テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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ホランの森のゾンビ

一行は盗賊のカヤの行方を追うため首都ヨウシャンを出て、ホランの森に来ていた。

 

空気は相変わらずジメジメしており加えて暗い。この森はアジェス人の墓場と言われており大抵のアジェス人は死んだらここに埋められる。冥界の精霊プルートが魂の浄化を行っている場所、と言われ信じられているからだそうだ。無論、アルスは信じていない。よくある昔話の類いだ、幽霊はいない。そう、思っていた。だがその考えはいとも簡単に崩れた。この後の出来事によって─────。

 

 

 

魔物の声が聞こえる。鳥型魔物のつんざくような鳴き声が森に響いた。気味が悪い。まるで余所者は出ていけと言わんばかりだ。

 

「な、ななな、何の声!?」

 

「落ち着けルーシェ。魔物の鳴き声だよ」

 

「ウフフ、素晴らしいですわねこの雰囲気。まさに心霊スポット…、と言ったところでしょうか?」

 

ヨウシャンを出てこのホランの森に来たわけだが女性陣はもう怖くて堪らないらしい、1人を除く。

 

「フィル、そんなに近づかないで下さい、うっとおしいですわ」

 

「しょ、小生は怖くないぞ!ただあ、足場が悪くて師匠に捕まっているのだ!」

 

「はぐれんなよフィル。迷子になったら死者の世界に引きずり込まれちまうぜ~?」

 

「やめろやめろ!小生を惑わそうったって無駄なローリョクのショウヒだぞ!」

 

「ああ、まったくだ、だが一応道は整備されているようだ」

 

アルスは湿気で暑くて仕方がないのか手を顔に仰ぎながらうんざりと言った。

 

「あっつ……」

 

「そうか?まぁ湿気があるからなアジェスは」

 

「湿気があると汗が蒸発せん…!よくアジェス人は暮らせるな…」

 

「住めば都って言うだろ」

 

そうこう会話をしながら森を抜けるため道なりに進んでいると、

 

「おや?例の場所に来たようですわよ?」

 

ロダリアが指を指した方を見ると墓がある。それもかなりの数だ。

 

「お、ついに墓地ゾーンか」

 

ガットは1つの墓に近づいた。

 

「確か奥地に行くほど古い墓になるんだってな。ここら辺はまだ入ったばっかだからか新しいな」

 

ガットは年号を確かめ、コンコン、と墓を叩いた。

 

「ガット!?バチ当たるよ!?」

 

「おっと失礼~」

 

「な…なんて軽薄な…。小生は呪われても知らんぞ!」

 

「いや、お前の師匠の方がヤベェだろ」

 

「え?」

 

ガットが言うとフィルは振り返った。するとどうだろうか。ロダリアはあろうことか墓に座っていた。

 

「ふぅ、少し疲れましたわ」

 

「ロダリアさん!?なんてことしてるんですか!?」

 

まるで休憩椅子のごとく座る彼女の姿にフィルは絶句した。

 

「師匠!呪われるぞ!」

 

「まぁ、呪いがあるとしたら是非かかってみたいものですわ」

 

「よくもまぁ平然と座れますね…、流石に出来ませんよ…」

 

 

 

墓ゾーンとやらを進んで随分たったがいまだに墓は続いている。

 

「どれだけあるのこの墓達は…」

 

ルーシェが頭をうなだれて呟く。

 

「いや、でももう結構進んできたと思うよ。年号も100年前が多い。墓も古くなってきたし、手入れがされていない墓は掠れて読めないものばかりだ」

 

元気づけるようにアルスはルーシェに言う。

 

「100年前か~。丁度エストケアラインが発生した頃あたりだな」

 

「エストケアラインで死亡した人もいるのでしょうね」

 

「師匠、エストケアラインってなんだ?」

 

「およそ100年前に起きた天災の事ですよ。天から無数の光が降り注いだと言われています。エストケアラインの影響でかなりの技術が進歩したのです。ま、大地が分割され領土問題やエヴィの恩恵競争が発生して戦争も起こりましたがね」

 

「戦争…?」

 

「そのうちまた教えてあげます。ここで話すことではありません」

 

ロダリアはチラリとアルスを見るとそうフィルに言った。恐らく自分やルーシェはスヴィエート人だとバレている、アルスはそう悟った。ロピアスとスヴィエートの間柄、戦争の話はご法度である。ロダリアもそこを配慮したのだろう。

 

「何だ、結局オバケ出てこねぇじゃねぇかー。残念だなぁ~」

 

「出なくていい!出てこなくて安心なの!も~」

 

「私も少々楽しみにしていたのですが、出てきませんでしたね、ガッカリですわ」

 

「師匠、オバケと会ってもいいことないぞ!」

 

「ハァ、賑やかだからオバケも呆れたんじゃないか?」

 

アルスは横目で皆を見るとため息をついた。と、あるみすぼらしい古い墓を通過したアルスは途端鋭い頭痛に襲われた。

 

「うッ!?」

 

アルスは頭痛に耐えきれず座り込んだ。

 

「アルス!どうしたの!?大丈夫?」

 

慌ててルーシェが駆け寄った。

 

「呪いか!?」

 

「マジで!?」

 

「あらまぁ」

 

(くそっ!なんだこれ…!?頭が割れそうだ…!!)

 

「痛いの?治癒できるか試してみるね!」

 

ルーシェはアルスの頭に手をかざして治癒術をかける。だがアルスの頭痛は痛みを増すばかりだった。

 

(何か、吸い取られてるみたいだ……!)

 

頭だけでなく、体中が痛み出した。ルーシェの術など、まるで横流しにされるように抜けていき、一向に痛みはひかない。

 

「魂ごと、吸い取られるように痛い……!」

 

「おいおい、マジ大丈夫か?尋常じゃねえ痛がり方じゃねぇか、何だよ魂って!?」

 

「呪いだ!師匠!!」

 

「どうしたものでしょうか…」

 

フィルはどうしていいか分からず動き回る。と、突然、

 

「うぎゃああああああ!?」

 

フィルが大きな悲鳴をあげた。

 

「うおおお!?何だよ!?ビビった!!」

 

「て!てててててて!手がぁ!!」

 

「あぁ?手?うぉえ!?」

 

「どうしたのフィルちゃん、今アルスがたいへ…、ヒィ!」

 

「幽霊ですか?」

 

「あぁ…っぐ……!ぅ…、はぁ…!少しマシになった……か……?」

 

アルスは立ち上がると騒いでいるフィルに目を向ける。だが信じられない光景が目に入った。アルスが先程通ったあの古い墓の地面から手が出ていた。

 

「!?」

 

その手はグググク…、と土から這い上がり両手が飛び出した。

 

「ギャーーーーー!!師匠!!」

 

「アルスゥゥウ!どうなってんのこれぇ!」

 

「何が起こってやがる!?」

 

手はどんどん地面から這い出しに肩口まで見えた。

 

「いや?ゾンビ?」

 

「冷静に分析してる場合ですか!」

 

そして、

 

「コンニチハー!!」

 

墓の下から這い出てきた物体は元気よく挨拶をした。人間である。人間が出てきた。いや、人間なのだろうか?

 

「は!?えっ!?」

 

すっかり頭痛が治ったアルスは目の前の墓から這い出てきた人間に驚くばかりだ。一行も状況が掴めずただただ唖然としている。開いた口がふさがらないフィルとルーシェ。

 

「ゾンビだぁー!!!」

 

「アルス!!オバケー!!いやぁー!」

 

「落ち着けルーシェ!しかし何だコイツ!」

 

もはや混乱状態である。

 

「ドモドモー、呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!なんつって」

 

「誰だお前!?つーか呼んでねぇ!」

 

ガットはすかさずツッコミを入れる

 

「エ?僕?うーん、名前何だっけ?」

 

「訳わかんねぇ!何なんだよてめぇは!?何で死んだはずの人間が埋められるはずの墓から這い出てくんだ!」

 

「え~と、ゴメン僕もよく分からないヨ」

 

「貴方はゾンビ?」

 

「ウ~ン、そうとも言うかもネ」

 

「こんな元気なゾンビあるか!」

 

アルスはビシッと指を指し言い放った。

 

「ン?」

 

彼はアルスの顔を見て、ピクリと反応を示した。

 

「な、何です…?」

 

「なーんか既視感あるとおもったらぁ!久しぶりー!アレ?でもそんなに目付き悪かったっけ?それに髪の毛も伸びてるし、雰囲気も尖ってるというか、ちょっと変わったネ」

 

「ハァ!?寝言は寝てから言ってください!全くの初対面ですけど!」

 

「アレ?むむ、なんだか記憶がアイマイ…、お兄さんの名前は?」

 

「……………」

 

もちろんアルスは黙った。こんな得体の知れない輩に教えるはずがない。

 

「あ、こんなときはまず自分から名乗るんだっけ?ン?でも僕名前分からないんだよネー、いやはやお恥ずかしい!」

 

「…、俺の名前はアルス。もちろんあなたのこと微塵も知りませんし、知られたくもない!」

 

「アルス?ンー、じゃあ違うネ。君にちょっと似た人を生きてた頃に会った気がするんだよネ。しかも結構仲良かったような…」

 

「あなたはずっと昔に死んだはずのです!ほら、この墓にも」

 

そう言ってアルスは墓の前に立つ。

 

「ほぼ掠れてて見えませんけど僅かに読み取れます。名も途切れて読みにくいですが、ラ…それから、オ、という単語だけは辛うじて読めます」

 

「ラオ?ウン、なんか名前っぽい。あだ名それでいいや。ンじゃ、改めまして、僕ラオ!ゾンビ!よろしくネ」


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