テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
アルス達は逃げたカヤの行方を追って村を歩き回ったがどこにも見当たらない。村人に聞くと、目撃情報がありどうやら東の方角へ走っていったらしい。
「ン?東?東って言ったらガラサリ火山しかないヨ?」
ラオは村人にお礼を言うと仲間達に伝えた。
「火山しかないなら、その火山に逃げ込んだのが妥当だろうな」
村の東出口で話していると、誰かの声が聞こえた。
「待って、待っといてください!」
焦った声で杖を付きながらカヨがやって来た。アルスは首をかしげ、
「カヨさん?」
「あの子を、カヤを、殺すんですか!?」
カヨはそう言うとアルスの腕を掴みすがるような声で懇願した。
「貴方達調査団とあの子の関係はよう分からんが、どうか、どうか、あの子だけは殺さんといて下さい!お願いします!あの子は私のたった1人の孫なんです!あの子にはよう叱って聞かせますんで!どうか、命だけは…。カヤが死ぬなら、代わりに私が死にますから!」
「ちょ、ちょっとカヨさんそ、それは…」
アルスは腕にすがり必死に頭を下げるカヨの姿に心を傷めた。同時にこんな状況に彼女を追い込んだカヤに怒りを覚えた。だが返答はルーシェが答えた。
「大丈夫です。カヨさん。約束します。彼女を傷つけたりなんか絶対にしません!」
「ホンマ、ホンマですか…!?」
カヨは顔を上げた。
「ホンマです、あと。簡単に死ぬなんて、言わないで下さい。ダメですからね?命は、本当にその人間に、たった1つしかない唯一無二のものなんですから」
「ありがとう、ありがとうございます…!うッ、ごほっごほっ!」
突然カヨは苦しそうに咳き込んだ。
「大丈夫ですか!?」
「あぁ、気にせんといて下さい。火山灰のせいですわ。大丈夫、大丈夫ですから…、げほっ!」
「今、治癒術をかけてみますね」
ルーシェは治癒術をかけようとするがそこにガットも割り込んだ。
「ガット?」
「大丈夫だ婆さん。孫は俺達に任せな。アンタはさっさと家に帰った方がいいぜ」
ガットはそう言うとカヨの喉に手をかざした。すると小さく淡い光が包みこんだ。
「あ、あれ?急に楽になった……?」
「ほれ、帰った帰った。年寄りに無理は禁物だ」
「あ、ありがとうございます…!」
カヨは礼を言うと不思議そうに首を傾げながら引き返していった。
「お前が人前で治癒術を使うなんて珍しいな」
アルスがガットに言うと彼は肩を竦め、罰が悪そうに言った。今まで仲間には問題なく治癒術をかけてきたが、ルーシェと違って仲間以外に術をかけるガットは珍しい。
「まぁ…、なんつーかあれよほら。ルーシェがいるから俺は保険って感じよ」
「ふーん…、ま、それでも治癒術を使える事は純粋に凄くて羨ましい限りだ。怪我しても自分で治せるなら便利だろう」
アルスは何気無く言った一言だったがガットは一瞬悲しげな表情を浮かべ呟いた。
「便利なものには、犠牲がつきものさ…」
「ん?何か言ったか?」
アルスにその呟きは聞こえなかった。ガットは自嘲気味に笑い、
「いや?大将らしいお言葉だこと〜ってな」
「言っておくか一応褒めてるぞ」
「そりゃどーも」
ガットは何故か遠い目をしてカヨを見つめていた。だがその目の焦点は合っていなく虚空を見つめるようで。そしてその表情はどこか寂しそうで、哀しそうで。アルスはその少しだけ彼の雰囲気が変わったような気がして。
「ガット?」
だがそれも刹那の出来事でガットはアルスの肩に手を回すと誤魔化すように明るい声で言った。
「まぁまぁ〜こんな野郎に治してもらうよりもルーシェみたいな可愛い女の子に治してもらった方が大将も、いや男は誰だって嬉しいもんよ。な?そうだろ?」
「…、そうだな。怪我はルーシェに治してもらった方が精神的にも安らぐしルーシェの方が100倍嬉しい」
「100倍は言い過ぎじゃね?酷くね?俺のガラスハート傷ついたよ?」
どうやら普段のガットに戻ったようだ。
(気のせいだろうか…?)
アルスは特に気にせず、村の出口から街道へ出た。
東に向かって行き、カヤの逃亡先と思われるガラサリ火山に到着した。好都合にも、盗賊を追って来た場所は気候調査の目的地だった。
「これ、いいんですか入って。なんか書いてありますけど…」
ノインは火山の入口に立てかけてある看板を見て言った。
「警告。この先溶岩地帯。立ち入り禁止っ、て書いてある…」
ルーシェは看板を読み上げると不安そうにアルスを見た。が、アルスはその看板を気にせず通り過ぎた。
「ええっ、ちょっとアルス!」
アルスは地面を見ると
「足跡があるな。見たところまだ真新しい。しかも1人。間違いない、カヤはこの先だ」
「うええええ追うのかー!?」
フィルはぐったりとした表情で愚痴をいう。ただでさえ今も暑い。ものすごく暑い。
「追うしかないだろう…。カヨさんの事もあるし何よりあいつを捕まえるのが1つの俺達の目的だったからな。それに、当初はここが目的地だったんだ」
アルスもうんざりしているが、ここにはどの道、用があったのだ。
「うわぁ〜、凄い所に逃げたネー彼女も」
ラオは真っ赤な溶岩を覗き込んで言った。ロダリアが、
「それだけ必死だったのでは?」
と返した。
「エー、必死ってだけで火山の溶岩帯まで逃げ込む?フツー」
「ふむ、私には分かりませんわ。ま、私は氷石が返ってくればそれで良いのですが」
ロダリアは扇子を広げ、パタパタと顔を扇いだ。
火山の中に入ってしばらく。案の定全員汗が止まらない。暑い、暑い。とにかく暑い。
「あ、暑い…………」
「暑いって言わないでアルス……。余計暑くなる……」
ルーシェは腕も顔もをだらんとして、俯いて言った。
「あ゛〜、クソっ!あちいいいい!」
「うるさいですよガット……」
ノインが汗を拭きながら言う。
「小生暑くて死にそう…」
「はぁ〜、いくらあおいでも熱風がかき乱されるだけですわね…」
「うぅ〜、暑いヨー…」
出てくる言葉は暑い。死ぬ。それぐらいである。特にスヴィエート出身のアルスとルーシェは今にも倒れそうな感じである。
「あぁ、おいガット……。なんか、涼しくなる治癒術とかないのか…?」
「いや無茶言うなよ…。んなのあったら俺が知りてーよ……」
「スヴィエートが恋しい……」
「うぅううううあああああ暑い暑い暑い暑いいいい!!もうアルス!どうにかならないの!?」
ルーシェがとうとう壊れた。
「えっ、俺!?」
突然向けられた八つ当たりにも近い発言にアルスは困惑した。
「アルスー!雪降らせて!皇帝なら出来るでしょ!?」
「いやいや!?無理無理!?皇帝関係ないだろ!」
「アルスの馬鹿あああああああ!なんでそんな事もできないの!?」
「雪降らせるなんて誰にも出来ないから!」
「おーおー、二重の意味でお前らは熱いな…」
ガットは呆れた表情で見つめた。
「賑やかですわねぇ。あれならまだ行けるのでは?」
ロダリアは鬱陶しそうな顔で前列で騒いでる彼らを見つめる。
「ところでフィル、大丈夫ですか?先程から全く喋っていませんが」
ロダリアはずっと下を向いて歩いているフィルに話しかけた。
「…、小生は悟りを開いたのだ……」
フィルは杖を握り締め汗だくの顔で仏のような無表情で答える。
「……大丈夫ではなさそうですわね。皆さん暑いとテンションがおかしくなるようですわ」
「フィル…。悟りを開くって凄いね、僕崇拝しますよ…あぁーフィル様……、肩もませてください」
ノインはフィルの肩に手を当てて揉み始めた。
「あらこの方もやられちゃってますわね」
「うーん、もうすぐ、もうすぐで暑さのせいで首がもげるネ、これはもげる…。あ、もう今すぐもげそう……」
ラオも頭を抱え独り言をぶつぶつと呟いた。
そんなこんなで火山を進んで、開けた場所にたどり着いた。そしてその奥、人影が見えた。あの茶髪、カヤだった。何かの祭壇を前に彼女は本を片手に何かをぶつぶつと呟きながら考え込んでいる。
「いた……!」
アルスのその声には気付かず、カヤは相変わらず何かを呟いている。
「えーっとォ…何なに、汝……が、其の源?の末……末裔?ならー、ならば……」
「見つけたぞ!カヤ!」
「っ!」
カヤはびくりと肩を揺らした。そして振り返ると苦虫を噛み潰したような顔をした。
「うわマジ…?ここまで追いかけて来る普通?」
「絶対……絶対に許さん…、ここまで引っかき回されたんだ。ここで終にするぞ…」
「うーわぁ、ご苦労さま~。ホントよく追いかけてきたね…」
カヤはアルスの疲労困憊した顔を見ると苦笑いした。
「おいカヤ、お前の婆ちゃんめちゃくちゃ心配してたぞお前の事。俺達がお前を殺すなら自分の命をあげるから勘弁してくださいってなぁ。お前はそんな孫想いな優しい優しい婆ちゃんを無視すんのか?」
ガットはカヨの話を持ち出した。なるべく穏便に。アルスは今かなりイラついている。暑さのせいで。
「お婆ちゃん……」
カヤは表情を曇らせた。
「カヤ!ちゃん?えっと、大人しくお縄につきなさーい!」
ルーシェは少し落ち着いたのかいつものペースである。
「縄ではないが糸につかせるぞー!巻き巻きにして逃げられなくしてやる!」
「さっすが僕のフィル!カッコイイー!!」
ノインは相変わらずである。
「もう逃がしませんわよ」
四面楚歌。カヤはまさに絶体絶命の状態だった。逃げ場などない。
「くっそ………!」
汗が本に落ちた。苦労して手に入れたこの本。汗がぶわりと吹き出す。それは冷や汗も混じっている。捕まるという恐怖に怯えて。呼吸が深くなる。暑さのせいもある。が、これは違う。焦りと恐怖。
カヤは本を閉じると真剣な表情になった。何がが吹っ切れたような感じだ。
(もう、やるしかない────!)
「あたしは、あたしは!こんな所で捕まるわけにはいかないんだよ!!やっと……、やっとリザーガから手がかりを見つけたってのに!村の為にも!絶対にこの場を逃げ切る!逃げ切ってやる!!あんたらを倒してでもね!!」
カヤは腰からナイフを取り出すとアルスに斬りかかった。
「っ!?いきなり何をするっ!?」
アルスは慌ててそれを拳銃で防御した。ガギィン!と鈍い金属音が響く。
「おいッ、マジかよ!?」
「おやおや、実力行使ですか」
ガットとロダリアが言った。
「やめろカヤ!カヨさんが悲しむぞ!ぐっ!」
アルスは力ずくでそれを弾き返した。カヤは受身をとり悔しそうな顔をする。
「…ッ、お婆ちゃんの事は口にするな!何も知らないくせに!」
「カヤちゃん!落ち着いて!」
「うるさいっ!」
「…っ!」
「コラぁ!君!落ち着きなさいと言ってるのだヨ!」
ラオはクナイを取り出してカヤに斬りかかる。
「っぅぐ!」
カヤはナイフでそれを受け止める。2人の攻防はギリギリと刃の鋭い音をたてる。
「このっ…!」
「仮にも男だからネ。力は女の子よりも強いヨ」
力は歴然。やがてカヤが押され気味になった。彼女の喉元までクナイが届きそうになる。
「ラオさん!ダメッ!」
そこにルーシェが割って入ろうと近づいた。
「ルーシェっ!?」
その一瞬ラオの隙をカヤは突いた。
「っ今だ!」
「っうぐっ!?」
一気に足でラオを蹴り飛ばすと斜めにナイフを走らせる。
「うらぁ!」
「きゃあっ!」
しかしそのナイフはルーシェの右腕を鋭利に引き裂いた。
「なっ!」
カヤは驚きを隠せなかった。斬りつけた相手は確かにあのクナイを持つ男だったのに彼女はそれを咄嗟に右腕でかばったのだ。
ルーシェの二の腕から鮮血が散り、血が地面に落ちた。
「ルーシェ!!」
アルスは真っ先に彼女の元に駆け寄って行く。
───が、次の瞬間地面が大きく揺れた。
「うわっ!何だ!?」
アルスは大きくバランスを崩し、地面に手をつく。
「ルーシェー!!」
アルスは彼女の名を呼ぶ。
ドォオオン!
と、大きな音がし突如ルーシェが隠れた。それは大きな岩だった。
「岩っ!?」
「何だ!?何が起こってやがる!?」
「落石ですわ!?」
ロダリアが上を指さして言った。
「皆!よけろー!!」
フィルが叫んだ。上からガラガラと落石が降ってくる。
「うひゃあ!」
ノインは慌ててそれを避ける。まばらに容赦なく落ちてくる岩は大きな音をたて地面で砕け散る。
「何なのよ全く!こんな時にっ!」
カヤも落石を避ける。だが、上ばかり見ていたせいか、気づかなかった。落石の影響でひび割れていた足元に。
その時、カヤの足元が崩れた───!
「あっ…!」
気づいた時にはもう遅かった。カヤの右足は完全にとられ、崩れた体制のまま落下していく。
「嘘…」
下には溶岩。落ちたらまず命はない。せめてもの抵抗で、崖に捕まろうと左手を伸ばす。が、それが届く事はわなかった。
その時が、スローモーションに見えた。
(ああ、死ぬ時って本当にこうなるんだ…)
と、その時は妙に落ち着いていた。しかし、オレンジ色の髪の毛がその時視界に写った。
「カヤちゃんっ!!!」
ルーシェはその伸ばされた左腕を掴んだ。グンッと衝撃が走り体が重力に逆らう。
「え…!?」
カヤは驚いて顔を見上げた。すると血が頬に落ちた。さっき自分が斬りつけた傷からだ。
「うっ、あぅ……」
ルーシェはその傷の苦痛に顔を歪めた。
「アンタ…、何で…!早く、早く手を離しなさいよ!アンタまで落ちるよ!?」
カヤはその状況に混乱し咄嗟にそう言ったがルーシェは、
「うるさいっ!」
と、一括した。
「…っ!?」
「いいから!!早くこっちの手に捕まって!死にたいの!?許さないよ!?お婆ちゃんに散々迷惑かけておいて、絶対に死なせないんだから!」
ルーシェは左手を必死にカヤに差し出した。
「何で、何で助けてくれんの…?アタシは、アタシはアンタを散々傷つけたのに…、くぅっ…!」
カヤの声は震えていた。それでも必死に彼女の手に捕まった。
「う、うぐうううう!」
ルーシェは懇親の力を振り絞って彼女を引き上げようとした。しかし力が足りない。ただでさえ右腕は焼けるように痛い。
「や、やっぱ無理だよ!離して!」
「離さないいいいい!!絶対に離さないいいいっ!!」
「ルーシェ!!カヤ!?」
そこにアルスが駆けつけた。ルーシェはその声に安心した。彼はいつも私がピンチの時に駆けつけてくれる。本当に嬉しかった。
「アルスー!手伝ってええええ!」
「おい!大丈夫か!?今助ける!」
アルスはしゃがんでカヤの腕を掴むと一気に上に引っ張りあげた。やはり男の力の方が断然に強い。カヤはあっという間に助け出された。
「はぁ~、はぁ~……。はぁ~!」
「はっ……、良かった、カヤちゃん…」
カヤは四つん這いになり呼吸を整えた。先程の恐怖がどっと溢れてきた。ルーシェも顔を俯かせへたりと座り込んでいたが、怪我を心配したアルスに腕を掴まれていた。
「ルーシェ!腕は大丈夫か!?あぁ、こんな時に俺が治癒術を使えたら!待ってろ!今ガットを呼んでくる!」
アルスはルーシェの事になると落ち着きがない。すぐさま戻り、ガットを呼びに行った。やがて少し落ち着いたのかカヤは立ち上がりルーシェに向き直る。
「助けてくれて……、ありがとう…。でも、本当に何であたしなんか、アンタの物盗んだ泥棒だってのに…」
ルーシェは顔をあげながら言った。
「そんなの、関係……ないよ。目の前で死にそうになってる人見たら、助けるの当たり前でしょ…?それに、ね。私のお母さんというか、うーん、まぁお母さんでいいか。お母さんが言ってたの。親より先に死ぬ子は一番の親不孝者だって…。カヨお婆ちゃんと何にも和解できてないまま、誤解をうんだままで終わりなんて、酷すぎるよ、そんなの…」
「はっ、はは。アンタって、優しいんだね…、凄く…。それでいて、なんか頑固で、強くて…。本当にさっきはありがとう!えっと、名前は…」
「ルーシェだよ」
「そっか、ルーシェ。えっと、ごめんね、その、腕…、斬っちゃって。わざとじゃないんだけど…。ああ、言い訳は見苦しいか。本当にごめ…ぶっ!?」
ルーシェは彼女が言い終わる前に左手で思いっきりカヤに平手打ちした。
「っ!?っ!?」
カヤは目が点になった。
「ふふん、これでおあいこ!」
してやったり、という顔でルーシェはカヤを見る。
「今のは2つ意味を込めたんだよ、1つは本当におあいこの意味でやったんだけど、もうひとつは、お婆ちゃんに内緒で変なことに手出して心配かけてた事の叱り!しっかり反省なさい!」
「は、はい…」
(この娘、侮れない……)
カヤは心からそう思った。