対象だとすれば、家族から勘当されている事でしょう。村人に聞き込みをしても、一切答えようとしない態度に良くも悪くも、村独特の風習や習慣が少し残っています。しかし、理不尽に虐殺された過去を持つ彼らにとっては無理もありません、それが暗黙の了解なのでしょう。

 

最初は少々調査にてこずりましたが以上が調査結果となります。この結果を陛下がお聞きになり、どう対応するかは私の管轄ではありませんが、スミラは平民、あるいは田舎出身のレイシアという娘という立場ですが、愛に身分や血筋を拘らない陛下なら、私は何も言う必要はないと判断しております。

 

 

 

追伸 家族旅行ありがとうございます。まだもう少しだけ休みを堪能したいと思います。フレーリット陛下の今後のご活躍を心からお祈りいたします。結婚式には是非呼んでください」

 

 

 

フレーリットはその調査報告書読み終わると即座に暗号コードと共に報告書をライターで燃やし、灰皿に捨てた。

 

「まさか…治癒術師(ヒーラー)の末裔だったとはね…」

 

フーッとタバコの煙を吐き、燃えていく灰皿の紙に押しつぶす。彼女には何かしら能力があるとは思っていた。最初は薄々。

 

そして確信したのは、告白してからまた数回程、セルドレアの花畑へデートしにいった時だ。もう行き慣れていたし、ホーリィボトルを使用し自分が彼女に離れずにいれば危険はないと油断し、武装も緩めて行った時だった。スミラが帰りに駆けっこしようと言い出し、花畑から魔物の出る森へ入ったときだった。ウルフやアイスハーピー等の魔物がホーリィボトルを使っていない彼女に群がり襲った。携帯している拳銃でなんとか対処したが、昔の古傷が傷んだ。学生時代、訓練のし過ぎで右肩を壊した経験がありそれが突然ぶり返した。その時だった。彼女を自分の命に代えても絶対に守ると約束したのに。スミラから悲鳴が上がり、見ると彼女の体が、左肩が背後からの魔物の攻撃で切られていた。

 

もうなりふり構ってられないと判断し、隠していた氷の精霊セルシウスの力を氷石として常に身に着けているネックレスと媒体として使い、その場を一掃し、なんとか切り抜けた。問題はその後だ。対して気にしないようなそぶりを彼女にはして、とりあえず抱きしめて無事でよかったと安堵しながらも例の左肩を見ると、なんと治っていたのだ。血が出て、あんなに痛そうにしていたのにだ。一番最初の捻挫の時もそうだが、彼女には尋常ではあり得ない回復、再生能力が備わってる。

 

フレーリットはタバコの箱、ライターを喫煙室に置くと、スミラに会いに行く準備を簡単にだが整えた。一応、以前の反省も生かして、拳銃は反動の少ない物を取り出す。スミラの真実がこういう事だったとは。この事が他の者にバレれば、色々と問題である。自分がもみ消し、バレないように気を付ければ済む話ではあるが、油断は禁物だ。彼女を守らなくては。誰がこれ以上、愛している恋人を危険に晒すものか。

 

しかし一度真実は確かめなくてはいけない。

 

そう、本人の口から――――――――――。

 




おまけ 
イラスト 逢月悠希様より
ダインクローバー トーダが吸っているタバコの銘柄です。
タバコの中では一番安いですね、きっと妻からタバコ高いんだからと文句や小言言われているのだろうと思いますw

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