テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

121 / 121
おさらい解説

スヴィエートは、皇帝家、軍部、元老院とこの3つと三代権力があり、最も権力があるのは皇帝家。

2番目は皇帝が行う政治情勢によって変わる。サイラス時代はほぼ平均値。ツァーゼル時代は元老院。そしてフレーリット時代は軍部。

アルスの時代でまた平均値に戻る。

2つの特徴として、

元老院は全て貴族で構成された所謂誇り高く、血筋に拘る。

軍部は体育会系な感じ。全て実力主義で、身分や血筋は一切関係ない。出世して権力身につけたかったら能力をつけてのし上がれ、みたいな。

皇帝がどちらかを贔屓すればもちろん情勢が傾いて、政治権や地位、ひいてはお給料upに繋がる。デットヒートを毎度の事繰り広げるこの二代勢力争いが皇帝家を巻き込み、現在のアルスの時代で内戦を引き起こしている。

アロイス側元老院
アルス側軍部

と、なっている。


・エヴィ結晶
属性エヴィの塊、結晶体。粒子であるエヴィが集まると結晶化する。属性によって色は変わり、火の赤、水の青、風の緑、地の茶、光の白、闇の黒、雷の黄色、氷の空色がある。有限ではあるが、精霊がいる限り無くなる事はない。国によって採れる結晶は異なる。

スヴィエートは氷、光、水。
ロピアスは風、雷だがどれもバランスよく採れる箇所がある
アジェスは火、闇、地

これらは貿易の取引物として非常に重要。

・複合光術
サーチスが開発した、エヴィの結晶(塊)を用いる事により光術の威力を何倍までにも引き上げられる技術。つまり、簡単に言えば有限燃料を使って術の威力を高める、という事。

術者は繊細なエヴィ操作と、使う光術属性の反対属性を熟知し扱うことが出来て、なおかつそれら全てを結晶の大きさや形によって注入するエヴィ量を変える必要があるのでかなり高度な技術がいる。反応させるエヴィの量を間違えたりすると結晶が暴発して命の危険に晒される。

・ハイドディレ
ロピアスの王立機密機関組織。CIAみたいなもの(?)
あらゆる物の情報を探る組織。ロダリアが所属している。


レイシュマン姉妹の追憶

オリガ・レイシュマン

ヴェロニカ・レイシュマン

 

妹のオリガ、姉のヴェロニカ。

彼女達は姉妹だ。

 

スヴィエート三大勢力の1つ、元老院に連なる貴族であるレイシュマン家に生まれる。レイシュマン家は古く歴史がある。いい意味でも悪い意味でも伝統を重んじる一族であった。その為根っからの選民思想の持ち主で、「人間は全て血筋や家柄で決まるのだ」が姉妹の父親の口癖だった。

 

貴族が軍人になるのが当たり前、この国を血筋が優秀なものが率いていく、それが彼らの当たり前なのだ。

 

フレーリットの叔父、闇皇帝と呼ばれたツァーゼルもそうであった。

 

「一般市民の娘と自由恋愛し、結婚した愚兄サイラスとは違う。優秀な血筋の貴族と結ばれ子を成した方が優れているに決まっている」

 

彼もそのような思想の持ち主だった為、レイシュマン一族は忠実に従い命令をこなし、その闇皇帝に大変贔屓されたのだ。

 

しかしその闇皇帝は甥に討たれた。

 

劣等民との混血児と見下し目の上のたんこぶだった兄サイラスがいない事を散々良い事に、幼い頃から調教し、恐怖と畏怖を与え、逆らえないようにしてきた甥のフレーリット。彼の青春時代は叔父によって形成され、歪んだものになった。彼の瞳の下に消えない隈を刻み込み、トラウマを植え付けた。

 

フレーリットもやがて学習し体裁を繕い誤魔化してきたが、それがある日ついに切れ彼は叔父に牙を剥いた。

 

 

 

スヴィート城の正面玄関前の間に佇むオリガは追憶の海に落ちた。

 

もう何年前の話になるのかしら。

 

男からは憧れと尊敬、畏怖。

そして女には恋愛の対象であったある男がいた。

 

スヴィエートの血を継ぐ者としても最初から注目度が高いというのに、全てが並外れた頭脳、成績、身体能力。同じく従兄弟のヴォルフディアと極めて高度は成績争いを繰り広げた。そしてそれを鼻にかけ嫌味ともぜず、しかもそれら全てが血に滲む努力の結晶。

 

ひたすらに高みへと精進し続ける彼の姿に、皆ただただカリスマ性を感じるしかなかった。この人に従えば全て上手くいくだろう、そんな空気を自然と生み出すようになっていった、秀才の青年だった。

 

私もその青年に恋していた1人だった。

その頃は彼の全てが輝いて見えた。どうしようもなく愛してしまっていた。だから、憧れていた彼に協力できたのは誇りだった。オリガは静かに目を閉じた。

 

 

 

───────時は遡り、スヴィエート某所

 

「待って!私…、誰にも言いません!つっ!」

 

しんしんと降りしきる雪の中、黄緑色の髪を三つ編みにした可憐な少女が木の幹に追い詰められ肩を押さえつけられた。

 

若き日のオリガである。

 

その振動で、少しばかり枝から新雪がパラパラと落ちていった。

 

目の前にある銃口を向けられ、ひゅっと息をのみ怯えた。彼女は首をふるふると振りその青年に訴えかけた。しかし、かく言う青年もその手と声色は震え怯えていた。全身血塗れの姿、彼の血ではない。全部返り血だ。紫紺の髪は乱れ、荒い息に、血走った銀色の瞳。

 

冷汗をかき、「もう誰も信じられない」……と呟いた。

 

「言う言わないじゃない……!そもそもあの演習場である場所に看護学生のお前がいる事自体おかしかったことだ!!見られた以上、お前を消すしかない。この先僕にはやる事がある、殺らなきゃいけない!だからお前も……!」

 

「私ッ!貴方の事が心配だったんです!だからあの場所に行ったんです!」

 

この時、半分は嘘で半分は本当の事を言った。彼の隊長姿、作戦中の姿、それを少しでも目に刻みたかった。非戦闘員である看護学生が興味本位で演習場である雪山に行くなんてどうかしてる、そう思うのが当然だけれど。好きな人の姿を1秒でも見ていたい、その気持ちで胸がいっぱいだった。遠くからいつも見ていた、憧れにも近いが、違った。好きだった。でもそれが仇となってまさかこんなことになるなんて、誰が予想できただろうか。

 

「嘘をつくな!オリガ……!お前もどうせあの叔父からの差金なんだろう!?裏切り者なんだろう!?」

 

「違う!違いますフレーリット先輩ッ!」

 

彼女は涙目になって必死に訴えかけた。このままでは本当に殺されてしまう。彼を一旦落ち着かせなければいけなかった。

 

「それにっ!私を殺しても絶対貴方に疑いがかかるのに拍車がかかるだけです!」

 

一瞬、彼の目が泳いだ。

 

「私も貴方の協力者になる…!この秘密は2人だけのもの…!誰にもこの事は言わない…!お願いですフレーリット先輩!」

 

「ふざけるな……!そんな言葉が信用できると思うのか!?」

 

彼は拳銃の安全装置を外していよいよ彼女の額に突きつけた。両者共唾を飲み込み、緊張が走る。

 

「疑いがかからないように全力で手を回します、貴方の右腕になります…!今後、あのツァーゼル帝を討つのでしょう……!?お願いです…」

 

「!?……その事まで聞いていたのかっ……!?」

 

「言ったでしょう……全部見ていたって…!だから…お願い…!」

 

「駄目だ信じられるわけがっ……!?」

 

2人の影が重なる直前、その光景は黒い霧に変わり、辺り一帯フェードアウトした。

 

 

 

───────瞳を開き、そこで思考を停止したのだった。愛に飢えた青春時代、そのいくつかを思い出す。

 

今思えば、元老院に連なるレイシュマンの一族の娘が看護学生をやってるなんて時点で疑われて当然だった。だが闇皇帝と言われたツァーゼルがスヴィエートのトップとして君臨していたあの時代は、家を継がない貴族の娘は看護へ、息子は軍へ行くのが当然の時代だった。いずれ起こす戦争への準備のためだ。

 

看護学生の実習先が軍の士官学校の病院なのも上手い話だ。男女の絶好の出会いの場だろう。看護されたいが為にわざと怪我をする輩もいた。その環境故、互いに伴侶の相手も見つけやすい。人口増幅計画。この政策は見事だったと言える。

 

と、まあこのような環境にまんまと乗せられたのが私オリガだ。この時程、家を継がないに道に進まされてよかったと思った事は無い。家を継ぐのは姉のヴェロニカの役目だった。

 

 

 

フレーリットが士官学校を卒業し、まもなくしてツァーゼルはフレーリットによって暗殺された。オリガの支援も借りつつ、彼は見事(しがらみ)を解き放った。結果論だがやり方はどうあれ彼にとって、そしてこの国にとってこれが最前だったのだ。

 

政権がフレーリットになった途端、ツァーゼル政権とは正反対の実力主義の軍に傾いた。フレーリットは男女差別や血筋の差別には一切こだわらなかった。実力さえあれば女だって出世できるし軍人になれる、血筋による選民思想などもはやないに等しかった。

 

その情勢に、当然元老院は反発した。今まで保ってきた地位が脅かされるのだから彼らからしたらこれ程居心地の悪いものはないだろう。彼らは結集し、皇帝フレーリットを玉座から引きずり下ろし、従兄弟のヴォルフディアを立たせて、政権を剥奪しようと企てた。

 

そしてオリガはこの時、学生時代からフレーリット側、しかも交流があったのが災いした。

 

一族に監視され、後に一族にフレーリット側の支援だった事がバレた為家に監禁されてしまう。愛故にフレーリットに人生を捧げたがそれが全てにおいて空回りし、人生の理不尽さに掻き乱される。

 

何もかも上手くいって、自分の好きな恋愛をしながら人生を歩みたかった。だがそんなのは所詮夢物語だ。

 

国家機密級の事件の真相の共有者、オリガと連絡が途絶え、フレーリットは焦って行方を調査した。もしオリガから情報がリークしたらどうなる?元老院から非難の嵐、国民の信用のガタ落ち、溜まったものではい。しかもこの頃は頻繁にフレーリットは暗殺者に狙われるようになっていた。不穏な空気が漂い始めた。

 

送られてきた暗殺者は全員返り討ちにして殺害したが、とある1人を返り討ちにした後拷問し、情報を吐かせた。

 

それは、暗殺者の雇先は元老院である事。どこの一族に命令されたかも聞いたが、それ以上は聞き出せなかった。元老院側も馬鹿ではない。仲介人を立てていた。

 

暗殺作戦は尽く失敗し、元老院側は作戦を変えた。だが、この決断がレイシュマン一族の運命を滅ぼす事となったのだ。

 

そう、元老院側の指揮を取り、リーダー各であったのはオリガとヴェロニカの家系、レイシュマン一族だ。

 

そこで犠牲になったのが、レイシュマン家の長女、ヴェロニカだった。彼女本人には何一つ知らせずハニートラップとして嫁がせたようとした。ヴェロニカはそんな事つゆ知らず、大いに喜び見合い話を受理した。相手はこの国で一番権力を持つ皇帝、容姿も能力もどこもいい、どこに嫌がる理由があっただろうか。

 

皇帝家と契を結び、血縁関係になってしまえば一番距離が近づける立場になる。合理的な判断だった。

 

一方ヴェロニカはその当時通いつめ、お得意先にしていた花屋にその吉報を知らせに行く。その店には見習いの女性店員がいた。同い年だった事もあって、身分が違えど話がよくあった。

 

ローズピンク色の髪の毛、名前はスミラ・フローレンス。彼女はいずれ独立して店を立てたいという夢を持っていた。

 

「しばらくは忙しくて会えなくなるけれど必ずまた来るから、その時には独立していてね、今度はその店の常連になるわ」

 

「待ってるわねヴェロニカ。どうかお幸せに。ウェディングのブーケの花は是非任せて!」

 

と、いうのが最後にした会話だった。

ヴェロニカがスミラの前に姿を現す事は無かったのだった。皮肉なものだ。この後、スミラがフレーリットに求婚され、結婚するなんて誰が予測出来ただろうか。

 

当のフレーリットは見合いに対して絶望的に乗り気ではなかったが、跡継ぎをと母に言い寄られ迫られてはいくら彼でも逆らえなかった。当時のフレーリットの一番の弱点は間違いなく母親であった。

 

その母親を介して、半ば無理やり見合いをさせられたフレーリット。結局母にも相手側家族にも押し切られ結婚前提の見合いは成立した。

 

「フレーリット様は、母上様にとても大事にされておられるのですね」

 

「……まぁ一人っ子だしね。それに、僕以外家族で信用できる人が居ないからだよ。僕の話はいいだろ」

 

「あっ、そ、そうですわね。一人っ子…ですか。私には妹がおりますの」

 

「ふーん」

 

「オリガと言って。でもここ数年程会っていませんわね、あの子は今も看護で忙しいと聞いています。今頃、本格的な実習にてんてこまいなのかしら」

 

「なんだって……?」

 

「え?えぇですから妹は看護学校に─────」

 

会話を交わす内に自然と出てきた家族の話。自分にとってはあまりいい思い出がないため適当に相槌をうち、真剣に聞いているように見せて流していた内容だったが、彼女の妹の話が出てきてフレーリットは僅かに目を見開いた。ヴェロニカの妹はオリガだと言うことが判明したのだ。オリガとは仕事や支援の話以外一切したことは無い。だから知らなかったのだ。姉妹だと言う事を。

 

「彼女、行方が分からなくなっているそうだよ?君は知らないのか?」と、深く聞き直そうと思っていた矢先、調査を依頼していたハウエルが部屋に飛び込んできた。

 

詳しい情報が入り、更に暗殺者の依頼主が分かったという。ヴェロニカには席を外してもらい、聞き入れた情報は暗殺を送り込んできたのはレイシュマン家だと言う事。

 

そこからはもう早かった。フレーリットはすぐさまそこから分かる情報を予測した。

 

(元老院側の統率をとっているリーダー格の一族がレイシュマン家であるという事はオリガの行方が分からない事から、フレーリットのスクープを一族にリークし、今後政権を奪取する事を企てていた所謂二重スパイだったという事だ。彼女は皇帝からの報復を避けるため逃げたか、匿われているかのどちらかだ)

 

フレーリットは嘲笑った。やはり自分の身の回りの人間は信じられなかった。

 

(レイシュマン家が近づいてきたのもタイミング的に良すぎる。バカバカしい。ヴェロニカ、オリガ、所詮君らはそちら側の人間だったというわけだ。僕に近付いて、揺さぶるつもりだったか?ハニートラップをしかけて殺すつもりだったか?

こっちは命を狙われた身だ。容赦はしない)

 

フレーリットはツァーゼルがやったように、粛清をすることを決断した。粛清とは聞こえが少しいいが、要は自分にとって邪魔でしかない、目障りなものを排除する事だ。

 

しかしそのまま直接的に粛清を行えば反乱がより激しくなること間違いなしだ。

 

そこで同士討ちを狙い、元老院内で内部闘争を起こさせた。

 

レイシュマン家は最初から娘2人を使って地位を確立させようとした計算高い一族。学生時代から交流をして、今もなお懲りずに別の、血縁という関係を築き上げようとしている。レイシュマン家が元老院を率いてきたというのに、全ては計算ずくめで、レイシュマン家だけが他の元老院の一族を踏み台として抜け駆けし、この国の政権を奪取しようとしている、という情報を元老院に流した。

 

そこからは彼の思惑通りに、面白いように転がった。

 

たちまちそのデマは広がり、元老院内で内部闘争勃発したのだ。地位を巡って醜い争いが起こり、やがて内ゲバが起き始めた。

 

オリガがアレから姿を見せず、忽然と消えたのも一族に寝返ったためだろうとフレーリットが考えたのは当然の結果である。

 

レイシュマン一族は元老院全てから反感を買い、他の下級貴族から下克上される形となった。

 

レイシュマンの家は他の貴族に雇われ送り込まれた暗殺者により、姉妹を除く一家全員が殺された。オリガはその家の地下深くに監禁されており発見されずに何とかその時は生き延びた。ヴェロニカは危険をいち早く察知し、下町の路地裏に隠れて難を逃れた。

 

姉妹の遺体が見つからないとなると、また他の者に命を狙われるのは明白だった。ヴェロニカは身を隠しながら家に忍び込み、惨殺された家族や親戚達の遺体を見届けた。しかし、妹の遺体はなかった。家中を探し回り、見つけた隠し通路の奥の地下への階段。その奥にこそ、妹オリガが監禁されていた。

 

ヴェロニカは妹を助け出し、身につけていたネックレスやイヤリング、妹の看護師ドックタグをメイドの遺体に身につけさせた。そして、家中に光術で火をつけた。火は瞬く間に燃え上がり、炎に包まれていく自分の家────────。

 

家は全焼し灰と家具や機材に押しつぶされた損傷した骨だけが残った。レイシュマン家は2人の姉妹を残して燃え盛る炎に包まれた。

 

その知らせを聞いたフレーリットは部下にまた調査させた。ヴェロニカとオリガについてだ。部下は姉妹がしかけた偽装工作に騙され死亡したと伝えた。こうして歴史的に完全にレイシュマン一族は滅びたのである。

 

滅んだ一族などにいつまでも構っていられない。ただでさえ仕事は山ほどある。捜索は打ち切りになった。死んだ元婚約者の事などもうどうでもよかった。もっと他にもやる事か沢山ある。

 

姉妹達にはもう帰る家はない。戸籍もない、居場所もない。亡くなった存在なのだ。

 

こうなるともう選択肢は1つ。

敵国ロピアスに亡命する事だ。

 

以降、王立機密機関に保護され、手厚い保護を受けた彼女達。後にハイドディレと呼ばれる組織だ。

 

ここから姉妹の、やり直しの人生が始まる。

 

「何もかも失い、ゼロになった」

 

「全ての私自身をリセットする」

 

 

 

────────私達の人生は正に時代の波乱、陰謀、そして愛、欲望に巻き込まれた悲劇的なものだった。この話を聞いたら、誰もが生まれる時代や家が悪かった、そう言うだろう。

 

だから生まれ変わるのだ。新たな時代に、自分の見た夢を、現実に変えるために。サチース(あの女)はそれを叶える能力を持っている、手に入れている。それらを秘密裏に管理を手伝ったのも自分達だ。

 

その為なら今の世界を全部壊したって構わない。いやむしろ壊せばいい。どうせ今の世界に何の未練もない。

 

複合光術だって血反吐を吐く思いで習得した。藁にもすがる気持ちだ。今まで1度も幸せを掴んだことがない。幸せの味を味わいたい。あの頃に戻りたい。愛した人と結婚したい、幸せにして欲しい、

 

幸せな女になりたい───────。

 

例え記憶を失ってでもいい。幸せを味わえるのなら何でも構わない。夢物語を見れるなら、もう何だって。

 

そんな我ながら支離滅裂な願いを叶える為、私達はここで待ち構えるのだ。既にエーテルの改造は済ませた。

 

ヴェロニカがアルスを見た時の心情は計り知れない。スミラによく似た目つき、フレーリットの面影を強く残す顔つき。複雑な気持ちが混ざりあい、結果として殺意だけが残った。

 

逆恨みにも等しいかもしれないけれど、これ程恵まれないと、誰かを憎まずにはいられないのかも知れない。

 

オリジンの次に力を持つ精霊、マクスウェル。その力を思う存分これから使う為にも邪魔な因子は、排除する──────!!

 




「ねぇ、アンタ友達とかいないの?」

「ん~?いないねそう言えば。いても殆どビジネス上の付き合いになるね」

「寂しいとか……思わないの?」

「思わないよ。僕の場合、昔は周りの人間全てが敵みたいな環境だったからね、慣れだよ慣れ。別に自分1人で生きていけたし、むしろ自分しか信じられなかった。裏切られるのはもう懲りごりだからね」

「そうなの……詳しくは聞かないでおくわ…、でも大変だったのね、やっぱり皇帝っていう身分だものね…」

「君は─────。

僕の事を裏切らないよね?」

「はぁ?いきなり何言ってんの?当たり前じゃない?何?浮気の話?私がすると思ってんの?」

「違う違う。何でもない忘れて。その言葉が聞けて嬉しい。僕はもう、誰かに裏切られたくないだけだから。

そういえばそっちは?友達とかそういう人いなかったの?」

「私にも……一応昔はそれっぽい人はいたんだけど、結婚見合いする、って言ってそれっきり。ハッ、女の友情なんて所詮男優先よね」

「あぁ、一応過去にはいたんだ」

「えぇ、貴族の娘なのに身分分け隔てなく話してくれるとても上品で気品のある子だったわ。私が花屋見習い時代のお店の常連客で、良くしてくれたの」

「へ~感じ良さそうな娘だね。貴族の娘だったんだ?」

「ヴェロニカって名前だったんだけど、アンタ知らない?」

「…………………………………知らないよ?何で知ってると思ったの?」

「だって貴族の子なら知ってるかなーって。深い意味は無いわよ。結婚して今頃幸せに暮らしているのかしら?」

「─────さぁね、僕等には関係の無い事だよ」

「そうね……」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。