テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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宿屋で一息

「とりあえず、状況を整理すっか」

 

ガットは言った。

 

アルス達が時計塔を調べ終わり外に出た頃はもう日が沈みあたりは街灯の光結晶がほんのりと道を照らしていた。近場の宿屋にやってきて、部屋をとり夕食も済ませた。1日しかたっていないはずなのにいろいろな事があったからかアルスはどっと疲れが溜まっていた。だが、まだやることがある。まずこれからどうするか。そして今彼が一番気にかけていること。あの爆破事件を起こした犯人についてだ。今部屋にいるのは3人。アルスとガットとフィルである。

 

「ルーシェがさっきの時計塔の鐘の下でこんなものを見つけた」

 

アルスはポケットからケースを取り出すと中から薬莢を取り出した。

 

「なんだこれ?」

 

フィルは興味を示し指でつつく。フィルの指に黒い粉がついた。

 

「むっ!?なんか臭い!」

 

フィルはつついた指を嗅ぐと顔をしかめた。

 

「火薬の匂いだ。手を洗って来たほうがいいぞ」

 

「うわわ!!死ぬ!!燃えるっ!?」

 

フィルは指についた粉を急いで洗いにいった。

 

(いや、別に死にはしないが…)

 

「薬莢?これが何だってんだ?」

 

「そうですね。ある仮説を立てました。犯人は、時限式で爆破させたのではなく、狙撃によって爆破させたようです」

 

ガットは薬莢をじっと見つめ言った。

 

「……………何の為に?」

 

「さぁ」

 

「さぁって…、お前……」

 

「この事件、どこか変なんですよ。直前で計画変更したか、あるいはどうしようもない邪魔が入ったとか。もしくは第三者の手によって……とも考えられる」

 

「えーと、つまり?」

 

「時限式の爆弾を銃で撃ち抜いて、予定よりも早く爆発させた。そうゆう線もあるという事です」

 

目的はさっぱり分かりませんが、とアルスは付け加えた。

 

「目的……、列車に乗っていたある特定人物を移動させなくさせた…とか?」

 

「それならもっと他の方法もあったはずだ。わざわざ爆破事件まで起こして大事件までにするだろうか?」

 

「んーーーーー!」

 

ガットは唸った。正直アルスもこれ以上は分からなかった。不可解な点があり過ぎるのだ。

 

「犯人はかなりの腕利きのスナイパーですよ。あの時計塔から線路の橋までの距離は700ヤード。そんな距離撃てる人物はまず多くありません。ですがこれで大分犯人は絞れたかと思います」

 

「700ヤード…?なんかよくわからんが凄腕のスナイパーってことだなうん」

 

「そうなると、犯人が漆黒の翼にいるって事自体ガゼネタなのかもしれません。サーカス団員ですよ?いくら芸達者達の集いと言っても流石にあればかりは……。まあ、カイラさんが聞いたら怒るでしょうが」

 

「あぁー、あの女か…。おっかねぇ女だったな。今どこにいるんだろうな」

 

「さぁ、案外ヤケ酒でもしてるのかもしれませんよ?」

 

「ハハハ!なんだそれ!あの人が酔っ払ったら更に手が付けられなくなりそうだな!」

 

ガットはテーブルの上においてある氷の入った水を飲み干し、氷ごと噛み砕いた。

 

「そういやロダリアとルーシェは?」

 

「ああ、あの2人なら下の階に売ってる売店にお菓子を買いに行きました。そろそろ帰ってくると思うのですが」

 

アルスがそう言うと扉が空きロダリアとルーシェ、そしてフィルが揃って帰ってきた。フィルの手にはお菓子がたくさんつまれている。ルーシェが中位、ロダリアは少量といったところか。

 

「お菓子だ!!」

 

フィルは走って一気にテーブルの上にお菓子をばらまいた。

 

「うわっ!」

 

アルスはお菓子に埋もれないように急いで薬莢をケースの中にしまった。

 

「もぉ、フィルちゃん。そんなに食べたら虫歯になっちゃうよ?」

 

「小生はお菓子を食べないと死ぬ!!腹が減っているのだ!」

 

フィルはガサガサとお菓子をあさり食べ始めた。

 

「さっき夕食食べたでしょ!?」

 

「お菓子は別腹というのだ」

 

ルーシェはフィルに注意するがルーシェも順調に食べていく。

 

「やれやれ、私は貴方はここに残るように言ったはずです。お陰でお金の出費が倍になってしまいましたわ」

 

ロダリアは手に持ったマカロンを食べた。フィルはチョコレートにかぶりついている。ルーシェはクッキーをサクサクと食べている。

 

「もーらい」

 

「あー!!!」

 

ガットはヒョイとフィルの分のお菓子、クッキー1枚をとった。

 

「それ小生のお菓子!!」

 

「んだよ、こんなにあんだから1つぐらい別にいいだろ?」

 

「よくない!!そのせいで小生が空腹で死んだらどうしてくれる!?」

 

「死なねぇーよ、クッキー1枚で生死を分けるわけないだろ」

 

「小生のお菓子だぞ!!」

 

たちまち部屋は甘い匂いで満たされてしまった。様々なお菓子の匂いがまざり、何も食べていないアルスは目の前にあるお菓子を羨ましく思った。

 

(チョ、チョコレート……!)

 

アルスの大好物である。しかしまた無駄なプライドが邪魔をする。

 

「アルスも食べよう?」

 

と、そこにアルスにとっての救世主がチョコクッキーを差し出してきた。

 

「え…、いいのか!?」

 

「もちろん!だってこれアルスの分だよ?疲れた体には甘いチョコクッキーが一番!」

 

「はい!」と元気よく渡されたクッキーが入った籠。勿体無くて食べれないぐらいアルスにとっては嬉しい出来事であった。

 

(少し量が多いのがルーシェらしいというか…)

 

籠には結構な量のクッキーが入っている。彼女曰く男の人はよく食べるらしいから多めにするのが普通らしい。宿屋で学んだことなのだろうか。

 

「ありがとう。ルーシェ」

 

素直にお礼をいうとルーシェは嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

お菓子を食べながらの雑談は実に心地良いものでアルスは久しぶりに笑った気がした。スヴィエートより外の世界にはこのような事があったのか。以前の自分には考えられられない事ばかりだった。城の中での1人というのに慣れすぎて何か大事なモノを見失っていた気がした。

 

フィルのお菓子を食べた後ガットは先に部屋に戻ったようで。アルスもガットと一緒に食べきれなかったお菓子を片手に部屋に戻ろうとしたが直前にロダリアに引き止められた。もう大分時間はたち、時刻は11半時。フィルとルーシェはもう眠りにつきすやすやと寝息をたてている。

 

「私、国にあてて報告書を書かないといけないのですが、お恥ずかしながら私の観察力では何一つ見つけられませんでしたわ。ルーシェさんとアルスさんは何かを見つけたようですが…。少し教えていただけませんか?」

 

「確か薬莢でしたか?」と、ロダリアは報告書の紙を整理しながら訊ねた。ちまちまとマカロンを食べていたロダリアは話題を繰り出した。ちなみにフィルはお菓子を全部食べる気でいたようだが流石にロダリアとルーシェ2人に叱られたとなると全部は食べずに大事に袋にしまいとっておいた。

 

「ええ、ルーシェが鐘の下で薬莢を見つけました。俺は床に三脚を引きずった跡があるのを発見しました。何のためかわかりませんが、犯人は、狙撃によって線路上の爆弾を撃ち、爆破させたのだと俺は思います。大分要約して話しましたが、あくまで俺の仮説ですので」

 

「まぁ、素晴らしい仮説ですわね。ただ犯人の動機が分かりかねるのがきがかりですが、それだけあればあとは国がやってくれるでしょう。幸いにも明日から橋の復興作業が始まるようですし」

 

ロダリアは書類をまとめた。

 

「………国ねぇ…」

 

「…?何かおっしゃいまして?」

 

アルスはロダリアを見つめ顔を曇らせた。

 

(どうもこの人もどこか胡散臭い。どかかで嘘をついている。それに国から直々と言っていたが、彼女の身分は一体……ただのサーカス団員とは思えないんだよなぁ……)

 

アルスは疑問に感じたが口にはしなかった。

 

「いえ…、犯人。見つかるといいですね」

 

「………そうですわね」

 

ロダリアの返答に妙な間が開いた。やはりアルスはロダリアを疑わずにはいられなかった。疑うにしても、材料が少なすぎる。仮に間違っていたとしたら失礼すぎる、という思いがアルスにはあった。情報がまだ少ないのだ。

 

「やはり貴方方に付いて行って正解でしたわ。お陰でいい報告書が書けそうです。お礼を言わせていだだききますわ」

 

ロダリアはニコリとアルスと微笑んだ。アルスはその微笑みをどこかで見た気がした。そう、丁度よく自分の叔母の微笑みに似ていた気がした。アロイスの母親、サーチスだ。

 

笑ってはいるが、笑ってない。瞳の奥には何かを見透かすような、何かを思っているような、そんな笑み。

 

(いや、いくらなんでも考えすぎだろう…きっと疲れてるんだ)

 

仲間を疑うなんて…。ガットもそうだったが、今は信用をおいている。そしていつの間にか、そう。

 

自分はこの仲間と一緒の旅が楽しいと思い始めている。最初こそは勘弁してくれという思いで城を、国を出た。あの時ルーシェに出会ってなかったら自分は死んでいたはずなのだ。そして彼女と共に旅をしている今。仲間が一気に増え賑やかになったのをまんざらでもなく思っていた自分。

 

「………いえ、少し手伝っただけですよ。そろそろ俺は寝ます。おやすみなさい」

 

「ええ、おやすみなさい…」

 

アルスは椅子から立ち上がり部屋から出ていった。アルスはロダリアが自分の後ろ姿をずっと見つめていたのは気づくはずもなかった。

 

 

 

「クスッ……、確かに…、ソックリですわね……。スヴィエートの皇子様に…」

 

部屋に1人残されたロダリアはペンを置くと、笑った。

 

 

 

「おお?お帰りー。何話してたんだ?」

 

部屋に戻るとガットはベットに座り自分愛用の太刀の手入れをしていた。

 

「事件についてちょっと」

 

「あぁ、そう。ま、後は国がやってくれるって言うし。あのカイラって女も満足だろ。犯人なんてそのうち見つかるって〜。何よりこれ以上調べんのめんどくせーし」

 

ガットはそう言うと太刀を鞘にしまった。

 

「…そうですね。俺はもう寝ます。おやすみなさい。」

 

アルスはそう言うとしまっていた銃を枕の下に置きベットに寝転んだ。

 

「おう、俺もそろそろ寝るか。おやすみー」

 

太刀を棚の上に置きガットはボスンとベットに倒れこむ。アルスも疲れていた体がベットに沈むのを感じながら静かに眠りについた。


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