テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
こんなことになっているなんて。今、歴史はこんなにも大きく動いている。
ユラと別れ、アルスは船から降りた。数日ぶりのヨウシャンは変わっていた。ザワザワと人々は落ち着きがない。船着場から中央広場にでると空には桜の花弁以外のものが散っていた。地面に落ちているそれは紙だった。何かのビラのようだ。
「何だこれ?」
ガットはそれを拾い上げると読みはじめた。
「えー、何々。いよいよ戦争勃発か、スヴィエート帝国第一皇位継承者アルエンス皇子がロピアス人の刺客に殺される事件が発生。両国の緊張は最大限に高まる。我がアジェス皇国は中立を貫くとし、国民の安全を保証する。既に両国との交渉は済み、特需経済の発展の礎となるか」
ビラに書いてあるスヴィエート帝国アルエンス皇子。それは他でもないアルスの事である。
「それって…」
ルーシェも少し反応した。
「うわ、マジかよ」
ガットは参った様子でビラをヒラヒラと振った。
「戦争なんてシャレになんねぇぞ、万屋の仕事どころじゃねえ」
「ええ、マズイですわね。まだ氷石を取り返せていませんもの」
「戦争が起きると何かマズイのか?師匠」
「国境が閉鎖されてロピアスに帰れなくなります」
「えー!!」
ルーシェが小声でアルスに話しかけた。
「ねぇ、あれってアルスの事だよね?どうして死んだ事になってるの?」
「いや、今まで隠されてきたんだろう、恐らくリザーガの手によってな。情報公開のタイミングをはかっていたんだろう」
「そんな…、アルスは生きているのに…」
「アジェスはリザーガの影響がどうやら強いようだ…。スヴィエートやロピアスはそんな様子はなかったんだが…」
戦争が始まればますます国に帰ることが困難になる。ルーシェをこのまま危険に晒すわけにはいかない。だが、形見のナイフはどうする?自分はアジェスの地理に詳しくない。シャーリン、ヨウシャンと来てまだ行ってないところがあるのは明白だが、いかんせん今はナイフを探している暇ではない。戦争勃発なんてしてしまえば探し物をすること事態難しくなるのだ。
「くそっ、こんなことになるなんて…」
アルスは唇を噛んだ。
(そうだ、スヴィエート大使館…。あそこに行けば連絡が着くかもしれない!)
アルスは走り出した。
「おい!どこ行くんだアルス!」
「何だ?突拍子のない男だな」
「彼があのような行動をするのは余程のことですわ、とにかく追ってみましょう」
スヴィエート大使館前。そこにアルスの期待した事は起こらなかった。
「何で警備員の1人や2人もいないんだ…?」
大使館の前には虚しく自国の旗が揺らめいているだけ。アルスは通りがかった男性に声をかけられた。
「何だぁ兄ちゃん。そこはもうもぬけの殻だぜ?」
「えっ。どうしてですか!?」
「どうしてって、当たり前だろ。戦争が始まるんだから。本国から帰還命令が来たんだろ。もう必要なことは済ませてさっさと帰っちまったんだろうよ。ロピアスの奴だってそうだ」
「そんな…」
男性は不思議そうにアルスを見ると去っていった。一体どうすればいい?スヴィエート直通の船なんてアジェスにはない。貨物船に密航したとしてもスターナー貿易島で必ず厳密な検査が行われる。そもそも、スヴィエートに来る人間なんて余程の物好きだ。特別な旅券が必要だし、例え来ても観光客など微塵もいない。そこに後から追ってきた他のメンバーがやって来た。
「オーイ、アルス!どったの?いきなり駆け出しちゃって〜」
「ラオ…。俺は…。どうすれば…」
「ン?なんか言った?」
「おいコラ!アルス!何のためにここに来たんだ!小生を無駄に走らせた罪は重いぞ!」
「ここは、スヴィエート大使館…?」
ロダリアが畳んだ扇子を額に当て空を仰いだ。
「ああ、だが大使はすでに帰国したそうだ…」
「んで?大将は何のためにここにきたんだ?」
「あ、それは…」
ルーシェは口をつぐんだ。ルーシェは横目でアルスを見た。もう、バラすしかない。アルスは重い口を開いた。
「ここに来た理由、それは戦争を止める為だ」
「はぁ?そんな簡単に戦争止められたら苦労しねーよ」
ガットは「何言ってんだ」と、手をひらひらさせた。
「ビラには、スヴィエート帝国第一皇位継承者が殺されたから、戦争が始まりそうだと書いてあったが、あれには間違いがある」
「エ?どうゆうこと?」
ラオが聞き返すと、アルスはふーっ、と長いため息をつくと
「スヴィエート帝国、第一皇位継承者は他でもない、俺だからだ」
「はぁ!?」
「マージデ?」
「ナニーーー!?」
「やはり…」
「アルス…」
ロダリアだけは落ち着いた反応だった。それ以外は普通に驚いていた。
「おい、マジかよ。そりゃちょっとはこいつ只者じゃないなって思ってたがまさかのスヴィエートの皇子とはね…。あれ?俺不敬罪やばくね?」
「おい!嘘をついているなキサマッ!小生は騙されんぞ!」
「まぁ、疑いたい気持ちは十分に分かるけどな。ビラをもう一度見てみろフィル」
「あ?」
フィルはビラを取り出した。
「…?」
意味がわからないようで、顔をしかめる。
「よく読め。アルエンス皇子と書かれているだろう」
「だから何だ?」
「俺の名前は?」
アルスは自分を指さした。
「アルス……。あーーー!!!」
フィルはビラを強く握りしめアルスとビラを交互に見た。
「アルエンス・フレーリット・レックス・スヴィエート。これが俺の本名だ」
「えええええ!?!?嘘!!なっ、こんなことって。えええええ!?」
フィルは混乱し頭を抱える。
「フレーリット…?なんか
どっかで聞いたような…」
「まぁ、そんなお偉い方だったなんて…。私も混乱してしまいますわ」
ロダリアはわざとらしく手を額に当ておどける。
「…、ロダリアさんは気づいていたのでは?」
「私が?まさか!そんなはずありませんわ」
アルスは少し腑に落ちないが結局聞いたところでまた誤魔化されるので諦めた。
「ルーシェは知っていたのか?」
フィルが尋ねた。
「う、うん…。私もスヴィエート出身だしね…。でもスヴィエートの人全員がアルスの顔を知ってる訳じゃないよ?初めて会った時は分からなかったし…」
「そ、そんな…。ルーシェ…」
「ごめんね、フィルちゃん。でもこれってホントに凄く秘密なことだから…」
「なるほど?だから大使館に来たわけね。自分が生きている事を伝えに」
「そうしたかったけど、大使がいなかった。とゆうことネ…」
「そうだ、俺が生きている以上、戦争する意味はない。ロピアス鉄道爆破の件だってリザーガの仕業となれば、これは陰謀だ。奴等のな」
「でも、これから私たちどうするの?戦争が始まっちゃったら何も出来なくなっちゃうよ…」
「スヴィエートに帰る。これしかない。だが…」
「スヴィエートに帰れんの?今」
ガットが今、という言葉を強調して言った。
「それは…」
「あら、まだ可能性はゼロではありませんわよ?」
ロダリアが言った。一体それはどうゆうことか。
「ロピアスにラメントという街があります。海辺に属していてリゾート地として人気が高いのですが、同時にそこは滞在スヴィエート人が多く集まる場所でもありますわ」
「ラメント!小生知ってるぞ!ノインがいる所だ!」
「ええ、その通りです。スヴィエートに帰国する船があるかもしれませんわ」
「なるほど!それなら…!」
「ええ、スヴィエートに行けるかもしれません」
「やった!ロダリアさん、貴重な情報ありがとうございます!」
「それにかけるしかないか…」
「ラメントはフォルクス中央のポワリオから列車が出ています。まずはまた抜け道の国境を抜けてアンジエに行きましょう」