テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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ロイ

アルス達はクラリスに案内された家へと向かった。道中の彼女の話によると、クラリスは元々ポワリオ出身だったらしい。

 

「ポワリオ?学芸都市の?」

 

ノインが言った。

 

「うん、でもロイの病気が悪くなって、好いお医者さんに見せるためにってのと、疎開先にハイルカークに引越ししてきたんだよ」

 

「……その疎開先も、今はそうではないようですけれど」

 

「ロイの病気も治らないし、家はますますビンボーになるばかりだし、ハイルカーク、クラリス嫌い!」

 

クラリスは「ぶー!」と言い、頬をふくらませた。

 

「ノイン、学芸都市ってナニ?」

 

ラオが訪ねた。

 

「ああ、ハイルカークの隣の地区ですよ。学芸都市と呼ばれるように、音楽ホールや大きな博物館、美術館などが多々あって、大学も沢山あるんです。美術系や、考古学、音楽。偉人達の多くが卒業したというポワリオ大学っていう大きな大学があるんです」

 

「ヘェ~、そうなんだ」

 

「まぁ、ポワリオには今まさにスヴィエートに占領されているラメントへの鉄道が通っているから、無理もありませんね」

 

「あ、そういえばそうだったネ。前にラメント行った時、乗り換えの駅だったあそこがポワリオってとこだったな。乗り換えただけだから、チラっと見ただけだけどネ」

 

「逆にハイルカークは技術系や医療、エヴィ研究が盛んなんです。ロピアスは地区ごとにそれぞれ特徴があるんですよ。フォルクス駅は、文字通りロピアス城があった、まさに大都市。一番栄えている言えるでしょう。フォルクス、ハイルカーク、ポワリオ、ミガンシェ、アンジエって5つ大陸を横断するように鉄道が走ってるんですよ」

 

「ほえー、ミガンシェって?」

 

「所謂田舎の農業地区デネスへの鉄道が通っていますね。デネスには2つの路線が繋がってて、フォルクス行きと、ミガンシェ行きがあるんです。農作物を首都のフォルクスに、そして輸入先のアジェスへ、って感じですね。ミガンシェは、確か様々なエヴィ結晶が摂れるって言われてるとこが有名だったような…、あれ、名前なんだったっけ……?」

 

「そんな話どーでもいいのー!でね!でね!ポワリオーっていうのはー、クラリスも前そこに住んでてねー、音楽がいちばんすきー!!」

 

クラリスはノインの話を遮り、大きな声で言った。大げさに身振り手振りを使い、音楽が好きというのが嫌でも伝わってくる。

 

「でもルーシェお姉ちゃんもすきー!」

 

クラリスはルーシェの足に抱き着いた。

 

「ねー!」

 

「……………」

 

「ルーシェお姉ちゃん?」

 

「………えっ?あっ、何?」

 

遠くを見つめていたルーシェはハッとして足元のクラリスを見る。

 

「お姉ちゃんの事クラリス大好きだよ!」

 

「クラリスちゃん……、ありがとう……」

 

ルーシェは思わず涙ぐんだ。クラリスに注意を向けるまでは、ずっと、ずっとアルスの事を見ていた。だが、アルスと少しでも目が合いそうになったり、顔が見られそうになったりすると、素早く背けた。だから今のクラリスの存在は救いだった。

 

(ダメだ、私!こんなんじゃカヤに怪しまれちゃう……。いや、カヤどころか、皆にまで!そんな事になったら、気まずいっていうレベルじゃすまなくなっちゃうよ……!私が治癒術使える大黒柱なんだから、しっかりしないと……!私がしっかりしないと……!皆の命を危険に晒しちゃう!)

 

ルーシェは必死に頭からなくそうとした。アルスとの先程の出来事を思い出すだけで、頭がガンガンと痛み出す。どうしてあんなことになってしまったんだろう、どうしてこうなってしまったんだろう、と。しかし、そんな事で頭がいっぱいになってしまったら、いざという時な怖い。自分の存在は、この仲間達にとって、なくてはならない存在。そう言い聞かせるが、それを発言したのは皮肉にもアルスだった。

 

スヴィエート城で自分を引き止め、また一緒にいることができた。それなのに、それなのに、自分で自分の首を絞めるとは。

 

(なんて情けないんだろ、なんて私はバカなんだろ…)

 

「クラリス、進行方向はこっちで合っているのか?」

 

アルスが自分の足元のクラリスを

見た。ルーシェはアルスの顔を見ないように、必死に前髪をいじり、何でもないようなフリをした。最も、アルスの眼中にルーシェは最初からいないも同然なのだが。

 

「あ!見えた!あれあれ!」

 

「よし、行くぞ」

 

(アルス………。貴方が本当の意味で遠い……。皇帝とかそんなんじゃなくて心からそう感じる。悲しい、悲しい、ごめんなさい、でも、許してもらえない。私の声はもう、貴方には届かないの…?)

 

 

 

クラリスの家に着くと、メイドの1人、茶髪の髪を揺らすハンナが出迎えた。聞けば彼女は住み込みで働いているらしく。もう行く宛もないため、雇ってくれるレガート家に居候しながらも働いているらしい。

 

「お帰りなさいませ、クラリス様」

 

「うー、ごめんハンナ。きゅーりょー払えなくて………」

 

「何を言ってるんですか!7才の子供が、全くマセちゃって。私はここに居られるだけで、幸せなのです。あぁ、でも今日のロイ様はあまりお体のご様子は良くないようです。ですが旦那様は、ここ1週間は自宅待機だと軍から仰せつかって側にいらっしゃ……」

 

「パパも来てるの!?ほんと!?ロイを治してくれるんだよ!!皆こっち!!早く早く!!」

 

クラリスは喜びのあまり叫び出した。

 

「クラリス様!待ってください!あの、こちらの方は……?」

 

クラリスはハンナの静止を聞かず、走りながら言う。

 

「ロイを治してくれる凄腕のお医者さんだよ!」

 

「えっ、ええっ!?」

 

ハンナは口にてを当てて驚いた。

 

「クラリスちゃん……まだ、治せるかは確信が……」

 

「こちらです!あぁ、有難うございます!」

 

「あ、ちょ、ちょっと!」

 

ハンナはルーシェの手を掴むとクラリスの後を追いかけた。

 

「騒がしいなオイ」

 

「落ち着きのない連中だ、小生に合わん」

 

「1番よく合うでしょうに……」

 

「お姉ちゃんって呼ばれたがってたの誰だっけネ?」

 

「いいから、早くルーシェ達追いかけるよ!」

 

カヤに続き、皆部屋に行った。部屋には、金髪の母親と思われる人物、赤髪の父親と思われる人物、クラリス、ハンナ。そしてベットにはクラリスの弟だというロイ座っていた。クラリスと同じ赤髪で、よく似ている姉弟だ。

 

「騒がしいな、一体なんだクラリス?」

 

父親らしき人物がドアに目を向けて言った。

 

「………姉ちゃん?」

 

ロイが弱々しい声で言った。顔色は悪かった。

 

「ロイ!あのねあのね!ロイの病気ね!?このルーシェお姉ちゃん治してくれるかもしれないんだよ!」

 

「なんですって!?それは本当なのクラリス!?」

 

クラリスの母親と思われる人物が顔を輝かせて言った。

 

「もしできなくても、ロイの痛みをクラリスに移すこともできるんだって!」

 

「なっ、そんな力…!?一体どうやって…!」

 

クラリスの父親が言った。彼はルーシェを見たて言った。

 

「貴方が、ルーシェさん?」

 

「はい…」

 

静かにルーシェは答える。

 

「わ、私はクラリスの父セドリックだ、こっちは妻のソランジュだ」

 

ソランジュが一礼した。

 

「息子を、ロイを頼む……!」

 

セドリックはルーシェの両手をしっかりと握り、言った。

 

「で、出来る限りの事は……」

 

ルーシェもこんなに期待されるなんて思ってもいなかった。これは何がなんでも成功させなければならない、とプレッシャーがのしかかる。ふーっと息を吐き、ロイの元へいく。

 

「ロイ君、えっと、私はルーシェって言います。よろしくね」

 

「うん!よろしくねルーシェお姉ちゃん!」

 

「よし、じゃあ早速、だけどどこらへんが痛いのかな?」

 

「胸が痛いんだ。時々咳が止まらなくてげほげほなる。とってもつらいよ」

 

「んー、分かった。やってみるね。じっとしてて?」

 

ルーシェの手がベットに横たわるロイの上に重なった。その様子をアルスは冷ややかな目で見ていた。

 

(本当に治るのか………?)

 

しかし、それは杞憂に終わった。ルーシェの力は想像をはるかに超えていたと言えるだろう。かざした手から暖かな光が発せられ、ロイの胸に吸い込まれていく。まるで、彼女が新たな命を作り出し、それを与えているかのように思えた。不思議な力の空気が部屋全体を支配し、神秘的な雰囲気に包まれた。

 

「う…わ…!こ、これは凄い……!」

 

セドリックは感嘆の声を漏らした。妻のソランジュも息をのみ、その光景を見つめた。

 

「ど、どうかな?」

 

パッと手を離し、ルーシェが恐る恐る話しかける。ロイの顔色は劇的に良くなっている。

 

「すごい!なんか!なんかね!!胸のもやもやが全部取れたよ!?こんな感覚僕生まれて初めてだ!」

 

「やっぱり!ルーシェお姉ちゃんはすごい!ありがとう!」

 

クラリスはルーシェの足に抱きついた。ルーシェはクラリスに目線を合わせた。

 

「上手くいってよかった…!」

 

カヤもルーシェの成功を祝った。

 

「ルーシェ!よくやったよ!スゴイよアンタ、ほんとに!」

 

その後も次々と仲間から祝福され、ルーシェは照れを隠せない。しかしアルスからは、

 

「お疲れ様」

 

淡々とそう言われただけだった。

 

「あっ…ありがとう…」

 

素直に喜べないのは、何故だろうか。声のトーンが、やはりいつもと違う。

 

「あー?アンタ何か冷たくない?」

 

「大将〜、ここは褒めてやれよ〜?」

 

「全くだ」

 

「ネェ、本当に大丈夫?」

 

「アルス君やっぱりどこか変ですよ?ルーシェさんと本当に仲直りしたんですか?」

 

カヤやガット、フィル、ラオ、ノイン。ロダリアを除く5人から、不審に思われていた。そしてルーシェに関する質問を受けるが、

 

「それは今ここで話すことじゃないだろう」

 

アルスはそれだけ言った。

 

 

 

その後、御礼の意を込めてクラリス家に泊まらせてもらうことになった。セドリックは是非御礼がしたい、と言っている。

 

「息子を治していただきまして、本当にありがとうございます。今日はもう遅いですし、泊まっていってください!感謝の気持ちでいっぱいです」

 

アルスはしめた、と思った。そう、何の為にロイの体を治したのだ。このセドリックに恩を売るために決まっている。我ながら汚いなとアルスは思った。しかし、背に腹は変えられない。

 

(それに父ならきっとこうしただろうな…)

 

そう思い、ベットの上、アルスは夢の中に落ちていった。そう、最近見ないと思っていた、あの不思議な夢の中に。


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