テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
ルーシェが厨房でスミラとのクッキングを楽しんでいる間…。
「えーっと……、どうやら地図によるとフレーリットさんのお部屋は最上階みたいですね」
ノインはアルスから受け取った城の見取り図を広げて言った。
「そういえば、アルスの部屋も最上階だったネ。あれって皇帝だったからなんだヨきっと。皇帝の部屋って最上階って決まってるんじゃない?」
隣にいたラオが言った。
「あぁ…確かそうでしたもんね」
ノインは戴冠式の事を思い出した。アルスの部屋は城の最上階にあった。マーシャに案内されてエレベーターに乗ったのだ。
「じゃあ、あの時と同じようにエレベーターで行けばいいのかな?」
「多分そうだと思いますよ、行ってみましょう」
ラオとノインは無線確保の後、2人行動となっていた。地図に従いながら城を2人で歩いているとノインが言った。
「ところで、ロダリアさんは今頃何を?」
そう、ロダリアはルーシェに無線を届けに行くと言いつい先程別れたのだ。
「ルーシェ探しに手間取ってるんじゃないの?」
「ルーシェに無線届けた後、彼女はどうするんですか?」
「うーん……、分からないネ…。あ!そうゆう時こそ、この無線だヨ!」
「そうですね、聞いてみましょう」
ノインは無線機を取り出してロダリアにかけた。ザ…ザ…と少しノイズが聞こえた後、声が聞こえた。
「……はい、こちらロダリア」
「あ、ロダリアさん?ルーシェに無線は渡せました?」
「はい、渡しました。彼女の周波数は3612です」
「わっ、ラオさん!メモメモ!」
「ハイよー」
ノインに言われラオは札に書き込んだ。それを無線の裏側に取り付ける。
「要件は以上でしょうか、では」
「あ!ちょっと待ってください!」
「何ですか?」
「貴方はこの後どうするんです?僕達は、さっき貴方に言われた計画通りにフレーリットさんの部屋に侵入して調査しますけど……」
無線を確保した後に言われた作戦だ。
「貴方方の役目は、部屋に何か手がかりや証拠がないかを調査する事。私はその間にフレーリットが部屋に行かないように仕向けるのですよ」
「………え、どうやって?」
ノインは首をかしげた。
「勿論、直接足止めですわ」
「え゛えっ!?会うんですか!?」
会話を聞いていたラオは小声で「マジで?」と言った。
「当たり前です。今は外部の仕事中で城には不在のようですが、もうじき帰って来るそうです。私は彼と直接対峙します。ルーシェの方はスミラと対峙しているのだから、別に驚く事はないでしょう?」
「だ、大丈夫なんですか!?」
「ええ。それに直接話すとなると、大きなチャンスですわ。彼の事を聞き出す…ね」
「そんな簡単にいくわけ……」
「失礼、人が来ました、切りますわよ」
「ちょ、ちょっとロダリアさん!?」
無線はそこで切れてしまった。
「直接話す……か。すごいネ」
ラオがそう呟いた。
「っとは言ったものの、上手くいくわけないと僕は思いますよ!そんな見ず知らずの人にいきなり聞かれてマクスウェル持ってますか、はい持ってますー、なんて簡単にいくわけないでしょう!」
「まぁまぁ、あっちはあっちに任せようヨ。彼女がやるって言ってるんだし、お、ここだネ」
2人は廊下を歩き、エレベーター前まで到着した。ボタンを押し、中に乗り込む。そしてノインが階のボタンに手をかけた時。
「で……どうやって最上階に?」
「あれ……29階までしかないネ……」
「と、とりあえず29階に行きますか…」
「そ、そうだネ…」
(ホントに大丈夫なのかな……僕達)
エレベーターが上昇し始めた。
「まずは卵を割って混ぜてくれる?私はその間に計量するから」
「はい!」
一方厨房ではほのぼのとした料理教室が開かれていた。ルーシェはスミラに言われたとおり、ボウルに卵を入れてかき混ぜた。
「すみません、お聞きしてもよろしいですか?」
「ん?なぁに?質問かしら?」
「その……」
「その……?」
(言うのだルーシェ!フレーリットさんについての事を!ここで聞かないでどうする!何か不思議な力持ってないかとか!)
「フレーリットさ……、フレーリット陛下の……!」
「フレートの?」
「ふふ、フレーリット陛下との馴れ初めを!」
(私の馬鹿ー!!!)
「えっ、えっ、あっ。ええっ!いきなり!?」
ルーシェは緊張のあまり思ってもない事を口にしてしまった。スミラは顔を赤くして驚いた。
「すすすみません!!忘れてください!」
「あ、あはは、なんか恥ずかしいわね…!」
「はは、話したくないなら全然大丈夫ですから!全然………!」
ルーシェは慌てて失言に訂正を入れかけたが、止まってしまった。スミラの顔がこの上なく穏やかだったのだ。
「そうね……、話してもいいかもしれないわ…。ふふ、将来この子にも聞かれるかもしれないし……」
スミラは愛おしそうに、自分のお腹をさすった。
「えっ……、それって…」
「ふふ、そう!私、妊娠してるのよ。今朝分かったのよ。フレートにさえまだ言ってないわ。話したのは貴方が初めて」
「そそ、そんな重要な事を!」
「いいのよ。なんだか、貴方と話してると楽しいもの。私友達とか……、少ないから」
「ぁあぁぁぁ、アルスが今……、そこに…」
「え?何か言った?」
「ななななんでも!」
ルーシェはスミラのお腹をまじまじと見つめた。赤ん坊としてまだかなり小さいだろうが、アルスが今スミラのお腹に宿っているのだ。
「そうね……どこから話そうかしら。うぅ、やっぱ恥ずかしいっ!」
そう言いつつも、スミラのその横顔はとてつもなく幸せそうだった。顔を赤らめ、愛おしそうにお腹を撫でるその姿を見て、ルーシェはこう思わざる負えなかった。
(こんな、こんな幸せそうな人が、何故フレーリットさんを殺したの?本当に、殺したの────?)
ふと、その疑問が浮かびながらも、今は彼女の話に耳を傾けることにしたのだった。
29階に辿り着くと、2人はとりあえずエレベーターを出た。
「こっから、どうするんだえーと……?」
ノインは地図を一生懸命見つめた。ありがたい事に、アルスの地図はかなり綺麗に細部まで書き込まれている。彼の性格が現れていると言ってもいいだろう。
「あ、ココ!ココだヨ!29階って書かれてる!」
「あ本当だ!」
ラオは2枚目の地図を見て、指さした。流石に全ての見取り図が書き込まれている訳ではないのだが、必要な事はきっちりと書き込まれてた。最上階へ行くためのルートが赤で書き込まれている。
「次のエレベーターに乗り換えるみたいですね。えー、何々……地下や1階から直通で最上階に行けるのは皇族やその他関係者のみ使えるエレベーターのみ。使用人達は、29階乗り換えルートを基本使う、って書いてありますね」
「へぇ〜、しっかりしてるネェ。めんどくさいヨ全く」
ノインがアルスのコメントを読み上げた。彼は本当に几帳面なようだ。
「では、乗り換えエレベーターに行きましょう」
「オッケー!」
そしてルート通りに進むとエレベーターがあった。中に入ると1つしかボタンがない。
「………?これかなぁ?」
ノインはそれを押した。するとパネルに何かの入力画面が表示され、数字パネルが出てきた。
「……………ナニコレ?」
「パスワードを入力してください、だ、そうです」
「パスワード!?そんなの知らないヨ!」
「セキュリティ対策ですね…だから上位の使用人達しか最上階に行けないんですよ!えー、どうするんだこれ!」
ノインは再び地図を広げた。しかし29階エレベーターの位置に、小さく数字が書き込まれていた。
「ん?あ……、これっぽいですね……」
「ンン?」
ノインはその数字を慎重に入力した。そして決定ボタンを押すとエレベーターが揺れ、上に上昇し始めた。
「すげー……、アルス君様様ですね。彼の地図がなかったらホント詰んでましたよ」
「彼は何手先も読んでるようだネ」
上昇するエレベーターに揺られ会話を交わす2人。最上階の45階に着いたようだ。地図を広げ、45階を見た。ルートが示されており、丁寧に文字が書き込まれている。どうやら1階降りるようだ。
「フレーリットの部屋に侵入するために、まずマスターキーを入手する。マスターキーがある場所は、44階角の1番端の部屋…」
「よし、じゃあそこに行きましょう」
ロダリアはルーシェと別れ、ノインとの無線の後、フレーリットが帰ってくるのを待っていた。1階の廊下の隅、正面扉を通るならここしかない。
「来た……」
正面扉前でざわざわと使用人達が慌ただしく動いている。そして、城の扉が開いた。
「お帰りなさいませ陛下…。帰りが遅いので心配しておりました」
「少し、寄り道をね」
若き日のハウエルと思われる人物が恭しくお辞儀をした。そのお辞儀をした相手は何と─────!
「っ!あの人は……!?」
ロダリアはその姿に驚きを隠せなかった。あの宿屋”ピング・ヴィーン”で見かけた人物なのだ。黒いコートを身にまとい全身黒ずくめ。サングラスをかけ黒い帽子姿。傍からみたら不審者だが、それは身分を隠すためだったのだと理解した。
「はぁ…、少し気分が悪いな…。最近のスミラの体調不良が僕に移ったのかな……。で、スミラは?」
彼は帽子、コート、サングラスを全て取り払いハウエルに預けた。遠目に見ても分かる程、雰囲気がアルスによく似ている。彼は歩きながらハウエルと会話をしている。
「スミラ様は只今厨房でございます。絶対に邪魔はしないように、との通達が来ております」
「厨房……って事は!チョコクッキー作ってくれてるんだね!?」
フレーリットは顔を綻ばせて言った。
「はい、左様でございます」
「やった!何だかんだ言ってやっぱリクエスト聞いてくれるんだよね!あ、でも気分優れなかったみたいだからね、後でその事聞いてみよう」
「その事なんですが、今朝医者に見てもらったそうですよ」
「あ、そうなの。どうだった?大丈夫だった?何も大事無い?」
「すみません……、聞いたんですが、何も教えてくれませんでした…」
「はぁ?何で?」
「さ、さぁ…」
「……分かった、もう下がっていいよ」
「御意」
ハウエルや使用人達が一礼をし、解散していく。恐らく彼はこの後は自由行動なのだろう。コツコツと靴音をたて最上階直通へ行けるエレベーターへ向かっている。
行くなら今、後少し、もう少しでここまで来る────!
「こんにちは」
ロダリアは悠々と歩いて行き、正面から堂々とフレーリットの前に立った。
「…………誰?」
彼は警戒心を露にした。だが、声を出して事を荒げる雰囲気ではないようだ。しかし不信感に溢れている。
「まぁ、そんなピリピリしなくても…」
「誰だと聞いている」
(アルスそっくりですわね…)
ロダリアはクスッと笑った。
「私の名はロダリア。精霊信仰のシスターですわ」
まじまじと正面から彼を見つめた。紫紺の髪に、銀の瞳。整った端正な顔立ちだが、目の下に隈がある。サングラスをかけてさっきは分からなかったが、少し不気味な目つきだ。脚が長く、背はスラッと高い。ガットと同じぐらいだ。
「は?精霊信仰のシスター?また元老院が招き入れたのか?勝手なことを……」
「私、ご挨拶に参りました」
「そうゆうのはいらないって前も言っただろ。親切心で来てるならいい迷惑だ。僕はそうゆう宗教みたいなのは一切信じないんだ。悪いけど、帰ってくれないか 」
つっぱねる態度に一貫している。そうゆう類の物を信じない。警備兵が言った通りだった。フレーリットはロダリアを素通りするように横を抜けた。2人の影が重なり合ったその瞬間、ロダリアは静かに囁いた。
「貴方からは、精霊様の力が感じらますわね」
ピタッと、時が止まったように、フレーリットは足を止めた。横目でロダリアを一瞥する。それはまるで射殺すような鋭い目つきだ。
「…………何の事?」
「フフッ。その様子だと図星も当然のような態度ですわよ?」
「何の話だか分からないな」
「あら、だったら何故一瞬足を止めたのです?精霊信仰を信じない御方なら、精霊自体という不確定な存在の言葉に反応しないと思うのですが、違いますか?」
「…………何が言いたい」
フレーリットは視線を正面に向けると、そっけなく言い放った。
「私は精霊信仰のシスター……。精霊様のお声に耳を傾けることにした事など、造作もない事…。貴方……、何か、精霊のお力をお待ちなんでしょう?」
いよいよロダリアは本題に入った。鎌をかけ、ボロが出るのを待つ。
「精霊の力……ね。あぁ、確かに、持ってるよ」
フレーリットは言った。
「……精霊を信じ、会ったことがおありなのですね?」
「フッ、そうだねぇ」
今度はフレーリットが鼻でクスリと笑った。
「それは、その精霊は、マクスウェルですか?」
ロダリアはついに直接聞いた。しかし、期待した返答ではなかった。
「はぁ?マクスウェル?原初の三霊みたいな強大な力、僕が持てるわけないだろ?そこまで大それた事、できないね」
どうゆう事だろうか。これではアルス達の予想は違っていたという事になる。しかし、ロダリアには分かっていた。そして、真に問いたかった事を聞き出す。それが彼女の目的だ。
「ふふ、冗談ですわ」
「僕をおちょくっているのか?」
ロダリアは一呼吸置くと言った。
「貴方のそれは、─────の力……なのではなくて?」
「………フン、シスター様とやらはお見通しのようだね……。全くどうやってその情報を手に入れたんだか……」
「言ったでしょう?精霊様の声に耳を傾けただけ……」
「その事を知ってるのは、オリガだけなんだけどなぁ……。やはりあの時、情けなどかけずに殺しておくべきだったか……」
フレーリットはそう言うと何一つ見ていないような冷たい目になった。
「ふー………全く、君のおかげで気分がますます悪くなったよ……。リラックスに煙草でも吸いに行こうかな…」
そう息をつくと、再び歩き出した。
「あら、どこへ行くと言うのです?秘密を知っている私を放っておいてよろしいのですか?」
彼女の役目は、フレーリットの足止めをすること。このまま最上階に行かれて2人と鉢合わせ、なんて事になったら大変だ。だがフレーリットは振り返って言った。
「今、ここで刃傷沙汰を起こす訳にもいかないだろう?それに、最初言ったように貴様に興味はない」
ロダリアはその恐ろしい形相に思わず怯んでしまった。ただでさえ不気味な目つきなのに、それに加え恐ろしい殺気を帯びている。
「殺されたくなければ、さっさと僕の前から消えろ。目障りだ」
フレーリットは踵を返した。エレベーターに乗り込み、ドアが閉まった。
「っ!」
ロダリアはドアが閉まると同時に、急いでエレベーターに近づいた。そして上にある階表示を見つめた。45階に行かれたらまずい。2人が部屋を探索している間に入られたら非常にまずい事になる。
「……!止まった! 」
エレベーターは44階で止まったようだ。
「……最上階の自室には…まだ行っていないようですわね……」
ホッと一息ついたロダリアだった。
(欲しい情報は掴めましたわ……。ですが、まだどうなるか分かりませんわ……油断はしないで行きましょう…)