テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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今回はラブコメしてると思う。


スミラとフレーリット デート編

軍事パレードの途中にも関わらずスミラはその場から急いで離れ、走り出した。

 

人混みを掻き分けると迷惑そうな声が聞こえてくる。

 

「ご、ごめんなさい…!」

 

とにかくスミラはあの場から離れたかった。

 

(アイツ、アイツよ!この前の!絶対アイツ私の事気づいた!目が合った!まさかとは思ってたけどアイツ皇帝!?嘘でしょ!?)

 

巡り巡る思いに混乱しつつ自宅に戻り2階の自室に行くと机の上に懐中時計をそっと、傷など絶対つけないように置いた。

 

質屋に持っていった結果なんと1億7千万ガルドと知ったこの時計。

 

「これ、返さないと。大切で貴重な物だろうし…。お金は…、まぁ諦めるしかないよね…」

 

皇帝に直接お金下さいなんて口が裂けても言えない。いやそれどころかどうやって会えと?相手はこの国の皇帝だ。

 

大体城にいるのかな程度の認識ではあるが、その城にどうやって入れと言うのか。門前払いされるに決まっている。

 

(あー、でもこの時計……!!どうするのよ私…………)

 

スミラはベットに倒れ混んだ。頭を抱え心底困り果てる。

 

「こうなったのも全部アイツのせいよ!

 

でもまた会いに来るって言ってたような…、いやいや!来て欲しくないんだけど!?というか何で来たのよもぅ~…。おかしいでしょ、皇帝がこんな平民街の、しかも私の店にくるなんて………」

 

そんな盛大な独り言を言っているとお腹が減ってきた。そういえば朝から水しか飲んでないし、まだお昼も食べてない。

 

スミラはキッチンの床下にある、貯蔵庫を開けた。

 

「ほとんど何もないじゃない…」

 

我ながら情けなくなった。最近忙しかったのもあるが食料尽きるまで買い出しに行かないとは。

 

今度は冷蔵庫の方を開けたがホントに何もない。ひんやりと氷結晶の冷気が伝わってくるだけ。しかも軍事パレード終わるまで市場は開いてない…。

 

「お腹減った……」

 

じっとしているだけでは余計空腹が気になるので花の手入れをする事にした。

 

(もうそろそろ炎結晶切れる頃かしら…、変えないといけないわね…)

 

なんて思っていたら外の様子が騒がしくなってきた。どうやら軍事パレードが終わって皆開店し始めたようだ。

 

(悪いけど、今日は花屋はお休みね…。食料買い出しの往復になるわねこの深刻な食料不足は)

 

はぁ…、とため息を付きスミラは買い物袋を持って店を出た。正面口から出ると鍵をかけクローズの看板に変えた。すると、

 

「あれ?今日はお店やらないの?」

 

ピシッと全身が固まった。恐る恐る振り返ると───────。

 

「ぎゃあああああっ!?」

 

「やぁ、久しぶり、でもないか。また会ったね」

 

後ろにいたのはいかにも暇を持て余してタバコを吸っていました、とばかりにタバコを吹かすあのうざい客。

 

およびさっき演説をしていたと思われる…皇帝陛下…。また深く帽子をかぶりサングラスをかけ丈の長いコートを羽織っている。先程演説をしていた格好とはまるで違う。

 

「ななななななな何でっ、貴方がここにっムグッ!?」

 

彼は右手てスミラの口を塞ぎ左手でシーッとジェスチャーをした。

 

「軍事パレードも演説ももう終わったんだ。今は皇帝じゃない。アンタの客だ」

 

「ていうかここ禁煙!!花屋の前でタバコ吸うとかどういう神経!?今すぐやめてください!」

 

「えっあっ、ごめんごめん。そうだったね」

 

フレーリットは吸殻を携帯灰皿に捨てると残りの煙を吐き出した。既に灰皿は吸殻で埋もれていた。スミラは急いで彼の手をどけると、

 

「ケホッゴホッ!ちょっ、もう!さいぁ……じゃない!何本吸ってるんですか陛下!あと今は皇帝じゃないって!何を言ってるんですか!?」

 

「んー6本位?。あーていうか、陛下って呼ばないでよ。今は皇帝じゃないって言ったでしょ?」

 

彼はうるさそうに迷惑そうに目をそらした。

 

(こんの野郎…、私の気も知らずに…!)

 

「陛下!!お言葉ですが、早々に帰られた方がいいかと!」

 

「ねぇ、聞こえなかった?陛下って呼ばないでほしいって僕言ったんだけど」

 

「うるさいわね!!じゃあ何て呼んだらいいのよ!?って…」

 

(ヤバ…、敬語…!)

 

スミラは頭が混乱してきた。今何を言うべきなのか、分からなかった。

 

「………」

 

黙り混み、目が据わっている彼に負けじとキッとにらみ返した。

 

冷静になって、少し考えがまとまる。

 

(いやいや何やってるのよ私。内心滅茶苦茶怖いわよ。これ私ヤバくない?ホント何やってんの私。不敬罪じゃないの?)

 

一気に冷や汗がぶわっと出てきて目が泳いだ。

 

「ふっ、いや~君面白い人だね~」

 

「は?」

 

「いや、表情がコロコロ変わってさ、今は目が泳いでて。そのくせ変なところですごい度胸あるというか…、無謀というか…。僕が皇帝って知っててその態度と反応は凄いね」

 

「だ、だって呼び名がないと不便だし…」

 

「ふっふふ……、あそこでまさか逆切れされるとは思わなかったよ、あだ名がないと不便っていうそこに注目することも。しかもさっき思いっきり敬語抜けてたしね」

 

「もっ、申し訳ありません…」

 

スミラは不満げな顔をした。

 

(アンタが今は皇帝じゃないって言ったんでしょうが!いや、ちょっと待ちなさいスミラ。落ち着くのよ、彼は客。客に対してあの対応もどうかと思うわ。いくらアイツがうざいからと言って、冷静になるのよ、私)

 

「まあ、店の前でこんな風に揉めてるとちょっと目立っちゃうんじゃない?」

 

「あっ、そそそ、そうですね。えーと」

 

(大丈夫、落ち着いたわ。まずは店に入れて、で、例の懐中時計を返すの。それだけよ)

 

「ど、どうぞ…………」

 

もう一度鍵を挿しドアを開ける。嫌々だが。

 

「おじゃましま~す」

 

カラン…との鐘が静かに鳴り、ドアを閉める。

 

「あの、陛下…、じゃない。お客様、この前の懐中時計の事なんですが…」

 

「ああ、アレ?いいよ別に。あげる。丁度新しいのを母から貰ったんだ。あれはもういらないし、そういえばなんかあの懐中時計とセットのオルゴールみたいなの見つけたから今度あげるよ」

 

ジャラリとまた懐中時計を彼は出した。今度は派手な装飾もなくシンプルだが美しい銀色の時計だった。彼の瞳と同じ色だ。

 

「あの、その、困ります。えっと、ちゃんとしたお金を頂かないと…。あの懐中時計はお返しいたしますので…。少々お待ちください」

 

スミラは急いで2階に上がり時計を取ってくる。

 

ところが彼はさっきいた場所におとなしく待っていなかった。それどころか店の天井や炎結晶がおいてあるケースに顔を近づけている。

 

「ちょちょっとお客様、何を…!?」

 

「これ…、炎結晶だよね?で、天井にちらほら見えるのが光結晶。なるほどね、これで花を栽培できる環境を作るんだ。言わば疑似太陽みたいな構造だね」

 

「えっ、あ、はい」

 

驚いた、少し見ただけでこの男はこの店独自のシステムをすべて見抜いたのだ。

 

「なるほどね、これは凄い。よくこんな事が出来たね。思いついたとしても、簡単に出来ることじゃない。エヴィの調節にも工夫が必要だ。温度調節と光、そして水が花を維持させてる訳だ」

 

「あ、ありがとうございます…。あとはまぁ、やっぱり肥料や土…ですかね。でもこんなに褒められたのは初めてです。ありがとうございます…」

 

今までエヴィ結晶の事を聞いてくる客なんていなかったから、思わず顔が赤くなる。と、また話題そらされていた。

 

「そ、それはそうと、これ。ホントに、お返ししますから」

 

「だからいらないって~。ぶっちゃけ貰って」

 

「それは困ります!わ、私の道徳に反しますから!」

 

「道徳って?」

 

「だから、お釣り多すぎると言うか、んもう!何度も同じこと言わせないで下さい!」

 

「んー、そうは言っても僕お金持ってないしなぁー」

 

「何で持ってないんですか!」

 

「その時計で十分でしょ?それに僕現金自体持ち歩く習慣ないし」

 

根本的に生きる世界が違う人だ、とスミラはヒシヒシと感じた。そしてこの男は何がなんでも懐中時計を受け取らないようだ。この時計がむしろ嫌い、なのだろうか?

 

「そうですか、では。お金が払えない場合、体で支払ってもらいます、私のルールに従ってもらいます。私の道徳観で、この懐中時計を売ることはできません。お釣りが多すぎるし、それに何となく嫌だからです。で・す・の・で!」

 

「何?僕に体を売れと?」

 

「違う!!あの花束に合う分のお金の働きをしてもらうって言ってるんです!変な事言わないでください!気持ち悪いです!」

 

スミラは変わらないペースの彼の発言を遮りまくし立てるように言った。彼は呆気にとられ不思議そうに私を見つめた。

 

「……いいけど僕、皿洗いも掃除も料理も洗濯も出来ないんだけど」

 

「荷物持ちぐらいなら出来ますよね?」

 

スミラは、それぐらいなら誰でも出来るわ?と小さく、しかし聞こえるように挑戦的に呟いた。

 

「は?ん?うーんそうだねぇそれぐらいなら」

 

「いいですか?ここでは働かざる者食うべからずです!貴方は今から私の荷物持ちとして働いてあの分のお金を払ってください!」

 

「えっ?え?なにそれ?」

 

「返事は!?」

 

スミラはフレーリットの両肩にバン、と手を置き念を押した。

 

「えっあ、はい」

 

「うん、よろしい」

 

スミラの言い訳を許さない気迫に押されたのか少し仰け反りながらも返事はした。

 

(やった!荷物持ちゲット~♪)

 

「では、手始めに私の買い出しを手伝ってもらいます!」

 

「買い出し?何それ?」

 

「食料買いに行くの!それと敬語使いなさいよ!今は私が貴方の雇い主なんだから、もう契約は成立してるのよ?」

 

「え、僕一応皇……い゛っ!たぁ~!?」

 

口答えするのでスミラは彼の足を思いっきり踏みつけた。

 

「さっき陛下って呼ばないでくれって言ったのはどなた?」

 

「………………僕です」

 

「そう?なら聞けるわよね?」

 

「うん……」

 

フレーリットは踏まれた足を押さえながらしぶしぶ答えた。

 

「返事は、はいよ!」

 

「はい~。あの、貴女の事何てよべばいいんですかね?」

 

「え?あー、と。前みたいにフローレンスさんでいいわよ」

 

「じゃあ、スミラ」

 

フレーリットはニヤりと笑って言った。

 

「ちょっと!何で私の名前知ってるのよ!?」

 

「ふふ、隣の店から既に聞いてきたから」

 

してやったり、と笑うフレーリットにぞわりと鳥肌がたった。

 

「キモ……。ていうか気安く呼ばないでくれる!?」

 

「いいじゃないですか、スミラ」

 

「っ!信じられない!呼び捨て!?ありえないし気安く呼ぶなって言ってんでしょ!」

 

「僕の事もフレーリットって呼んでいいよ」

 

「話聞いてる!?」

 

「ほら早く行きましょうよスミラ~」

 

「あぁもう!いいわよスミラで!ていうかアンタの事普通に名前で呼んだら色々とまずいでしょうが!」

 

「え?ああ、そう言えばそうだな」

 

「……じゃあアンタは今からクソ虫ね」

 

「それは流石に酷くない?クソ虫て」

 

初めて言われたよ、とフレーリットは若干笑いながら言った。

 

「だって思いつかないんだもの、じゃあフレーリットだからフ、フよ」

 

「それもどうかと……」

 

「クソ虫とフどっちがいいのよ!?」

 

「何でその二択なの?もう少しマシなのないの?」

 

「早く決めないとクソ虫って呼ぶわよ」

 

「……………クソ虫よりかは名前の一部の方がいいかな……フでお願いします…」

 

「そうね…、フから昇格したらフレートって呼んであげる」

 

「何が基準で昇格するのか分からないけど、まぁ、それなら。あだ名なんて付けられたことないから新鮮だしいいですよ、それで。ていうか逆にフ、って呼ぶ方が変じゃ……」

 

「いいから!さっさと行くわよ!フ!」

 

「はいはい……」

 

「はいは1回!」

 

「は~い」

 

よし!とスミラはツインテールの髪を揺らしドヤ、と仁王立ちした。

 

「さぁ行くわよ!」

 

「はい~」

 

 

 

フ、ことフレーリットはスミラの隣に歩くと怒られるので後から付いていき、歩く事5分………。

 

「ねぇ、あー、えっと。すみません、その靴歩きにくくないですか?」

 

「えっ?」

 

花屋フローレンスを離れてからしばらく、後ろに着いてきてる彼から声をかけられスミラはキョトンとした。フレーリットは彼女の足元を指さした。

 

「だってさっきから歩きにくそうにしてるし…、この街は山の近くだ。天気も晴れてるけど急に悪くなるかもしれないし、雪だってまだ少し積もってる」

 

「なっ、ちょっとどこ見てるのよ?気持ち悪いわね、前見て歩きなさいよ!前!」

 

「えぇ……」

 

実に理不尽である。フレーリットは困惑せざる負えない。何故なら、前にいるのがスミラなのだ。しかし話しかけただけでこれだ。別に足をずっと見てる訳じゃないのに、しかも下心ではない。

 

「なっ、何よ…」

 

「いや、別に……?」

 

「そ、そう?それならいいけど、くれぐれも余計な事はしないでよね!お店のモノ勝手に盗んだりしないでよ?」

 

スミラはツン、と言い、また目的地のお店に向かって歩き出した。

 

「一応、僕それ位の常識は持ってるんだけど…」

 

「あ!ラヴロフさん!」

 

彼女はパッと表情を明るくさせ、商店街の八百屋の店主の中年男性に話しかけた。

 

「こんにちは!買い物に来たのよ」

 

「お、スミラちゃんじゃないか!どうだい、そっちの花屋の方は?」

 

「まぁぼちぼちって感じ!今日は軍事パレードの人の流れで疲れたし、臨時休業にして食料の買い出しに来たのよ」

 

「おや珍しいね、お店を休みにするなんて」

 

「ま、たまには…ね?息抜きも必要よ。それにまた試しに育ててる花があるのよ」

 

「なるほどね。おっと話し込んじまった!さ、見てってよ!今日は軍事パレードのお陰で人が沢山来てるから野菜セールやってるんだ!」

 

「あら本当?じゃあ奮発しちゃおっかなー!」

 

「………………………」

 

心底面白く無さそうな、不機嫌な目でフレーリットはラヴロフという男性を睨みつけた。

 

(何?あの態度の変わり具合?僕の方は名前すら教えてもらえないどころか、彼はスミラちゃんて)

 

さらにフレーリットは見たこともない輝く笑顔で八百屋と話しているスミラ。どうにも腹が立ってしょうがなかった。

 

「長話はいいからさっさと買いましょうよ…」

 

「は?何よ?いいじゃない、少しくらい喋ったって」

 

振り返った彼女の顔は先程の笑顔とはうって変わって不機嫌顔。

 

「まぁ、少しならね………」

 

顔をそっぽに向けたフレーリットにスミラは訝しんだ。

 

「何不機嫌になってるのよ?お喋り位誰だってするでしょ?」

 

「……ソウデスネ」

 

ラヴロフはそんな姿の2人を見て

 

「何だ?スミラちゃん、デートか?」

 

「あぁ!そう見えま───」

 

フレーリットはパッと顔を明るくさせたが、

 

「絶対違うから!!!ないから!!」

 

スミラは全否定した。

 

「え?そうなのかい?ごめんよ、なんか兄ちゃん不機嫌そうに俺の事見てたからよ、邪魔しちまったかなって」

 

(そうだよ!!分かってんなら早く他の客に行けよ!)

 

決して口にはしないがぎりぎりと歯を食いしばったフレーリットであった。

 

「もう!全く余計な事はしないでって言ったでしょ!?」

 

「だって……!」

 

「何拗ねてるのよ?ワケが分からないわ」

 

スミラに怒られ少し反省したが、フレーリット自身も何でこんなに自分が不機嫌になっているのか分からなかった。

 

彼女はハァ、と溜め息を付くと店の奥に行きカゴに目当ての物を入れ始めた。大人しくそれを観察していると、スミラからちょいちょい、と手で招かれた。

 

「!」

 

急いで近くに行くと、

 

「フ、これ持ってて」

 

「えぇ~…」

 

ズーン、とガッカリした。所詮荷物持ちである。

 

「荷物!持ちなさいよ!そうゆう契約なんだから!ほら早く!」

 

「はいはい、随分入れましたねー…」

 

「買い物はまだまだこれからよ!!」

 

(なんだ、まだ一緒にいられるのか)

 

そう思うと荷物持ちも悪くないな、とフレーリットは気を取り直した。だがその思考をちょっぴり後悔することになる。

 

 

 

3時間後──────。

 

正直、女の買い物を舐めてた。

勿論、今まで欲しい物は使用人に言えば大体手に入ったフレーリットにとっては殆どが初体験であるが。

 

 

手には全ての荷物の紙袋、ビニール袋がぶら下がっている。

 

(普通に重い………ていうかお腹空いた…)

 

今日は奮発よ!!なんて言いながら服、靴、アクセサリー、バッグなどをあれよこれよとは買い、フレーリットに預けた。

 

そのお陰で体は荷物だらけになっていた。多少の荷物も彼女は持っているが、ほんの少量だ。

 

この状況は陸軍訓練時代にやった装備を担ぎながらの訓練に似てる。正直言って疲れた、しんどい。

 

「あの~、ねぇ!ちょっと!まだ買うんですか~?」

 

「んー!あらかた欲しい物買ったわねー!最高!ストレス発散ね!やっばり荷物持ちがいると違うわ!」

 

「そうですか…」

 

「さてと。フ!そろそろ帰るわよ!」

 

「やっとか……。了解~」

 

スミラは満足感を露にしながら軽快に歩いていく。買い物をしまくったせいでご満悦のようだ。

 

「フーンフフーン♪」

 

軽快なステップで鼻歌まで歌って、ゴキゲンそうである。そんな彼女の横顔を見たら、自然とこちらも笑顔になった。

 

(やっぱり彼女いいな……、可愛いし、いい匂いだし……見ていて飽きない。一緒にいて楽しいし…….。こんなの初めてだ)

 

フレーリットは未だにこの感情が理解出来なかった。我ながら、今まで何故か散々女性に言い寄られ、モテて来たので女には困らず、10代の頃は遊び半分と自分の性処理目的で付き合っては捨てていたが、女性と一緒にいて楽しいなんて思ったのは人生初めてである。

 

「フーンフーン♪ンーきゃっ!?」

 

「えっ、何?」

 

と、彼女は突如姿勢を右に崩した。見ると右の靴のヒールが折れている。アレだけ歩き回ったからだろう。

 

「あー……だから言ったのに…」

 

(そんな高いヒールの靴を履いているからだ)

 

心の中で思ったフレーリットだが、少し反応が見たくて、意地悪したくてそのままあまりに気にしないような素振りを見せた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「なっ、何でもないわよ!?ヒールがちょっと折れただけ!話しかけないでくれる?」

 

「はぁ、すみません…。じゃあ先行きますよ?」

 

さも気にしないような素振りでスタスタ歩き始めるフレーリットを、悔しそうにスミラは睨みつけた。

 

「ま、待ちなさいよ!」

 

「はい~?何ですかぁ~?」

 

「なっ、やっぱり何でもないわ!」

 

彼女は強がり、折れたヒールを拾うと歩き出そうとした。が、しかし

 

「うぅ…痛いっ…」

 

小声で呟き、くじいた足を擦った。

そんな素直じゃない様子を見てフレーリットは引き返した。

 

「はぁ……」

 

呆れたように溜め息をつき、スミラの正面に立った。

 

「だから最初言ったじゃないですか。ヒールの高い変な靴は危険だって。慣れてて油断してる時が一番怖いんですよ。それに今日は歩いたし…」

 

「へ、変な靴って何よ!?これお気に入りのパンプスだったのに!ア、アンタに言われる筋合いから!!」

 

「だって、その足で歩けるの?帰れるの?」

 

「か、帰れるし!?舐めないでよもう!いひゃぁ!」

 

スミラは折れて歩きにくい方の靴を踏み出し、そして案の定コケた。

 

「うわっ!」

 

ドサッと体制を崩し、正面にいたフレーリットに倒れ込んだ。手で支えることは出来なく、何とか踏ん張り倒れずにすんだが、荷物もある分かなりキツイ。

 

「だ、大丈夫?」

 

「うっ、うぅ~!うぅー!全然大丈夫じゃない~!痛いよ~もぅ~…最悪……!」

 

強がっていたが、限界のようだ。若干涙目になりながらフレーリットにしがみついて離さない。

 

(びっ、びっくりした……。ていうか、動けない……)

 

バクバクとうるさい心臓が彼女に聞こえていないか不安で仕方なく、下を向いているとふんわりとしたいい匂いがして、慌てて上を向いた。すると、白いフワフワしたモノが、フレーリットの頬に落ちて溶けた。

 

「あっまずい、雪降ってきた」

 

「えっ嘘でしょ!?」

 

「ちょっと待ってて」

 

これは本格的に早く帰らないとまずい。フレーリットはそう決心すると、とりあえずからスミラから離れた。近くにあったベンチの上に荷物を置き、彼女の手を引きそこに連れていった。

 

「座ってて」

 

と言い、フレーリットはコートのポケットからハンカチを取り出した。そして積もっていた新雪に浸し冷やす。すぐに戻ると、しゃがんで彼女の足をとった。足だけ見ていたので、正面を向けばスカートの中が見えそうだったが、そういった下心は一切なかった。

 

「足見せて」

 

「ちょっアンタいきなり何を…!?」

 

天気のせいで急いでいたので、問答無用に彼女のお気に入りのパンプスとやらを脱がせた。そして腫れている部分に手を当て確認していると─────

 

「んなっ!変態っ!?」

 

「ぐはぁっ!?」

 

「あっ!いったたた……」

 

いきなり生足を持たれ、なんの前触れもなく触られたスミラは恥ずかしさのあまり、フレーリットの顔をその足で思いっきり蹴っ飛ばした。蹴った時、また痛さが増して後悔したが。

 

「ほんっとに有り得ない!アンタデリカシー無いワケ!?何でそんないきなり脱がすのよ!?そんで触るのよ!」

 

「…?……?…?僕は捻挫時の応急措置をしようと思っただけなのに何で蹴られなきゃいけないんだ…?」

 

彼は至って真面目である。頭にハテナマークしか浮かばない。そう、本当に下心はなかった。それがスミラにとって余計しゃくに触った。

 

「う、うるさい!アンタが誤解されるような行動をするからいけないのよ!!それとどんだけ気遣いないの!?」

 

「ああもう分かったから!すみませんね!失礼!いいから!もうじっとしていてください!動かれると上手く出来ない!」

 

彼はそう言うと冷やしたハンカチを切り裂き、足にギュッと巻き付けた。

 

(このハンカチ…、いくらするのかな………)

 

と、くだらない事がスミラの脳裏に走ったが彼が本当に自分を想ってやってくれているのだ、とやっと気づくと大人しくなった。それが終わり、パンプスを履かされると彼は立ち上がった。

 

「はい、とりあえず応急処置はしたから。ゆっくりでいいから、家に帰りましょう。じゃないとますます天気が荒れて状況が酷くなる」

 

「へー……すごい…。ってな、何よっ?私こんなこと頼んでないんだけど!?」

 

スミラは思わず真逆の事を口走ってしまった。

 

(ああ、もう何でこんな言葉しか出てこないの?どうして素直にお礼が言えないのよ私!)

 

「はいはい、いいからいいから。ほら、僕の手に掴まって」

 

「え?」

 

フレーリットはスミラの手をとると、

 

「いち、に、さん!」

 

「きゃぁ!」

 

勢いよく持ち上げ、スミラを立たせた。彼女はよろけそうになったが、しっかりと支えられしかもさっきより断然歩けるようになっている。

 

「えっ?嘘?す、すごい……」

 

「ゆっくりでいいから、それと歩くの辛かったら僕に体重かけていいから、ね?」

 

「えっ!?悪いわ!貴方荷物も持ってるのにそんなの!そっ、それにこんなの楽勝よ!」

 

「いいから!」

 

フレーリットはベンチの上の荷物をとると、スミラとは反対側の左手に全て持ち、右手で彼女を支えた。

 

「ほら行きますよスミラ、早かったら言って」

 

「う……うん……」

 

 

 

もうすぐ、もうすぐフローレンスの花屋だ。

 

 

スミラは歩幅を合わせてここまで歩いてくれたフレーリットを見上げた。彼は背が高く、必然的には見上げる形になる。

 

こちらの視線に気づいた彼と一瞬目が合い、慌ててスミラは目を逸らした。

 

「もうすぐだよ、頑張って」

 

「あ、うん……」

 

 

 

スミラは小さく、本当に小さく呟いた。

 

「────ありがと……フレート………」

 

彼女はその日初めてそのあだ名で彼を呼んだ。




ラブコメの波動を感じる

クソ虫→フ→フレート←new!



フレーリットさん立ち絵

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