テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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この話でハーヴァンの少年編とサイラスとの出会い編終わりになるかなとおもってたんですけどそんなことはあり得ませんでした★

スミラとフレーリットみたくそれなに長くなるかも…。もしよろしければお付き合いください…(まだ全然アロイス出してないってんだから全然終わらせられねぇよって話←)

大体1万文字行くか行かないかの所で切っているんですけど、どうですかね。テンポ大事にしたいんで…。書き方に納得がいかない方は、申し訳ありません。


ハウエルの追憶 4

ハーヴァンは広い貨物倉庫のエリアを見てげんなりした。流石にデカい貿易船だけはある。自分より倍はあるコンテナや箱がずらりと立ち並び、これは相当骨が折れる。しかも密輸扱いなので簡単には見つけられないだろう。

 

「…読めねぇ!」

 

じっと目を凝らし、コンテナや箱に書いてある文字をにらみつけるが、読めるはずもない、当たり前だ。

 

「うぅ…やっぱり俺はどうしようもねぇガキだ…これじゃ見つけるのにどれだけかかるか…」

 

とりあえず手あたり次第に箱やコンテナを叩き、中に誰かいないか、と呼び掛けてみるが返事なんて返ってくるわけがない。そしてこれが1F~5Fまであるのだ。しらみつぶしの地味な作業といえど、これは流石に無茶すぎる。

 

「何か手がかりはねぇのかよ…!」

 

ハーヴァンが現実の厳しさに打ちひしがれていると、

 

「ハー君、どうだね。進んだかね?」

 

「うぉっ!?ビビった!」

 

後ろから声をかけてきたのはついさっき別れたソロっちであった。

 

「え!?あれ!?地図は!?」

 

「もう手に入れたよ。操舵室に行くには結構な監視網を通らなくちゃいけないし、起きている連中がいるし遠くてだね、やっぱり戻って来て、地下のボイラー室先に行ったんだが当たりでね。無事地図は入手できた。なるべくすぐに見つけてその後は君の援護をしろと命令されているから、良ければ手伝わせてもらえないか」

 

「はぁ~!良かった~!もう俺どうしようかと思ってたんだよ!助かったよソロっち!」

 

「そのソロッっちてのを…、まぁいい。君、エヴィは使えるか」

 

何だかんだ言いつつ、変なあだ名に妥協して諦めたソロニャエフはため息をつき、ごそごそと何かを取り出そうと懐をまさぐる。

 

「エヴィ?知ってっけど、分かんねぇよ。使い方そんなにしらねぇもん。結晶とかは高価で俺達にはそんなに手に入るものじゃないし」

 

「そうか。じゃあこれを君に預けよう」

 

ソロっちはそう言うと、懐から何か測定器のようなものを取り出した。メーターが付いていて、振り子のように動いている。

 

「なんだそれ」

 

「エヴィ探知機だ。人間は基本的に様々なエヴィと元素、鉄、水、その他もろもろから作られている。エヴィは体を構成する物質の3分の1を占めている。子供とはいえ、エヴィはこれで探知できる。大人数が攫われたとなると、まとめてどこか一か所に閉じ込められている可能性が非常に高い。この測定器が必ず反応を示してくれるはずだ」

 

「はぁ!?お前そういう便利なものは最初から俺に渡しておけよ!」

 

ハーヴァンは思わずつっかかった。俺の努力を返せ。

 

「すまんすまん、うっかり忘れていた。それでも自分なりに努力し、自力で探そうとする君の姿には感動したよ。さぁ早く君の仲間たちと妹を探して見つけてあげよう。君は1階から探索したまえ。私は5階から上がっていく。怪しいものを見つけたら中を探索してみるんだ。もし仲間を見つけたら、目印ををつけて、後でまとめて私に報告すること。安全な場所に避難誘導させる」

 

ソロっちは簡単な説明を早々に済ませるとそれをハーヴァンに渡すと、また離脱しそうになったので、慌てて肩にてをかけ引き留めた。

 

「う、ぉお…、おい待て!どうやって使うんだこれ!」

 

「簡単だ。君の韋駄天を生かしてこの倉庫内を走り回りたまえ。子供たちがいる場所には必ず反応を示すはずだ、メーターが音とふり幅で教えてくれる、ではな」

 

また颯爽と去ってしまった頼れるナイスガイ、ソロっちを見送りハーヴァンは気合いを入れ直した。

 

「よーし!さっさと見つけて!いっちょサイラスにでも何かうまいもんでも奢らせるか!」

 

 

 

「見つけた!おい大丈夫か!後で必ず助けに来る!とりあえず待機していてくれ!」

 

「おい!無事か!?誰か俺の妹のマイヤを見ていないか!?なぁ、ホレスっていう少年を見かけなかったか。そいつ、俺のイーストスラムでの相棒なんだ。見ていない?そうか…」

 

「ダメか…このグループにも…。そうだ金髪で眼鏡をかけた女の子を見なかったか?」

 

ハーヴァンの韋駄天を生かし、あっという間に1階から3階のエリアをまわり、子供たちがまとめて捕らえられているコンテナを探し当てたが、3つとも中に妹はいなかった。どうしてだ。イーストスラムの連中はあらかたいたのに、やはりマイヤはいない。それに、自分が留守の間にいつも妹を任せているホレスさえ、どこにも見当たらなかった。ソロっちと合流して見つけた仲間たちは安全な場所に誘導されたみたいだが、一番大事なマイヤだけが見つからない。列に並び、順番に保護されに行く仲間たちの中にイーストスラムのルーベンスという見知った奴がいたので、慌てて呼び止めた。

 

「おいルーベンス!よかったお前も無事だったんだな!」

 

「ハーヴァンこそ!流石はリーダーだな。誘拐から逃れて俺達を助けに来てくれるなんて、やっぱりお前はイーストの英雄(ヒーロー)だぜ」

 

「はっ、ウエストじゃ悪魔番長なんて呼ばれてるらしいけどな。って、今はそんな話している場合じゃないんだ。なぁホレスとマイヤを見なかったか。あいつを探してもどこにもいないんだ。一緒にさらわれたんじゃないのか」

 

「そうだ、マイヤとホレス!」

 

彼はその2つの名前聞き、顔色を変えて慌てて答えた。

 

「奴ら2人だけ別の男に連れていかれたんだ!売春用とか言って、あっという間に泣き叫んで嫌がるあの子を!すまねぇハーヴァン!俺は、俺達はどうすることもできなかった!ホレスも引き留めようと必死だった!でも抵抗虚しく、引きはがされて一緒に連れていかれちまった!」

 

「なんだと!?おいそれなら2人はどこにいるか分かるか!知っている情報は何でもいい!頼む!教えてくれ!俺には妹がたった一人のこの世の家族なんだ!ホレスだって俺の相棒なんだ!分かるだろう!?」

 

2人がこの世からいなくなるなんて、おぞましくて仕方がなかった。たった一人の可愛い血の繋がった妹と、信頼できる相棒と呼べるに近い仲間。年は2歳上だが、そんなものは関係ない。苦楽も、共にしてきたし、スリもかっぱらいのコツも俺が教えた。妹も、少しマセているとはいえまだ10歳だ。今頃俺が居なくて泣いているに違いない。

 

「俺達はすぐに目隠しをされて…、2人がどこに連れていかれたかを見ていない…」

 

「そうか…」

 

いや、だが、まだこの船に残っている可能性は捨てきれていない。下の階はソロっちに任せているとはいえ、見つかっていないだけかもしれない。しかしそのソロっちがハーヴァン達の会話を聞いていたのか、

 

「すまないハー君、下の階にも、ハーヴァンという兄がいる者はいないかと子供達に聞いて回ったが、その子はこのグループには入れられていないようだ。おそらく別の所に違いない。売春用はその子の素材や顔がいいほど金になるし、幼い頃から調教される。即座にオークションや店に売られるはずだ。つまり、もうここにはいない可能性が高い。十中八九、世界市場のスターナー貿易島に既に連れていかれたかもしれない」

 

「そ…そんな…」

 

ソロっちの絶望的な情報に、打ちひしがれるしかなかった。

 

「まだ諦めるのは早いぞハーヴァン少年」

 

「え?」

 

「何のために我らがスヴィエート皇帝と、そのアンチロピアス所属の直属部下の俺がいると思っているんだ。ここ俺達アンチロピアス…、長いな…。通称アン・ピアにすべて任せてお前は妹を助けに行け」

 

スッと無線機を取り出すと、ソロっちは誰かにかけ始めた。

 

 

 

オーフェンジークの皇族専用プライベート港から出航し、ものすごいスピードでスターナー貿易島までの航路を弾丸のように突っ走るさながらジェットスキーのような小型船が、走っていく。遠目に見える先ほどまで侵入していた大型船は、警察のサーチライトに照らされ、一斉に検挙されていくのが遠めに見える。怒号と笛の音が夜の港に響き渡り、子供達も無事に保護されいているようだ。優秀すぎるサイラスの部下、アン・ピアと軍、そして警察の摘発により、オーフェンジーク軍港の腐った軍人達は、このあと軍法会議にかけられ、厳重に処罰されることだろう。そして俺達はといえ…。

 

「なんだこれ!すっげー!俺、動いてる船に初めて乗った!」

 

ハーヴァンは海に手を入れ、水しぶきを楽しんだ。海は青いと聞くが、今はいかんせん夜なので真っ暗だが、それでも気持ちいい。スヴィエートの海域付近は水温が低くかなり寒いが、まだ触れるレベルではある。大きな満月が海に写っている。ハーヴァンはそれをパシンと叩いた。

 

「まぁ皇帝の僕にかかれば、めっちゃ速い船なんてあっという間に手配できるさ。例えどんな時間だろうとね!ハーッハッハッハッ!」

 

もちろんこの船は、サイラスのプライベートシップである。(初めて使用するみたいだし、船主も無理矢理呼び出されたため若干不機嫌なのはこの際見なかったことにしておく)

 

「俺、海に出るのも初めてだ!」

 

「ハー君嬉しそうだねぇアハハ、この国は月明りが明るいからね、夜でも全然、スターナー貿易島までくらいの航路なら問題ないのさ~、海が荒れてたり、グランシェスク方面から流氷が大量に押し寄せてきたりしない限りね!」

 

「海に写る月なんてのも初めてだぜ…!綺麗だな…」

 

「さあ早く妹のマイヤちゃんとお友達のホレス君とやらを助けに行こう!」

 

「お前ホント役に立つな!」

 

改めてこいつの有能さに感心せざる負えなかったが。

 

「でしょでしょ~?もっと褒めていいんだよハーく、ぐっおえ…気持ち悪おろろろろ…!」

 

突然サイラスは前のめりになり、波打つ海に向かってリバースした。何もかも台無しである。

 

「うぉぉぉおい!?いきなり吐くな!!さっき乗ったばっかだろどんだけ船に弱いんだよ!?」

 

「ち、ちなみに僕、泳げもしないから船から落ちたら一緒に死のうね……」

 

顔面蒼白でぜーはーぜーはー言いながらにっこりと笑うソイツははたからどう見ても皇帝には見えないただの童顔のもやし野郎であった。

 

「前言撤回。やっぱりお前役に立たねぇな!」

 

 

 

マイヤはじわりじわりと涙をこぼす。黒い目隠しの色をさらに濃くなる。

 

ここは、どこだろう。目隠しされて、目の前は真っ暗。何も見えなかった。一緒にいたホレスお兄ちゃんも攫われた時にどこかに連れ去られてしまったのだろう。声も気配も感じないし、もしかしたら…、と最悪な状況がふと頭によぎるが、マイヤは首を振って自己の後ろ向きな考えを否定した。そんなはずはない。だって、ホレスお兄ちゃんは、ハーヴァンお兄ちゃんの相棒だ。イーストスラムで二番目に強いって言っていた。勿論、一番目はハーヴァンお兄ちゃん。

 

「大丈夫…、きっと、ホレスお兄ちゃんは大丈夫…」

 

あの時だって、大人たちが住処になだれ込んできた時だって、真っ先に私の手を取って脱出させてようと必死に手を引っ張って誘導してくれた。結果的にこうなってしまったが、一番悪いのは大人達だ。ホレスは悪くない。お兄ちゃんが出かけていたのが、最大の誤算だったのかもしれない。

 

リーダーが不在であるイーストスラムのストチルなど、統率力がないに等しい。経験も実力も人望もかなり高いハーヴァンがリーダーで、一塊の大グループなって、団結力や協調性が高いという事はそれ即ちハーヴァンがいなければ、皆住処に侵入された際に混乱し、バラバラになってパニックを起こしてしまうという弱点でもある。副リーダー的存在であるホレスも必死に逃げるように誘導と声を浴びせたが全て裏目に出てしまった。それが今回ハーヴァンが留守にしている間に起ったイーストスラムのストチル達の状況だ。

 

それでも、大丈夫だと必死に言い聞かせても、後ろに手を組まされ縄で縛られて引っ張られて何も抵抗もできない。多分、抵抗したら痛い目にあわされる…。

 

「ううっ…グスッ…おにいっちゃん…!」

 

今出てくる言葉はもうそれしかなかった。いつも世話を焼いて、面倒を見てくれる頼れる兄は、正午ごろ見送ったのが最後。次に会えることはなかった。ホレスは、ちょっとまたフラっとどこかに行ってるだけさ、と知らされた。そのようなことは日常茶飯事だったし、何一つ心配していなかった。日常が突然崩壊し、大好きな兄は無事なのかすらも分からない。

 

「なかなかいい上玉を連れてきたな」

 

「だろ?ずっと俺が目をかけてきたやつだ。10歳でもこんなに容姿が整っているんだから売春でも愛玩奴隷でもきっと高く売れるに違いねぇよ」

 

「よし褒めてやる。お前のロピアスへの居住権と偽装戸籍を確保してやるよ」

 

「ああ、頼むぜ。しっかりと書いてくれよ。俺が治癒術師(ヒーラー)だってな…」

 

マイヤはその会話と声を聞いて戦慄した――――――――。

 

 

 

スターナー貿易島に停泊したサイラスの船から降り立ち、初めての土地に心を躍らせる。今の時間帯は深夜なのに、流石は世界のすべての貿易品があつまる最大世界市場と呼ばれる島である。街は深夜でも、光結晶の光をサーチライトのように照らし、港付近の商業地区や貿易地区は荷下ろし作業で時間など関係なしに働く貿易関係の男たちや、ちょっと路地裏を除けば、怪しい店がたくさん見える。俺のような存在、ホームレスの大人の男が貿易商人に物乞いをして蹴り飛ばされるのを横目で見たとき、ここも大概治安はあまり良くないのだろうと嫌でも感じ取れた。外国特有の、スヴィエートでは感じたことのない変な臭いや食べ物、文化、そして当然のごとく外国人もたくさんいる。

 

街の看板に書いてある地図をサイラスに解読させれば、住居地区もあるようだが、全て端にあるようだ。

 

「この島は五角形の星のような形をしているから、おそらく住人は5つの地区に分かれて星の頂点の居住区で暮らしているみたいだね。中心は商店街とか交易地区だね。星のへこんでる部分が全て港になってるみたいだから、オークションのやりとりがされるとしたらやっぱり中心街だろうね。でも骨が折れそうだ。3国の文化が混ざり合って好き勝手に建物が形成された所もあるみたいだから、分かりにくい独特な街の構造をしている。迷いそうだなぁ。さっきも通ってきた道に裏通りがたくさんあったし」

 

「こういう所は俺は割と得意だぜ。建物の構造や地図、周辺の建物を記憶しておくのもストチルの専門分野みたいなもんだ。追っ手を振り切るために小さな体を生かして大人じゃ入ってこれないようなところに逃げ込むのもコツだからな」

 

「やっぱ君を連れてきて良かったよ、こういう所は頼りになるなぁ。頼むよ。アンチロピアスの人たちや軍の者はオーフェンジーク港の大型船にいる軍の摘発に人員を割いちゃったせいで実質僕ら今2人だからね。バデーだよばでー。あっ、なんかちょっとかっこいいね!相棒って感じじゃない!?」

 

「バディ、だろ。それにお前は相棒って感じしねぇなぁ。どっちかって言うとお供、って感じだ」

 

「酷い!僕達身分は関係なしに平等だろう!?た、確かに僕はハー君みたいに戦えないし弱いけどさ!」

 

サイラスは頬を膨らませプンプンと怒り出したが、何一つ自分には怒っているようには見えなかった。何て言うのだろうか、豆芝が吠えてきてるような、そんな感じだ。

 

「俺の相棒は既に、イーストスラムで一緒にいたホレスって言うやつがいるんだ。茶髪赤目の、お前の一つ年下だったかな17歳の年上だけど、奴に敬語なんてつかった事ねぇけどな。2人で協力したから、この前の倉庫の食糧だって1週間分もとれた」

 

ハーヴァンは最後に会った奴の姿を思い浮かべた。頭がキレて綺麗な茶髪、顔もそれなりにいいので女児のストチルによく懐かれている。本人も面倒見はいいし、子供はむしろ好きだといつだったか言っていた。

 

「へー…、なんかいいなぁそういう相棒関係。僕も欲しい」

 

ハーヴァンとの相棒関係を本人から否定され、既にいると聞かされれば、「ちょっと妬けちゃうなぁ」と小さく語尾に付け足す。

 

「ちなみにお前より顔は大人っぽいぞ」

 

「どうしてそういう意地悪言うんだよぉ!」

 

 

 

捜索は思った以上に難航した。闇オークションが開かれそうな場所を大人に聞き込みして回ったが、2人とも未成年である。そしてサイラスの童顔さも災いし、一切聞き込みは効果をなさなかった。ハーヴァンとサイラスの勘で怪しいところを回るが、そう簡単に見つかる程、甘くはなかった。そもそも街の構造体が複雑であるし、裏路地を回ればきりがない。しびれを切らしたハーヴァンが、何か手がかりはないのかと、はんば八つ当たりまがいにサイラスに怒鳴り散らした。

 

「ちっとも見つからない!何か手がかりはねぇのかよ!これじゃ夜が明けちまうぞ!!マイヤが売られちまう!!」

 

「もー、短気は損気だよハー君、焦る気持ちもわかる。君の妹の身がかかっているんだ、分かるよ。でもいいところまで来ているんだ、一応マッピングはしておいた。しらみつぶしに探索してきたけど消去法で考えるともうすぐ近いかもしれないよ!前向き思考で行こうよ!得意なんだろこういう場所!」

 

「お前そうやって作戦が一切ないのを誤魔化しているだけだろ!分かってんだぞ!お前は行き当たりばったりの展開に弱い!それに得意だってのは逃げることに関してだ!今は誰にも追われて逃げてなんかいねぇ!意味を吐き違るな!」

 

「うぅッ…」

 

サイラスは目をそらした。自分もこの街に来るのは久しぶりであるし、こんなに詳しく街の中を探索したことはむしろ初めてである。こんなに内部は複雑なつくりをしているとは思わなかったのだ。とんだ誤算であるし、誰一人部下を連れてこなかったことを非常に後悔した。いち早くスターナー貿易島にたどり着くことが先決だと思っていたが、一人に少女と、彼の相棒は一向に見つからない。

 

「…ごめん、ごめんよぉ…やっぱり僕、優秀な部下に助けられてばかりの役立たずだよぉ…!」

 

サイラスはしくしくとべそをかき始めた。これで18歳なのだから信じられない。

 

「泣くなうっとおしい!お前が泣いたところで何一つ解決しやしないんだ!それに悩みの種が一つ増える!お供じゃなくてお前はお荷物だよ!」

 

「そっ、そこまで言わなくてもいいじゃないか~!!」

 

元々こいつの涙腺はかなり弱いのだろう。少しきつい言葉を浴びせただけでもう目が潤んでいる。

 

「だー!!うっぜぇ!ひっつくんじゃねえよ暑苦しい!」

 

ぐずぐずと泣き、抱き着いてきたサイラスをひっぺがそうとした時だった。

 

「―――――――ハ、ハーヴァン?」

 

「!?」

 

今いる路地裏の奥、聞きなれた声が聞こえた。慌ててサイラスが持っていたライトをひったくると、声のする方を照らす。

 

「ホ、ホレス!?」

 

パッと明るく照らされた茶髪に赤目。先ほど話していた容姿そのもの、ハーヴァンの相棒である。

 

「お?あれが君の相棒かい?」

 

サイラスはスッと泣き止むとホレスを見た。後ろにロープを持っていた。そのロープの先は暗闇に隠れ見えなかったが、暗闇につながる先が地面から離れて浮いていて激しく上下に左右に揺れている。何かを結んでいるのだろうか。それともそこに結び付けられ、逃げられないようにしてあるのだろうか?

 

「お前っ!ど、どうしてここに!?」

 

ホレスはその赤い瞳を右往左往させた。きっとよほど怖い目にあったのだろう。手も震えている。

 

「何言ってんだ!お前を助けに来たんだ!それとマイヤもだ!心配したんだぞ!さらわれたって聞いて!ああでも良かった!自力で脱出したんだな!」

 

ハーヴァンは慌てて彼に駆け寄った。

 

「あ…あぁそう…なのか…!そうか……どうやって…この島に…」

 

「そんなことはどうだっていい!早くこの島から逃げよう!船はあるんだ!一刻も早く!さぁ!」

 

ホレスの手を取り、元来た道を引き返そうとした。が、できなかった。頑なに拒むように、ホレスはそこから動こうとはしなかった。ハーヴァンの手はずるんと空を切り、思わずあっけにとられた。

 

「っ?おい!どうしたんだよ!?早くここからずらかろうぜ!」

 

手汗で滑っただのろうか?もう一度、ホレスの手首を右手でつかんだつかんだ。

 

…んで…え…は…も……いつ…も…!

 

ホレスが俯き、何かをぼそぼそとつぶやいた。サイラスは、不穏な空気を全身で感じ取った。

 

「ハー君?彼!様子が変だぞ!」

 

「はぁ?何言ってんだよ、確かに受け答えがアレだけど混乱しているだけだろ?なんたって人さらいに遭ったんだ。腰が抜けて動けないなんてのもあるだろ」

 

ハーヴァンは、サイラスが言っている意味を正しく理解できなかった。こいつはずっと俺の相棒だった。誰よりもこいつの事を知っている。もう一度ホレスをそのまま引っ張ろうとした瞬間、ホレスの後ろでどさっと何かが倒れこんだ。暗闇のシルエット的に、人であった。「なんだ?」と、反対の左手で持っているライトで照らすと――――――――

 

 

 

「お兄ちゃん逃げてぇ!!!」

 

「ッマイヤ!?」

 

見えたのは、ロープを自力でほどき口に張られたガムテープを剥がして叫ぶ我が妹。次の瞬間、

 

「ハー君!危ないっ!!」

 

ザンッと、鋭利な刃物が肉を裂く音がし、あいつの青い髪の毛と同時に真っ赤な鮮血が視界の下から飛びだした。ピシャッと血の噴き出る音がし、顔にそれがかかる。

 

「チッ!!邪魔しやがって!」

 

何が起こったのか理解できなかった。サイラスに飛び掛かられて、どさっと情けなく尻もちをついた。けれど、あのままその場にいたら間違いなく喉を掻っ切られていたというのは混乱する頭の中で必死に整理して分かった。

 

「サイラス!おい!おい!しっかりしろ!!」

 

自身の腰に覆いかぶさるようにぐったりしているサイラスを見れば、ぎょっとしてしまった。服はその切られたとおりにざっくりと切れて布切れが垂れ、左肩ににじむ血がじわりじわりと彼の身に着けているマフラーに侵食していく。

 

「ハー…君…にげ…」

 

「あぁっ!サイラス!一体!何で!どうしてこんな!」

 

「あと…少しだったのに…!」

 

ゆらりと彼の影が顔にかかり、上を向けばそこには両手でナイフを振りかぶり、

 

「ホレス!?何してんだやめ―――――――!」

 

「あと少しで俺は勝ち組になれたのに!!」

 

「ぐぅっ!?」

 

頭に突き刺される直前、めいいっぱい振り上げた両手で振りかざしてきた手首を掴み、何とか持ちこたえた。

 

「死ね!死ね死ね!!今ここで死ね!でないと俺の人生が台無しになるんだよ!?」

 

「何言って…、やっめろこのっ!!」

 

ぐぐぐ…と力を振り絞りハーヴァンは下から力で押し返した。今ここで俺がやられたらサイラスまで巻き込んでしまう!

 

「くっそが!!」

 

完全に両足で何とか立ち上がった瞬間に、素早くホレスに向かって足払いし即座にその不利な状況を脱した。

 

「ぐあっ!?」

 

右足に強い強打を食らい、ホレスは横向きに倒れこんだ。その時に誤って持っていたナイフで頬を切りつけてしまう。

 

「何…してんだよホレス!お前!頭おかしくなっちまったのか!?なぁ!そうなんだろ!そうだって言えよ!誰かに操られてんだよな!?他にストチルがいて、そいつらを盾にとられ…」

 

ハーヴァンの脳裏に、昨日の情景が思い浮かんだ。妙に神隠しのあの話に詳しかった。それに重大な事を自分でも間抜けじゃないかと思う程に見落としていた。腕っぷしの強いガスパールがウエストで一番権力のあるチームウォークスに所属していたはず。吐かせた少年でも最初は頑なに口を割らなかったほどなのに、そのような屈強な少年が、わざわざ違う地区の、それにこの前喧嘩したばかりで目の敵の俺のチームのホレスにまで話に来るだろうか?否。

 

それらは全て、ホレスの作り話だと気づいた。

 

「ヘっはははは!!まだ…まだ分かんねぇのかよ…」

 

信じたくなかった。頬に手を当て血をぬぐい、そこから光が漏れた。ベラーニャがやっていた、治癒術であった。

 

「イーストスラムに誘拐組織キレサに住処を教えたのはこの俺だ!ストチル達全員が誘拐されるように逃げる道を誘導したのも俺だ!そして!!お前の妹マイヤをここまで連れてきたのも

 

お前の相棒、ホレスだったのさ!!!」

 


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