東方神実郷~『仮面ライダーバロン』、駆紋戒斗が幻想入り~ 作:火野荒シオンLv.X-ビリオン
戒斗「馬鹿か貴様は」
チルノ「バカだから間違えたんじゃないの?」
シオン「追い討ちやめてorz」
霊夢「ところで、今回で序章を終わりにして、次回から第一章突入するって聞いたけど…」
シオン「あ、それね。第一章では、出来るだけ多くの東方キャラを出すように頑張るつもり」
紫(…ちゃんとできるのかしら、それ……)
第6話 戸惑いと過ち
大妖精が目覚めて、数日が経った。
彼女は永琳の薬を毎日投与し、その結果、既にボロボロだった細胞も修復されたとの事。
そのお陰で大分動けるようになり、彼女は現在、リハビリをしていた。
「っ…きゃ!」
「あらら……大丈夫?」
「あ、はい…大丈夫です……っとと…」
「まだ貴女、その怪我が完全に治った訳じゃないのよ?それに本来なら、リハビリもまだ早いし…あんまり無理すると、余計な怪我しちゃうわよ」
近くで大妖精のリハビリを見てた永琳は呟きながら、大妖精に手を差し延べる。
しかし大妖精は永琳に体を起こしてもらいながら、静かに首を横に振った。
「いえ…チルノちゃんや人間の人……戒斗さんは、ずっと私のために、ここに残ってくれてるんです。それなのに待たして迷惑になりっぱなしなのは、流石に嫌なので…」
「でも、かえってチルノちゃんを困らせるんじゃないのかしら」
「うっ……確かにそうでした…」
永琳の一言に、大妖精はガクリと落胆する。
確かにあの⑨の事だ。彼女にもしもの事があったら、かなり騒がしくなる。
そう思った大妖精は、チルノに心配をかけさせたくないと思い始める。
「まぁ、どうせ明日、戒斗さんが霧の湖まで連れていくって言ってたから、今日はもう休みなさい。色々な意味で」
「…分かりました…そうさせてもらいます…」
永琳の言葉に甘え、大妖精は病人用の布団に向かって歩き出す。
そして布団に潜り込もうとしたとき、いきなり永琳が呼び止めていた。
「あ、大妖精さん。ちょっとお伺いしたいのですが」
「?なんですか?」
「…貴女、【戒斗さんについて】どう思ってますか?」
「…え!?」
唐突の質問の内容に、大妖精は思わず驚く。
何故驚いたのかは自身でも分かっていないが、その質問に対して、あやふやに答える。
「ど、どうって……優しくて……強くて……見てるとホッとするような……感じ……?」
「(うん。見たところ彼女鈍感そうね…これなら当分『本心』に気付かないわね…まぁ、その方が面白いけれど)…そう。分かったわ。ごめんね、引き留めて」
「あ、いえ……(なんだったんだろう、今の質問…)」
大妖精は首を傾げるが、どうせ尋ねても答えてはくれないと思い、言われた通り、早く眠ることにしていた。
~~~
次の日の朝、戒斗たちは永遠亭の正門の前に出ていた。
戒斗はローズアタッカーを展開させそれに跨がり、その後ろに大妖精を乗せる。
……その際、何故か輝夜の手によって、紐で大妖精の体と巻き付けられていたが。
「今まで世話になったな」
「いえいえ。私も楽しかったわよ」
「……ところで、何故俺と大妖精の体に紐を巻き付けている」
「まだ大ちゃんは無理しちゃいけないの。だから極力、彼女が振り落とされないようにと紐を、ね?」
「その通りです」
「…そうか」
戒斗はその言葉に納得する。
一方の大妖精はというと、戒斗の後ろで何故か、顔が真っ赤になっていた。
―――これでもまだ気付いてないとなると、気付くまで1年以上かかるんじゃない…?
輝夜は心の中でそう思うが、その場にいる者は当然、彼女の考えは分からない。いても永琳ぐらいだ。
「戒斗ー!大ちゃんを危険な目に遭わせたら、その場でアンタだけを凍らせるからねー!!」
「分かっている。…じゃあな」
「暇なときとかは遊びに来なさいな。歓迎するよ」
「そうですよ!」
「怪我とか病気になったらいらっしゃい。安くしてあげるわよ」
「道に迷うなよー」
輝夜たちの言葉に、戒斗は鼻で笑う。
そしてバイクのエンジンを掛けると、ゆっくりと走りだす。
それを見たチルノもすぐさま飛んでいき、三人は永遠亭を後にしていた。
三人を見送った輝夜たちは、そのまま永遠亭の中に入ろうとする。
だが……
「―――おーい、輝夜ー!!」
「!この嫌な声は…」
声に反応した輝夜は、慌てて声のする方を向く。
すると声のした方角から、白い髪の毛をし、頭に紅白のリボンを付け、赤いもんぺを履いた少女が見えてくる。
そして彼女が見えた瞬間―――輝夜は渾身のエネルギー弾を一発、彼女に向けて叩き込んでいた。
「さっきチルノと大妖精と、なんか変なものに乗ってた人間を見かけたけど、あれってお前たちn」
「死ねぇ妹紅(もこう)!」
「って話を聞かずに攻撃するな引きニート!!」
少女―――藤原(ふじわらの)妹紅は叫びながら、右手で輝夜と同じようにエネルギー弾をひとつ作り、そのまま輝夜のエネルギー弾にぶつけて相殺していた。
それを見た輝夜は、軽く舌打ちする。
それに対し妹紅は怒り、イナバは驚き、てゐはいつもの事とスルーし、永琳に至っては妹紅が左腕に抱えている物を見て、尋ねていた。
「…チッ」
「舌打ちすんな!」
「何やってるんですか輝夜様!?」
「どうせいつもの事じゃん」
「いらっしゃい、妹紅さん……その腕に抱えてる”果実”は?」
「ん、あぁ、これか……つい最近、魔理沙にもらったんだ。『その辺にいつの間にか生えてたけど、食ってみると結構イケた』って理由で、いくつかもらったのさ。で、試しに食べてみたら、結構旨い」
そう言って妹紅は、紫色の皮をした果実を一つ手に取る。
そのまま皮を剥くと、白っぽい丸い実が詰まっていた。
そしてその果実を一かじりすると、妹紅は若干幸せそうな顔をしていた。
その顔を見たてゐは、不思議そうな顔をしながら尋ねる。
「…そんなに旨いの?」
「あぁ、もぐもぐ……で、貰ったはいいものの、量が多すぎたから、輝夜以外にお裾分けをって」
「ちょっと!なんで私だけないのよ!?」
「いきなり話を聞かずに襲ってきた罰だ。誰かお前にやるか」
「…だったら力ずくで!奪ってやらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
妹紅の言葉に輝夜はぶちギレ、そのまま果実を奪い取ろうとする。
そして輝夜と妹紅の二人の戦いが、今日も始まっていた。
~~~
その頃、何処か別の次元で、戒斗が幻想入りした幻想郷の様子を、以前その幻想郷に黄金の果実を送り込んだ少年が見ていた。
「へぇー。この世界はかなり特殊なのかな?”知恵の実”から生えていった植物の果実―――”力の実”を食べても、”進化を越えられなかった者の成り果て”になってないとはねー」
「恐らくあの世界の者たちは、知らず知らずのうちに”力の実”の持つ毒素や魔力を、己の魔力や霊力、神力に変換している可能性があると思われます」
「成程ね……確かにあの世界は、元々人ならざる存在が多いし、魔力や霊力、神力が強ければ、逆に毒素すらも打ち消せそうだね……流石に”知恵の実”とかは無理だろうけど」
ラキザの推測を聞いた少年はクスリと笑う。
すると黒髪ロングの男が、少年の元に歩み寄ってくる。
「おいおい。そうなると”知恵の実”一個じゃ、全く足らねぇだろうよ」
「キョウジ、それの件については既にセインに現地に向かわせ、ある”実験”を行っている」
「実験……?何の実験だ」
「あの幻想郷の住人は”進化を越えられなかった者の成り果て”にはならなかったが、逆に”進化への苦痛を耐えた者”になるのかという実験、そしてその実験の対象を探させている」
ラキザの言葉に黒髪ロングの男―――キョウジは納得する。
それを聞いた少年は、口許を緩めながら告げる。
「今あの幻想郷は、四季のひとつ、秋の真っ只中……聞けば既に”全能の実”に選ばれそうな一人、候補を見つけているけど、その人物は”その次の季節には適しない”との事だって。だから接触は、あの世界で6月頃……9約ヶ月後に行うんだって。だから僕たちはその時期に攻め込む。それまではセイン以外、待機だよ」
~~~
暫くして竹林を抜けた戒斗たちは、チルノの家に到着する。
戒斗は紐をほどいてローズアタッカーから降りるが、何故か大妖精がいつまでたっても降りようとしない…
それを見た戒斗は彼女に話し掛ける。
すると突然話し掛けられたのに驚いたのか、大妖精は後ろに転んでしまった。
「おい、大妖精。さっさと降りろ」
「ふぇ!?あ、は……きゃ!?」
「大ちゃーん!?」
「…さっさと降りろとは言ったが、そんな降り方はないぞ」
「ご、ごめんなさい!」
「…いや、別に構わん」
戒斗は静かにそう告げ、ローズアタッカーをロックシードに戻し、ポケットに戻す。
そして大妖精の腕を掴み、そのまま腕を引いて起こしていた。
大妖精は戒斗に起こされると同時に顔が真っ赤になるが、誰もその事に気付いてはいない……
「あ…ありがとう…ござい、ます……///」
「フンッ…」
「さて、このまま大ちゃんのお家に行ってもいいけど、そうなると大ちゃんの面倒を見る人がいなくなるから、暫くはアタイの家で休ませるよ。それでなんだけど戒斗、次いでだからアンタも暫くアタイの家に来なよ。どうせにとりには明日以降会いに行くし」
「…俺は別に外で寝ても構わん」
「んだよー。折角人の厚意を無駄にしてー」
戒斗はチルノの申し出を断る。
流石に永遠亭の時みたいに、部屋ごとに別れているなら、チルノの申し出を受け入れてもいいかと頭には考えてた。
だが、チルノの家は雪でできたかまくら……流石にそこで寝るのは狭すぎる。
ましてやチルノや大妖精は、妖精とはいえ女の子……そこら辺の配慮もしないといけないとなると、戒斗も配慮をするのが面倒なのだ。
だったらこの湖の付近で寝れば問題ないだろうと考えたのだが、そこに大妖精が割って入る。
「だ、だめですよ!いくらなんでも夜は危険です!」
「ならどうしろと」
「そ、それは……」
「俺は他人に心配されるほど甘くはない。自分の身は自分で守る」
「うっ……でも…」
「―――あー!チルノに大ちゃんなのだー!!」
大妖精が必死に説得しようとしたとき、森から声が聞こえる。
そして森から出てきたのは、赤い瞳で金髪のボブヘアーに赤いリボンをしており、白いシャツのようなものと黒いロングスカート、赤いネクタイを着用した少女だ……
しかもその少女は宙を浮かんでおり、一目で戒斗は妖怪だと分かっていた。
「ルーミア!遊びにきたの?」
「いやー。今日は散歩してただけー。リグルはもうすぐ冬だからって冬眠の準備に忙しくて、みすちーも新しい雀酒ができるからーってそれの準備をしているらしいのだー。なんでも今日は暇潰しに屋台を開くって言ってたのだ」
「あ、そうなんだ…」
「それにしても、いつ帰ってきたのだー?大ちゃんが大変な目に遭ってるって聞いた上に、チルノも大ちゃんの面倒を見てるって聞いてたのだー」
「今日よ。今さっき到着したの」
「へーそーなのかー。つまり大ちゃんは無事だったのかー」
「…じゃないとここに大ちゃんはいないよ…」
少女―――ルーミアはチルノと話す。
ルーミアの言葉に、チルノは軽く汗を流す……
そうしていると、ルーミアが戒斗の存在に気付き、指を指して尋ねていた。
ただし、尋ね方が少々酷かったが。
「?そこの見ただけで美味しそうな人間は誰なのだー?」
「おい待て、それは俺の事か!?」
「あ、そこのバカなやつ?駆紋戒斗ってやつよ」
「おいチルノ貴様後で殴る」
「え?あの人間、チルノみたいなバカなのかー?」
「なんでアタイと比べるのよ!?そこはリグルかみすちーでしょ!?」
「ち、チルノちゃん落ち着いて……!」
チルノは怒ってルーミアに殴りかかろうとするが、それを大妖精が抑え込む。
そしてしばらくすると、チルノは落ち着いていた。
そうしている間にルーミアは、戒斗に向かってコレクッテモイイカナ的な発言をして来ていた。
「…で、貴方は食べてもいい人間なのかー?」
「食べようとするな!!おいチルノ!こいつはなんなんだ!?」
「あー、ルーミアの事?ルーミアは宵闇の妖怪……だっけ?【闇を操る程度の能力】を持っていて、更に別名:人食い妖怪って言われてるよ」
「…妖怪というのは、人を食らうやつが多いのではないのか?」
戒斗の疑問を聞いたチルノは、やれやれといった顔で説明する。
……人くくりに妖怪と言っても、様々な種類がいる。
それはつまり、主食も違うということだ。
例えば河童は昔から伝えられたように胡瓜をよく食べるし、様々な鳥の妖怪もいるため、それによっては虫や魚を食べるものもいる(ただしこの幻想郷に、虫を食べる鳥の妖怪はほとんどいないが)。
他にもこの世界の吸血鬼は、たまに人肉を食べるが、どちらかというと生き血が主食であったりと、当然好き嫌いはあるし、妖怪のすべてが、人間を食するというわけではないのだ。
ルーミアはその中でも、取り分け人肉が大好物らしく、たまに夜に出歩く人間を食べようとしているのだとか。
説明を終えたチルノは「これだから」と得意気な顔で呟いていた。
「これだから幻想入りしたてのやつは…」
「…凄まじく……腹立つ…!」
「か、戒斗さんも落ち着いて…!チルノちゃんも言い過ぎだよ……!!」
「そーなのだー」
「えっ、何これ、アタイが悪いの…?」
「そーなんすー」
大妖精やルーミアに言われ、チルノは自分が悪いのかと狼狽える。
それに対して大妖精は首を縦に振り、ルーミアに至っては、何処ぞのソ◯ナンスの真似をしてまで肯定する始末……
それに対しチルノは動揺し始める。
「え、でも……知らなかったのを教えてやっただけだよ……?なんで……」
「チルノの教え方がダメなのだー」
「はぁ!?何がダメなのよ!あの説明で!!ちゃんと説明してるじゃないのよ!!」
「いや、だから……そういう意味じゃなくて……」
「とにかく、先にごめんなさいをしよう?ね?」
「ちょっ、大ちゃんそれはまだ……」
ルーミアの言葉に腹が立ち、チルノは怒鳴る。
しかしルーミアは言い方を間違えたのか、本当の意味を伝えようとしたが、その前に大妖精が、戒斗に謝るよう告げる。
だが、その言葉を聞いたチルノは激怒し、その場から飛んで逃げていった。
「―――なんで大ちゃんもそんな事言うのよ!もういいよ!!」
「あっ、チルノちゃん!!っ…」
「おっとっと……あーあ……行っちゃったのだー」
大妖精は慌ててチルノを追いかけようとするが、まだ飛ぶまでには至らないのか、軽くふらついていた。
それをルーミアがなんとか支え、チルノの姿が見えなくなるのを確認していた。
「チルノは私が後で話をするのだー」
「あ、ありがとうルーちゃん……」
「…スマン、余計な事させる上に、お前や他の妖怪の事……」
「別にいいのだー。実際に私、人肉が好物だし。それに月に1~2人食べられたら、それでいいのだー」
さらっと怖いことを言いつつも、笑顔で気にしてないと答えていた。
とにかく、チルノを追いかけないといけないと戒斗は考えるが、そこをルーミアが引き留める。
「だから、さっき言ったのだー。私がチルノの説得をするってー。それに戒斗がいったら、逆効果になるのだーよー?」
「くっ…」
「だから私に任せてくれなのだー。というわけで、探しにいってくるのだー!」
ルーミアはそう言って戒斗に大妖精を任せ、チルノが飛んでいった方向へと飛んでいく。
そして二人残された戒斗たちは、その場でじっとしていた。
「…大丈夫なのだろうか……」
「…ルーちゃんがああ言ったんです。なんとかしてくれます……あ、後…」
「?どうした」
「も、もう支えてもらわなくても……け、結構なので……地面に座らせて…ください……///」
大妖精は顔を真っ赤にしつつ、戒斗に告げる。
それを聞いた戒斗は、ゆっくりと大妖精を、地面に座らせていた。
大妖精は戒斗にお礼を言うと同時に、先程のチルノに関して、謝罪をし始める。
「あ、ありがとう…ござい…ます…///」
「礼などいらん」
「…、……それと、先程は…チルノちゃんが……ごめんなさい……!」
「…何故貴様が謝る。貴様は悪くないだろう」
「でも……」
「元はといえば、まだこの世界に来て、何にも知らない俺が悪い。確かにあいつの言い方にはイラッとしたが……それでも、俺は俺の世界基準で考えていたんだ。だから不服だが、今回は……俺が悪い」
「…戒斗さん……」
戒斗の言葉に、大妖精は俯く。
そうしてまた、静寂な雰囲気が漂うかと思ったときだった。
戒斗が大妖精に対し、小声で「…すまない」と呟いていた。
「…すまない」
「えっ……何が、ですか…?」
「…俺は最初に、貴様がヘルヘイムの植物に蝕まれているのを見たとき、俺が体験したのを基準として、貴様が助からないと思っていた。だが、それはこの世界では違った」
戒斗は池の方を向くと、静かに理由を語り始める。
最初に大妖精の様態を見たとき、一瞬で戒斗は、彼女はもう助からないと決めつけていた。
しかし、それでもチルノは諦めず、必死に大妖精を助けようとしていた。
そして唯一の解決策として、永琳たちに任せた結果……見事に彼女は救われた。
その時戒斗は、改めてこの世界を、自分の元いた世界と違うというのを実感していた。
それ故に戒斗は、己の世界を基準として考えるのは、どれほど他人に辛いことを突きつけるのかを、改めて理解していた。
勿論、戒斗も彼なりの基準があるから、どうとも言えないし、恐らくこれから先も、昔とは変わらないだろうと思ってはいる。
それでも彼は、この世界にいる限り、出来るだけこの世界の【ルール】のようなものに従っていこう……
永遠亭にいた間、そう考えたのだ。
それを聞いた大妖精は、静かに微笑む。
「…大変ですね……この世界に馴れるのは、かなり時間が掛かりますよ……?」
「フンッ……これぐらい、大した事じゃない。それに俺は、本来自分からこんな事、言わないからな」
「…でも…今さっき……」
「流石の俺でも、この世界の決まりを簡単に変えるのは無理だからな。それこそ、黄金の果実の力でも使わない限りは」
戒斗はそう告げると、その場で中腰になる。
そして大妖精の方を向くと、「乗れ」と言い放つ。
それを聞いた大妖精はあたふたしながら拒否していた。
「え!?な、なんでですか!?」
「さっきもふらついていただろう。ここで貴様に倒れてもらっては、後々チルノがうるさい」
「だい、大丈夫です!問題ないです!!だ、第一すぐそこですから、一人で行けます!///」
「…強がるのは構わんが、それでも無理はするな。それ以前に、貴様は見る限りでは、チルノのようにあまり強がる性格とは思えん。そういうやつは無理して倒れるのがオチだ」
「うっ……」
「いいから乗れ。俺は別に構わん」
「…、……お、お願い……します…///」
しかし戒斗は譲らず、乗れと言ってくる。
大妖精は暫くその場でどうしようか迷うが、顔を赤らめながらお願いし、戒斗におぶってもらっていた。
戒斗は大妖精を抱えると、そのままチルノの家に……向かわず、何故かチルノが飛んでいった方向へ向かっていた。
それに違和感を思い、大妖精は恐る恐る尋ねていた。
「え、あの……戒斗…さん……?そっちは確か……」
「…貴様もチルノが気になるのだろう」
「で、でも……」
大妖精はおどおどするが、それでも戒斗は、チルノが飛んでいったところへ歩いていく。
それに対して大妖精は、彼の気遣いを感じとり、その場で礼を言っていた。
「……あ、ありがとう……ござい……ます…」
「さっきも言ったが、礼などいらん。気にするな」
「…、……///」
大妖精は静かに、戒斗の背中に踞(うずくま)る。
それに対して戒斗は一瞬ドキッとするが、すぐに平常心を取り戻す。
だが……大妖精だけは違っていた。
(…なんで、だろう……戒斗さんの事が……頭から離れない……)
(それに……この人の事を考えると……胸が痛いし……体も熱く感じる……なんだかとても、苦しくなる……)
(でも……戒斗さんが一緒にいると、なんでか……嬉しい……そんな気がする……)
(……私の体……どうしちゃったの………///)
~~~
チルノは一人、森の中で踞っていた。
そしてその瞳から、一筋の涙が伝っていた。
(…アタイ……サイテーな事……しちゃった……自分のせいだ……)
チルノは頭の中で、先程の出来事を思い出す。
そしてそれを自分のせいだと攻めているときだった。
空から声が聞こえ、チルノは空を見る。
やって来たのはルーミアで、恐らく自身を追っかけてきたのだろうと思ったチルノは、慌てて涙を拭いていた。
「おー。こんなところにいたのだー。探したよー」
「…ルーミア……」
「あれ?その様子だと、泣いてた?」
「な、泣いてなんかいないわよ!!ただ、目から汗が出ただけよ!!」
チルノはそう言うが、ルーミアはそれをあえて無視する。
そして先程の出来事について話し出していた。
「…チルノはさっき私に、『教え方が悪い』って言ったよね?その意味分かる?」
「…全然。むしろ、アタイの説明の、どこがいけなかったと言うのよ……」
「いや、別に説明の内容は良かったのだー。ただ…」
「ただ?」
「チルノが教えた時の『言い方』が悪かったのだー」
ルーミアはゆっくりと地上に降りると、ちょこんとチルノの隣に座る。
一方のチルノは、ルーミアの言葉の意味がわからずにいた。
「…何よ、それ……全然意味が分かんない…」
「そーなのかー。だったら簡単に言うと、チルノも誰かに何かを教えてもらった時、その教えてくれた人が、チルノを小バカにする態度や言動だったら、怒ったりするー?」
「当たり前よ!なんか偉そうにされるのがムカッてする……もん……」
「お、気付いたのかー。そう、チルノがそう思ったように、戒斗はチルノの【言い方】に腹が立ったと思うのだー」
ルーミアの言葉を聞いたチルノは、自身が戒斗にしたことについて、深く心が痛む……
自身がされて嫌なことを、平気に他人に行っていること……
それに気付いたチルノは、深く頭を押さえ込む。
「…そう、か……そう、だよね…元々、あいつはここに来てまだ、日が浅いんだった……それなのに…えらそーな口振りで……」
「(あれ?チルノにしてはかなり珍しい反応なのだー……別にいいけど)……別に深く、気にすることではないのだー。生きてるみんな、全員がそういった心を持っているのだー。ただ、チルノはそれがどんなに相手を辛い思いにさせたりするか、まだ知らなかっただけなのだー」
「で、でも……知らなかったせいでアタイは……それに大ちゃんにまで、あんな事……」
「だったら、これから一緒に学んでいこうなのだー。そして何が相手を怒らせたり、傷つけたりするのかを、しっかりと理解できるようになろうなのだー!わはー!!」
ルーミアは立ち上がると、その場で大きく腕を上に伸ばす。
チルノはそれを呆然と見つめるが、暫くしてその場で笑い出していた。
「あ、あっはははははは!ルーミアがそんなこと言うなんてー!!」
「んー?言ったらいけないのかー?」
「…ううん。全然!…というか、アンタがそんな事言うなんて、なんか意外ー」
「そーなのかー。まぁ、私はチルノやみすちー、リグルよりは少し大人だからなのだー」
「うわっ、何それ、イラッとしたんだけど!?」
「そー・なの・かー」
「誤魔化すな!?」
先程まで良い事を言っていたのに、さらっと自慢気に自身を過大評価するルーミア。
しかもそのまま誤魔化しに入ったため、チルノは彼女に向かってツッコミをいれていた。
そうしていると、誰かが呼んでいる声が聞こえてくる。
声が聞こえる方を見ると、その方角から、大妖精をおぶった戒斗が、チルノたちの方へ歩いてきていた。
それを見たチルノは驚き、ルーミアも「待っていても良かったのにー」と呟きながら、彼らのところまで走っていく。
「か、戒斗に大ちゃん!?なんでここに……!?」
「もー……別に待っていても良かったのにー」
「…どうしても、チルノのバカを追いかけたいと、俺の背中に乗っている女が煩くてな」
「Σ戒斗さん!?何を言って…きゃ!?」
さらっと戒斗は嘘をつき、大妖精は動揺する。
が、その前に彼女を下ろし、そのまま数歩ほど後ろに下がっていってしまった。
「…いいからさっさと済ませろ」
「あ、う…はい……」
大妖精はおどおどしながらも、チルノの方を見る。
一方でチルノは顔を俯けたまま、ゴニョゴニョと大妖精に話し掛ける。
「…あ、あの……大ちゃん…さ、さっきは……ごめん、なさい……」
「…気にしてないよ……それに…わ、私も……」
「!ううん!大ちゃんは悪くない!悪いのはアタイだよ!……だから……」
そう言ったチルノの瞳から、涙がポロポロと溢れ落ちる。
それを見た大妖精は「おいで」とだけ告げると、チルノは彼女に抱きついていた。
それを傍観している戒斗は、フンッと鼻で笑い、ルーミアに至っては「とりあえず良かったのだー」と呟いていた。