テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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風とカジノの海洋都市 ラメント

「うわぁー、見てあの景色!綺麗!」

 

ルーシェは駅を出た途端、感嘆の声を漏らした。爽やかな風を受け回る風車、綺麗な海、そして華やかな装飾を彩る建物。まさにリゾート地。アジェスのヨウシャンから、アルス達はまたロピアスに戻り、港町のラメントに来ていた。

 

「ラメントは急峻なシルフィス海岸に面して築かれた街です。リゾート地として有名ですわ」

 

「へぇー、綺麗な街だネェ。老後はのんびりとこんなところで住みたいヨ」

 

「お前に老後なんてあんのか?」

 

「黙れ脳筋」

 

「はぁ!?脳筋!?」

 

ガットとラオが何やら言い合っている。あの2人はどうも犬猿の仲らしい。

 

「駅から出て東がカジノだ、行くぞ!」

 

元気よくフィルが走り出した。が、

 

「そっちは西だ」

 

と、アルスが言うとフィルは固まった。

 

「う、うるさい!ちょっと寄り道していこうかと思っただけだ!こっちか!」

 

「というか、何故カジノなんだ?まさか遊ぶわけないよな?」

 

「ちっがう!ノインがいるの!ノインはここに住んでるから会いに行くのだ!」

 

「ノイン?えっと…、いまいち話が見えないんだけど…」

 

ルーシェが苦笑いをするとロダリアのフォローが入った。

 

「つまり、ノインに話を聞けば船が出るかどうかも分かる、ということでは?」

 

「そうそう!それそれ!でも久し振りにノインに会いたいってのもホンネだ!」

 

「ノインって、誰?どんな人?」

 

「小生の兄のような存在で兄弟のように思っている。奴には色々と世話になった」

 

「へぇー、でもそれなら何で一緒にサーカスで働かないの?」

 

「アイツは目立ちたがらない。表情も乏しいしどちらかと言うと裏方だった。でもある日カイラっていう人に才能を見いだされてスカウトされたんだ。カジノに」

 

「カイラァ!?」

 

アルスは思わず声を荒らげた。

 

「何だ、知っているのか?」

 

アルスにとって会いたくない人物の一人だった。

 

「へぇー、カイラさんカジノで働いてるんだ!久し振りに会いたいなぁ!」

 

「俺は会いたくない…」

 

あの無理矢理ペースを自分のものにし、マシンガントークで畳み掛ける。流れに流され、おまけにすかした顔、とまで言われ、アルスはもはやあの口調を聞いただけで鳥肌がたつぐらいだ。

 

 

 

ラメントカジノは華やかな光で包まれ賑やかであった。スロットが回る音、人々の雑談。アルスの正直な感想はうるさい、であった。ガタン!!と、更なるうるさい音が聞こえた。

 

「…?」

 

アルスはその音の方を見た。

 

「なぁっ!?嘘だろ!!?」

 

見ると、その客の男性が立ち上がり大きな音を立てたのだと分かった。何故なら彼の後ろに椅子が倒れているからだ。

 

「残念でしたね、お客様。チップは全て没収です♪」

 

「ああ!待った!頼む!」

 

「待ったはなし!負けは負け」

 

「俺のチップがぁぁぁあああ!!」

 

カジノテーブルを挟んで髭を生やした男性とカジノディーラーと思われる青年がいる。彼は咥えていたキセルを吹かし、ご機嫌そうにチップを長い棒のようなものでズリズリと引きずり自分の陣地へ入れた。

 

「いっ、イカサマだ!この野郎!」

 

髭の男性は逆上し、バンっとテーブルを強く両手で叩き立ち上がり指を青年に突きつけた。

 

「おやおや、貴族の紳士様がなんて様ですか。証拠はあるんですか?」

 

「おかしいだろ!?こんな、こんなに私が負けるなんて…!」

 

「言いがかりはやめて下さい?お客様?」

 

青年は平静を保ち軽く受け流している。この手の客に慣れているのだろう。

 

「貴様…!」

 

髭の男は拳を振りかざし、青年に殴りかろうとする──────!

 

「…………!?」

 

「困ります、他のお客様の迷惑になるような行動は…」

 

青年は先程のチップをたぐり寄せた棒で髭の男の喉元ギリギリに突きつけた。一瞬の出来事だった。男はあっけにとられ静止している。

 

「なんやなんや?何の騒ぎや!?」

 

そこにカイラがどこからもなくやって来た。アルスは反射的に身構えてしまった。

 

「店長。このお客様をお願いします」

 

うんざり、と言った様子でキセルをまた口から離し、煙を吐いた。見たところ愛用品で、ヘビースモーカーらしい。

 

「ああ、いつものか。アンタんとこはホンマ多いなぁ」

 

カイラはため息をつくとパチン、と指を鳴らした。すると黒いスーツ姿で体格のいい男性がゾロゾロとやって来て髭の男性の両腕を掴んだ。

 

「おい、貴様!何をしている!?私はわざわざフォルクスから来た貴族ぞ!?身分を考えろ!えぇい汚い手で触るな!」

 

「ここではそんなルール通じへんわ。脅しにもならへん。カジノではカジノのルールがあるんや、ほなな」

 

男はカジノから摘まみ出された。事が終わると、フィル唐突は走り出した。

 

「ノイン!!」

 

フィルはその青年に抱きついた。

 

「わっ、フィル!久し振りですね!」

 

フィルを受け止めた拍子に、三つ編みの長く銀色の髪が揺れる。黄緑色の瞳、右目にはモノクルをかけている。シンプルな格好だったが一番奇抜で目がひきつけられたのが何故か左足だけ下駄を履いているということだ。

 

「皆の衆!紹介しよう!こいつがノインだ!」

 

「フィル?誰ですかこの人達は」

 

アルス達もノインの側へ移動した。

 

「小生の仲間達だ。師匠もいる」

 

「仲間…?新しいサーカスのメンバーですか?」

 

「いや、そうではないのだ。実は…」

 

 

 

フィルはあらかたノインに説明をした。

 

「ふーん…、戦争ねぇ…。そういえばそんな話を小耳にはさみました。ああ、だから最近お客が減っているのか…」

 

「で、戦争を止めるため、トーホン、セイソーしているのだ。そこで、ノインの力を借りたい」

 

「いやいや待ってくださいフィル、僕が何を出来るって言うんですか」

 

「スヴィエート行きの船がここにあると聞いた」

 

アルスはノインに話しかけた。

 

「おっと、貴方が…」

 

ノインは口を開きかけたがアルスがそれを制した。

 

「…、ここじゃ人が多すぎる。どこか静かに話せるところはないのか?」

 

「ああ、店長に聞いてみましょう、ちょっと待ってくださいね」

 

ノインに連れられ、カジノの裏に来たアルス達。ノインは何か閃き手を叩いた。

 

「まぁ、まずは自己紹介からしましょうか。名前が分からないと不便ですし」

 

「そうだな、小生もそう思っていたところだ」

 

「僕はノイン。このカジノでディーラーをしています」

 

「よろしく。俺がアルエンス・フレーリット・レックス・スヴィエートだ。分かると思うがスヴィエート帝国皇族だ。フィルから聞いたと思うが」

 

「わぁ、すごいですねぇ。そんな人に会えるなんて。なんと呼んでいいのか」

 

「アルスでいい。話し方も普通でいい」

 

アルスは少し引っ掛かる事があった。

 

(この男、どこかで見たことあるような……?)

 

アルスはそれ以上思い出せなかった。しかし、つい最近会ったような気がする。この丁寧な口調と言い、お人好しなんだか、そうでないんだか、でもいい人そうで悪い人ではなさそうな、そんな印象もまた誰かに似ているような…。

 

「そうですか、では他の方々も」

 

「おう、俺はガット・メイスン。万屋で、今はロダリアに雇われているようなもんだな」

 

「私はルーシェ・アンジェリーク」

 

「僕ラオだヨー」

 

「久し振りですわね、ノイン」

 

最後にロダリアが挨拶を交わした。どうやら二人は知り合いのようだ。恐らく漆黒の翼絡みだからだろう。

 

「で、船だっけ?確かにあるっちゃあるけど…、それら殆どがスヴィエート人貴族のプライベートシップですね。ま、ここは戦後の影響でスヴィエート人はよくバカンスとして来るし、それが収入にもなっているからなんとも言えませんが…。船はもう出払ったのではないかと…」

 

「えー!!ノイン!なんとかならないのか!?」

 

フィルがノインの足をバンバンと叩く。

 

「無茶言わないで下さいよ、もうすぐ戦争が始まるってときに敵国にいるわけにもいかないでしょう。もう皆帰っちゃってますよ。お客の具合からして」

 

「そ、そんな…。ここが最後の希望だったのに…」

 

ルーシェはがっくりと肩を落とした。

 

「その話!聞いたで!?」

 

と、またどこからもなくカイラが現れた。

 

「っ店長!?いつから!?」

 

「結構前からや!なんやアンタら、よう見たら知ってる顔もある。あれやろ?アタシの依頼を受けてくれた心やさしゅーやっちゃ!」

 

「アンタが無理矢理受けさせたんだろ…」

 

ガットがげっそりした表情で言った。

 

「アンタ、スヴィエートの皇子やったんやな?ほえー、世界は狭いなぁ」

 

「そこまで聞いていたのか…」

 

「そこでや!恩を売っておくのも悪くな…ゲフンゲフン!んん!ああちゃうちゃう、依頼受けてくれたお礼として船をだしたる!」

 

(絶対嘘だ…、恩売りのため

だこの人……)

 

「え、店長、そんなことが可能なんですか?」

 

「誰に向こて聞いてるん自分。アタシはこのカジノの支配人やで?コネはいくらでもあるわ!」

 

「ホントですか!カイラさん!」

 

ルーシェは輝いた目で彼女の手を握った。

 

「ホンマホンマ!ほな話つけてくるから港で待っててくれるかー?」

 

「ありがとうございます、カイラさん。ええ、恩に着ます」

 

わざとらしく最後の言葉を強調しめアルスは別れを告げた。

 

 

 

「ノイン、アンタ。あいつらと一緒に行き」

 

裏方に残っていた2人がまだ話していた。

 

「え?何言ってるんですか?店長。僕はディーラーですよ?しかも凄腕の」

 

ノインは胸を張って言った。

 

「自分でゆうなや。前話したやろ、アレやアレ。鉄道!」

 

「ああー、なるほど……」

 

ノインは彼女の言いたいことを悟ったようだ。

 

「そうや、あいつを監視しとき、これは店長命令や!」

 

「…、分かりました。まぁ理由はテキトーに誤魔化しておきます」

 

「おう、フィルの保護者だとか、そんなんでええやろ、しっかりやれよ?」

 

「はい、では行ってまいります」

 

そしてノインもステラと別れると、カジノの裏口を通って外に出た。


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