テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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アルス完全復活











戻ってきた光景

ラオは珍しく目を開いて、神妙な面持ちで耳をすませていた。上からはアルスの泣き叫ぶ声が聞こえる。母スミラと和解できたのだろう。

ラオはフッと笑うと、両手を頭の後ろを回した。

 

(アルス……良かったね……)

 

そしてまたいつもの糸目に戻すと、深く息を吸い込み、深呼吸した。

 

呼吸──────。

人間が必ず行う生命活動だ。これをしなければ生きてはいけない。神経をとぎ済ませてみれば、自分の心臓が動き、脈を打っているのが分かる。これは人間なら自然な事だ。

 

そう、()()なら───────。

 

 

 

アルスはしばらくぶりに泣き続け、落ち着いた頃には涙は枯れていた。目元を真っ赤に腫らし、如何にもついさっきまで大泣きしてました、と言わんばかりだ。声も震えていたが、そこはプライドが許さないのか、意地でも1階に降りてきた時、涙は見せなかった。「すまない、取り乱した」、とただ一言告げて、自分がもう一線を超え、落ち着きを取り戻した事を仲間達全員に伝えた。

 

そしてまず、ルーシェに詫びた。

 

「ルーシェ……本当にすまなかった。今までの俺の態度……酷すぎた。言い訳は一切しない。君の事、貧民がなんだの、過去がどうの、父がどうのとか勝手に言って理不尽に突き放し、勝手に自分で怒ってた。感情が爆発してしまったとはいえ、酷い事を言ってしまった。

 

俺は本当にバカでマヌケのどうしようもない子供だった。自分が情けない。許してくれとは言わない、だがこの通りだルーシェ。申し訳なかった」

 

背筋を伸ばした後、深く頭を下げ真摯に彼は謝罪した。スヴィエート民からしてみればこれはかなり異様な光景だった。

 

皇帝が貧民に頭を下げるのだ。

 

しかし、アルスにとってもはや彼女はもはや無くてはならない存在になっていた。彼女がいたからこそ自分は自分を取り戻せた。彼女がいなかったら今頃自分の精神は完全にフレーリットにすり変わっていただろう。アルスはもう理解していた。否、思い出したと言うのだろうか。最初から今まで、ルーシェのおかげで今の自分がいるのだと。

 

ルーシェはしばらくキョトンとして戸惑った。もうそんな事、どうでもいいのだ。

 

20年前の過去に行った時、確かに自分達の意見が食い違い口喧嘩になり、やがて大喧嘩に発展、2人の仲に大きな溝が生まれたことは事実だ。しかし、覚えている。防空壕できちんと自分に対してお礼を言ってくれた事、エチルエーテルという少年に真正面から身体を斬られた時、彼は自分を介抱し守ってくれた事。自分の命を投げ出す覚悟をしてまで、仲間達を優先した。彼は、落ちるところまで落ちてはいなかった。

 

そう、彼の言う通り、ただの一時的な感情の爆発。いわば、思い通りにならないなら癇癪を起こす子供と一緒だ。年齢は一応自分の方が年下とは言え、男はいつまで経っても子供だ、とどこか悟っており、アルスの事などとっくに許していた。しかし心のどこかで。

 

優越感というか、母性というか、加虐心と言うのだろうか。

 

ちょっと、意地悪してみたくなった。

 

「フンだ、何を今更。許さないも〜ん!」

 

腕を胸の前で組み、ツーン、と顔をそっぽに向けて頬を膨らませながら言った。

 

今までの行いからしてみたら当り前。

ざまぁ見ろ、とルーシェは心の中でほくそ笑む。するとアルスの顔の何と面白おかしい事か。

 

「そっ、そんなぁ……!」

 

ズーン、と効果音がまるで周りに付いたように負のオーラが漂った。今にもまた泣き出しそうである。

 

「どうすれば許してくれる………の?」

 

アルスはまるで雨の中捨てられた子犬のような瞳でルーシェを見た。

 

「ンッフゥ…………クッ………!!」

 

「ブフォッ……!」

 

「カッ、カワイイアル兄…………!」

 

ルーシェの近くにいた女性陣のカヤは妙な呻き声を上げ必死に口を押さえて笑いをこらえた。フィルに関しては完全に吹き出し、慌ててノインの影に隠れる。クラリスは初恋の相手の見たこともない姿に心を踊らせていた。

 

「え〜?どうしよっかな〜。別に何してくれても許すとは言ってないし〜?」

 

ルーシェも楽しくなってきた。

 

「いいわよルーシェ…もっと虐めてやって…こう言いなさい………………」

 

カヤが要らぬアドバイスを小声でルーシェの耳元に囁く。

 

「え〜っと、今まで苦労をかけてきた代わりに、私達に対してスヴィエートから賠償金を支払う事!」

 

「ばっ、賠償金!?なんてリアルな!?」

 

カヤは相変わらず金の事しか頭にないようだ。アルスは生々しい単語にひゅっと息を飲み考え込んだ。

 

おかしい事に、本気にしているようだ。

 

また要らぬアドバイスを今度はフィルが吹き込む。

 

「えーと、それから!3回その場でくるりと回ってワンと鳴いた後、焼きそばパン?を買ってこ〜い!」

 

ルーシェが言わされてる感満載で言い放った。

 

「はぁ!?そ、そんな事出来るわけないだろ!?」

 

流石にこのふざけた要求に対しては反発したが、

 

「え?やらないのか?やらなきゃルーシェに許してもらえないんだぞ?いいのかお前?小生知らんぞ?この先どうなっても、知らんぞ?ん?いいのか?」

 

フィルはアルスの足をグリグリと踏み尋問した。

 

「ぐぬぬ…………!!やめろこのガキ!」

 

「お?そんな事言っていいのか?ルーシェ、今奴は小生の事をガキと言ったぞ?自分がガキとさっき言っていた癖に、これは可笑しいのではないか?」

 

揚げ足を取るのが非常に上手いのが、フィルである。

 

「ルシェ姉ルシェ姉……あのな………」

 

ひそひそ、とまた女性陣がスヴィエートの皇帝に対して微塵も遠慮なく要求をする。

 

「それからクラリスちゃんをお姫様抱っこする事!」

 

「お、お姫様抱っこぉ!?」

 

クラリスはアルスから目をそらし背を向けた。顔を手で覆い隠し、声にならない悲鳴を上げている。

 

傍観し、すっかり空気だった男性陣がぽつりと話し始めた。

 

「すっかり遊ばれてるネ、アルス」

 

「なんか、懐かしいな。この光景」

 

「ええ、しばらく見てませんでしたからね。ホント、アルス君が戻ってきたって感じです」

 

ラオ、ガット、ノインも和やかな気分でそれを見ていた。

 

「お前ら、俺で遊ぶなーーーーー!!!」

 

いい加減キレたアルスが膨大な無茶振り要求ばかりしてくるカヤとフィルの両頬を引っ張り、事態は終息した。

 

そして、一番の主役はこう言った。

 

「アルス。事が落ち着いたら、私と一緒にスミラさんのお墓に行こう?そこで2人でお墓参り。ね?それでこの話はおしまい!私、貴方の事なんて当の昔に許してるし、別に怒ってもないよ♪

 

ただ、今までお母さんに対しての態度への事は誤解だとは言え謝罪は、きちんとスミラさんのお墓に行ってやる事だと思うの。それで仲直りだよ、約束♡」

 

輝かんばかりの笑顔の目の前の彼女は天使にしか見えなかった。天使なんて言葉では生ぬるい。女神だ。

 

小指をしっかりと絡め、指切りをし終わるとアルスはどうしようもなくまた彼女が愛おしくなり衝動的にルーシェを抱きしめた。

 

…………フィルとクラリスに瞬く間に引き剥がされたが。

 

 

 

ラオはアルスの謝罪が終わると、静かに彼に語りかけた。そう、いよいよ話す時が来たのだ。今しかチャンスはない。

 

「ネェ、アルス。ボクの事は、まだ怒ってる?」

 

「え?何で俺がラオに怒る必要があるんだ?」

 

アルスは一連の出来事が巡るましすぎてすっかり忘れていたようだ。

 

「ほら、フレーリットが言っていたでショ?君の祖父……、サイラスを殺したのはボクだって……。裏切り者だって、アジェス人は…」

 

「あぁ!」と、アルスは思い出した。フレーリットとの記憶が混濁していた時にそのような事を言った気がするのだ。少し記憶が曖昧だが、覚えてはいる。

 

「アレか……。確かに、過去に行った時父から聞かされて、そして、またロダリアに煽られた時は困惑したさ。でもお前は免罪だとハッキリあの時父に言っていただろう?あの時俺も父も余裕がなくて……怒りと困惑に支配されて、お前の言い分を一切聞くことは無かった」

 

「その……ボク……ネ?」

 

目を伏せて言いづらそうに口篭るラオを見て、アルスは一瞬で悟った。

 

「分かっている、真実を話してくれるんだろう?」

 

アルスは真っ直ぐラオを見つめた。アルスは一皮剥け、グンと成長した感じがラオにはヒシヒシと分かった。以前ならフレーリットと同じように疑い、まくし立て、聞く耳を持たなかっただろう。ラオは安心した。今の彼ならば、話しても仲がまたこじれる、なんて事はないだろう。

 

「フ〜ッ。皆も、今まで焦らしてきてゴメンネ。そう、ボク記憶が戻ったんだ。墓から蘇っても、その前の記憶は一切ない。ただ、アルスとの間に何かがあるって事だけは分かっていた。それは、血が繋がってたフレーリットも同じだったんだ」

 

ラオはアルスに過去フレーリットと接触した際に起きた出来事を話した。そこで完全に記憶を取り戻した事。そして、今明かされる自分自身のルーツ、失われていた記憶についての全貌を、仲間達に語り出した──────。

 




今回は短いですがキリがいいのでここで一旦切らせていただきます。次話は、いよいよラオの過去話です。

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