テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
「う、ぁ?」
「あ!ガット!よかった…!」
目が覚めたのは馬車の貨物室。ガットの瞳にルーシェの安堵した表情がボヤけながらも目に映った。
「そういや俺…」
「ええ、貴方、トランを庇って大怪我したんですよ。本当に有難う御座いました」
ルーシェの隣にいるエスナが言った。ガットは辺りを見回した。貨物室の1つだけのランプが明るく照らしている。どうやら時間帯は夜のようだ。まだ覚醒しきっていない頭で思い出し、トランがいないことに気づく。
「トランは…、あいつは大丈夫なのか?」
「ええ、お陰様で。彼は今、シャイル達に餌をやってるの。アルスさんを付き添いにね」
「今休憩中なんだって。シャイル達の休憩と、私達の休憩も入ってるのかな?夜ご飯外で作ってあるよ」
ルーシェが言った。外で火を炊いているようだ。パチパチとかすかな音が聞こえる。
「……トランと変わってくるわ。彼も貴方と話したいだろうしね」
エスナは貨物室の縁に足をかけ、「呼んでくるわ」と言い馬車から降りた。トランは近くの川にいた。水を飲ませていたようだ。アルスは火の見張りをしている。
「トラン、変わるわ。彼が目覚めたの」
その言葉にアルスは安心した。
「あぁ、良かったです…。俺はまだここに居ますので、行ってきてください 」
「えっ、そうか!良かった…、あぁ、ありがとう。じゃあお言葉に甘えて」
トランは顔を明るくさせ、貨物室に入って来た。ガットの顔を見た途端、涙目になり、
「すまない!馬鹿な俺が、油断したせいで…!」
頭を下げ、真摯に謝った。ガットは予想していない展開に拍子抜けた。
「おいおい、何でアンタが謝る必要あるんだよ?俺は仕事をしただけだぜ。アンタらを無事首都まで護衛するってな。どっちかって言うと、褒めるとこだぜ」
ガットはニカッと笑うとトランの肩に手をやった。
「ま、謝る相手はどっちかって言うとエスナの方じゃないのか?」
「う…、それはもうこっぴどく怒られた…から、あでもちゃんと謝ったよ!」
「アンタが気にすることはねぇよ。………わりぃ、ちょっくら夜風でも浴びて気分転換してくる」
「ガット、夜ご飯食べたかったらアルスの所に行ってね、作っておいてあるから。アルスとガットがまだ食べてないの 」
「あ?何でアルス食ってねーの?」
アイツならとっくに食べてるようなタイプだが。
「んー、分かんない。お腹減ってないのかなぁ?」
「目が覚めましたか」
火の見張りをしていたアルスがガットに気づいた。枝を放っていた手を止め、目を向ける。
「ウィッス。どうも」
「無事で何よりです。ルーシェに感謝して下さいね」
「おう、数時間前に大怪我したとは思えない程の治りようだぜ。違和感ねぇわ。すげぇなやっぱ嬢ちゃん」
ガットは左肩をグルグルと回した。痛みはない。
「まぁ……、ガットさんが倒れた途端ルーシェは駆け寄ってきて一心不乱に治癒術かけてましたよ。周りにトランさんとエスナさんがいたんですがね」
「あ……、おい。ちょっとそれどうなった?」
「きちんと口止めしておきましたよ。まぁ、ペラペラと話すようなタイプでもなさそうですが、トランさんはあまりその保証はできませんね。うっかり口を滑らせるタイプのようですが」
アルスはそう喋りながら、鍋の蓋を開け中をかき混ぜた。食欲をそそるいい匂いがする。具沢山のリゾットだ。
「………ま、まぁ大丈夫だろ。現にルーシェの治療が早かったお陰で大事には至らなかったんだし。エスナも付いてるしな」
「そうですね………、食べます?」
お玉ですくったリゾットが湯気を発し、ガットの嗅覚を刺激する。
「食う!腹へってんだよ俺!」
リゾットを2人で取り分け、食べ始める。ルーシェとエスナで作ったようだ。サイノッサスの肉が入っており若干クセはあるが肉が食べれることが幸せだった。
「そういや、何でお前食わなかったんだよ」
「………いや、ガットさん1人で食べさせるのもどうかと思いまして……」
ガットは目が点になった。
「えっ、わざわざ待っててくれたってわけ?俺が寂しい孤独の晩餐にならないように?」
「……………」
アルスの目が泳いでいる。
「何だよ〜、可愛いとこあんじゃねぇか大将〜!」
アルスの肩をバンバンと叩くが一瞬でその気持ちは裏切られた。
「嘘です」
「何だよ!?」
「……実のところ、ちょっと聞きたいことがありまして…」
「あぁ?」
アルスは俺の気のせいかもしれませんが、と付け加えた。
「何と言うか、トランさんを庇った時、貴方が妙に必死だったというか、死に物狂いだったというか。ガットさんの実力なら、アレは庇うことなくリーチのある太刀で対処できた筈だった。なのに庇って助けた。自分の左腕と肩を犠牲にしてまで。めんどくさがり屋で、適当で、そんな人だと思ってましたがね。仕事はしっかりするんだ、という俺の思い違いだけなのかもしれませんが」
(─────鋭い)
ガットは戦慄さえも覚えた。まさに彼の言う通りなのだ。真っ直ぐに目を見つめてくるアルスに、食事の手が一旦止まってしまった。
「………へぇ、よく見てんじゃないの」
「と言うことは俺の言ったことは図星だった、という事で?」
「……ケッ。お前恋愛には疎いくせに、そうゆうとこは妙に鋭いのな」
「恋愛どうこうは余計です…!人間観察の目を養うようにと、教育されて育ってきたので」
人の上に立つ者、適材適所に人事を配置しなければならない、とアルスは幼い頃より帝王学で教育されてきた。その恩恵だ。ガットはため息をつき、話した。まさかコイツに話すハメになろうとは。
「はぁ……。似てたんだ……あいつらが」
「あいつらって、トランさんとエスナさんですか?」
「あぁ…。むかーしの知り合いにな」
どこか寂しい目をしている。こんな表情は初めて見る。
「へぇ…、だから…。その人達は今元気なんですか?」
「もう会えない」
ちょっとした興味本位で聞いてみただけだったが、その一言でアルスは察した。
「!……すみません、失言でしたね」
「いんや、気にしてねぇよ。もう何年前なんだか……」
ガットはリゾットを口にかきこみ、食した。「ごちそうさん!」と器を地面に置くと仰向けに寝っ転がった。
「星が綺麗だなぁ……」
「何ですかいきなり」
「ふぃ〜、ガラにもねぇ暗い会話しちまった。俺もう少しここにいる事にするわ」
「そうですか。今まで寝てましたもんね。俺は疲れたんで、先に戻って寝てますよ」
「おぉ〜」
アルスが器や鍋を片付け馬車に戻って行った。1人になった。静かだ。
「…………トレイル、リオ……」
ガットは右手を夜空に掲げ、そう呟いた。