テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
ハウエルとマーシャ
アルスは仲間達、そしてロダリアと別れると一旦自室に戻りハウエルとマーシャから話を聞いていた。
「ロピアスの現権力者は女王です。王政ですからね。知ってると思いますが名前は、ラミルダ・カドルノーテ・ロピアス…、と言う方てすね。ロピアス民からは愛称でレガルト様、とか呼ばれているそうです」
マーシャが言った。
「女王…、女か」
アルスは苦い顔で答える。どうもルーシェ以外の女はあまりいい思い出がなく、アルスは女性が少し苦手だ。唯一まともだと思ったのは女将シューラや馬車旅のエスナぐらいだろうか?カイラはもうトラウマレベルまで苦手である。ロダリアといいフィルといい、あの女盗賊のカヤといい。
「ええ。アルエンス様はついこの前の戴冠式の時に20歳ですよね。もうここ最近は忙しくてろくに祝えませんでしたが、戴冠式と同時進行のようなものでしたから仕方がありませんねぇ。なんとアルエンス様と同年代でして19歳でございます」
戴冠式後に2人からは祝福の言葉を貰ったが、今は本当に時期的に忙しい。誕生日の事は後にして。
スヴィエートは原則20歳にならないと、に基本的には皇帝にはなれない。しかし、昔例外が一部あった。アルスの祖父がそうだった。15歳で即位したのだ。アルスはスヴィエートに帰ってきていた時点で既に20歳の誕生日は過ぎていたのだ。すっかり忘れていたが。
「俺の1つ下なのか……。いつ王位を継いだんだ」
「先代ロピアス女王のシャーロットが亡くなって、即位したそうですから。齢17で王位に付いていますね」
「17でか…」
アルスより先である。
「一応先輩になるんでしょうが、恐らく仲良く、とはいかないと思いますよ、なんせ先代のフレーリット様はロピアスにとってまさに死神、あるいは疫病神と言った存在ですからね。シャーロット様にも随分と圧力かけてたみたいですし」
「父ねぇ…」
アルスは微妙な気持ちになった。父の功績は素晴らしいが、ロピアスにとっては迷惑極まりない行為だ。スヴィエートにとってかなり有利な条約を可決させ、更に領土問題で取り合っていたアルモネ島を奪い返されたのだから。だが元々自国の領土だ。奪った奴等が悪い。ハウエルが口を開く。
「何と言うか、気持ちいいぐらいの仕返しっぷりでしたね、先代の政策は。以前ロピアスがスヴィエートにやってきた事をやっていますし、自業自得なんですが、そのやり方がまた巧妙というか、いやらしいというか。徹底して他国には容赦がない。特にロピアスは…、因縁というか。あの方は論理的であれば、その考えを必ず実行します。逆に言えば論理的でさえあれば、例えそれがどんな残酷や非道な事でもやってのけてしまうのです。まぁ、言ってしまえば先代の政治的思想の事なんですが。彼の思想は、スヴィエートの意思、スヴィエートの望みでした。長年の国民の願い、ロピアスに報復という願いを、あのような形であの方は成し遂げられたのです。ですから、スヴィエートでは英雄、敵国のロピアスからしたらとんでもない厄介者、という事になるわけですね」
ハウエルはしみじみと言った。彼はスヴィエート皇族に人生を捧げた身だ。アルスの祖父母時代からなので、3代見てきた事になる。勿論、妹のマーシャもだ。
「条約で特に目立つのがやはり関税か…。それに貿易制限、軍拡張制限等、沢山あるな……」
「敏感な土地問題に関しては元の土地を奪い返しただけでした。第2次世界大戦末期のフレーリット様は、もう戦争はしたくない、と仰っていました。これ以上の戦は国力が浪費するだけで無駄だと」
「それでも問題は山積みだ…、はぁ……、大丈夫だろうか…?何だか緊張してきたし、自信も無くなってきた…。本当に平和条約なんか結んでもらえるのだろうか…?だって、あのロピアスだぞ?長年争い続けてきた、あのロピアス」
アルスは気が重くなり思わず愚痴った。ハウエルはそれに厳しく反応した。
「何です?弱音ですか?ここまで来て。貴方が提案した事ですぞ?きちんとやり遂げないと。先代はそんな弱音など絶対に吐きませんでしたぞ?強い意志を持って、常に行動しておられました」
「先代先代って……。またそれだ。あまり父と比べられてもなぁ…。俺はそのプレッシャーに押しつぶされそうだよ……」
アルスは幼い頃から父の話はよく聞かされていた。彼のその戦略は素晴らしく、常にロピアスを上回っていた。父は、あの様な人は恐らく天才なのだろう。才能に恵まれ、自分とはかけ離れた存在。
それに対する劣等感も、両親に対するコンプレックスの1つであった。父が天才であれば、当然息子は期待の眼差しで見られる。これはもう自然の摂理のようなものだ。マーシャはそんな彼の態度に喝を入れる。
「なら、その誇りと自信を持ちなさい。貴方は、フレーリット様の息子なのですよ?」
「父は完璧な天才だったんだろ?生憎俺は、天才なんかじゃない。完璧でもない。期待されてるのは、嬉しいけど……、でも……」
そう、自分は国民から期待されている。その昔の父のお陰で。だがそれが不安なのだ。
「全く、ハッキリしないですね。その考えは杞憂ですよ。それに、最初から上手くいく人なんていません。天才とか言ってますけど、あれはあの人自身の努力で身に付けた頭脳です。天才というよりも、フレーリット様は秀才ですよ。それに意見などよく元老院と対立してましたし…。天才なんて、もし先代が聞いたら買い被り過ぎ、とか言われますよ。それに、絶対に天才と言えない部分もありました。特に女性に関しては…。というか奥様に頭が上がらなかった人ですし…」
「ええっ!女に弱かったのか!?」
アルスは親近感が少し湧いた。意外すぎる。女性が苦手なのはアルスも同じだ。
「いえ、奥様限定ですね」
ハウエルはきっぱりと言った。
「何だ……」
途端アルスは落胆した。そしてまた落胆させるハウエルの言葉。
「その他の女性とは普通に話してましたよ。無論、彼の関心を引いてなおかつ必要な存在であったならば…ですが」
「ふーん……。奥様ねぇ……」
(奥様って、あの裏切り者スミラだろ?そんな奴にに頭上がらないまま殺されるなんて、確かに天才ではないのかもな…)
アルスがそう呟くと、ハウエルはニヤリと笑った。
「して、あのルーシェという人、とても素敵なお方でしたねぇ」
「だろ?なっ…、おいちょっと待て!何でルーシェが出てくるんだ!?」
思わず誇らしげに言ってしまったが、とんでもない。何故知っているこのジジイ。
「ふふふ、実はこの爺、見ておりました」
「うふふ、実はこのばあやも…」
「なっ、何を…?」
アルスはドキリとした。そして嫌な予感がする。
(まさか、まさか昨日の事なんじゃ…!)
「何って、アルエンス様がルーシェ様を必死に追い掛けてた姿ですよ!愛ですね!?愛故なのですね!?」
ハウエルは目を輝かせて言った。彼にとってはアルスは孫ような存在。孫の恋路が気になるのは当たり前の事だ。
「んなっ!?じぃ!!見てたのか!?」
「お?今焦りましたな?懐かしいですな。じぃと呼ばれるのは。焦っていた証拠ですな?ん?恋なのですな?」
「違うっ!!断じて違う!!あれは仲間として引き戻しただけだ!!」
アルスは顔を熱が集まる。図星だが絶対にこの人達には知られたくない。何故なら…!
「ん?今目が泳ぎましたな?それに顔もお赤い。いやはや。嬉しいですな。堅物のアルエンス様が恋とは……。ふっ……」
ハウエルは目を逸らし、口を手で押さえる。明らか笑っているのを隠している。そうだ、こうなると絶対にからかわれる。
「だから違うと言ってるだろ!!」
「おやぁ?そうなのですか?では、この写真は如何なものでしょうね?」
アルスが必死に否定するとマーシャは決まり手を出してきた。懐から1枚の紙を出し、そしてそれをアルスの机の上に置くと、それをひっくり返す。それは写真だった。
(─────!?)
「ッ!?俺とルーシェ!?しかも昨日の奴じゃないか!?いつの間に!?」
そう、その写真に写っていたのはアルスとルーシェ。丁度アルスがルーシェの手を握り、そのまま彼女に想いを言い出せなかった時。セルドレアの青い花片が空に舞い、月明かりに照らされている2人。無駄によく撮れていている。
「フフフ、このマーシャの撮影でございます。よく撮れているでしょう?勿論、会話も全て聞いておりました」
「えええええ!?ちょっ、待て!会話も!?ぜ、全部!?」
「俺と一緒に来いルーシェ、皇帝勅命だ、ですか……。まるでプロポーズとも聞こえるセリフですねぇ。ふっ……、ふふっ。くくっ……。おっと失れ、フッ……ぐっ…」
ハウエルはもはや笑いを抑えられなかった。アルスは顔から火が出そうになる。
「─────!!っじぃ!!」
「失礼っ、ふっ、ふふふふは、ハハハ!アハハハ!!」
「笑うなっ!!!」
「素敵ですわ。セルドレアの花畑で合間見える男女……♡ロマンチックです……!」
「いい年した婆さんが何言ってる!?」
アルスは椅子から立ち上がりマーシャにビシッと指をさして言った。
「あっ、いや。個人的について来て欲しいってのも…、いやいや、俺は何言ってるんだ。つつつまり」
「兄さん似てるわ!全く!!どうしてあそこで告白しなかったのです!?せっかくいい雰囲気だっのに!」
「ルーシェ。俺は、君の事が────」
「似てるっ!!」
ハウエルは昨晩アルスがルーシェに言った言葉を真似て言う。マーシャは感激しそれを絶賛する。
「おぉぉおおおおい!!やめろ!?何復唱してるんだ!?って言うかよく覚えてるな!?」
「いやぁー、面白いですねぇ、先代を思い出しますねぇ」
「一途な所は先代譲りですか…。やはり、親子なのですねぇ…?坊ちゃん♡」
マーシャは昔の呼び名を出した。アルスは彼らにはどうしても敵わない。なすがままにからかわれている。穴があったら入りたい。
「ぐぬぬ……!今何歳だと思ってる!?20歳だぞ!?その呼び方はやめろ!!もう大人なんだぞ!」
「大人と言えど、貴方はまだまだヒヨッコ同然です。何偉そうな事言ってるんですか。若いうちの失敗は付き物!それ以前に、若いうちに、失敗しておくのです!」
「そうですわよ!?失敗しない人間なんていません!不安になりながらも、貴方のご決断なのですから、責任を持ってやり遂げなさい!全力の失敗は、成長の糧です!」
いい事言ってるが、話をすり替えられた気がしないでもない。
「そうですとも!!アルエンス様なら出来る!先代の息子なのですから!」
「ちっがうわよ兄さん!アルエンス様は、先代に比べられるのを嫌がってるのに何さっきと同じ事言ってるの!?」
「あ、そうでしたな。えーと」
ハウエルはマーシャにどやされた。
「アルエンス様は、貴方の思う通りに行けばいいのです。それを全力で。ひたすら全力で、頑張るのです!皇帝駆け出しの、初仕事で重要な任務なのですから。とにかく頑張るのです!恋愛も!」
「………なんか、よく分からんが、とりあえず励ましてくれてるって事は分かった…、後半のセリフは置いておいて…」
「頑張ってください!アルエンス様!ルーシェ様と上手くいけるようにお祈りしております!」
「マーシャ!?今は流石にそこじゃないだろう!?平和条約が無事結ばれるかだよ!」
「あっ、そうでしたね兄さん」
「全くこの人たちは…………」
アルスは溜息をつくと彼らを見た。だが、嬉しくもあった。この人達らは、俺の味方だ。これは変わらない。自信喪失してる場合じゃない。ルーシェにも言われた通り、俺は俺のやり方でいく。
おさらいすると、ロピアスと和平を結ぼうなど、反対した者は多くいた。長年の宿敵と和平を結ぶのに抵抗があるのは当然だろう。だが予想外な事は、軍部が比較的賛同してくれたという事だ。軍なんて、一番反対されそうだったが、元より昔、父にこの先戦争は極力避けるように言われていたらしい。
軍総指令のイワンがそう言っていた。だからアロイスが皇帝になるのを拒んだのだ。何故ならアロイスは絶対に戦争に持ち込むだろうから。軍は絶対的な信頼をアルスの父、フレーリットに置いていたようだ。今なってはそれが身にしみるほどありがたい。
それにアルスは思った。スヴィエート国民は戦争なんか望んじゃいない。今の生活で不満もあるが、戦争する方が住みにくくなる。物価は上がるし、軍事パレードに参加させられる。自分も生きていた事だし、戦争はする意味がないのだ。
アルスはハウエルとマーシャに見送られ、仲間と合流するために街の入口へ足を進めた。
すると、懐かしい顔があった。シューラだ。ルーシェのいる宿屋の主で彼女からは女将と呼ばれている。アルスの恩人の1人だ。大変お世話になった人物である。
「シューラさん!」
「おや、貴方は。まさか皇帝陛下だったなんて、そうなると以前は失礼致しました」
シューラは深々とお辞儀をしたが、アルスは首を振った。
「いいんです。貴方が無事でなによりでした。ところで、何故ここに?」
「私はあの娘の親だからねぇ。娘を見送りに来たのさ。あの子ったら、すっかり元気そうにしてる。心配してた私がバカみたいだよ。アルスと一緒に行くんだよー、なんて得意気に話してましたよ」
そう少し寂しげな顔で言う。娘が帰ってきたというのに、また行ってしまうのはやはり悲しいのだろう。
「そうですか。シューラさん、あの。彼女の力の事なんですが、俺は見ていない、ということで」
アルスが言っていることは、彼女の治癒術の能力の事だ。
「え、あっ、み、見逃してくださるのですか…?」
シューラは驚いた。しかし、少々予想もしていた。ルーシェがアルスの事を話している時点で察していたのだ。
「ええ、俺は別に治癒術を研究したいわけでも、気味悪がるわけでもないですから。純粋に、彼女が必要なんです。あ、も、勿論力の事ですよ?」
アルスは安心させるように微笑みを浮かべた。
「そうですか。そいつは有難い限りです。あの子を、よろしくお願いします。どうやら皆と旅するのが嬉しいみたいで。さっきまで旅の話を嬉しそうにしてましたよ」
「ええ、分かってます。ルーシェは、必ず俺が守ります」
「有り難きお言葉です。ルーシェは街の入り口にいます。お仲間さんも、そこに」
どうやらルーシェは一旦シューラの元へ顔を出したらしい。彼女と会話を終え、アルスは皆と合流する事にした。