テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
確かに、息抜きに来てはいいとは言った。だがしかし、息抜き?と思うほどフレーリットはそれからほぼ毎日店に来た。
翌日
「ねえスミラ~構って~」
「ちょっと!仕事の邪魔よ!」
「じゃあ見てる、見学してる」
「………ハァ………手伝ってみる?」
「手伝う!」
翌々日
「ねぇねぇスミラって好きな食べ物ある~?」
「うーん、そうねぇイチゴかしら…?」
「分かった」
「え?分かった?」
翌翌々日
「スミラ~!シューヘルゼ産のメアリーベリーのイチゴ持ってきたよ」
「ええぇ!?ちょっとそれ高いヤツじゃない!?」
「え?そうなの?とりあえず美味しいイチゴ食べたいって言ったらこれ仕入れたみたいだから一緒に食べよ~」
「国民の税金でしょ…………呆れた……」
「いやでも、僕仕事はちゃんと今のところしてるよ?」
「それでも来すぎよ!!」
「いい!?これからは私が何か言ってもすぐ取り寄せてこないで!」
「どうして?女性って買い物好きで物よく欲しがるんだろう?」
「どうしてもよ!」
本当に毎日連続で来るフレートに流石にスミラは呆れた。
「また来たのね……フレート…」
「ねえねえ~スミラ~♪仕事終わったら一緒に出かけようよ~」
「今日はそんな暇ないの。お願いだからお仕事してちょうだい」
「してるってば。こう見えても僕優秀なんだよ?それに君とこうして会って帰った後も仕事してるし」
唯一の楽しみたいなものなんだよ、とフレートはお店の回転式椅子に座りグルグルと回り暇を持て余す。
「貴方、ちゃんと寝てるの?」
スミラは手で彼の無造作に伸びた前髪を横にかき分けた。相変わらず妙に色気のある端正な顔立ちだが目元には変わらずのクマ。しかし年中彼にはクマがある気がする。
「いっつもクマあるじゃない」
「君に会えるなら睡眠時間ぐらい削るし、これはもう、そうだな、スミラで言う顔のホクロみたいなもんだよ。ほら、君の左目の下のね」
フレートはそういい自分の左目の下をトントン、と指を当てた。スミラは左目の下に泣きぼくろがあった。
「可愛いよね、スミラのチャームポイントって感じ」
「……なら貴方のチャームポイントはそのクマなのね……」
「そうそう、そんな感じ」
「パッと見不健康そうに見えるわ。目つきが悪いと更に不気味だし、怖いし」
「酷っ!それはないよスミラ!」
「本当の事言っただけよ、まぁ顔がいいからチャームポイントになってるのね」
これでさらに人相悪くなったらまるで逃亡中の殺人犯だわ、とスミラは付け足した。
「……っ………それ褒めてるの?貶してるの?」
フレートは一瞬ドキリとしたが平静を保った。
「……冗談よ。ほら、これで機嫌直して」
スミラは”いつもの”を取り出すと彼に渡した。
「やった~!」
フレートは目に見えるように喜んでビンの蓋を急いで開けた。中にあるモノをヒョイッと取り出すと、口の中に放り込んだ。
「ホントに好きねそれ……」
よく飽きないもんだわ、とスミラは逆に感心した。
「甘いものは疲れた脳の栄養補給みたいなもんさ」
くぁ……と欠伸しながらビンの中のチョコクッキーをすごいスピードで食すフレート。作っておかないと不機嫌になるし、もし材料がないと言えば取り寄せて
大量に城から送り付けてくるものだから、彼のチョコクッキーに対する執念は凄まじい。そのせいでほぼ毎日花屋なのにスミラはチョコクッキーを作るハメになり、もはやレシピを見ずに作れるようになっていた。
(まぁ……今までお菓子は自分で食べるだけだったのに、彼が食べるようになってから作るのが若干楽しみにはなってはいるけども………)
スミラもスミラで、美味しい美味しいと言って手作りのチョコクッキーを食べてくれる彼に対しては、満更でもない。純粋に嬉しいのだ。
「でも私じゃなくて使用人に作ってもらえばいいじゃない。それにお城でしょ?一流シェフやパティシエなんて簡単に呼べるんじゃないの?」
「いーの。その人達に恨みは無いけど、上品過ぎる味というか。足りすぎてるというか。僕はスミラの作る料理の方が好きなんだ。庶民的って言ったら怒られるかもしれないけど、でもすごく安心するんだ」
「そ、そう…………?」
「うん、正直言って、スミラの料理が1番美味しいよ」
「お世辞がお上手ね……。でも……ありがと……」
「ん……、スミラ、クッキーなくなった」
「はやっ!!」
ほとんど毎日来るのに、不思議とスミラは嫌ではなかった。こんな事本人に言ったらしかめっ面されそうなので言わないが、1歳年上なのにまるで手のかかる子供が出来たみたいなのだ。その子供がチョコクッキーというお菓子をたかりに来る、と言ったら悪い言い方だが、事実その通りではある。が、しかし、彼と他愛もない話をしている時間はそれなりに楽しい。互いに仕事一筋だったフレーリットとスミラにとってかけがえのない時間となっていた。
「へー……向日葵って太陽の方向向くんだ……」
「そう、私の故郷では向日葵畑があったわ。太陽が移動するにつれて、その方向を追うように花が回るから、ヒマワリって名前なのよ」
「ここ、なんか食用って書いてあるけど」
フレーリットは図鑑の文字を指さした。
「もちろん、ヒマワリって食べれるわよ」
「そうなの!?」
「私の故郷では食用だったもの」
スミラはもう、6年も帰っていない懐かしき故郷の事を思い出した。
「え?スミラの故郷ってどこ?首都じゃないの?」
「違うわ。私はシューヘルゼ村出身よ」
「シューヘルゼ!?あのド田舎の!?国内でここから1番遠い所じゃないか!」
「ド田舎って!失礼ね!まぁその通りなんだけど……。そうね、こっちの寒さには最初はびっくりしたわ…。もう慣れたけど……」
「スミラは何でオーフェングライスに来たの?」
「それは………」
スミラは一瞬、答えようか迷った。故郷の事を聞かれればいずれ家族の事にも会話が発展しそうな予感がしたからだ。だが、正直に言うことにした。
「それは?」
「理由は2つあるわ。花屋を首都の都会で開きたかったのと………」
「もう一つは?」
「セルドレアの花を見たかったからよ」
「セルドレア……?あの青いやつを?」
フレーリット自身、城の中庭には必ずと言っていいほどセルドレアが咲いているので正直拍子抜けした。何度も何度も幼い頃から見ているし、何なれば正式に着る服の模様として必ず刺繍されている。
「皇族やここの人からしたらあまり珍しい物じゃないでしょうけど、私の村では見たことなかったわ、衝撃的だった。あんなに見事なコバルトブルーの青い花、故郷じゃ見たことないんだもの。それにこっちの環境でしか咲かないんですって」
フレートは、それを聞くと納得した。まぁ確かにその通りだ。セルドレアの花は寒い地方独特の環境でしか咲かない。だからこの国の国花なのだ。
「そうだね、確かにセルドレアはとあるエヴィの恩恵を受ければ受けるほど青く立派に育つから」
フレーリットはそういいながら、枯れて落ちた葉っぱを拾った。
「とあるって?」
首を傾げスミラは訪ねた。その様子を微笑みながら一瞥すると、フレーリットは葉と細い茎部分を持ち、スミラに見せた。
「氷のエヴィさ」
そしてそれを持ったまま手から冷気を発生させあっという間に凍らせ、カチンコチンにしてしまった。そしてそのまま手で砕いて粉々にするとゴミ箱にパラパラと捨てる。
「わっ!凄い!」
フレーリットは人差し指の上で水色のエヴィを作り出し、スミラに見せた。
「ってそうだったの!?」
「あぁ。セルドレアは氷のエヴィを養分として育つ。氷や水のエヴィはスヴィエート特産だからね。だからあんなに鮮やかな青になるんだ。だからエヴィが濃い山や海辺だともっと鮮やかに輝く」
「凄い!図鑑にも書いてないことじゃない!どうして知ってるの!?」
スミラは驚いた。フレーリットから花の事を教わるのは初めてだ。
「それは………」
「それは?」
今度はフレーリットが口ごもった。この事はあまり彼女のような人に話したくない事だった。
「いや……?どこで知ったか忘れちゃった」
「何よもう!知ってるんでしょ?!勿体ぶらないで!気になるじゃない!それに貴方が私の好きな花に詳しかったなんて!」
「スミラはセルドレアが好きなの?」
「ええ!いつか自分の目で群生地で咲くセルドレアの花畑を見るのが夢なの!」
輝かんばかりの笑顔で夢を語るスミラにフレートはある考え事にふけった。
「ふーん………」
「何よ?反応薄いわね!どうせ薄っぺらい夢だと思ってるんでしょ」
「…………いや?」
フレートはふーっと息をつき、椅子から立ち上がった。
「ねぇスミラ。僕がその夢叶えてあげようか?」
2日後、フレートは彼女との約束を守るため朝早く起き、装備を整えた。その後ホットミルクを持ち母の様子を挨拶がてらに見に行ったら、目を丸くされた。
それもそうだ。今のフレートは明らか城にも、市街にも似合う服装ではない。どちらかと言うと戦闘に向いている、というより戦闘用の服装だった。
緑のボディーアーマーにサーベルに拳銃。腰にまいたベルトにはナイフやポーチが装備してあり、パッと見ぎょっとしてしまうような格好だった。
「貴方、ここ最近どうしたのです?空き時間を見つけては城を抜け出して市街を視察なんて。それに今日は朝からそんな格好をして」
母クリスティーナがフレートからホットミルクを受け取ると、それはまだ飲まずにここ数日の疑問を投げかける。
「はい。今日も行ってきます。昨日のうちに大体の仕事は終わらせて今日は緊急でも無い限り1日休みにしたんだ。今日はちょっと遠出もしてきますけど、心配ご無用です」
ハウエルやマーシャにも既に言ってある、とフレートは付け足した。
「一体毎日何が目的で………」
「んー、端的に言うと女」
「女!?」
クリスティーナがホットミルクに口づけ飲もうとした瞬間、息子の爆弾発言に危うく火傷してしまいそうだった。
「お、おおお女って……!貴方また火遊びしているの!?いくら私が結婚しろと言ったからって─────」
「違う違う。誤解ですって母上。火遊びなんかじゃない。どちらかと言うと、んーそうだな、花火?」
「花火!?」
「それだけ僕が本気って事」
「…………まぁ」
クリスティーナはとても驚いた。今まで女とは散々その日限りであったり、いくら無理矢理見合いさせても発展しなかった彼の恋愛事情が変わり始めているのだから。
「どんな方なの?」
「平民街にいる花屋の女性。スミラって言うんだ。ほらあの向日葵の花束だって彼女が作ったんだよ。その子といるだけで僕は安心するし、楽しいし自然と笑顔になれる。彼女の笑ってる姿や喜んでいる姿がもっと見たいと思うし、最近はもう彼女の事しか考えられないんだ」
もう26歳にもなるというのに彼はまるでこんな感情は初めて、とばかりに興奮を抑えきれていない。母の手前、少しばかりか素直になるフレーリットは夢中でスミラの事を話した。
「……最近妙に機嫌が良くてどことなく幸せそうにしていたのはそういう事でしたのね……」
ハウエルやマーシャ、そしてシェフやその他の使用人達も言っていたので、バレバレだ。美味しいイチゴを用意しろだの、花の図鑑を取り寄せろだの、タバコと仕事ととりあえず腹を満たせる料理以外無関心だった御主人様の劇的な変化に使用人達は噂で持ち切りだった。その噂が当然彼の母であるクリスティーナにも回ってくるわけで。
あの放蕩息子がまさかとおもいきや。
「そういう?」
「フレーリット、貴方彼女に”恋”してるのね」
面と向かって母に言われたフレーリットは少し顔を赤らめて目をそらした。照れている。クリスティーナはまたその息子の珍しい表情に驚きを隠せない。
「─────そう……ですね。愛と言うものが何なのか、分かった気がするんです」
「貴方のそんな顔、20年ぶりぐらいに見ますわね。私は応援しますわ。頑張りなさい!出来ればその子と結婚するのよ!いい事!?」
「う、うん……応援感謝します…母上」
「早く告白して正式にお付き合いしなさい!」
「だから今日それをする予定なんですって」
「まぁ!?なら早くお行きなさい!!いい報告を待っていますよ!」
息子が本気となれば母も本気になった。もともと見合い話で持ち切りだった母の話題はこれからどんどんスミラとなっていくのだった。
母にグイグイと押され、2つの意味で背中を押され城を後にしたフレート。城門を出ようとした途端─────
「陛下!!」
「え、何、うわ!ちょっと!」
「御髪が乱れております!それと水筒をお忘れですよ!」
執事ハウエルが急いで彼の腕を引き、戻し妹マーシャに前髪を整えさせた。ハウエルは腰ベルトに水筒を取り付けると後ろの跳ねた髪を整えた。
「お弁当も!それとタオル、ティッシュはお持ちですか?あぁっ、マフラーが乱れております!お直しいたしますね!」
あれよこれよとどこからともなく取り出すお節介の側近達。そして恋愛事情となればそのお節介度は格段に跳ね上がる。
「って僕は子供か!?いらないいらない!余計なものは!あとお弁当はいい!いらないよ!スミラが作ってくれてる約束だから!」
「まぁ!?申し訳ありません!私とした事が気がきかずに……!でしたらせめて花束を……!」
中庭の庭師シャガルを呼んできます!とパタパタ走り出したマーシャを慌ててハウエルが引き止めた。
「バカマーシャ!これから花畑行くのに何で花束プレゼントするんだ!?」
「ハッ!?そうでしたわ!」
「マーシャ落ち着け!陛下はきっと上手くやる!今までだってそうだったじゃないか!」
「あぁ陛下。あの陛下が清廉で甘酸っぱい恋だなんて!?応援せざる負えないでしょうこれは!兄さん!」
「あの陛下って、君達ね……」
フレーリットはハァ、とため息をつき、「やっぱりこいつらに話すんじゃなかった」と後悔した。
「スミラ様、きっとお喜びになると思いますわ」
「いいアイディアだと思いますよ」
言うと本当に付いてこられそうなので正確に場所は知らせていないがとりあえず花畑という事だけは伝えてある。そのせいで彼らは息子を初めてのピクニックに送り出すようなお節介節を発揮した。
「ちょっと、もういい?僕そろそろ行きたいんだけど」
「その女性を本当に愛しておられるのですね……」
「何という純愛………」
「さっきからうるさいんだけど!?」
やっと姦しい2人から解放され、フレートは街の出入り口に向かった。待ち合わせは街の外壁の門前である。
☆
夢を叶えてあげる。
そう言われて約束の日が来た。なんと彼はセルドレアの花が咲く群生地を知っていてしかも連れていってくれるらしい。
群生地となれば街の外となる。当然魔物も出るし、歩くので彼にはヒールの高い靴は履いてくるな、と再三言われていた。格好もなるべく動きやすく、なおかつ防寒性のあるもの。下は丁度良い長さのスカートにしてある。持ち物はお弁当と水筒ぐらい。勿論自分は非戦闘員である。エヴィの扱い方を花屋の環境応用に使用しているとはいえど、正式に術の指導など生まれて受けたことは無いので従って必然的にフレートに守ってもらう形になる。
「ふふ………それにしてもすっごい楽しみ………!」
約束の時間よりかなり早い時間に来てしまう程スミラは浮かれていた。お弁当に彼の好物も作ってきたし、勿論デザートのチョコクッキー持ってきた。料理を作っている時、彼の喜ぶ顔が見たいと思ってしまう程には、フレートの事を意識していた。
(……よく忘れてしまうけど、それでも彼はこの国の皇帝なのよね……)
そりゃー毎日来るものだから、嫌でも意識してしまう。話題を合わせようと花の事を聞いてきたり、勉強してきたり、初めて会った時とは思えない程気が遣えるようになっているし、デリカシーのない発言も徐々に減ってきている。
しかしスミラは自身の気持ちに蓋をしていた。彼を好きになったところでどうせ天地がひっくり返ってでも叶う恋ではない。平民と皇帝だ。しかも自分は元ド田舎出身のただの田舎娘。
やはり彼も所詮息抜きの庶民体験で毎日来ているかもしれないし、いつ飽きられてもおかしくない。彼の素直で子供っぽい面を見て、母性本能をくすぐられているだけかもしれない。
(弟を思い出しているだけよ………、きっとそうに違いないわ…。でもこれって明らかピクニックデート……)
幼い頃ピクニックで姉さーん!と野っ原を駆け回っていた幼き頃の弟を思い出した。転んで泣いて、自分の元に甘えてきた手のかかる、7歳の離れた弟、今はもう、18歳だろうか。立派な青年だ。
「……でも、やっぱり弟とは違うのよね……」
弟とフレートに対する感情は似ているが全く違う。自分でも分かっている。
「………ハァ………」
毎日来ていたフレートが、昨日1日来なかっただけでも寂しいと思ってしまったのだ。完全にこれは───────
「スミラ~~!!」
「っ!?」
その声にスミラは一瞬で思考を停止させた。
「ごめんごめん!遅れた!いや~使用人達に捕まっちゃってさ~」
「べ、別に大丈夫よ、私が早く来すぎただけ……って」
スミラは初めて見る彼の格好にドキッとした。
「ぁ………あ、……その…………」
「ん?何?」
「……ふ、ふーん…?それ…様になってるじゃない。でも寒くないの?」
意地でもカッコイイ、とは言わなかった。少しでも褒めると調子に乗りそうだからだ。
「そう?ありがとう。僕、寒さに結構慣れてるから平気だよ。まぁ街の外に出るからね。対魔物としては動きやすくて機動性もあって、装備もしているから」
スミラも今日は街に出かけるため普段の花屋の格好ではない。フレートもそれもそのはずだが、なかなかに男らしいというか、頼もしいというのだろうか。これなら魔物が出ても全然平気な気がする。
「じゃあ早速出発しようか」
フレートはスミラの手を自然に引きよせ、街の外へ連れ出した。
「え、ええ。ちゃんとエスコートしてよ?!守ってよ!?私一般市民なんだから!」
「勿論、命に変えても君の事は守るよ」
「そ、そこまではしなくてもっ………」
(まぁそれは私が大事なスヴィエートの国民だからよね……)
先程考えていた自分らしくないネガティブな思考に呑まれそうになるが、これから第2の夢が叶うのだ。スミラはその想いを振り切り久々の街道へと足を踏み出した。
「フレート~、あとどれぐらい?」
「ハハ、それ何回目?楽しみで仕方が無いんだね。もうすぐだよ」
「もぉ~、さっきからそればっかりじゃない」
街から離れて暫く、街道を大きく外れ森に入り魔物に襲われないようにホーリィボトルを使ったが、もう少しで切れそうだ。
「フレートー?」
「あっ、ちょっと目つむって」
「え?」
「スミラ、こっちこっち。ほら目をつむって、手に掴まって」
森の出口だろうか?向こうに白い光が見えた。一件ただの開けた雪の原にしか見えないが、フレートが立ち止まり、目を瞑れと言う。仕方がなくそれに従う。
「まだ開けないでー、そうそう。手離さないで。危ないから」
「どうして?まだ花畑は先でしょう?」
「いいからいいから、そう疑わずに。花畑の周りには、僕が特殊なエヴィ結界術を張っているんだ。誰も来られないように 」
「え……?そうなの?」
「そう、だからとっておきの秘密の場所。スミラにだけだよ?教えるのは」
フレートの両手を握り、恐る恐る歩く。彼の声はまるで秘密を共有する子供のようにワクワクと弾んでいた。フレートはスミラの手を左手で引き、目の前の右手の透明な壁に向かって手を当てた。そしてそのまま進むと、スミラをエスコートし、少し前まで連れていく。
「よし、いいよ。目開けて」
フレートの許しが出て、スミラは恐る恐る目を開けた。
「わぁぁぁあ…………!!」
スミラの目の前に広がっていたのはあのセルドレアの花畑だった。一面青、青、青の絨毯で、どれも6本花びらの満開の花ばかりである。ちょうどこの場所は少し小高い崖に位置しているようで遠くに海が見える。
今までにない神秘的な雰囲気を漂わせセルドレアは美しく、堂々と咲き誇っていた。青く、それはとても青く。故郷では決して見れなかった青い花──────
「凄い!凄い!!フレート!ねぇ見て!セルドレアよ!本物のセルドレアの花畑!!嘘!うそうそ!夢みたい!!」
スミラは思わず走り出し、花畑の中心に立ち、くるりと回った。フレートはそれをゆっくりと追いかけた。
「早く早く!!あぁ最高!なんて素敵な場所なの!」
その姿を見てフレートはフッ、と笑った。
「夢みたい、じゃなくて、これが君の夢だったんだろ?」
「そう、そうよ!私の夢が叶った!フレートが叶えてくれた!ありがとう!本当にありがとう!」
「おっと……と…!…うわぁ!」
スミラは感激のあまり走ってフレートに思いっきり抱きつき、勢い余って押し倒してしまった。
「あっ、ごめんなさいフレート!怪我はない!?」
ハッと目を開けた体を起こした瞬間彼の顔が目の前にあり、スミラはカーッと顔を赤くして停止した。
「い、いや、大丈夫。下が花畑でクッションになってるから」
今まで以上に1番距離が近い。それに倒された時に普通に胸が当たっていた。フレートは、なるべく変な所を触らないように注意したが、スミラが思考停止し固まっているのを不思議な目で見た。
「……スミラ?」
「わっ、わぁぁぁあぁ!!?この変態!いつまでアンタそこにいるのよ!」
「ちょ、何でっ!?」
どう見て理不尽な光景であった。押し倒されたのはフレートであるのにそのまま変態呼ばわりされ平手打ちを食らっている。
「アンタがいつまでもどかないから!」
「だってスミラがどかないから!」
「う、うぅうるさい!!もう!」
お弁当食べるわよ!と言ってスミラは真っ赤な顔を隠すように急いでご飯の支度をしはじめた。
2人で花畑の中に座り、スミラの美味しいお弁当のサンドイッチを食べながら他愛もない会話をし、そしてデザートのチョコクッキーを食べながら、フレートはこの場所を見つける経緯について話した。
あまりにしつこくスミラから聞かれるので、観念したのだ。フレートはクッキーを食べ終わると水を飲んで一呼吸おいた。
「はー、分かったよ話すよ。ここは……陸軍訓練時代、僕がチームを務めるサバイバル訓練中偶然いつのまにか見つけた場所なんだ」
「へー、そうなの?」
「あぁ……。見つけた経緯……、についてはちょっと割愛するね。血なまぐさい話になっちゃうから……。
とりあえず部隊が吹雪と魔物の襲撃でバラバラになって、1人になった僕にとって命を助けられた場所だった。氷のエヴィが豊富で、ほとんどエヴィの力を使い果たして気絶して、目を覚ましたら何故かここにいた。意識がない、朦朧としているうちに自分がたどり着いたのかもしれない、はっきりと覚えてないんだ。
でも僕にとって地から直接エヴィが溢れ出てる程濃い場所に来たのは本当に奇跡だった。それを利用して、みーんな僕に殺意剥き出しにして襲ってきた 、
「そう……、そんな事が………」
妙に裏のある言い方だったが、スミラは何も気づかなかった。フレートも、出来れば話したくなかった。誤魔化した血なまぐさい話など、彼女には似合わない。
スゥーッと息を吸って、フレートは深呼吸した。
「ここは、凄く貴重な場所だ。誰にも知られたくなかった綺麗だし、エヴィは濃くて綺麗で澄んでるし、僕のとっておきの場所になった。でも、君になら、教えてもよかった」
「そ、それは……私が、見たいってて……言ったから?」
スミラは目を伏せ、思わず聞いてしまった。聞きたくないのに。関係が壊れるぐらいなら、いっそずっとこのままの関係でいたい。素直になりたいのに、いつも反対の言葉が出てきてしまう─────。
「違うよスミラ。いや、それがきっかけであることは事実だけれど、それだけじゃない」
「じゃ、じゃあ何っ!?はっ、皇帝様がしがない田舎出身の庶民の願いを1つ叶えてやろうっていう感動企画?相変わら─────」
フレートはスミラの肩を掴み、その減らず口を塞ぐようにして目を瞑り、そっと彼女の唇に口付けた。
────────突然ふっと塞がれた視界と唇に、本日3回目の思考停止がスミラを襲った。
「君の事が好きだからだ、スミラ」
「ぇ………………」
「僕は君の事が大好きだ、もっと一緒に居たい、君の男になりたい、君の恋人になりたい」
「は……?………じょうだ…………」
「冗談なんかじゃない!僕は本気だ!」
「きゃ!」
今度はフレートがそのままスミラをセルドレアの花畑へと押し倒した。
「皇帝とか、平民とか、そんな身分は関係ない。僕は1人の男として、スミラというたった1人の女性が好きで好きで堪らないんだ!」
「うそ、……うそ…………」
「嘘なんかじゃない。絶対に手放したくない、君を守りたい、愛している。この世で一番、スミラを愛している!!!」
「あっ、ああぁぁぁぁ……、愛してるっ!?へぁあっ!?」
そのままギュっと抱きつき、スミラを腕の中に閉じ込めた。
「………スミラは?」
「っ!?」
「僕の事愛してる?」
顔を覗き込まれて凄く近い距離で大胆にいますぐにでもと返答を聞いてくるフレートにスミラは手で彼の顔を押さえた。
「ちょ、ちょっと!近いっ近いってば!」
「ダメ、答えてくれるまでずっとこうしてるから」
フレートはスミラの細い腕を掴むとじっとスミラを見つめた。
「………………うっ、うぅぅうう……!」
スミラは恥ずかしさと嬉しさのあまり涙目になった。ただ物凄く直接的に、いっぺん一気にしかも大胆ストレートに告白をかましてきた挙句愛しているとまで言われた。正直キャパオーバーだ。
「………し…………も…………き……」
「え?何?聞こえないよスミラ」
「私もぉ!アンタの事が好きだって言ってんの!」
なかばキレ気味にスミラは返答してやったが、これが正直な返答だ。
「スミラ!それじゃあ……!」
何度も言わせないでよ恥ずかしい!!それと答えたんだから退いて!」
「うぐうっ!」
スミラはフレートの顎を手で押しあげ立ち上がり急いでその場から離れた。
「はー!はーー!もう!この変態!死ね!」
「それって大好きって意味だよね!?」
「は、はぁ!?アンタの思考どうなってんの!?」
「もう大体スミラの言うことなら分かるようになってきたよ。ありがうスミラ!僕も大好きだよ!」
喜びを押さえきれずフレートはまたスミラに抱きついた。
「きゃぁあああ!?」
そしてそのまま軽々と腰を持ち上げるとくるくる周り出した。
「やった!僕は今日からスミラの恋人だ!愛してるよスミラ~!!」
「おっ、下ろしなさいこのバカ!!」
「あはは~何で~?いいじゃないか~」
満面の笑顔のフレートと、顔を赤らめそっぽを向くスミラ。フレートはそのままゆっくり彼女を下ろし、また静かに口付けた。
セルドレアの青い花びらが風で舞い上がり、それはまるで映画のワンシーンのような光景であった─────────。
魔物達って中に勿論人も含まれてます。チーム隊員は全てツァーゼルに買収されており、フレーリットは裏切られます。リンチの如く殺されかけるんですけど、まぁ何か気づいた傷は治ってたし、そしてあそこにたどり着いたって事ですね。その時氷石も手に入れてます。この話もいずれ書きます
セルドレア先輩「告白からプロポーズ、そして天国まで見守るやで」