テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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賢帝の裏姿

「で?またスヴィエート城に行くのか?」

 

ガットはアルスから話を聞くとそう返した。

 

「ああ、レガルトから言われて気づいたんだ。俺は、両親の事を知っているようで、本当は何にも知らないんだって。自然と避けていたんだ。嫌な部分が母親に関しては多かったし、父はこうであって欲しい、と勝手に思っていたりもした。だけど、それは表舞台の父だ。俺が聞かされていたのはいつも表の父の話ばかり。まぁ、意図的に話されなかったってのもあるが、やはり自分の親の事だ。しっかり知ってスヴィエートの昔を知る事で、それと同時にイフリートが言ってたマクスウェルの事も分かるんじゃないかとな」

 

「へぇ〜、所謂自分探しってやつ?」

 

ガットはにやけながら言った。

 

「……からかうな。実際そうだけど……」

 

「ま、大将について行くさ俺は。乗り掛かった船だ。めんどくせーけど、付き合うぜ?」

 

「何だかんだ言って、お前もイフリートと同じだな。実はいいやつ」

 

アルスもふっと笑いを浮かべた。

 

「けっ、そりゃお前も、だろ?」

 

「俺は……、別にっ、ル、ルーシェに妥協してるだけだ!」

 

「お前ホントルーシェに弱いな」

 

「え、えそそんなことはないぞ?ただ女性の意見は尊重と、言うか、」

 

「へいへい、建前って言うのよそれ」

 

「………う、うるさい」

 

アルスは照れて顔を逸らした。ガットは初めてアルスと会った時と今現在のアルスを比べ、随分と表情が豊かになったな、と心の中で思った。昔は堅苦しい奴で笑うは極めて少なかった。

 

「変わってきてんだね〜」

 

「ん?何だ?何か言ったか?」

 

「いや?何でも〜?」

 

ガットは小声で独り言を言った。

 

(俺も変われたらねぇ〜)

 

ガットはアルスに背を向けると自分の手のひらを見つめた。しんしんと降る雪が乗り、体温で溶けていく。

 

(な〜んかやっぱ、スヴィエートは少し苦手だ)

 

自嘲気味に笑うとガットはアルスについて行った。

 

 

 

アルスがスヴィエート城の前に来ると軍人が敬礼した。

 

「陛下!おかえりなさいませ!」

 

「御苦労。だけどまたすぐに出るかもしれない。ハウエルとマーシャを喚べ」

 

「はっ!」

 

 

 

アルスはハウエルとマーシャと会い、ゆっくり話したい、という事で仲間達を自室に案内した。そして事情を話す。

 

「………御両親…の事ですか…」

 

「そうだ、知ってる事はもう、全て、包み隠さず話してくれ!」

 

アルスはハウエルに言い寄った。

 

「しかし……あのようなお姿は…」

 

ハウエルは何かを言いかけるとマーシャが割って入る。

 

「アルエンス様、私が、このマーシャがお話いたしますわ」

 

「何だ?何か話せないことでもあるのか?」

 

アルスはハウエルを睨んだ。

 

「あ、い、いえ、……なんと言いますか、えーと、御両親の事はですね、やはり、そう。えー、ハッキリと申しますと裏の部分が多いといいますか………」

 

「裏?」

 

「………純粋なアルエンス様には、あまり聞かせたくなかったんですよ…、昔から輝く目でお父上様の武勇伝を聞いていて、なんだか、罪悪感が、今更……」

 

「話すタイミングを失ったと言うわけか?」

 

「まぁ、そうゆう、ことになりますね……。いやぁ〜爺はアルエンス様が可愛くて可愛くて仕方が無いのですよ!どうかお許しを!」

 

「兄さん!またそうやって甘やかすんだから!アルエンス様はもう20歳ですし、彼の問に包み隠さず答えて上げるべきです!」

 

「そう、だなぁ〜……。幻滅なさるかもしれませんよ?」

 

アルスはなんだか置いていかれた感があり、言い放った

 

「いいから!そうゆう部分も含めて!という事だ!いいか!これは命令だぞ!」

 

「……はい………」

 

「アルエンス様にはちょっとショックかもしれませんよぉ〜?」

 

マーシャは手を口に当てるとクスクスと笑った。

 

「………まず、そうだな…。最初は父について、それから母について話して欲しい。出来れば具体的に」

 

「フレーリット様の事ですか…、お父上様の、何から話して欲しいですか?」

 

「何って……、そうだな、じゃあまず、父はどんな人だったんだ?」

 

アルスはとりあえず思い浮かんだ質問をぶつけた。それにマーシャは正直に答えた。

 

「んーそうですねぇ…、奥様にゾッコンラブ〜、で、愛妻家として鏡のような人でした」

 

「え」

 

アルスは出鼻からくじかれた。母に頭が上がらないとは、聞いていたが……。

 

「奥様に頭が上がらないってのは以前も言いましたけども、ホントにそうゆう人だったんですよ。スミラ様と喧嘩なされた時なんか大変!仕事に手がつかなくなって国の危機ですよ全く!」

 

「あったなぁ、そんな事。机に突っ伏してひたすらスミラスミラ言って泣いてましたな」

 

「あの時のお姿は情けなくて情けなくて…、とてもじゃないけどスヴィエートの皇帝とは思えませんでしたね」

 

「え、えええぇえ………」

 

アルスは初っ端からハードな話に、驚きを隠せない。

 

「そう言えば私、チラっと見ちゃったんですけどスミラ様が────」

 

その後延々とアルスの父親像をぶち壊す話が続いた。

 

スミラがフレーリットの事蹴っ飛ばしていて、段々とそれが嬉しいし、構ってもらえてるし、何だか気持ちいい、どうしたらいいのか、とハウエルに相談してきた事。スミラが少しでも冷たくするとへこむ事。スミラの前だと子供のように純粋で無邪気な事。スミラを愛し過ぎて辛い、と本気でマーシャに相談していた事。

 

「………なんか、すっごい奥さんが大好きな人だったんだね!」

 

ルーシェはほっこりした顔でアルスに言う。

 

「…………なんか納得だわ〜、そんな血筋の親父がいたらアルスもこうなるわよねぇ〜。ちょっとぶきっちょだけど…?」

 

カヤは親指でルーシェを指すとアルスを見て言った。

 

「父親譲りの一途キャラってかぁ?しっかしアルスの親父も大分キャラ濃いなオイ」

 

「僕、以前既婚男性の53%は浮気するって聞きましたけど、今の話聞いてたら全く心配ないような人なんですね」

 

「ホホホ、情熱的で、人間味溢れてて面白い方ではありませんか」

 

「アルスのお父さんってMなのか?」

 

「Mに目覚めちゃったみたいだネ〜」

 

皆話を聞いていて、それぞれの感想を言う。1番傷心してるのはアルスだが。

 

「そんな、そんな人だったのか……」

 

「ええ、あの御方の脳内は大体の事はスミラ様で埋め尽くされてました」

 

「それはもう一途でゾッコンでベタ惚れで…、何とも幸せそうというか、何と言うか…」

 

「あぁ!もうその話はいい!他の話!えーと、そうだな…。何か不思議な力とか持ってなかったか?」

 

「不思議な力…ですか?さ、さぁ?生憎私達は戦ってる姿など見た事もないものですから…」

 

「じゃあ父から、精霊の話とかは聞いた事とかはないか?」

 

「いえ、全く。そもそもそういった非現実的なモノや宗教と言ったようなものは一切信じない御方でしたから」

 

「そう……か……。まぁ、普通そうゆう特殊な能力や戦闘能力は隠しておくものだよな……」

 

「ですがフレーリット様は軍士官学校の学生時代の成績はそれはもう非常に優秀で、戦闘能力においてはスヴィエート皇帝歴代最強と言われていましたけど…」

 

ハウエルは首をかしげた。2人はあくまで召使であり、城の中での姿のフレーリットしか知らないが、それだけは噂で知ってた。

 

「あ、そう言えば…」

 

マーシャが何か思い出したようだ。

 

「んーと、恐らく光術に長けていたんでしょうね、よく一人でお酒を飲んでいる時に自分で氷を作って入れていましたね」

 

「氷…?」

 

「指でこうして簡単にちょちょい〜と作っているのを見た事があって、光術に無縁な私にとって物珍しかったのです」

 

マーシャは人差し指をくるくると回した。

 

「…!それなら、無詠唱で何か術をやったとかは?」

 

それぐらいならノインがいい例だ。ノインはキセルに火をつける時人差し指で炎を出して火をつける。それぐらいの事なら腕のいい光術師は出来ても何らおかしくはない。

 

「え?無詠唱?」

 

マーシャは困惑した。この世で無詠唱で光術を発動出来る人などまずいないからだ。光術を使うには詠唱は必須。上級者になって初めて少し短縮出来る位だ。

 

「無詠唱なんて。それに、申し訳ありませんが、先程申したように、フレーリット様が術を使っている姿は見た事がありません。剣術や射撃の訓練ならほんの少し拝見したことはあるのですが…。それに煙草の火だっていつもきちんとライターで着けてましたし」

 

「そうか……」

 

アルスは落胆した。

 

(そう簡単に手がかりが見つかるわけがないか…)

 

「うーん、最も身近にいた、スミラ様なら、何か知っていたかもしれませんねぇ……」

 

マーシャは手に顎を乗せ考え込んだ。

 

「あ…!そういえば!」

 

ハウエルが何か思いついたようだ。

 

「スミラ様は日記を書いていました。以前それが廊下に落ちていて…、読もうとしたらスミラ様が来てすぐに取り上げられてしまいましたけれども……」

 

「日記だと?おい今それはどこにある!?」

 

「城の私室にはなかったですねぇ、遺品整理の時に部屋を掃除したのですが…」

 

「って事は…もう、無いのか…」

 

アルスはがっくりと肩を落とした。

 

「あ、でも待ってくださいよ?スミラ様はご結婚なさる前は平民街で花屋を経営されていました」

 

「え?花屋?初耳なんだが」

 

アルスは母が花屋をしていたなんて聞いたことなかった。

 

「今言いましたから」

 

「…………」

 

しかし、思い当たる節もあった。父の部屋にやたらと花に関する本があり、アルスもちょっとした興味本位で読んだら自分でも不思議に思うが何故かハマってしまい、少しだけ花には詳しくなったのだ。

 

「…はぁ、だから父の部屋には妙に花に関する本が多かったのか…、それで?」

 

「その花屋フローレンスに一度ダメ元で行かれてみてはどうでしょうか…?今は廃墟同然となってますが、一応皇族の御方の実家なので、取り壊せないのですよ。それに不気味がって誰一人近づこうとしないのです。裏切り者、の、スミラ様ですからね…」

 

「分かった……、ひとまずそこへ行ってみよう。皆、平民街へ行くぞ」

 

ハウエルの提案でアルス達は、花屋フローレンスへ行くことになったのだった。


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