テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
戴冠式の式典が終わり、街のパレードも終わった後、アルスはとある城の部屋にサーチスやアロイス、そしてハウエルを招き、今まで経緯を手短にだが話した。
「そんな、事があったのですか……!いやしかし、本当に無事でなによりでした」
ハウエルはアルスの暗殺事件の経緯を聞き、気もを冷やしたがその話を聞きホッと胸をなでおろした。
「ふーん……、槍を持った暗殺者、ねぇ……?」
アロイスはさも興味がなさげに、頬ずえを机につきだるそうにその話を聞く。
「……、その男はベクターと名乗った。そして……」
アルスはそこで口ごもった。
「そして、何です?アルス」
サーチスの睨むような横目に耐えられず、アルスは言った。
「俺の事を" アルス" 言った」
「はぁ?それが何?」
アロイスは腕をやれやれとさせ、訳がわからないと言った様子だ。
「分からないか?俺の名前はアルエンス、お前はアードロイス。アルス、アロイスと、あだ名がある。でもこれは、ごく親しい者の間でしか使われないもの、知らないものだ。ここにいる皇族という身分、それから世話係のハウエルは知っている」
「そ、それってつまり……!」
ハウエルがゴクリと唾を飲み込んだ。しかし、彼のような身分ではこれ以上発言してはならない領域だった。
「オイオイ、まさか、僕達を疑っているのかい!?」
アロイスは「冗談じゃない!」と、机をバンッと両手で叩き立ち上がった。
「アロイス、やめなさい。そのような、はしたない行為」
サーチスが興奮するアロイスをなだめる。彼女は至って冷静だ。
「でも母上……!」
「アルス、疑うのは良い事です。皇帝候補殺人未遂の犯人を探すのは、当たり前のことですからね。ですが、アルスという名前を知っているだけで私達を疑うのは、尚早ではなくて?」
「そうだよ!!そうゆうのは、証拠を集めてから言えってんだ!!」
アロイスは母に続き、まくし立てるように言う。アルスは鼻を鳴らし、
「そんなに大声を出すということは、何かを誤魔化そうとしているのか?」
と、言った。アロイスはこめかみをピクリとさせた。
「何だ、図星か?お前が皇帝という地位に立つためには、第一皇位継承者の俺を消せばすむ話だ」
「っお前………!!」
アロイスはアルスに掴みかかった。サーチスも思わず立ち上がり制止をかけた。
「アロイス!おやめなさい!」
「何だ、俺は間違った事を言っているか?こんなもの、俺の事をある程度調査して知っている人間、俺に恨みを持つ人間なら、誰もが考えそうな発想だ。勘違いするなよ?いいか、これはあくまで憶測だ」
アルスはアロイスをキッと睨みつけ、首元を掴んでいる彼の手をバッと両手で掴み下ろす。
「俺は何もお前とは決めつけてない、俺の思う所、恐らく……リザーガだ」
「……リザーカ?」
少し落ち着いたアロイスは不満げに聞き返す。
「この件と他の件についても重役達とも話す。そろそろ集まっている事だろう。会議室へ行くぞ」
「他の件?何いきなり?会議室で何を話すんだよ?」
「これからのスヴィエートという国の方針についてだ」
「方針……?それは具体的にどういった……?今日話さないといけないものなのですか?」
サーチスはメガネをクイッとあげ、アルスに問う。
「ええ、そうです。とにかく、具体的な内容は会議室で話します」
「ロピアスと平和条約っ!?」
重役達が集まる会議室の中、アロイスはそこに響きわたる大きな声で聞き返した。そして、口角を上げ馬鹿にしたような笑いを見せる。
「お前さぁ、何言ってんの?ロピアスと平和条約なんて結べるわけないだろ。もう開戦間近だぞ?」
「戦争をする意味はない」
アルスはハッキリとそう言った。会議室は静寂に包まれる。
「た、確かに、アルエンス様は生きておられた。今の状況からするとロピアスが戦争をしたがっている、というようなものだ」
スヴィエート軍総指令のイワンが言った。彼は軍人だが戦争を好まないというこの御時世にはとても珍しい考えを持ち、なおかつアルスに協力的だ。これは付き合いが長く絶大な信頼を寄せていた父、フレーリットの影響だ。父は軍関係者と良好な関係をを築いていた。それが今、効を奏しているのだろう。
「ではどうすると言うのです!?陛下は、むざむざロピアスが侵攻してくるのを見守れと申すのですか!」
元老院代表のエディウスは言った。彼の立場は元老院。皇帝の助言機関、と言えば聞こえはいいがアルスにとっては、所詮命令したがりと奴らや私利私欲を満たすために集まる場合が多いという印象だ。無論、全員がそうなわけではないが。
「落ち着け。俺は何も無抵抗にやられるのを見過ごせと言っているわけじゃない。その為の平和条約だ」
アルスの言い分を聞くと、サーチスが口を開いた。
「ロピアスと、平和条約を結ぶということは、この国にとっての前代未聞です。何と言ってもロピアスは我がスヴィエート帝国の長年の宿敵。あちらも当然そう思っているでしょうね」
「その通りです。サーチス叔母様。ですが、今戦争すればリザーガの思い通りになってしまうのです」
アルスはリザーガ、というのを強調して言った。
「リザーガ、先程も聞きましたわね」
「私は初耳です、何でしょうかリザーガとは?」
「私も聞いたことがない」
エディウスとイワンは聞いた。アルスはまた重役達に手短に経緯を話した。
「元々俺が行方不明になったのは、出張に行く途中で刺客に襲われたからだ。護衛は全員殺され、刺客の奴と戦闘になったんだ。俺はなんとか乗り切ろうとしたが相打ちになった。重傷を負いながらも自力で街に戻ったんだが、意識が朦朧としてそのまま倒れた。その後、貧民街の住民が俺を発見して介抱してくれた。それまでは良かった。それで城に帰るつもりだった。だけどその家に何者かが押しかけてきたんだ。そいつらは、スヴィエート軍の格好をしていた。だが今日確認をとらせた所、その日に出動した軍人は金で買われたリザーガ組織の手先だった。今は行方をくらませているそうだ。そして、その後ロピアスで起きた鉄道爆破事件も、リザーガによる工作活動だった。もうここまで言えば分かるな?」
彼等はゴクリと唾を飲みこんだ。
「つまり、そのリザーガという組織に我々は踊らさていたと?」
「そうゆうことだ」
「なんという事だ……」
「それに、スヴィエートは戦争が始まったら頼るのはアジェスしかいない。それはロピアスも同じだ。奴等はアジェスに組織を派遣させている。戦争が始まった途端、戦争に不可欠な物資を売りさばくつもりだろう。その資金が何に使われるかは、俺もまだ分からないが、ろくな事にならないのは目に見える」
「アジェスの特需貿易の恩恵を一身に受けると言う魂胆か!」
「そうなる」
アルスは腕組をして言った。
「な、なるほど…。確かにそれは腑に落ちませんね。偉大なるスヴィエート帝国がそのような羞恥を晒すわけには行きませぬ」
エディウスは頭を悩ませながらも言った。
「私も同意見であります。私達スヴィエート軍は陛下の物であります。ならば、命令に従うまでの事」
イワンはアルスに敬礼した。軍の最高権限は皇帝であるアルスにあるのだ。
「ありがとうイワン。そう言ってくれると心強い。助かった」
「勿体無きお言葉……」
「チッ……。何だよソレ……」
目の敵にしているアルスに皆同調している。これでは面白くはない。イラついたアロイスは貧乏ゆすりをした。
「アロイス……」
苛立ちが目に見えて現れ始めたのを見て、サーチスは注意をする。サーチスはふぅっと息をつくと、
「私は構いません。所詮何を言ったって皇帝陛下の御心のままに従うしかないのです我々は。ただ、その平和条約のやり方。と言いますか。そんな簡単に受け入れてくれるものでしょうかね?」
と、言った。
「その点については、考えています。俺の仲間…、いえ、俺の連れにロダリアという方がいます」
「ロダリア…?」
サーチスはピクッと反応を示した。
「ええ、彼女はいわゆるロピアス王国の情報機関の重役という立場だと、俺は予想しています。無論、本人に聞いたわけではありません、憶測です」
「はぁ?まーた証拠もなしに?デタラメいうなよ」
アロイスが突っかかった。
「一応それらしき証拠はある……と思うが、説明が長くなるのでここでは割愛する。とりあえず短くまとめると、彼女はロピアスの鉄道爆破事件の調査を国から直々に依頼されていた。そんな芸当、余程の立場でないと任されないだろう」
「ふーん……。情報機関ね。ねぇそれってさぁ" ハイドディレ" ?」
アロイスは目を細めてにやりと笑う。
「そう、ハイドディレ……。ロピアス王家直属の情報機関だ。機密に情報を管理、またはある情報を探る組織だ」
アルスの説明が入りサーチスが続けた。
「第2次世界大戦時にスヴィエートは、先代フレーリット様の命令でそこにスパイを送った事がありましたわね。そこで有益な情報をたっぷりと横流しにさせてもらったらしいですわ」
サーチスは誇らしげに言った。
「し、しかし、そのお方がハイドディレだとしたら、大物だなそれは…!」
イワンがうなった。
(でも、仮にハイドディレ所属なら何故彼女はあのような娯楽施設の漆黒の翼等に入っているんだ…?しかもなかなかに上の立場だった。いくらカモフラージュだとしてもやりすぎではないのか?)
アルスはそこで一番に思う疑問を自問自答する。
ダメだ、読めない。彼女は一切自分の事は喋らない。喋ったとしても大体は嘘である。それに聞いたとしても、またはぐらかされるだろう。
「彼女と一緒だった俺は、彼女にコネが出来たということだ。彼女を捕虜にして、無理矢理にでもロピアス代表と話をする」
「あー、なるほど。ふん、奴らの足元見るってわけか?」
「人聞きの悪いことを言うな。あくまでも、俺は彼女とのコネを利用させてもらうまでだ」
「もし僕が皇帝だったら彼女を拷問でもかけて何が何でも機密情報引き出すどね。その後処分して、そうしたらスヴィエート超有利じゃん。その引き出した情報を使ってさ、脅しにかけて平和条約結ばせるのっていうね」
アロイスはニヤリと笑った。
「………、それも、考えたけどな。だがそれは脅しだ。脅しによって結ばれた平和条約など、それはもう平和は保証されないだろう」
「甘いな、外交ってものはそれ程したたかにいかないと。先代がそうだっただろ?あの外道政策、お前も知ってるだろ」
「俺と父は関係ない」
アルスはきっぱりと言った。
「あっそ、まぁいいけど」
アロイスは頬杖をつきぷいっとそっぽを向いた。
「それに、彼女に拷問など………」
正直言ってしたくないのが本音だ。
しかし彼女は、仲間?
それとも────
(リザーガめ………!今思い返せば、あのカヤの件もリザーガと繋がっているのかもしれない!だからアジェス政府は盗賊団という存在を黙認していたんだ。特需政治の甘い蜜を吸う仲間同士として。アジェスのトップと盗賊団が繋がっていたと仮定すればおかしな話ではない!)
アルスは廊下をズンズンと歩いていった。その頭の中では思考が駆け巡る。
しかし儲けたとしたら、そのお金で、一体どうする気だったのか。アルスには今だ分からない。だがこれだけは言える。
(あんな連中に操られてはたまるか。世の中を裏で操作する暗い影、リザーガ…。そんな組織の思い通りにはさせない。絶対にだ!)
アルスは窓の前に立ち止まり、そこから空を見上げて誓った。外はすっかり夜になっていた。しかしスヴィエート特有の明るい月明かりが窓の外からアルスを照らす。
皇帝として他の用事も沢山あるが、鶴の一声と言うのだろうか。
「仲間達と会いたい」
アルスは会議室に行く前にハウエルにそう言っていた。彼はきちんと手配してくれたようだ。
「皆!!」
「おわっ、アルス!?」
仲間達はと言うと、ハウエルに収集され、案内された部屋で待機していた。各々休憩ししばらく待っていると、慌ただしくアルスが部屋に入ってきた。ガットは扉近くの壁に寄りかかっていた為、思わぬ音にびっくりする。
「いやーアルス君!すごいヨ!いや、陛下って呼んだ方がいいのカナ?」
「そんな堅苦しい呼び方はやめてくれ。今まで通りでいい。それより皆、すまなかった。俺も正直言っていきなり過ぎて驚いていたんだ」
「まぁ、その割にはとても素晴らしかったですわよ?」
「ああいうイベントは順序が決まってる。一度覚えてしまえばそれで終わりだ」
アルスは少し照れながら言った。
「それより、いいんですか?僕達なんかと会って、貴方は皇帝陛下なんでしょう?」
ノインはフィルとポーカーをしていたようで、カードを片手に話しかけた。
「いいんだ。それに好都合だ。皇帝になったなら戦争を止められる。元々俺の勝手な死亡報告が原因になった為でもある。俺が本国に帰らなかったからだ、だから責任はきちんととる所存だ」
「そこだ、なあアルス。お前何で俺らと一緒にいたんだよ?スヴィエートのお偉いさんがなんでロピアス観光紛いな事なんか。それにルーシェも」
「実は…」
アルスは経緯について全てを話した。
「フーン、そんな大変だったのか、ルーシェは。まぁ治癒術使えるのは知ってたけど、小生にとって別に大したことではなかったぞ」
「まぁ、あなたはまだ幼いですからね。治癒術師についてあまり詳しく現状を知らないというのが事実ですわ」
皆旅の途中、ルーシェが治癒術を使える事は知っていた。それについては事情を話し、黙認の仲だった。
「フン、お前が皇帝になった所で小生の態度は変わらん。変わるとでも思ったか?思っただろう!?だが残念だったな!」
あっかんべー、とフィルはアルスに向けて舌を向けた。
「別に期待していないぞ、ガキめ」
「何ィ!?」
「まぁまぁ2人共!落ち着いて!」
ルーシェに押さえられ、アルスは咳払いをする。
「ゴホン、…そこで、俺はまたロピアスに向かう。今度はスヴィエートの皇帝として正式に、だ。あちらの国の代表とリザーガの存在についても話し合いたい」
「ふーん。で?何で俺らにそれを言いに来たの?ただの状況報告?」
ガットが言った。
「……、それは、その、俺が…、お前らと別れたくはないというか……。折角仲間が出来た、のに………」
アルスは目を逸らし、頬をかいた。若干その頬は赤く染まっている。
「ん?それってボク達とお別れしたくないってコト?」
ラオが言った。図星だった。だが変なプライドのせいか思ってもないことを言ってしまう。
「馬鹿!勘違いするな!護衛としてつ、付き合って、つ、付き合わせてもいい、って事だ!」
「へー、何それ!大将も可愛い事言うじゃんかー!仲間意識って奴?なぁなぁ」
ガットはからかう様にアルスをニヤニヤと見つめた。
「う、うるさい…!」
「何それツンデレですか貴方?僕は野郎のツンデレはいらないです。まぁつまり、素直についてきて欲しいって事ですよね?」
ノインは持っていたカードをシャッフルしやがら言った。
「えー、メンドー」
フィルはジト目でアルスを睨み付けた。
「あら、良いではないですか。うふふ、スヴィエート皇帝陛下とコネを持つ事が出来るなんて夢にも思いませんでしたわ。乗りますわ、私。貴方様の護衛とやらに」
「えー!!マジか師匠!?」
「マジですわ、嫌なら漆黒の翼に戻ってもいいのですわよ?」
「ヤダー!!」
フィルはぶんぶんと首を振った。、
「まぁ僕も、ぶっちゃけカジノ戻っても何早々に戻ってきてんねん!?お前アホちゃうか!いや、アホやな!ついていけや、アホンダラ!!とか言われそうなので」
ノインはカイラの声真似をして言った。かなり似ている。アルスは寒気が走った。
「俺もー、それにコネとして、万屋の仕事がスヴィエート皇帝陛下のお墨付きってなれば客増えるだろうし。つか第一まだロダリアの氷石の依頼終わってないしな。アルスの権力使えば楽だろうし、それにルーシェの短刀だってまだ見つかってないし、あれだ、カヤ探さねーと」
「ボクはアルスに着いて行くヨー!暇だし。現代に居場所ないし。ボクの居場所はもうここだヨ。だからありがたいネ、アルスと一緒にいれるのは」
「わ、私は……」
仲間達が次々と決断していく中、ルーシェ1人はまだ決められず迷っていた。戴冠式の時からずっと思っていた事が、決断の邪魔している。
(私は、どうすればいいの?)
顔を俯かせそう迷っている中、アルスは優しくルーシェに声をかけた。
「ルーシェも、俺と一緒に来てくれないか?」
「…え?」
ルーシェは顔をあげてアルスを見た。
「まだルーシェの短刀を取り戻していない。それに君を巻き込んだのは俺だ」
「そんな、違う!私の、私の力のせいでアルスは!あの時アルスを巻き込んでしまったのは私のせいでもあるの!それにアルスは皇帝…!私の…、この力は…っ!ごめんなさい!!!」
「っルーシェ!?」
ルーシェは堪らず部屋から飛び出した。彼は優しかった。こんな自分の為に、あんな短刀なんかの為に。私にとっては形見だが、彼にとってはただの貧民のみすぼらしい短刀にしか思えないはずなのに。その優しさに耐えきれず、言いたい事がいっぱいいっぱいになり、アルスの声を背に、行く宛もなく衝動的に走り出した。
(何で、こんな力を持って生まれてしまったの?力さえ無かったら、私は自由で…、彼を巻き込むことなく、私は普通の生活を────)
ルーシェは首を振った。
(ああ、でも。この力がなかったら、きっとアルスの事を助けられなかった、アルスと出会わなかった、仲間達とのあの楽しい旅もきっと────!)
そんな複雑な思いがルーシェの心に渦巻いていた。