テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
温泉に浸かって、その日の夜。
カヤは自分の部屋の地下倉庫を開くと中から大きなダンボールを取り出した。
「えーと、ルーシェからもアタシ何か咄嗟にナイフをスッたんだよねぇ。でも刃こぼれしてるし、大した値段でも売れなかったしさぁ、錆びてて使えそうな武器でもなかったから。ルーシェも何であんなの持ってたのよ?」
カヤはそう言うと中の小物などを漁り始めた。ルーシェが少し顔を俯かせて言う。
「………あれ、私の母の形見なの。唯一の親との接点というか。えへへ、私捨て子だからさ」
「……!そっか、ごめん!…はぁ、アタシって無神経過ぎ。そんな大事な物……、本当にごめんね」
彼女は後半は明るく言ったが、カヤは驚き素直に謝った。
「あ、あったよ。ほら」
カヤが取り出したほれは鞘に収まっていた。ナイフの鞘を抜いてカヤは確認した。確かに刃こぼれを起こしサビがある。大した価値があるとはお世辞にもいい難い古いナイフだった。
「これで間違いない?」
「あ!うん!それだよ!ありがとう!」
「じゃあ、これは返すね。大事な物取っちゃって、ホントごめん」
「いいよ、気にしないで?私達もう友達でしょ?」
「……アンタって、ほんといい子だよねぇ……」
「そう?」
「人が良すぎというか、何と言うか……。もっと怒ってもいいんだよ?」
「あ、それ他の人にも言われたな〜」
「でしょ〜?ルーシェって絶対詐欺とかに遭いそうな性格だよ〜」
「えーそんな事無いよー!」
「いや、あるある。絶対」
「ぜ、絶対まで言っちゃう?酷いよカヤちゃんー!」
「あ、そうだ……そう、名前…!」
カヤはすっかり仲良くなったルーシェと会話を弾ませるが気になることがあった。
「アタシの事、カヤでいいよ。………もう、友達なんでしょ?アタシもルーシェの事ルーシェって呼び捨てにしてるし」
少し照れたようにカヤは俯きながら言うとルーシェは顔を輝かせた。
「うん!カヤ!友達!」
ルーシェはカヤに抱きついた。
「わぁ〜!ちょ、ちょっと!」
「これからもよろしくねカヤ!」
「……こちらこそ!」
「ちょいとお2人さん、いい雰囲気な時に悪いが、俺とロダリアの事忘れてないだろうな」
2人の後ろにいたガットが気まずそうに声をかけた。彼の隣にロダリアもいる。
「女の友情に口を挟む殿方はロクな目に合いませんよ」
「あのな、俺の雇い主はあんたなんだぞ。氷石返してもらわねーとな」
「あー、ごめんごめん〜それはこっちだこっち」
カヤは「ニシシ…」と、いたずらっこのように笑い、ダンボールから離れると自分の机の引き出しを開けた。
「超綺麗で売るのもったいなくてお土産として持ってきたんだ〜。けどなんか使い道がイマイチ分かんなくて、とりあえず引き出しの中に保存しといたんだよね。あとで帰ってきて落ち着いた時に部屋に飾ろうと思ってたトコ。ひんやりしてるから近くにいると気持ちいいし」
「ほいっ」と、カヤはそれをガットに手渡した。
「ん、確かに受け取った。はぁ〜、長かったぜこの道のり。ロダリア、スターナー島にいる元俺の依頼主に無事返却されたって、手紙書いといてくれ」
ガットはそう言うと氷石をロダリアに返した。
「ありがとうございます。フフ、やっとこれにお目にかかれましたわ」
ロダリアはそれを掲げて眺めた。角張ったそれは原石ようだ。しかし、蒼く澄んだ水色を水晶の奥まで輝かせ、この世の物ではないような雰囲気を放つ、不思議な宝石だ。ひんやりと空気を冷たくし、何かを感じる。その何かを、形容する事が出来ない。
「綺麗……」
ルーシェはそれに思わず見とれた。息を呑むような美しさだ。
「それ一体何なの?」
カヤが単刀直入に聞いた。
「……私が依頼した、喉から手が出るほど欲しかった所謂宝石、ですわね。女性って、宝石に目が無いものでしょう?ですから、ね?」
ロダリアは目を細めて笑ったが、カヤにはそれが本当なのかは極めて疑わしいところだったが、特に気には止めなかった。
「……ふーん、ま、いっか。明日にはここを出てロピアス城に行くんでしょ」
「あぁ、大将がさっき言ってた通りだ。まーた長旅になるけどな。街道沿いにシャーリンまで行って、サンハラ川を上ってヨウシャン行ったら、国境を超えて列車に乗るだけだな」
ガットが道順を説明した。また元来た道を戻るだけだが、大陸横断の長い旅だ。
「腐海があるから迂回せざる終えないので、やはりそこで時間をとられるのが辛いですわね」
「腐海についても、いつか何とかなる日が来るのかな……」
カヤは呟いた。アジェスに腐海がなければ交通の便はどれだけ発展するだろうか。この故郷も簡単には来れない位置にある。シャーリン経由から続く街道しか来れないのだ。
「さて、明日に備えて準備するか」
「そうだね。私も、もう寝ようかな…ふぁあ」
ルーシェは欠伸をした。
アルス達、気候調査団は任務を終えてフォルクスのロピアス城へ帰還する。
(そのままを、ありのままの事を報告するしかないよな……)
アルスは布団の中で今日起こった出来事を整理しながら、眠りについた。
ロピアスに入国し、列車に乗っている間も、以前来たときと同様に雨が降っていた。時折雷も聞こえる。窓に激しく打ち付ける水滴。雨にもまして、雷、そして風も強い。豪雨の中、西フォスキア大陸を横断する長い一本道の線路を走った。
ロピアス城に着くとノアが出迎えた。
「お前達……帰ってきたのか…」
ノアの服は濡れていた。先程まで外にいたのだろう。髪の毛から水滴が垂れている。
「お前はレガルトの側近のノア、だったな。ああ、しかし、外は酷い雨だな…」
アルス達も駅から降りて急いで来たが、雨に濡れていた。アルスは額についた髪の毛をうっとおしそうに振り払う。
「これが今のこの国の現状だ…。晴れる時は晴れるが、いきなり降り出したりする…。それで、結果はどうだったのだ?」
ノアは相変わらずの静かな口調で淡々と喋る。
「任務の半分は終わった。……レガルトと2人で話がしたい。至急取り次いで欲しい」
「……………2人きり?ダメだ、許可は出せない。そんな事は断じてできない」
「……ただの会談だ…。その、……内容が少しアレなものだからな」
「アレ……!?貴様…!レガルトに何をする気だ!?」
ノアは腰に着けたサーベルを取り出すと、アルスの喉元に突きつけた。どうや、何か誤解してるらしい。
「お、おいっ!」
アルスは思わず引き下がった。と、そこにレガルトが中庭に続く廊下の扉から出てきた。
「わー!ノア!何してるの!?というかアルス!帰ってきたんだね!」
「レガルト…」
ノアは彼女の姿を見ると渋々サーベルを下ろした。
「も〜、ダメだよ僕のノア。両国の仲がそう簡単に良好になるわけでもないけど、一応努力はして!アルスと約束したんだから!」
「ごめんなさい…」
ノアはサーベルを鞘にしまった。そしてレガルトに言った。
「して、レガルト。アルエンス氏は君と2人きりで会談したいと所望している。だが私は反対する」
「2人きり?どうして?」
レガルトは疑問を浮かべる。
「……これから話す内容は、最重要だと俺は思っている。国家の機密や国のこれからについて等、色々とな」
「あーなるほどね。オッケオッケ。その様子だと報告はただものならないほど収穫があったようだね〜。おーい誰か〜」
レガルトは杖をトントン、と地面についた。すると召使いの1人がやって来た。
「あ、今すぐスヴィエート皇帝と2人で会談したいから会議室を準備するように伝えて。それと、アルスの仲間さん達の部屋を用意してあげて。あちょっとまって!やっぱ2人きりはダメー!ノアと僕は一心同体にも等しいんだから、いいよね…?」
「は、はぁ。御意にございます」
レガルトは召使いに命じた。召使は困っていたが、女王の命令となれば了承せざる負えない。そしていつの間にかノアも会談に同席する話になったらしい。アルスは微妙な顔をしたが、
「……まぁ、いいだろう。あやうくノアに殺されかけたことだしな。お前らの仲の良さは以前嫌と言うほど見た」
「ありがとう〜アルス〜!やったよノア!君も一緒!」
「やった……!」
アルスはため息をついた。
(まぁ、いいか…)
だがこれから話す内容について考えると肩が重いのは否めないのは事実だ。