テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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狂気の刺客

アルスは見送りの軍人に付き添われ、この街オーフェングライスの正門へと向った。少々緊張し、アルスは忘れ物がないか自分の服をまさぐる。二丁拳銃、ある。

懐中時計、ある。

 

アルスは懐中時計を取り出し、時刻を見た。午前10時32分。時を正確に刻んでいた。懐中時計を閉めた。蓋の部分にスヴィエートの紋章がある。両親の形見の品であった。

 

時計を戻し、視線を前に向けた。

 

正門に護衛軍人が10人いた。少数だが、精鋭の磨き抜かれた軍人である。

 

「お待ちしておりました、準備は整いましたか?」         

 

「ああ、出発しよう」

 

アルスはまた不思議に思った。いつもなら馬車なのだが、それがない。

 

「馬車じゃないのか?」

 

「申し訳ありません、只今馬に流行り病が流行しておりまして…。恐れ多いことながら、港、オーフェンジークまで歩きでございます…」

 

(流行り病?そんな噂あったか?)

と不思議に思ったが、

 

「ふーん……、そうなのか。大丈夫だよ、そう遠くないしな。それに、この国にいれば、雪道は嫌でも慣れる」  

 

特に気にせずアルスそう言って少し笑い、軍人のかしこまった態度を少し緩和させた

 

「はは、そうですなアルエンス様!」

 

 

 

一行はオーフェンジークまでの一本道街道を歩いていく。港オーフェンジークとアルスがいた首都オーフェングライスの街道の間に、高く天へと聳え立つグラキエス山がある。

 

「相変わらずこの山は高いな……」

 

アルスは山を見上げ言った。雪に覆われ真っ白なその山はスヴィエートにとって神聖でもあり、厄介ものでもあった。

 

「この山から吹く凍結風(とうけっぷう)は、凍える寒さだ……!」

 

アルスは身を縮めた。グラキエス山から吹くそれはまさに、首都に当たる寒風であり、この極寒を作り出している根源である。

 

「そうですね。ですが、聖域としても有名ですよ」

 

「聖域?」

 

「おとぎ話です。ある男登山に行ったものが不運にも足を滑らせてしまい崖から転落してしまったのです。彼はそのまま気を失いました。眼が覚めたら人間とは思えない肌が白く、澄んだ水色をした美しい顔立ちの女性が隣にいたそうです。不思議な空間に寝かされていた、というなんとも不思議な話ですよ。その女性は精霊セルシウスだと言われています」

 

「へぇ…、精霊が人間を助けたと?」

 

「そうらしいですね。なんでも崖から落ちた時の怪我が手厚く看護されていたようで、治っていたそうです。そして首には見たこともない綺麗な宝石がつけられていたと聞きます。」

 

「宝石?」

 

「ええ、彼は氷の精霊の涙…といったそうですが。本当なのかはまるで分かりません。これは所詮昔から伝わるおとぎ話に近いものですし第一その男性の虚言を信じるのもどうかと、周りの人は口々に言ったそうですよ。まぁ、気持ちは大いにわかりますが。その後の男性の行方はスヴィエート内では確認されていません」

 

「行方不明ということか?」

 

「ええ…まぁ、恐らく」

 

「なんだ、それならもっと信じられない話だな。その精霊の涙というのもただの宝石だろう。男性の話をおとぎ話好きの人が勝手に改変して流したんだろう」

 

「そうですねー。私も全部信じているわけではありません」

 

「精霊なんて非科学的な者、いるんだったら是非会ってみたいよ俺は」

 

「あはは、私もですよ」

 

皮肉交じりに言う。言うまでもなく、もちろんアルスは信じなかった。歩きながら雑談をしてきたがとうとうグラキエス山の登山入口付近の街道まで来た。しかし、そこで護衛兵が一斉に足を止めた。

 

「何だ?どうした?」

 

隊列の中央にいたアルスは状況がつかめず尋ねる。

 

「殿下…これは…」

 

一人の兵が顔を青ざめてアルスに振り返った。

 

「一体どうし…ッ!」

 

アルスは足を進めた。しかし、すぐに止まった。

 

────道に複数の赤い液体が飛び散っていた。それは雪に滲み、銀世界を赤く染め上げている。血だ。一目でわかる。雪で掻き消されていない。これは真新しいものだ。

 

「こ…ッれは…!?」

 

血の跡を眼で辿ってみると何かの死体ごと引きずられたようにグラエキス山まで血が続いている。その跡がひどく生々しく、アルスは口元を押さえる。

 

「一体何が…!?」

 

吐き気が催す。血の気がサーッ引いて行くのを感じた。全身から嫌な汗が吹き出す。

 

「ぎゃぁぁああああああ!!」

 

耳をつんざくような悲鳴がグラキエス山から聞えた。大きくその断末魔は響きわたる。アルスはダメだと思いながらも気にならずにはいられなかった。足と口が勝手に動き出す。

 

「おい!行くぞ!お前らも早く!」

 

「殿下!危険です!!お戻りください!」

 

今の悲鳴はまさに殺された時の断末魔だ。直感で感じた。アルスは血の跡を辿った。まだ生きている人がいるかもしれない、それを助けるためだ、震える手を抑えながら、警戒した。拳銃をいつでも取り出せるようにする。

 

アルスは登山入口まで一気に雪道を走った。

ふと目の前に、人が転がっていた。真っ先にアルスは駆け寄った。

 

「おい!しっかりしろ! 大丈夫か!?」

 

声をかけてみるが返事がない。

 

「死んでる…」

 

「…! 殿下!これは一体…! 魔物の仕業ですか!?」

 

兵士達が追いつき青ざめた顔ぶりで言う。

 

「分からない…。首都に戻る前に生存者がいないか調べろ!」

 

「はっ!」

 

アルスは死体を観察した。格好からして恐らく入口付近の山小屋に駐在していた登山者だろう。

 

「殿下!」

 

顎に手を当て考えていると呼ばれていることに気づいた。

 

「殿下!生存者です!」

 

「何っ!?」

 

ある兵士が横たわっている男性を見つけたようだ。血は流れていない。アルスは安堵の息を漏らし、それに近づく。

 

「おい!聞えるか?もう大丈夫だからな!」

 

それは男だった。その男の容態を確認する。ゴーグル、いやサングラスだろうか?それを掛けているが登山や管理人のような格好とは思えない。ひどく奇抜だ。派手な色のベストに背中には奇妙な飾り羽根。

 

「…?」

 

アルスの顔が少し曇った。アルスは立ち上がり彼の荷物がどこかに転がっていないかと探す。身元が確認できれば、と思ったのだ。

 

────突如、倒れていた男が一気に起き上がり、立った。そして何かを振りかざした。

 

「えっ?」

 

次の瞬間、介抱していた護衛兵の体から血が一気に噴き出す。悲鳴も上げられないまま護衛兵はその場に倒れた。起き上がったその男の手には血が付いた槍が握られている。

 

「なっ!?はっ!?」

 

「見つけた。お前だな」

 

「な……に……!?」

 

「死ね」 

 

槍が一気にこちらに向かって突かれた───!

  


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