テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

88 / 121
タイトル詐欺です。これ、スミラと愉快なフレーリットの部下達、です。


スミラとフレーリット 部下編

トーダが家族旅行に出掛け3日目。

 

「うーん、飽きたーー。監視っていっても何すればいいんだ……?至って普通の女性だし、花屋の仕事に勤しむ素敵な女性って感じですけど。そ、それにしてもスミラさんって可愛いなぁ……」

 

「彼女は司令の恋人だからな。心配なんだろう。命を狙われる事を危惧するのも無理もない。可憐な女性だ、司令が過保護になる理由もわかる」

 

ラルクはアンディが買ってきたカツサンドとミネラルウォーターを頬張りながら時折アンディと交代を挟みつつ、スミラという女性に何か異変がないかをひたすら見守っていた。アンディは何なんだこの任務、と心の中で思いつつ欠伸をした。楽でいいが、ひたすらクソ真面目に取り組むラルクとは激しく任務姿勢のギャップ差があるため、割と疲れるのも事実だ。

 

「ありがとうございました~!また記念日に来てくださいね!」

 

輝く笑顔で店の外まで客を見送り、手を振るスミラはを見て、男性客はテレテレと頭をかきお辞儀をして帰る。

 

「アイツ……、今スミラさんを誑かしてましたね……よし殺害しよう。アンディ、サイレンサー寄越せ」

 

チャキッ、と拳銃を取り出し、見張りポイントの隙間から出ていこうとするラルクをアンディが慌てて止めた。

 

「ちょおお!!いくら何でも早とちりしすぎですって!それに彼の左手の薬指見てください!既婚者ですよ!奥さんとかに送るものですって!」

 

「む、確かに…」

 

ラルクが花束を持ちウキウキと帰路に付く男性の左手の指輪を見て引き下がった。

 

「そんな簡単に殺害しようとか言わんでください!後処理どんだけ大変だと思ってるんですか!」

 

「そ、そうだな。すまない」

 

アンディはハァ、と盛大に溜息をついた。任務内容を忠実に守る真面目さと誠実さだが、如何せんこの先輩は融通が本当に効かない。だから自分が部下として配属されたのかもしれない。少なくとも先輩よりは柔軟な考えはできると自負しているアンディと実直さが売りのコンビ。そういえばもう2人の先輩のテリーとイースコンビもほぼ正反対というか、互いのない部分を補い合ってるものだ。

 

「トーダさんやフレーリット司令は、人を見る目はあるのは分かってるんだけど、はぁ~……、慣れねぇなぁ…」

 

「こら真面目にやれアンディ。これも任務だぞ」

 

「分かってますけど……暇すぎっスヨ……」

 

そう、至って平和なのである。彼女が皇帝の恋人であるなぞ公表されるものでもないし、知っているのも司令のご家族とその使用人達、そして自分達だけだ。

 

「せめて彼女の為になりつつ、監視とかできないのかな」

 

「何言っている、任務書には監視対象に監視しているということを決して知られてはならないと書かれていたのを忘れたのか」

 

「別に忘れてはないっすけど……」

 

「油断するな。万が一という事もあり得るだろう。俺達はしっかり皇帝勅命を厳守しなければならないんだ」

 

「こんな平民街真ん中で暗殺騒動なんてそうそう起きないっすよ……」

 

突如グギュルル……と、ラルクの腹が鳴った。

 

「…うっ……、は、腹が……!」

 

ラルクが腰を折り曲げ腹を抑えた。

 

「エ!?先輩!?」

 

「ぐぅ……腹が痛い…いや胃痛か…?!ストレス……!?それともすきっ腹にいきなりカツサンドはやっぱりヤバかったのか……!?」

 

「先輩が腹に溜まるカツサンドって言ったんじゃないすか!ちょ!トイレトイレ!トイレ行ってきてください!」

 

「ウゥッ……!現場を放棄するわけには……!」

 

「ここでクソ漏らされても俺に迷惑がかかるだけですから!!早くトイレ行ってくださいよもう!!」

 

「む、無念…だ…!限界だ!持ち場を離れる!アンディ任せたぞ!」

 

「ウィーッスパイセン~、お大事に~」

 

ラルクは腹を押さえながら慌てて監視ポイントから離れ、商店街のフリートイレの方向へ走っていった。アンディはそんな様子をニヤリと笑いながら見つめた。

 

「ふー……、成功成功っと☆」

 

ラルクはカラン、と懐から瓶を取り出し中の錠剤を揺らした。

 

「フォール・エリック。強力下剤。いや~助かったぜエリック~。お前をさっき薬局で買ってこなきゃ俺がクソ真面目な先輩のせいで胃痛に悩まされるところだったぜ~!」

 

アンディは先程のカツサンドの差し入れと共にミネラルウォーターの中にこれを仕込んでいた。

 

「さーて!スミラさんとお話してこよ~っと☆」

 

るんららん~☆と鼻歌を奏でながらアンディは花屋フローレンスへと向かった。

 

「任務には監視って書いてあったけど、監視ついでにお話と冷やかしは可哀想だから花を買ってイース班との情報連携もとらなきゃな!」

 

(あの司令が惚れるんだから1回どんな人か確かめるぐらいバチ当たらないっショ!)

 

アンディは命知らずな若者である。

 

 

 

「ふーむ、スミラ・フローレンスか……。そもそもフローレンスなんて名前で花屋やってるってのもどこか胡散臭いな。名前が出来すぎてる」

 

テリーとイースは渡された資料を見て、さっそく調査を開始する。

 

「えーとなになに。ふむ、ちなみに資料に書かれているのは…」

 

イースが司令から渡された彼女の資料を読み上げた。

 

『名前 スミラ・フローレンス

 

身長 150cm位(ヒールでいつも誤魔化している為正確な数値は不明)

 

体重 ざっと持ち上げて見た時普通に軽かったのでスヴィエート人女性平均体重よりは結構下だと思われる

 

性格 ツンデレ 照れ屋 強がり 気が強い 花に対しては驚く程素直 目の下のホクロが可愛い

 

好物 イチゴ(メアリーベリー)

 

得意料理 煮込み系やお菓子系統 チョコレートクッキーが絶品

 

好きな花 セルドレア

 

体型 かなり痩せ型 その癖出てるとこは出てる 多分胸はFぐらい 最高

 

出身地 シューヘルゼ村

 

貞操 恐らく処女。反応が大体ウブなので』

 

 

 

「…………………………これ最後の情報いる?」

 

イースが無表情でテリーに同意を求めた。まっっっっったく参考にならない資料である。

 

「相変わらずあの人はデリカシーがないな………」

 

テリーも苦笑いで答えたが、ひたすらにあの人らしいと思う情報資料だった。

 

「スミラご本人様に見せたら面白いことになりそうだ」

 

「やめろ……俺らが消される……」

 

ポン、とイースの肩に手を置いた。そんな事をしたら社会的にも現実的にも抹殺されてしまう。

 

「しかしこれは独身の僕らにまるでこれは当てつけじゃないか……」

 

「そういう所もデリカシーがないから……」

 

「本人悪気ないから余計タチ悪いな……」

 

「ハァ……」

 

「ハァ……」

 

三十路2人の溜息が重なった。

 

「とりあえず聞き込みいくか……」

 

「そうだな……」

 

 

 

カランカラン、と店の扉のベルがなる。アンディはワクワクしながらその店の中を見渡した。

 

「こんにちは~、いらっしゃいませ!」

 

奥から頭にバンダナを付け、髪をツインテールにした女性が駆け寄ってきた。パタパタと小動物のように駆け寄る姿が何とも可愛らしい。アンディは不覚にもドキッとした。

 

(普通に可愛い………)

 

「ど、どうも……!えっとちょっと店の中見て回ってもいいですか?」

 

「はい、もちろん!」

 

スミラにとってはいつもの営業スマイルだが男は簡単に騙される。アンディは直視しないようチラチラとだけ顔を見て花を見回る。

 

「ごゆっくりどうぞー、用がありましたらお声をおかけ下さい」

 

「アッ、はい。あ!すみません!」

 

「はい?何でしょうか?」

 

「え、えーとこの花なんすけど」

 

「あぁ!その赤い薔薇ですか?」

 

「は、はいッス!」

 

「恋人への贈り物なら最適ですよ。特に薔薇っていうのは送る本数によって───────」

 

なんとなく知っている花を見つけ指を指しすと、スミラがまた近付いて、花ついて解説をし始めた。アンディは不思議な緊張感に包まれる。スミラはやはり遠目で監視していた時より、近くで見た方が圧倒的に魅力的だった。彼女が近くにいるだけでふわりといい匂いがするのも卑怯だ。

 

(なんかクラクラする……あぁ~……、いい匂いだ……)

 

かつて無いほど、魅力的な匂いがした。花の香りと、そして彼女自身から出されるような女性ホルモンというのだろうか。とにかくいい匂いがする。ボーッと思考が停止し、なにも考えられない。

 

「───ってな感じの意味なんですけど……」

 

「へあっ!?は、はい!」

 

「ど、どうかされました?」

 

「いやっ!?何でもないっす!これください!」

 

聞いていなかったので、問いかけられ慌てたアンディは思わず購入すると言ってしまった。

 

「かしこまりました、では何本にしますか?」

 

「へっ?え、えーとじゃあ、……3本?」

 

丁度そんぐらいがいいか、と思った本数を適当に言っただけだったが、スミラはそれを聞くとフフっと笑った。

 

「上手くいくように願ってますね……♡」

 

とっても素敵な笑顔でそう笑いかけられては。

 

「…え………っ…」

 

愛の矢がトスッとアンディの胸に刺さった。もうフレーリット司令の事などどうでもよかった。

 

「すすすみません!なんか!メッセージカードみたいなのありますか!?」

 

「え、はい。ございますよ?」

 

「すみません俺字ヘッタクソで!書いてもらえませんか!?」

 

「は、はい。分かりました。何て書きますか?」

 

「お仕事頑張ってください、で!!!」

 

「……………?え、お仕事……?かしこまりました。ではそのようにお書きしますね」

 

スミラは少し、ん?と感じたが、お客様がそういうのであれば、と特に言及せずに書いた。少しだけ丸字で、とても可愛らしいメッセージカードが薔薇3本に添えられた。

 

「うぉぉっ………っ!」

 

そのメッセージを読み、スミラが自分に当ててくれたものだと思い、懐にそっとしまう。ポンポン、と叩きぐっと幸せを噛み締める。

 

「ありがとうございます!!」

 

「そんなに喜んで下さり、私も嬉しいです…!」

 

「あぁスミラさん!なんて素敵なんだ!貴女という人は!お題を払わせてください!お釣りはいりません!!!」

 

アンディはそう言うと1万ガルドを差し出し、スミラの手に握らせた。

 

「!?1万?!こんなにしないですよ!悪いです!」

 

「いや!これは俺の気持ちと、チップです……!受け取ってください!!ハッ、そろそろ行かないと先輩が帰ってきちゃう!じゃそういう事で!!」

 

「エッ、あっちょっと!」

 

アンディはそろそろ持ち場に帰っておかないとラルクに怒られると危惧し急いで店を出ていった。店を離れ、監視ポイントまで蒸気し赤い顔で嬉しそうに戻るアンディ。薔薇の花の香りをスーッとかいで、癒される。

 

「はー!ヤッベー、ヤッベー!本当にすっげー可愛い!司令が惚れるのも無理ない!ていうかもはや司令になんて勿体な─────」

 

「───────アンディ」

 

アンディの背筋がゾッと凍りついた。ギギギ……と、首を横にやると、腹を押さえたラルクが立っていた。

 

「俺は、部下殺しの汚名を背負わなければならないのか──────!」

 

ラルクはジャキッと、拳銃のセイフティを外した。尊敬するフレーリット司令の恋人を警護、監視する役割任務なのにあろう事かアンディはその警護対象に接近し、しかもスミラにほの字である。

 

「ギャー!!!ごごごごごかい!誤解ですって!先輩!ていうかもう腹は大丈夫なんすか!?」

 

「大丈夫………だ。アンディ残念だよ、まだ配属されたばかりなのに」

 

額に銃口を押し付けられ、アンディは慌てて花束を持ったまま両手をあげた。

 

「ほほほんと違うんですって!これ!フレーリット総司令に送るものなんです!」

 

と、咄嗟にでまかせを言う。

 

「………は?」

 

「ほほら!その、………花の香りはリラックス効果やリラクゼーション効果があるって!本に書いてあって!だから俺!司令へプレゼントする為に!そりゃ監視対象に接触してしまった事は謝りますけど!任務放棄は決してしてないですよ!」

 

「ふむ………それもそうだ。アンディ、お前は本当に気が利くな。司令もお喜びになるだろう。どれ、俺が渡してきてやる。またトイレ行きたくなってきたから、それついでに城に一旦戻ろうじゃないか」

 

「い、いや!それは!?」

 

アンディは絶句した。この花は持って帰り、ドライフラワーにしようと思ったのに!

 

「どうした。何かまずい事でもあるのか。気が利く褒美として帰りに飯奢ってやるから、な?」

 

「うぅ…………………………………は、はい………………………」

 

アンディは財布の中身(給料日前、現時点残金 765ガルド)

 

そして気が利くと勘違いしてくれた鈍感な先輩(そしてこんな人に薬まで盛ってしまったという罪悪感)

 

そして司令に申し訳ないという複雑な思いと心の中で相談し、結局この薔薇の花3本はフレーリットへ送られることとなった──────。

 

 

 

「へー………、ウェイターのアルバイトやってたんだなスミラさんって」

 

「そりゃお金稼がないと自分の店持てないからな。まぁそれ程不思議な事でもないな」

 

一方テリーとイースの聞きこみ調査で少し分かった事は、スミラが花屋を開業する前はウェイターのアルバイトをしていたという事だった。

 

「あぁ。でも1回騒動起こしちゃってねぇ」

 

カウンターにいるオーナーがグラスをタオルで拭きながら言った。

 

「え?騒動?」

 

「あぁ。酔ったお客さんに尻を撫でられてなぁ。俺も注意してたさ。でも直らなかった。出禁にしようか悩んでた時だったよ。

 

スミラちゃんも最初は我慢してたみたいなんだけど、何度も何度もとにかくしつっこくセクハラされるもんだから堪忍袋が切れたんだろうね。そりゃあ見事な回し蹴りを食らわせてたよ。まぁ完全にあっちのお客が悪いんでスミラちゃんは悪くないって俺は言ったんだけど、居づらくなっちまったんだろうねぇ。そのセクハラ客、泡吹いて倒れてたし。で、それで辞めちゃったのよ」

 

「ま、回し蹴り……」

 

「泡吹いて倒れる…………」

 

テリーとトーダは顔を見合わせ、スミラの写真を見た。こんな可憐な女性がそんなに足グセが悪く、しかも回し蹴りで客をノックダウンさせるとは。

 

「俺も悪いと思ったんで、次の仕事紹介したやったのさ。今でも交流は割とあるよ。あちらさんは念願の自分の店開けたみたいでお忙しいみたいで、最近会えないけどな」

 

「オーナー、次の紹介した仕事っていうのは?」

 

「宿屋ピング・ウィーンの受付嬢さ。1階が落ち着いてなかなかシャレてるダーツバーになってるから、俺のところみたいにわーわー騒ぐ連中がいねぇし、2階は宿屋だからな。確か住み込みで色々やってたよ。そのお陰で料理や掃除とか、色んな技術が身についたって感謝されたな」

 

「お?ピング・ウィーンか。俺知ってるぞ。平民街における代表的な宿屋だ」

 

「じゃあ次そっち行ってみるか。案内を頼むテリー」

 

「あいよ」

 

テリーとイースは、至って平和だがスミラという女性の意外な過去に触れる事が出来た。

 

 

 

 

 

「…?マーシャ、この赤い薔薇は何だ?」

 

フレーリットは執務室の机に置かれている薔薇の花、しかもそれが3本というのを見て怪訝な顔をした。

 

「あ、陛下。それはですねぇ、陛下が元老院と会議中に部下の人が持ってきたようでして。私が代わりに受け取っておきました」

 

「……………………………一体誰から?」

 

「持ってきたのはラルクさんなんですが、何でもアンディさんからだそうです、と仰っていました」

 

フレーリットはゾーッと全身が鳥肌立つのを感じた。グランシェスクで出会った、あのオカマ工場長、スベトラーナを思い出す。

 

「ばっ、薔薇の花!しかも3本!?しかもアンディ!?お、おい!今度ソイツが来た時伝言しておけ!」

 

「はい?そんなに慌てて、どうかされたのですか?」

 

「僕が仕事して忙しい時も、僕が忙しくない時も!とりあえずトーダが帰ってくるまで会わないからな!いいか!こう伝えろ!

 

僕に()()()の趣味は一切無い!とな!」

 

 

 

 

のどかで、空は晴れ渡っていた。雪の存在など感じさせない天候、そして空気。

遠くでは牛の鳴き声やブウサギ、家畜の鳴き声が聞こえる。

 

煙草で汚れた肺に新鮮で美味しい空気が入り込むのを、身にしみて感じた。

 

「お父さーん!見てみてこのイチゴ!大きいよ!」

 

「おお本当だ。カティアはいちご狩りが上手だなぁ」

 

「父さん!ほら!こっちも大きいよ!」

 

「オレグ!あまり取りすぎないのよ!他のお客さんもいるんだからね!」

 

「メアリーベリー、本当に美味しいな……」

 

「貴方、このイチゴ達をジャムにする体験教室もあるらしいのよ。後で子供達連れて行ってみましょう?」

 

「そうだな…、お土産にもよさそうだ」

 

トーダはその頃家族で平和にいちご狩りを楽しんでいた。




赤い薔薇の花3本をプレゼントする意味

「貴方を愛しています」


フレーリットは既にスミラとの会話で花に関する知識はそれなりに蓄えられています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。