テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
「─────大昔、この惑星イストラスに大精霊オリジンが生まれた。
オリジンこそ全ての始まりであり、原点にして頂点。唯一無二の、生命を司る存在に等しい。世界の源でもあり、また、無を司る精霊でもあった。お前らの言葉で言う神様、という奴だ。
オリジンの次に元素を司る精霊マクスウェル、そして時を司る精霊、クロノスも生まれた。この3人は原初の三霊と呼ばれる。ま、簡単に言うと一番偉いのがオリジン、次にマクスウェル、3番目がクロノスって訳だ。
オリジンは仲間を生み出し、増やした。俺らのような精霊達の事だ。
炎のイフリート、水のウンディーネ、風のシルフ、地のノーム。
これら4つの
そして、氷のセルシウス、雷のヴォルト、光のルナ、闇のシャドウ。
そして
例外に他にも
月日が立ち、イストラスに生命が満ち始めた。そして、人が生まれた。人は見るみる間に進化していった。ある時、人はエヴィというあるエネルギー存在に気付いた。
万物を構成するエヴィ。貴様らがごく当たり前の様に使っているエヴィを生み出しているのは他でもない我ら精霊なのだ。精霊が生命活動を行うことによって生み出される。精霊が生きている限りエヴィは生み出される。
そしてそのエヴィの循環を担っているのが大精霊オリジンなのだ。
人は私利私欲に、思うがままにエヴィを使った。エヴィによってますます自らの技術を発展させていった。しかし、そのせいで世界のバランスが崩れ始めた。人はエヴィを使い過ぎたのだ。
オリジンは人の代表者を各自呼び出し、現状の忠告をした。だが、まるで効果はなかった。もともとオリジンも人間に甘いのだ…。人が好きだったからな。だから、もう一度チャンスを作った。今度は自分の力で、と。
オリジンは自分の分身にも等しい人間を10人を作り出した。彼らに命と意志、そして自らの力を分け与え、それを通して人間に忠告しようとしたのだ。
だがこれは、皮肉にもこの判断が後に重大な出来事を起こすきっかけとなってしまう。
オリジンの対策虚しく、人間達は変わらなかった。人間は恐ろしく強欲なものだ。過ちを侵さないと、事の重大さが分からない。
ついにオリジンは怒った。人をこのまま放置しておけば、いずれ大きな災いを招く対象として排除する事にしたのだ。
そして起こったのが、精霊戦争だ。
人間対精霊。当然、精霊の圧勝、の筈だった。
あの10人が裏切る事さえしなければ────。
そう、オリジンによって生み出された10人は精霊に反逆した。精霊によって生み出された天の使者が、堕天してあろう事か傲慢な人間になり下がってしまったのだ。
結果…、精霊戦争は、人が勝ってしまった。
人間はオリジンを天高くに封印した。そして、残りのマクスウェルとクロノスもどこかに封印された。
精霊達は酷く傷つき、傷を治すため、多くのエヴィを生み出していた。そのエヴィは、本来ならばオリジンによって、イストラスを一定のバランスを保ちながら循環するはずだった。しかし後に11人の精霊達も人の手によって封印され、ただただエヴィを生み出すだけのカラクリとなった。
オリジンの恩恵なき世界で、行き場を失ったエヴィはどんどんと天に溜まり、肥大していった。そして、天に封印されているオリジンの怒りのエヴィと反応しあい、突然変異を起こした。それは凄まじいエネルギーとなって、やがて地に降り注いだ。
この天災こそが、エストケアラインなのだ」
「………エストケアラインの原因は、今の話だったのか……!?」
「まるで神話のような出来事が、昔実際にあったのですわね」
アルスとロダリアが言った。昔の自分じゃ到底信じることはできないだろうな、と自嘲気味にアルスは笑った。
「で?続きは?それと異常気象の関連性は何なのさ?」
カヤがまた問う。
「エストケアラインという天災の影響は凄まじかった。まず、1つだった大陸が大きく3つに分断された。そして多くの生命が死に絶えただろう。動物が凶暴化したり、人間も理性を失ったり、な。それが今の俗に言う魔物なのだ。
大陸が3つに分かれたことで、精霊の場所も各々に分断された。元々1つだった大陸が3つにも別れれば、当然
セルシウス、ルナ、ウンディーネを所有している大陸は氷結と月光の大地、すなわちスヴィエート。
マクスウェル、クロノス、ヴォルト、シルフを所有しているロピアス。
ノームとシャドウ、俺イフリートがいるここは闇と地のバランス崩壊によって腐海が生み出され、気温が高い。つまり、アジェスだ。
各地の精霊のバランスによって、その大陸の霊勢差が生まれ、気候も左右される。
────そして、ここからが貴様らが知りたがっていた事だ。
霊勢はその地に少なからず影響は与えはする。だが、そのバランスはマクスウェルが封印されながらもその役目を担って、均衡を保っていた。恐らく人間がそうなるように細工して封印したのだろう。ロピアスはマクスウェルを知らず知らずのうちに所有していたお陰で豊かな土地を手に入れていたのだ。
だが、ロピアスのどこかにあるマクスウェルの封印を人間の誰かが解いたのだ。そして、マクスウェルの力を手に入れ、今もそのままだろう。
だから貴様らが言う異常気象とやらが発生したのだろう。もっとも、20年前からいきなり始まったわけではない。じわじわと気付かぬうちだが、着実にその影響が今出始めたのだろう。霊勢を辿ると、マクスウェルも完全に封印や掌握された訳では無さそうだからな。
結界の中から感じる僅かな霊勢で感じ取れることは、あのマクスウェル爺さんに何かあったって事だ。
…………これでお前の問には答えたぞ、女」
イフリートは長い話を終えるとカヤに指を指した。
「マクスウェルが何者かによって掌握だって………!?」
アルスは驚きを隠せない。何故なら、
「そんな事出来る人間がいるの…!?」
カヤも真実を知るが、衝撃の答えに開いた口が塞がらない。
「いる。現実に起こっているのだからな。嘘ではない。それに今なら、貴様らが封印結界を解いてくれたお陰で、マクスウェル爺さんの霊勢がほんの僅かだが感じ取る事が出来る、待っていろ」
イフリートは目をつぶり、精神を統一した。
(まさか…)
─────アルスは嫌な予感がした。
20年前、第2次世界大戦、父のスヴィエートの政策、スヴィエートの侵攻ルート、ロピアス空襲、ロピアス上陸、ロピアス本土決戦。
アルスは20年前の歴史を思い出した。そう、第2次世界大戦時、スヴィエートはロピアス本土に上陸している。
父と関係が深かったハイツとワイリーが20年前の事を問いただした時に押し黙った理由。これら全てを組み合わせ、今自分で予想出来るものは……!
「僅かだが、少し感じ取れたぞ、方角は北。恐らく氷結の大地………」
アルスはそこでもう確信してしまった。確信したくなかった、認めたくなかった。だが、言った。アルスは小声でイフリートと合わせるように言った。
「スヴィエート」
「スヴィエート…」
あぁ、嫌な予感ほど、当たるものだ───。
アルスは目眩がした。
父上、貴方は一体、何をしたのですか。貴方がマクスウェルを掌握したのですか?貴方はどうして自国に対してそこまで力を入れ込む?
(どうして、こんな事を……!)
尊敬していた父の像がガラガラと音を立ててアルスの中から崩れていった。確かにハウエルも言っていた、ロピアスにとって、外道政策、死神、血も涙もない皇帝だと。これらの言い分の本当の意味が今初めて分かった気がする。 自分はどんな顔をしてレガルトに会えばいいのだ。どの面下げて、この報告を持って帰れる?
父が残したこの呪い。
(俺は……、つくづく運がないな……。親にとことん恵まれず、やる事は空回りばかりだ……)
喉がカラカラに乾いた。冷や汗も流れ出る。先代は、随分と大層な置き土産をしてくれたものだ─────。