テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
アルスはスミラの日記を引き出しに戻した。しかし置いたとき、妙な違和感を引き出しの底に感じた。空洞があるようだ。
「ん?」
「どうしたのですか?」
「何か、この引き出しの下に妙な違和感が…」
「ふむ」
ロダリアそう言うとはしゃがんで引き出しの下に潜り込んだ。
「ありましたわ」
「え?」
ガコッと音を立てて引き出しの底の板が浮かび上がった。ロダリアがロダリアが帽子飾りの尖った部分で、下からあるボタンを押したのだ。
「底に小さなボタンのようなものがありましたので」
「またこんな仕掛けとは、一体何がある?何か入ってるようだが」
アルスは引き出しの板を押し上げて、中にあるものを取り出した。
アンティーク調の四角形の入れ物だ。机の上に置き皆まじまじとそれを見つめた。
煌びやかな宝石が蓋にはあしらわれており見るだけでかなり高価な物だと思われる。中央にはまん丸に凹んだくぼみがあり円の上には少し出っ張った短く太いすじ。そしてそのくぼみの中央にはスヴィエート皇族の紋章がある。
「何だこれ?」
ガットは箱の蓋に手をかけ開けようとした。しかし、それは開かなかった。
「またこのパターンか…、おいアルス」
箱はうんともすんとも言わなかった。ガットはアルスに頼み、彼がその箱を開けようとしたが、今度は開かない。
「ダメだ、開かない」
「スミラさんも秘密主義な人だなオイ」
ガットは溜め息をつくと頭を抱えた。するとラオは目を見開いた。
「これって……確か…これって……、あれ?どこで見たんだろう?見たことある気がする…?」
「ラオ、何か心当たりが?」
アルスが言った。ラオは閃いたようで右拳を左手の手のひらにポン、と押し付けた。
「アルス、確か懐中時計もってたよね?」
「え?あ、ああ、それが何か…」
アルスは途中まで言いかけて気づいた。
「その懐中時計、これにはめられない?」
「……!」
アルスは急いで懐中時計を取り出した。鎖を外しそれを箱のくぼみ部分に置いた。ぴったりだった。カチッと音がして、箱が開いた。開いたと次の瞬間心地良いメロディーが流れ出した。
「オルゴール?」
独特の音を奏でるその箱はオルゴールだった。その音楽は、アルスに聞き覚えがあった。夢の中で1度は聞いた事がある、あの音楽だ。所詮夢で、起きた後など欠片も覚えていなかったのだが、現実に聞いてみると実に何故かとても親しみ深く、懐かしいような感じがする。
「これだけ?」
カヤはオルゴールが鳴り終わると言った。確かに音を奏でるだけだ。ただのオルゴールである。しかし、ただのオルゴールを懐中時計が鍵代わりになんてするだろうか?しかしオルゴール以外にも箱の中には何か入っていた。カヤはそれを取り出す。
「…………はなびら?」
カヤは薄橙色の花弁を箱から取り出した。この20年の年月が経っているというのにその花弁はまるでたったいま摘んできた花からとったような艶と輝きを放っていた。不思議な花弁だった。まるでその輝きはエヴィを帯びているかのような─────。
「どうしてこんなものが?」
アルスは箱を調べた。小分けに蓋がついていてご丁寧にその小さな仕分けに1つずつ花弁が入っている。それを見てますます不思議に思った。花弁に数字が書いてあるのだ。
「数字が書いてある。5、10、15、20…」
カヤが手に持っているのは0と書かれていて残り4枚の花弁は箱に収まっている。
「訳わかんない、どうしてスミラさんはこんなものをしまっていたのかな?」
カヤは花弁を戻した。
「……思い出の花弁とか?」
「自分の年齢の年に拾った花弁とか?」
ロダリアとノインが言った。どちらも当てはまるようで、実際はまるで分からない。
「別にどうだっていいさ。ただの花びらだろ」
アルスはどうでもよかった。裏切り者スミラの思い出の品、仮にも母の品だが何の価値があるとも思えないのだ。
「でもこの曲…」
アルスはオルゴールのネジを回した。もう一度曲を聴きたかった。何故かは分からないが。猛烈に懐かしくて心地良い音色なのだ。箱の裏のネジを回していた途中、そこに何かが書かれていたのが気付いた。
「サイラス・ライナント・レックス・スヴィエート……」
「え?サイラス?」
ラオがピクリと反応した。
「これって、俺の祖父の名前だ!」
アルスは納得がいった。何故くぼみ部分にスヴィエート皇族の紋章があったのか。元の持ち主、このオルゴールは元は祖父の物だったのだ!
「どうしてスミラがこんな物を……!?」
アルスは考えた。
(スミラが城から盗んだのか?大体、この懐中時計だってそうだ。それを鍵代わりなんて…。どうして皇族でもないただの平民だったスミラが、これを持っていた?そして仕掛けを知っていた?父が教えたのか?いや、そんなハズは…、いくら何でも平民相手にこんな貴重な情報教えるワケ…、でもゾッコンだったって言うし…)
考えれば考えるほど、悪い方向にアルスは考えていった。
裏切り者のスミラ。
父、フレーリットを殺した張本人であり、父がゾッコンだった女性。平民出身で、赤目で自分とよく似たつり目、淡く赤みがかったローズピンクの髪、花屋…。しかしこれらを結びつけるものはアルスには1つしか思い浮かばなかった。花屋というのだから植物に詳しかったのだろう。
(何か父に薬を盛ったのでは?でもどんな薬だ?まさか、惚れ薬!?いやいやでもそんな薬この世にあるのか?)
学生時代のあの荒んで、生気のない目、冷たくて、人を射殺すような目付きの父は、スミラのアルバムの写真だとうってかわってまるで別人だった。
(堂々巡りだ……、どうしても俺はスミラに対して先入観が先走りがちになってしまう……)
アルスは考えるのをやめた。裏切り者の事など、どうでもいい。そうだ、今は父の、フレーリットについて調べていたんだ。マクスウェルの行方を追って……。
(母を調べてるんじゃない。彼女は平民で一般人だったんだ。きっと関係ないだろう)
「知りたい情報は大体知る事が出来た。皆、とりあえず今日はもう遅い。一旦城に帰ろう」
アルスはそう言うと懐中時計を回収し、箱はそのまま元の場所に置いておくことにした。アルスの頭に、あのオルゴールのメロディーがこびりついて仕方が無い。
(冗談じゃない、盗品かもしれないのに)
そう頭に言い聞かせたが、拭えない。いや、拭いたくはなかった。拭ってしまえば、何か大切なものを忘れてしまうような、そんな気がした。アルス達はフローレンスを後にした。
アルスは城に帰っている道中、あのメロディーが恋しくてしかたなかった。