テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
アルス窓際に置いてあるコーヒーを手に取り飲んだ。どうやら鉄道の修理は済んだようであの線路は修復されていた。とは言っても爆破された鉄道はハイルカーク駅からポワリオまでの路線。ロピアス城前に行くのに関しては支障はない。列車に揺られながらも雨は降り続いていた。窓に雨粒が当たり水滴が列車の走る風によって流れていく。
最初ここに、エルゼ駅に来た時はこの列車に乗れると浮かれていたものだ。だがそれは叶わず結局乗れたのはこのような形。しかも景色を見るのも醍醐味というらしいがこの雨だと殆ど見えないし例え見えたとしてもそれはぼやけたものでしかなかった。もうそろそろコーヒーが無くなりそうだ。2杯目のコーヒーを頼もうかと悩んでいた時、列車のアナウンスが鳴った。
「まもなくフォルクス駅、ロピアス城前でございます」
「いよいよか…」
この国の女王とやらと対面だ。
(さて、どうなる事か…)
アルスはわずかに残っているコーヒーを飲み干すと、特別に案内されたVIP専用のコンパートメントから出た。
城の周りの警備はそれは凄いものだった。エルゼ港の比にならない程の兵士が敷かれていた。自分の周りにも仲間達と軍人がいるが明らか人数はあちらの方が圧倒的である。
「凄いねアルス、ここがロピアス城なんだね」
ルーシェは傘を斜めに構え城の姿を仰いだ。そして指を指すとアルスに話しかける。
「ああ、スヴィエート城程高くはないが外見が綺麗だな…、壮麗な雰囲気が出ている」
スヴィエート城の重々しく厳格な雰囲気とは違い、ロピアス城は優雅、壮麗と言うべきか。
「こうゆう所に住んで、お姫様〜なんて呼ばれるのが女の子が1度は夢見る光景なんだよねぇ〜、うふふ」
ルーシェは周りの緊張した重い雰囲気などまるで気にせずふわふわしたオーラを纏い言う。
「そうなのか?でも姫がやる事と言ったらダンスやマナーの練習、それから甘いお菓子食べて、貴族達と自慢話に花を咲かせて、っていう贅沢三昧なイメージしかないんだが」
「ちっがーう!確かにそれも1度は憧れるかもだけど、ほら、ね?王子様とかに〜、えっと、一緒に踊りませんかー、とか!」
アルスは顔をしかめた。
(ダンス…!)
聞いただけでも無理矢理練習させられたあのトラウマが蘇る。マーシャとハウエルに通過儀礼として教えられた。アルスはよく足がもつれてイライラしたものだ。失敗してマーシャの足を踏んでしまいこっぴどく指導されたものだ。
「うげっ、ダンス……。ダンスなんてものやれたものじゃないぞ…!それに姫って言ったら大体婚約者がいるだろ、それが仮に王子だとしても政略結婚として利用されて、愛情なんか一欠片もないんじゃ…」
「何でそう女の子の夢壊すような事言うのアルスは!?」
ルーシェはアルスにズタボロに言われムッとする。
「…、ごめん。現実主義なんだ。そうだね、誰もがこうなるとは限らないしな」
ルーシェとの緊張感のない会話をしていたらいつの間にか壮大な門の前に来ていた。兵士が門を開けるとそこはもう王宮で、また豪華絢爛な扉に案内されそれを開けると謁見の間であった。
奥に玉座があり、1人、人物が座っていた。アルスは不思議に思った。
(ん?あれは女性か?)
銀髪の髪の毛は短く1本くせ毛のように跳ねていて、服はまるで男性のような格好をしている。案内してきたノアは彼女に跪き静かに口を開いた。
「ラミルダ女王陛下、只今戻りました」
「え、どうしたの?やだなぁノア!いつもみたいにレガルトって呼んでよ!」
奴は素っ頓狂な声を発した。元気よく椅子から立ち上がると杖をブラブラと横に揺らしながらノアに近づく。
「しかし、今は…」
ノアは横目でちらりと周りを気にした。
(レガルト、ラミルダ?どっちだ?そういえばラミルダ女王はレガルトという愛称で呼ばれていると言っていたな…)
よく分からないが、女王と思わしき人物はどこからともなくガサガサと、袋を取り出し中に手を突っ込む。
「え?何なに、照れ隠し?今更だよ〜。うふふ、あ。ポテチ食べる?」
女王はポテチとやらをノアの口元に運んだ。
「食べる…」
(食べるのかよ)
アルスは心の中てすかさずツッコミを入れた。ノアは幸せそうな顔をしていわゆるアーン、というのを女王からさせてもらっている。すると金色の目がこちらに向いた。
「ん?アレ誰?」
「え?」
ノアは振り返った。まるで俺達の存在を忘れていたかのような感じだ。女王に指摘され慌てて振り返る。
「ホラ、あの青い人。なんかその他にも色々いるけど。あれ?あの白い髪の奴ってのノイン?それにあの黒髪はロダリアだし」
女王はアルス、ノイン、ロダリアを順々に指さした。
「レガルト、昨日私が言ったはず…。スヴィエートのアルエンス皇帝陛下と謁見だ、と」
少々呆れ気味でノアが返した。
「あー!思い出した!そーいやそんな話してたね。ノアと話してたら忘れちゃった、んで、何でいきなり謁見?」
「それも昨日言った…。平和条約だそうだ。ロダリア殿を捕虜として連れられて来た。彼女自身は勝手に付いていったらしいが……」
「へぇーまあどうでもいいや。平和条約だっけ?」
女王はアルス方へ近づいてきた。そして顔をジロジロと眺める。
(近い………!)
アルスは無表情を貫いたが、彼女が女だと一瞬では分からなかった。女だと知っていたが、やはり中性的な顔立ちだ。そのおかげで顔近づけられても余計な思いが湧いてこないで済むのだが。
(これが明らかな、しかも可愛い女の子だったら少し表情崩れるかもしれないな…って、何を考えてるんだか)
自嘲気味に自己完結すると、女王はアルスの瞳を覗きこんだ。
「っ……ちか……」
アルスは思わず小声で呟いた。女王はパッと顔を明るくさせ、
「君の銀の瞳は…、綺麗だね!」
と、言った。
「はい……?」
アルスは反応出来ずに思わず聞き返した。
「僕見た事あるよ!母さんと一緒に写真に写ってた人がその瞳だった!君似てるねその人に!でも瞳は君の方が綺麗だよ。濁りがないって言うの?えーっと、名前何だっけ、死神フレンド?」
「レガルト、多分それはフレーリットだと思う。お母上様のシャーロット様とスターナー条約を交わした時に撮った写真の事でしょ。前に一緒に見た事ある…。それと、死神じゃなくて疫病神のフレーリット、だった気がする」
ノアがすかさず修正を入れた。
「あー!そうだそうだ!あれ、でも僕貴族の人に死神って言われてたのも聞くよ。なんか凄い嫌ってた。えげつないんだって。あと手口がいやらしいとかも言ってた。僕のお父さんその死神に苦労させられたんだってー」
「今日来られたのは、そのフレーリットの息子のアルエンス陛下。レガルトと話がしたいんだって」
「話?そうなの?」
父に対する盛大な嫌味にしか聞こえなかった会話がアルスに振られた。素で言っているのか、それとも皮肉っているのか。アルスは読めなかったが、この女王の調子だと素なのだろうと思った。こんな女王今まで見たことも聞いたこともなので少し戸惑ったがアルスは親書を取り出した。
「今日はこれを渡しに……」
「何これ?」
アルスが言い終わる前に女王はポテチを一口食べたその手で受け取った。
「ちょ……!」
「うーん、ポテチ食べてるから開けれないや。ノア、読んで〜」
「御意」
巻いてあるその紙をぞんざいににノアに渡すと、器用に受け取った彼女はそれを読み始める。
「えっと、スヴィエート皇帝アルエンス・フレーリット・レックス・スヴィエートより……」
「あー!長いのは勘弁!短くまとめて!」
「分かった…」
女王はめんどくさそうに手をぶらぶら振り、ノアに短くまとめるように言い渡す。
(どこまでいい加減なんだこの女王は……)
しばらくノアはその親書を読むと、要約して読み始めた。
「えーっと、スヴィエート帝国第一皇位継承者が殺される事件が前あったんだけどそれがロピアスの仕業って事にされてたの。それで、我がロピアスでも鉄道爆破事件が起こった。でもこれはスヴィエート人がやったっていう報告書が来てたの。それで、両国の関係が悪化してそろそろ戦争も視野に入れてきたんだけど、それらはすべてリザーガって言う悪い組織の思惑だったんだって。だから戦争はやめましょう、って言って平和条約を結ぶ、だって。ごめん、内容が内容で、あんまり短くできなかったかもしれない」
「十分だよ〜!流石ノア!えー、で、君がスヴィエート皇帝?」
女王はアルスに向き直った。アルスは背筋を伸ばしきりっとした態度で自己紹介する。
「ああ、アルエンス・フレーリット・レックス・スヴィエートだ」
「わー!よろしくね!僕ラミルダ・カルデノーテ・ロピアス!皆からはレガルトって呼ばれてるから、君もレガルトって呼んでね!」
「レガルト…、ね…。俺の事はアルスでいい、こちらこそよろしく。良好な関係を築ける事を願う」
「そんな堅苦しいことはいいって!まずはお近づきの印に握手握手 !」
「えっ」
レガルトはずいっとそのポテチで汚れ、油まみれの手を差し出してきた。
(さ、触りたくない……………)
正直一心にそう思ったがそうはいかないのだ。アルスがぎこちなく手を差し出すと勢いよく握られブンブンとふられる。
「よろしくアルスー!」
「よ、よろしく……」
(何だなんだコイツ………………)
アルスはずっと思ってて、あえて心にしまっていたものをついに吐き出した。
(変な奴─────)