テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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フレーリット

「フィル!早く立て!閉じ込められるぞ!皆手伝え!」

 

「おう!」

 

「フィルゥゥ!早く!」

 

シャッターがもうまもなく閉まろうとしている。アルスは咄嗟に手でそれを押さえつけた。ガットとカヤもシャッターの両端に手をかけ上に持ち上げる。だが降りてくる力はとても強く、長持ちするとは思えない。カヤは目をつぶり必死に力を振り絞った。力が一番強いガットがいた事が幸いだ。

 

「っらぁ!」

 

フィルはうつ伏せに転んだ状態から、両手を斜め上へと精一杯伸ばした。そして神経を集中させ、元々手に巻き付いている糸にエヴィ糸を連結させ一直線に放出させた。それは宙を駆け抜けるように飛んでいき、シャッター前の両端の壁のランプに巻き付いた。

 

「っ!?何してるんだフィル!?」

 

「おりゃぁぁぁぁあああああああ!!」

 

フィルはエヴィ糸をリールのように自らへと吸収し前進した。そして弾丸のように、地面を這うようにして、ものすごい速さで引っ張られるように飛んでいく。やがて空中に浮きシャッターを押さえているアルスの懐に向かってきている。

 

「どけー!!アルスー!!!」

 

「は!?ちょっ!ぐはぁっ!?」

 

シャッターを通り抜ける直前に糸を切り、フィルはそのままの速さを保ったままアルスの腹に頭から突っ込んだ。まるで人間パチンコだ。

 

「うわぁ…………」

 

ガットが思わずそう呟いてしまった。

 

「えっ!ちょっ!何!?アタシ目つぶってて分かんなかった!」

 

「ふぃー、咄嗟の判断と奴が幸を期したな」

 

フィルはあぐらをかき、汗を拭うようにして前髪を払った。

 

「ぐぉおおぉおおあぁ………!!」

 

思いっきり突っ込まれ、クッション替わりにされたアルスは、あまりの痛さに涙目になる。よろよろと足の力が抜けるようにしゃがみ、腹を抑えた。

 

「だ、大丈夫かアルス…」

 

衝撃的瞬間を間近に見てしまったガットである。流石に心配し、肩に手を置く。

 

「ほ、ほら。腹見せてみろ、その為の治癒術師の俺だ」

 

ガットはアルスの腹に手を当てる治癒術をかけた。

 

「な、何があったの?」

 

「フィルがものすごい頭突きをアルスの腹に食らわせた」

 

「うわ………、お気の毒に………」

 

カヤは状況を理解した。

 

「い、いや……むしろ、腹でよかったのかもしれない……。もう少し下だったらこれ以上に大変な事になってた……」

 

「あぁ…うん…確かにそうだな……」

 

アルスの切実な男の訴えにガットはうんうんと頷いた。

 

 

 

アルスの治療も終わり、脱出路が見えた。

 

「これか」

 

アルスはロックが解除された非常用通路のドアを開けた。長い廊下になっており、障害物は一つもない。ただ長い廊下を光結晶の淡い光が照らしている。しばらく進むと、光を放っている陣があった。

 

「これ…、ガラサリ火山の祭壇にも同じような物があったね」

 

カヤはしゃがんで陣を触った。光が反応を示している。アルスは感心した。

 

「こんな技術があったのか…、城にもあったら便利だろうなぁ…」

 

「つーか、どこ繋がってんだこれ?」

 

「非常用……と言っていたから、外ではないのか?」

 

「とにかく、入ってみよう」

 

アルスの言葉に皆頷くと陣内に入った。光に包まれ、飛ばされた場所。そこは…。

 

「真っ暗だ!」

 

視界は黒にそまり、何も見えないフィルは慌てふためいた。

 

「フィル、迂闊に動くな」

 

「でもどうすんだ大将?」

 

「待っててアタシ、ライト持ってるから」

 

「助かる」

 

カヤは腰のポーチからライトを取り出すと、スイッチを入れた。パッと光がついた先にカヤは視線を向けた。そこにあったものは────

 

「うわわわぁっ!?」

 

「何だ!?………ってち、父上!?」

 

「ぅおっ!?アルスの親父っ!?」

 

「おい!どうなっているんだこれ!?」

 

「ちょ、ちょっと待って、これって……」

 

カヤはライトをあちこちに照らした。すると、目の前にゾッとする光景が広がった。

 

「これ………全部写真よ……!?」

 

その部屋の壁という壁一面にアルスの父であるフレーリットの写真が大量に張り付けてあった。

 

「な、何だこりゃっ………」

 

ガットが顔を引きつらせ一歩下がった。

 

「気持ち悪っ……!誰よこんなんやったの!ストーカーじゃない!」

 

「………な、なぁっ…こっこれは……」

 

アルスは戦慄しか感じなかった。立ち竦み、ただただ目の前の光景に唖然とした。

 

「て、天井にもあるぞ…」

 

フィルが上を見上げて言う。アルスは上に視線を向けた。もう限界、というように彼は愕然し、ついには情けなく尻餅をついた。手が震えている。

 

「アルス!大丈夫?」

 

カヤが心配してアルスに駆け寄った。

 

「あ、あ、ああっ……」

 

「声震えてるわよっ…!」

 

ガットがその部屋を散策しだした。所狭しにフレーリットの写真だらけである。部屋の真ん中に陣が配置されていて、他にあるのは机とベットだけの狭い部屋だ。

 

「お、お前の親父っ、誰かにストーカー被害受けてたみたいだなっ。つーか!何てとこに繋がってんだ!!あのワープは!どこが非常用だよ!ストーカー部屋に繋がるとか頭おかしいのか!?」

 

「だ、だからアレだったんじゃないか……?ほら、開かずの扉………」

 

フィルが言った。

 

「早く……、一刻も早くここを出よう!」

 

アルスは寒気が止まらない。ここにある全ての写真は、自分の実の父親なのだ。彼は足に力を振り絞り、逃げるように立ち上がり部屋を出ていった。

 

「ここはっ!?」

 

そしてアルスは更に驚愕した。なんと出た先はスヴィエート城の中なのだ────!

 

 

 

「────ってな具合〜かなっ?あぁっ、もぅ〜、なんか恥ずかしいわ!」

 

「素敵です!!スミラ様!そんなロマンチックな所で!ロマンチックなプロポーズ!!良いです!羨ましぃ〜!」

 

オーブンでクッキーを焼き上げている間、後片付けをしつつ、スミラはルーシェに話をしていた。フレーリットとの馴れ初めについてだ。ルーシェはその話を聞き感激している真っ最中だ。

 

「セルドレア……!冬に咲き誇る青い花……!あぁ、感動的ですね!!」

 

「う、運命の青い花……ってやつ?いやぁっ!何言ってんの私!もぅ!」

 

「じゃあじゃあ!それ!その薬指の指輪が!結婚指輪なんですね!?」

 

ルーシェは目を輝かせスミラの左手の薬指を指さした。

 

「ま、まだ結婚はしてないわよっ!これは、婚約指輪!」

 

「いつ結婚なさるんですか!?」

 

「え、ええっ、わ、分かんないっ…。彼は、落ち着いたらって言ってくれたわ。ほら、戦争中だしね……。結婚式なんて今は挙げてらないでしょ?」

 

「でも!いつかは結婚するんですよね!?」

 

「も、勿論……よ?」

 

「はぁ〜、凄い……!いいなぁ〜…」

 

「貴方はそうゆう人いないの?」

 

「えっ!?私っ!?」

 

「あら、いるのね」

 

「んなななっ、いませんよ!」

 

「え?だって目泳いでたわよ?」

 

「いないです!あ……、でも、なんだか、そうなのかなって人が、つい最近まではいたんですけど……」

 

「何?他の人とくっついちゃったとか?」

 

「いや……、喧嘩……というか…」

 

「あらま……どうしたの?」

 

ルーシェは潜入任務の事などすっかり忘れ、スミラと女子トークを繰り広げていた。

 

 

 

「あった!ここですね!」

 

ノインはルート通りに進み、44階にある一室を見つけた。

 

「またパスワード入力みたいだネ…」

 

「んじゃ、ちゃっちゃと打ち込ん……、ん?何か書いてありますねぇ」

 

「え?何?」

 

ノインは地図に書いてあるアルスのコメントを読んだ。

 

「片方は外廊下の目立たない所で待機し見張りをした方が良い。フレーリットの部屋も同様に行う事……だそうです」

 

「なるほどネ、じゃボクが行ってくるヨ。ノインは見張りよろしく」

 

「お、僕は丁度見張りがいいと思ってました、賛成です」

 

ラオはパスワードを打ち込むと、マスターキーがある部屋へと入っていった。

 

「ラオさんファイト!」

 

「すぐ戻ってくるヨー」

 

ノインは地図の指示通りに外廊下の目立たない死角の位置に立ち、その部屋のドアを見守った。

 

「何この部屋タバコくさっ!?」

 

ラオは入った瞬間に、鼻をつく臭いに思わずそう言った。部屋の明かりをつけ、

 

「え?鍵が安置されてる部屋だよネ?何でこんなにもタバコの臭いすんの?」

 

ラオは疑問に感じながらもとりあえず部屋を散策した。物置のように古い本棚や、使わなくなった棚などがある。狭くはないが、広くもない。しかしどこに鍵があるのか、なかなか見当たらない。

 

「あれ、灰皿?」

 

窓際に丸いテーブルと椅子があった。テーブルの上には灰皿があり、煙草の吸殻が大量に入っている。

 

「この吸殻、新しいネ……誰かここで吸ってんの……?え?こんな所で?まさかぁ?喫煙ルームじゃあるまいしここ?まぁそんなことはどうでもいいか…」

 

ラオが鍵を探している最中に、外はとんでもない事が起きていた。

 

 

 

「早く出てこないかなぁ、ふぁあ……」

 

ノインは大きな欠伸をした。しかし、その直後エレベーターが開く音がして、廊下を誰かが歩いてくる音がした。

 

「ん?」

 

ノインは顔を少し出してそれを覗いた。モノクルを手で持ち、目を凝らした。一瞬だが姿が見え、すぐに顔を戻した。

 

(ぃぃぃぃぃっ!?ふ、フレーリットさんっ!?)

 

ロダリアが足止めしていたはずのフレーリットが、こちらに向かってきている。ノインは急いで無線をラオに繋げた。

 

「ラオさんっラオさんっ!」

 

ノインは小声で懸命に喋った。

 

「え?何〜どうしたの?まだ鍵探してるんだけど〜」

 

ラオの悠長な声が聞こえてきた。こちらの緊迫した様子など微塵にも気づかない。

 

「フレーリットさんが来てます!!」

 

「はっ、はぁッ!?どうすんの!?とりあえず部屋から出……」

 

「今出たら確実にバレますよ!!隠れてください!」

 

「ちょ、ちょっと待って!そうゆうの足止めするのがキミの仕事なんじゃないの!?」

 

「僕に出来るわけないでしょう!?それに!本来この仕事を第一に請け負ってたのはロダリアさんですよ!」

 

「何のための見張りだヨおバカ!」

 

「とと、とにかく早く部屋のどっかに隠れて!!」

 

「あ、ちょっ!」

 

ノインは無線を問答無用に切った。テンパって何もできないノインは情けない事に身を隠すことに徹底した。フレーリットは部屋のパスワードを入れ、ついさっきラオが入っていったマスターキー安置室に入ってしまった。

 

(ぁぁぁぁああああ!!ラオさぁぁあん!!)

 

ノインは必死にラオの無事を願った。

 

 

 

「……あれ、明かり消し忘れてたのか?」

 

フレーリットは部屋に入ると、部屋の明かりが付いている事に疑問を覚えた。

 

「消したと思ったんだけど……、気のせい?まぁいいか……」

 

フレーリットはズボンのポケットから煙草とライターを取り出した。煙草に火をつけ、窓際に置いてあるイスに座る。深く腰掛け、寄りかかった。

 

「はぁ…………」

 

煙を吐き出した。落ち着く感覚だ。吸殻を落とすとまた口につける。

 

そんな中─────。

 

ラオは息を殺して身を潜めていた。なんとか慌てて隠れた場所は本棚の中。うつ伏せになりじっと身を潜める。横に長い本棚の下から4番目の段は4分の1程度しか本は入っていない。好都合だ。ラオは体勢を直すため、少し体をよじった。しかしそれが過ちだった。足で何かを蹴飛ばしてしまったのだ。ドサッ、と重い音をたててそれは床に落ちた。

 

「っ何だ今の音?」

 

(ヤッバイッ!?)

 

ラオは冷や汗がぶわっと吹き出した。

 

「誰かいるのか!?」

 

ラオは慌てて本棚を反対側から出ると棚の影に隠れた。フレーリットは不審な音に反応し、本棚を確かめに来た。

 

「………古い本が落ちただけか」

 

フレーリットは本を拾い上げた。その本を適当な位置に戻そうとする。しかし、背の高い彼は上から4の段が見下ろせる。

 

「……?」

 

そこで本棚のある異変に気づき、彼の目つきが鋭くなった。手袋をはめているその右手の人差し指でスーっと本棚の棚をなぞった。そして視線を横へ横へと移す。

 

(────埃が途切れている……)

 

フレーリットは埃を親指で擦り払いくわえている煙草を手に取った。そして窓側に戻り灰皿に煙草を潰して処理すると、ドアに向かって歩いて行った。ラオは心臓が飛び出しそうになりながらもホッと一息をついた。

 

(ふぅ〜、なんとかやりすごしたヨ……)

 

フレーリットがドアノブに手をかけた。ドアの閉まる音がする。ラオは気をゆるめた。そして棚の影から出ようとした矢先─────

 

「そこか!」

 

(へひぃっ!?)

 

壁に刺さったダガーナイフ。ドスッという音と共に、ナイフがしなる音。鼻先スレスレに空を切ったそれに、ラオは驚きのあまり縮こまった。

 

フレーリットはドアを開け閉めし、音をわざとたてて出ていったフリをしたのだ。急いで振り返り、本棚の裏側に回る。棚の側に案の定人影がある。そう、それこそが隠れているラオだ。

 

ラオは恐怖のあまり、ロボットのようにぎこちなく、顔を震わせてフレーリットに対面する。

 

「──────お前はっ………!?」

 

フレーリットは目を見開いた。開いた口が塞がらない。目の前の人物に、ただただ絶句した。

 

「あ、ど、ドーモ………」

 

ラオは緊張で声が裏返った。冷や汗がだらだらと流れる。ついに見つかってしまった。

 

「その顔は……ラオ・シン!」

 

「………へ?」

 

ラオは間抜けな声を出した。どうして自分の名前を知っているのだろう?

 

「どうして、何故貴様がここに……。しかもスヴィエート兵姿でいる!?」

 

「え、あ……、えっ?」

 

ラオは頭が混乱し、どう受け答えればいいのかまるでわからない。しかしフレーリットは至って緊迫した雰囲気だ。

 

「お前は処刑されたはず……!まさか、逃げ生き伸びていたのか!?この裏切り者がァ!」

 

「うう、うら、裏切り者?」

 

「今度は僕を殺しに来たのか?死ね!!」

 

「ホギャァァア!?」

 

フレーリットは素早く胸元に手を差し入れた。拳銃を取り出し引き金を引く。壁に弾丸が食い込む音がラオの耳に入った。かなりの早撃ちだ。ラオは咄嗟にしゃがんでかわした。しかしすかさず2発目が撃ち込まれる。ラオは前方に飛び込み前転してかわし、本棚の裏に隠れた。

 

「隠れても無駄だ!出てこい!絶対に殺してやる!!」

 

ドスの効いた恐ろしい声と同時に5発撃ち込まれた。本棚があっと言う間に破壊されドサドサと本が落ちていく。ラオに向かって半壊した本棚が倒れ込んできた。

 

「ぬぉあっ!」

 

すかさずバク転して倒れる本棚をかわした。宙を待っている途中、彼がナイフを取り出す瞬間を見た。ラオは着地と同時に足元にあった分厚い本を両手で持ち、顔の前に盾代わりにした。

 

「っ!!」

 

間一髪だった─────。

本を貫いたナイフの先がラオの目スレスレのところで止まっている。

 

「チッ!」

 

「なんのこれしきっ!」

 

フレーリットは舌打ちし、また拳銃を構える。ラオは紐でくくりつけられ、連なっている札を取り出し前にかざした。それはエヴィ弾を弾き返す効果がある札。防御に徹底した札だ。フレーリットが撃ったエヴィ弾は札によって完全に相殺された。

 

「くそ!」

 

「待ってヨ!どうして僕を殺そうとするの!?そりゃ侵入者かもしれないけど、裏切り者って何の事!?」

 

「白々しい!とぼけるのも、大概にしろっ!!」

 

フレーリットは拳銃を投げ捨て腰からコンバットナイフを取り出すとラオに斬りかかった。

 

「うぐっ!?」

 

札の紐が切り裂かれ防御が解かれた。ラオは右手でクナイをを取り出しそれを受け止める。ギチギチと嫌な金属音が耳に響く。

 

「お、落ち着いて!話をしようヨ!」

 

「父の敵!!今ここで果たす!!」

 

フレーリットは左足でラオを回し蹴りで吹き飛ばした。

 

「かはっ!」

 

壁に叩きつけられたラオは肺が圧迫され、息が詰まった。しかし気づくと目の前にナイフが飛んできている。

 

「っ!しまった!」

 

慌ててよけたがそれはマフラーに刺さってしまった。ラオは身動きがとれなくなった。

 

「このっ!」

 

抜こうと必死に引っ張るが、抜けない。それどころかまたフレーリットが斬りかかりに来ている!

 

「つっ!」

 

ラオはまた右手のクナイでそれを受け止めた。ガキィン!と高い音が響く。しかしフレーリットは左手をラオの首に差し出し、絞め上げた。

 

「うっ、あっ……!?」

 

「お前のせいで、僕は、僕はァ!」

 

ラオは首を絞めあげる彼の手を剥がそうとした。しかし何か異変を感じた。冷気が彼の手から生み出されている。

 

(っ!凍ってるっ……!?)

 

パキパキと音を立てて、自分のマフラーが凍り始めている。彼の手からその力が溢れているようだ。マズイ、首まで侵食し始めている。

 

「や、やめ、て……、フレー……リット……」

 

このままでは本当に殺されてしまう。ラオは渾身の力を振り絞って彼のその手を掴んだ。

 

その瞬間─────、

 

「っ!?」

 

「何だ、これはっ!?うわぁぁぁあっ!?」

 

眩い光がそこから発生した。凄まじいエネルギーだ。ラオは体中にエヴィが駆け抜ける感覚が巡った。

 

そして、走馬灯のように何かの映像と声が頭に流れ始めた。これは記憶だ。

 

 

 

─────工場だ。工場の控え室。目の前にまたあの人。アルスと同じコバルトブルーの髪の男性がいた。

 

「────へー、もうすぐ子供が産まれるんだ!おめでとう!え、男の子?女の子?」

 

「ありがとう、多分男の子だよ。名前はフレーリットっていう名前にしようと思ってる。妻と一緒に決めたんだ」

 

「フレーリットかぁ………。今度来た時はその子も連れておいでヨ!早く会いたいヨ!」

 

「ああ、今度は妻も子供も一緒に連れてくるさ。不思議だよ。お前との会話は、本当によくはずむ」

 

「僕会話上手だからだヨ!きっと!子供ともすぐ仲良くなれる自身あるネ!」

 

「はは、そうに違いないな!そうだ、言い忘れてたけど僕の正体は視察団幹部の1人じゃなくて、サイラス・レックスっていう名前も偽名なんだ」

 

「え?何いきなり?どうゆうコト?」

 

「僕の本当の名前はサイラス・ライナント・レックス・スヴィエート。スヴィエート第6代目皇帝さ」

 

君はそうやっていきなりの衝撃発言を平気でして、ウインクして笑った。

 

 

──────場面が変わった。

船の上、甲板、寒空の下、刀に貫かれ磔にされている君の生々しい姿。

 

それは血まみれのサイラス。

呼吸が浅く、目に光がない。

 

「サイラスッ!!サイラス!しっかりして、あぁ、僕がもっと早く来ていれば!もっと早く気づいていれば!!こんな事にはっ……!」

 

「ラ……ラオ………、ゴフッ………」

 

君は力なく僕に手を伸ばし、吐血した。

 

「しっかりして、死んじゃダメだ!生まれてくる子供と奥さんが待ってるんだろ!?」

 

僕は血に汚れた友の手をがっしりと掴む。

 

「あぁ………クリス……ティーナ…、フレー……リット………」

 

力なく呼ぶ、君の家族の名。

 

「だから死んじゃダメだ!死ぬな、死ぬなサイラス!」

 

「ラオ、君のせいじゃない……さ…。こんな事に巻き込んでしまって、すまないな……そして………」

 

「何言ってるの、そんな事言わないでヨ!聞きたくないヨ!!」

 

僕はその先の言葉が聞きたくなかった。まるで最後の言葉みたいじゃないか。

 

「ありがとう………、僕の、1番の、親友………」

 

次の瞬間、何かが体に流れ込んでくる感覚がした。体がホッと温かくなった。彼の目尻から、雫が溢れ、そして、瞳を閉じた。

 

「サイラス………?サイラス!?サイラス!!!サイラスー!!!」

 

掴んでいた手がポトリと血だまりに落ちた。

 

 

 

ハッと我に返った。一瞬の出来事だったようだ。光は爆発するように弾けた。そのとてつもない衝撃にラオは再び後ろの壁に叩きつけられた。フレーリットも同様、ラオとは反対方向に吹き飛ばされた。

 

「うぁっ…………!?」

 

窓に叩きつけられ、彼はずるずると膝から崩れ落ちた。頭から血が伝い、ガラスを汚している。そのままそこに寄りかかるようにして目を閉じた。

 

「──────思い………出したっ…………!!」

 

ラオは膝を折り、四つん這いになった。そして叫んだ。

 

「フレーリット………、フレーリット!!サイラスの息子の……!フレーリット!!!」

 


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