テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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ストーリー中間恒例鬱イベント


こんな形で会いたくなかった

一行はいつ戦いが起こるか分からない緊迫した街中を慎重に抜け、貴族街の例のマンホールから地下道に侵入した。

 

「20年たって、老化はしているけど未だにあったみたいでよかったわね…」

 

カヤはぶつぶつと独り言を呟いた。暗くじめじめとした地下道は以前よりかなり古くなっていた。あの時とは違うのだから当たり前だろう。しかし過去へ行ってまたすぐここに来た研究所チームは違和感を感じざる負えない。研究所に続くハシゴまであと半分という所でフィルが足を止めた。

 

「あの時はホント怖かったな…、研究所に入った途端ゾンビホラーみたいなことが起こったんだった……」

 

思い出したように体を震わせた。

 

「な、なんだそれ……!?」

 

「フム、そう言えばクラリスは具体的に説明していなかったな」

 

フィルがあらかたクラリスにあの時の状況を説明した。ガットの話の事は本人の口からだ。

 

「ゾ、ゾンビ…。でも元々ガト兄の恩人だったって事が更に酷い話だ…それにその友達だったリオとトレイルって人達も……、いや、よそう…。すまないガト兄、嫌な事を思い出させてしまった…」

 

「いや……構わねぇさ…。希望を捨てるわけじゃねぇが、2人は普通生きてるわけねぇんだ……。20年前の時点であんなエヴィ濃度だったんだ。人が生きていける環境じゃない……。ハァ、ったくこの研究所にはつくづくいい思い出なんざねぇよ…。また入った瞬間変な事が起きなきゃいいが…」

 

「ガット………ホントにいいの?2人を探さなくて?」

 

ルーシェが心配そうに聞いた。

 

「さっきも言っただろ。生きてるわけねぇって。勿論探したいさ。アイツらが生きていた証拠をな。だが、今優先するのはソレじゃねぇって事ぐらい、………お前にも分かんだろ」

 

ガットは目を伏せて言った。今は一刻を争うのだ。寄り道をしている暇はない。ハウエル達の想いを無駄にはできない。

 

「う、うん…そうだね…ごめんね……」

 

ルーシェはガットのやりきれない思いが痛い程伝わった。

 

「さて……、変な事が起きなきゃいいわね……」

 

カヤが一番最初にハシゴの所に到着し、後の皆が上を見上げた。

 

「よし……ここを登ったら研究所だ……行くぞ皆!」

 

ガットの掛け声に皆元気よく返事をした。しかし、カヤだけは素直に返事を返せなかった。

 

(何か、何かとてつもなく嫌な予感がするのは……気のせい……?)

 

カヤの勘は昔からよく当たる。そして、今度も──────。

 

 

 

ハシゴを上がり、部屋からそっと抜けると20年前とはうって変わって、まさに研究所と言わんばかりの清潔な廊下が広がっていた。

 

「……うっわ!綺麗になってる!?」

 

カヤは驚いて声を上げた。

 

「前来た時は、エヴィがそこらにモヤモヤと充満し、薄気味悪く、かなり不気味だった」

 

フィルの言動とは正反対に、廊下は明るく光結晶が照らし、眩しい程の白い空間が広がっている。

 

「エヴィを清掃して中まで改装したのか……?」

 

ガットが怪訝な顔で言った。

 

「ここにアルスがいるのカナ……?」

 

「分かりません、ですが放置していた研究所を改装してまで使うって事は、何かあるのは確実でしょう」

 

「ダヨネ……」

 

ラオとノインは互いに頷いた。

 

「とりあえずアルスを探すぞ。分かんねぇから手当り次第の虱潰しだ。誰かに見つかる可能性もあるから殺さない程度に気絶させていくしかねぇな…」

 

ガットは頭に入っている研究所の地図を必死に引っ張り出しながら先頭を切った。

 

 

 

「ここもダメみたいね……」

 

カヤはある一室の研究室をあらかた探し回り、ここにはアルスはいないと確信した。これが今何度も続いている。しかも研究室にあるのは気味の悪い生物が培養されている部屋だったり、曇ったガラスケースに得体の知れない何かが入っている等、精神的にクるものばかりだ。

 

「っどこにいるの……アルス……」

 

ルーシェの焦りが一行の中に蔓延してくる。

 

「曇って見えないな、一体何だ……これ………?」

 

クラリスは曇ったガラスケースの中身が気になり前のめりになってそれを見つめた。その時、ソレに繋がっている機械装置に、うっかり触れてしまった。

 

途端、ビー!!ビー!!と耳障りなブザー音が鳴り響いた。

 

「わっ!?」

 

「バカッ!アンタ何したのっ!?」

 

カヤが急いでその装置から離れさせた。

 

「ごっ、ごめんなさい!何か触っちゃった……!」

 

クラリスはダラダラと冷や汗を流した。

次の瞬間、ガーッと音を立て研究室の戸棚がスライドしその奥の扉が開いた。

 

「誰だ!?私の崇高な研究を穢す輩は!?」

 

「っ隠し扉!?」

 

戸棚の近くにいたガットが真っ先に見つかってしまい、そしてバチンと目が合う。

 

入ってきた中年の男性は冷たい瞳にメガネをかけ、普通の研究員とは明らかに違った雰囲気を醸し出していた。ガットはハッとした。

 

「ッ!お前は!?」

 

「貴様はっ!?」

 

20年前の記憶をたぐり寄せた。冷たい瞳の面影が強く印象に残っている。リオとトレイル達に散々人体実験を強要してきた1人。

 

「デンナーッ!」

 

「あぁ、貴様のその特徴的な緑の髪!そして顔!おぉ…!覚えているぞ!脱走したNo.1778じゃないか!!」

 

デンナーと呼ばれた人物はガットを名前では呼ばなかった。しかし実験成功体として強く印象に残っているのだろう。

 

「お前の事はつい最近のようによく覚えている!何せ20年前の治癒術師生産実験の唯一の成功体だったからな!」

 

「………はっ、そのくせ名前は覚えてないんだな」

 

苦虫を噛み潰したような顔でガットは応対した。

 

「名前?覚えているじゃないか。No.1778。それがお前の名前だ」

 

デンナーは、「何を言っているんだ」と続けた。

 

「ッテメェ……!」

 

ガットはその態度がとてつもなく気に入らなかった。怒りがふつふつと湧き、それは留まることを知らない。

 

「ッガット!アンタ、コレどうすんの……?見つかっちゃったけど…」

 

カヤが小声で彼に話しかけた。しかし、ガットは己を押さえつけられなかった。

 

「待てッ!じゃあ、じゃあ…!リオとトレイルは、覚えているか!?」

 

「リオ?トレイル?誰だ?」

 

「……………ッ!」

 

ガットは目を見開いてデンナーを睨みつける。

 

「ほんの少しでも覚えていないってのか!?俺と一緒に研究されてた女の子と男の子だ!」

 

「……………あぁっ!思い出したぞ!No.0765 とNo. 1457か!アイツらは実に惜しかった。もう少しで理想の研究体になれたのに、体が持たなかった 。だから………」

 

「ッテンメェ!あいつらを!あいつら2人をどうした!?」

 

全く悪びれる様子もなくガットの神経を逆撫でする発言をする。思わずガットはそれを遮って叫ぶ。

 

「何だ、そんなに気になるのか?今更帰ってきたお前が?」

 

彼は冷たく鼻で嘲笑う。

 

「ッ!」

 

「20年前、お前は2人を見捨てて逃走したじゃないか!?」

 

「違う!違う違う!!黙れェ!」

 

「何だ?私は間違った事を言っているか?事実を言っているだけじゃないか!」

 

「2人はどこにいるって聞いてんだ!!」

 

ガットは責め立てるその発言を振り切るようにかぶせ気味に言った。

 

「さっき教えようとしたじゃないか。だがお前はそれを受け入れたくないと拒むように大声を出した。安心しろ、生きてるぞ、2人は。だが何故私が彼らの消息まで脱走体に教えなければならない?お前達は元々侵入者だろう?」

 

デンナーは辺りを見回しガットの仲間達を見た。

 

「侵入者にはそれ相応の罰が下る。この研究所は機密が沢山あるから、尚更な!」

 

デンナーは持っていたリモコンの赤いボタンを押した。一行は一瞬でマズイ、と悟った。何かを発動されたのはまず間違いない。

 

「粋な計らいをしてやろうじゃないか、なぁ?No.1778?」

 

「な、何しやがった…!?」

 

「お望み通り、2人と再会させてやる。お前が20年間、望んだ物を実現してやる。だが、脱走した事、彼らを見捨てた事を一生かけて後悔するがいいッ!!」

 

突如ボコン、と音を立てガラスケースの中に泡が立ち込めた。上に繋がっているとてつもなくも太いチューブが動き、何かが召喚されようとしている。隣の光機関も同様の動きをしている。

 

「ひっ…!?」

 

ルーシェはゾクゾクッと、寒気が走った。

 

「侵入者対策用のゴーレム兵器だ。とくと味わえ。フハハッ、アーハッハハハハハハハハハ!!」

 

デンナーは背を向けそのまま元の隠し扉に戻っていった。

 

「ま、待てっ!」

 

ラオが追いかけ、扉を開けようとしたが、ロックがかかり戸棚がまたそこを素早く隠してしまった。

 

「ダメだッ!開かないヨ!このぉっ!ハッ!?」

 

ラオは漂ってくる冷気に急いで振り向いた。2つのガラスケースの扉が開き、ゆっくりとその中の冷気の煙と共に上半身が露になった。

 

「ま、まさかリオ………?トレイル………?」

 

ガットの口と目が、これでもかと言うほど開かれた。

 

面影のある2人の顔がまず目に入った。それもそのはず、当時の顔のままだった。

 

しかし──────。

 

「あっ、あぁっ……!」

 

姿が全て露になった時、引きつった声が思わず出る。ガットは今まで敵に対して、後ずさりをする、という行為は一度もしたことがない。しかし、ずりずりと脚も手も、唇も震わせて後ずさりした。

 

「こんなっ、こんな形で会いたくなかったっ……!」

 

震えるその声は、今まで仲間達は一度も聞いたことがない、弱々しい声色だった。

 

酷く滑稽だ。幼い印象の顔とは裏腹にその顔の周りは異形で埋め尽くされていた。エヴィが結晶となり様々な色を混ぜ、身体中にまとわりついている。それは大きく、まさにゴーレムというのに相応しい。過去のハーシーの姿より酷く、悪趣味だ。

 

無機質な瞳で真っ直ぐにガットを見つめ、視線は全く動かない。

 

身体はエヴィ結晶に覆われ、大きく醜くい。

 

それは、リオとトレイルの顔をした怪物だった───────。

 

「リオ……トレイル……、う、嘘だ!嘘だ!?うわぁああぁぁああぁぁあぁぁぁぁあああああああっ!?」

 

ガットの悲鳴にも違い断末魔が研究室研究室中に響いた。


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