東方神実郷~『仮面ライダーバロン』、駆紋戒斗が幻想入り~ 作:火野荒シオンLv.X-ビリオン
チルノ「久しぶりの投稿のわりには、本当に詰め込んでるよね」
戒斗「確かに……普段1万文字もいかないくせに、今回は12127文字だからな」
シオン「うん。だから今回は(主に今回の話の内容的な意味で)後書きは書かないことにする」
戒斗「おいちょっと待て」
次の日の朝、チルノは朝早く起きると、大妖精のいる病室まで走り出す。
大妖精の手術は無事に成功したが、暫くは安静にしないといけないという事らしいので、チルノと戒斗の二人が、永遠亭に残る事になったのだ。
チルノはともかく、戒斗も永遠亭に残った理由は、単純に宿がないからだ。
野宿でもよかったのだが、それを霊夢に
『貴方馬鹿?妖怪って言うのは基本夜の方が活発になるのよ。たぶんこの辺の妖怪なら食われはしないと思うけど、どんな目に遭うか分からないわよ』
…と、ボロクソに言われたので、輝夜が「なんなら暫くは家で預かります」と申し出る。
霊夢はそれを承諾し「私は博麗神社に戻って、結界の修復に取りかかるわ」とだけ告げると帰っていった。
チルノに関しては「大ちゃんを放っておけない」と言って、自ら残る事を志願し、それを輝夜が承諾していた。
チルノは大妖精の病室に入ると、彼女が寝ているベッドの近くの椅子に座っていた。
「大ちゃん、退院までもう少し掛かるんだって……それに退院できても、暫くは安静にしないといけないらしいし……だからもう少しの辛抱だよ………」
チルノは未だに眠っている大妖精の手に、自身の手を合わせる。
手術は成功したものの、それまでずっと激痛に耐えていたので、その疲労などで早くても後2~3日程は眠り続けるという事…
しかしチルノにとっては、大妖精が目覚めるなら、それぐらい待っているのは楽な方であるため、今は彼女が無事に目覚めてくれる事を祈っていた。
そうしていると、突然輝夜が病室に入ってくる。
どうやら朝食が出来たらしく、その事をチルノに伝えに来たらしい。
「チルノちゃーん!ご飯が出来たよー!!」
「あ、うん!今すぐ行くからちょっと待ってて!!」
チルノは元気よく返事をすると、もう一度大妖精の手を握り締める。
そして5秒ほど握った手を離すと、そのまま部屋を退出していった。
その数分後、彼女の指が、ピクリと動いていた。
~~~
チルノが部屋に戻ると、既に食卓には、全員席に座っていた。
チルノはとりあえず空いていた戒斗の隣に座り、輝夜は永琳とイナバの間に座る。
そして全員が揃ったので、全員「頂きます」と言って、朝食にありついていた。
「…美味いな」
「あ、私が作ったんですよ」
「へー、冷やしうどんって料理作れるんだ」
「一応、あたしとのローテーションでやってるのさ」
そう言うのは、薄桃色の服にニンジン型のネックレスを首にかけており、イナバのようにウサ耳が付いている少女だ。
戒斗は少女を見て「誰だこいつは」と永琳に尋ねる。
「あら、戒斗さんは会ってなかったの」
「そういやアンタ、アタイたちを空き部屋に連れてった後、すぐさまどっか行ってたね」
「あー、会うの面倒だしいっかって思って、外の連中と話ししに行ったんだよ。あ、あたしの名前は因幡(いなば)てゐ。でアンタは?」
「駆紋戒斗だ……にしても因幡って…」
戒斗は名乗りを終えると、少女―――因幡てゐとイナバを交互に見る。
が、反応がそうなると分かっていたのか、即座にイナバが「姉妹ではないです」と話していた。
詳しく聞いてみると、とある理由でイナバがここに来るまでの名前は『レイセン』と片仮名表記だったが、ここで地上人に偽装するために漢字表記になり、更にどういうわけか、永琳には『優曇華院』、輝夜には『イナバ』の名を貰ったとの事。
それを聞いた戒斗は長すぎると思うが、イナバ本人は気にしてないようなので、気にしない事にしていた。
かわりに戒斗は大妖精の容体を永琳に尋ねる。
「…それで、あの大妖精ってやつは、一体いつ目を覚ますんだ?」
「分からないわね。死ぬ事はないけど、多分長くても1ヶ月は目が覚めないわ。早くても後2、3日は掛かるかもね」
「そうか…」
「ところで戒斗、貴方はこれからどうするの?」
永琳の話を聞き終えると、輝夜がこれからどうするのかを尋ねてくる。
…確かに、輝夜が許可しているとはいえ、いつまでも永遠亭で寝泊まりするのも、戒斗にとっては失礼に思う。
しかし野宿しようにも、先日霊夢に言われたように、夜は妖怪が活性化するらしい…
流石に寝込みを襲われてしまえば、戒斗でもどうしようにもない。
戒斗は暫く悩んでいると、アイデアが思い浮かんだのかイナバが「そうだ」と言って、戒斗に話し出す。
「にとりさんなら、移動式のテントとか作れるんじゃあないでしょうか」
「ニ●リ?この世界にもあるのか?」
「戒斗、メタいけどそっちじゃないよ」
戒斗は某有名家具屋を思い浮かべるが、それをチルノが否定する。
チルノが言うには、この世界には『河城(かわしろ)にとり』という名の河童がおり、彼女はよく電気などを使った機械などを発明するらしい。
なので彼女に頼めば、少なくとも戒斗用の特性野外テントでも作れる可能性があるとの事。
それを聞いた戒斗は(勘違いは放棄して)、興味深そうに聞いていた。
「成程……確かに普通のテントでは、すぐに襲われるだろうが、機械的なやつだったら、簡単には壊されもしないだろうな……よし、大妖精が目覚めた後は、その河童に会いに行くぞ」
「んー…でも、にとりって割りと人見知りなんだよねー……交友的ではあるっちゃあるけど」
「まぁ、不用意に彼女の住処に近付いて、尻小玉抜かれる人もいたらしいから、ある程度気をつけないと」
「成程な……河童なら、胡瓜(きゅうり)で釣られるか?」
(((釣られるけど、河童=胡瓜って、あっちでは今でも続いてるんだ…)))
戒斗の言葉にその場にいた殆どがそう思う。
そうしていると、不意にパシャリとカメラのシャッター音が聞こえる。
それを聞いた者(といっても永琳以外だが)は何をどう思ったのか、まるで警戒するような体勢を取る………
戒斗は首を傾げながらも朝食を食べ終え、食器を洗浄場に出そうと思った矢先
―――外の庭に一人の少女が、隠れてるかのように茂みの中から、カメラでこちらを捉えているのが見えた。
それに気付いた戒斗はゆっくりと食器を置きながら、ポケットの中からトランプカードを一枚取り出す……
そして
「―――そこにいるのは誰だっ!!」
「!!」
トランプカードを、その少女が隠れている茂みに投げ込んでいた。
それに気付いた少女は、素早く茂みから抜け出し、トランプカード攻撃をかわす。
そして少女はくるっと一回転しながら、その場に着地し、カメラのシャッターを押していた。
…少女の見た目は、山伏のような赤い帽子や、被り白の半袖シャツにフリルの黒スカートをしており、黒髪ショートといった、言わば女子高生的な容姿だった。
勿論、戒斗は目の前の少女を、人間とは思っていない……
理由としては、先程の反応速度と身体能力……一般の少女では、こんなことできるわけがないからだ。
少女はあららーと言いながら、カメラを顔から離し、頭を手で押さえていた。
「バレたとは思ってはいましたが、まさか素早く攻撃に転じるとは……見たところ貴方、かなり戦い慣れしてますね」
「そんな事より、貴様、何者だ」
「おっと、そうですね。自己紹介がまだでした。私、『文々。(ぶんぶんまる)新聞』というものを書いております、清く正しい射命丸 文(しゃめいまる あや)と申します。以後、お見知りおきを……あ、お近づきの印に私の新聞をどぞ」
少女―――射命丸文は丁寧に挨拶しながら、自身の新聞を戒斗に渡す。
戒斗は新聞を受け取り広げて読み上げる。
そして2、3面ほど読み上げた戒斗は文の方を見る。
「どうですか?私の記事は」
「ふむ……なかなか興味深い内容だった。が……気のせいか?ごく一部は捏造してるような内容だったんだが。主にこの記事」
「あららー、鋭いですねー。確かにその記事、ちょいと捏造しているんですよー」
戒斗は新聞の記事の一面を指差しながら文に見せると、これは捏造ではないかと尋ねる。
彼女は彼が指差した一面を見ると、あっけらかんと捏造していると答えていた。
それを聞いた戒斗は何処が清く正しいだと呟くが、それでも新聞事態興味深いのか、再び読み始めていた。
そうしていると、輝夜が永琳の後ろに隠れながら、文に何をしに来たのかを尋ね、チルノも彼女の事を知っているためか、少々震え声をあげながら尋ねていた(因みに彼女も永琳の後ろに隠れてる)。
「ち、ちょっと!そこの烏天狗(からすてんぐ)!きょ、今日は何しに来たのよ…!?」
「そ、そうよ!!いきなりアタイたちを盗撮してくるぐらいだから、絶対良からぬ事を企んでるわよね!?」
「いやいや、今日【は】何も企んでませんよー。それともなんですか?久々に輝夜さんたちのパンティーについての記事でも書いて欲しいのですか?」
「「「ぶっふぅ!?」」」
文の言葉を聞いた面子は、永琳以外噴き出してしまう。
特に戒斗はそれを聞いて、本当に清く正しくやっているのかと疑問に思い始める始末……
一方、永琳以外の女性陣は、殆どが顔を赤らめていたりしており、特に輝夜は弾幕で文を狙い撃ちしていた。避けられたが。
「おっと、少しは落ち着いてくださいよー。今日はそこの外人の貴方、貴方に御用があるんですよ」
「…俺に、だと?」
文は戒斗を指差す。
戒斗は自身を指差された事に疑問を持つが、それを彼女は素早く説明に入る。
「実は昨日、面白い記事がないか色々調査していたんですよ。で、その際博麗神社にも行ったのですが、霊夢さんに貴方の事を伺いまして。確かお名前は…駆紋戒斗さん、でしたよね?」
「…どうやら、霊夢に話を聞いたというのは本当のようだな。それで、俺に何の用だ」
「んー、本当なら大妖精さんにも伺いたかったのですが……まだ目覚めてないようですから、仕方ありませんね……単刀直入に言いますと、霊夢さんが『インベスについての記事を書いて号外で配って欲しい』と頼まれたんです」
文はメモ帳とペンを取り出しながら、真剣な顔をして答える。
話を聞けば、彼女は霊夢に戒斗の事と大妖精の事を聞いたと同時に、インベスに関しての情報を至る所に広めて欲しいと申し込んだらしい。
その理由を尋ねたところ、もしかしたらまだ何処かに、インベスの1体や2体は残っているかもしれない……
そうなると、大妖精のような被害者が出てしまう可能性が充分にあると、霊夢は睨んだからだ。
永琳が薬を早く作ってしまえば大丈夫だろうが、その薬が【出来るまでの間】で被害者が現れる事もありえなくない…
それにこれは、妖怪たちすらも警戒しないといけない可能性が高いのだ。
その理由も、普段滅多な事では死なない妖精が、生死の境を彷徨うほどの強い侵食力を疑っているからで、それを考えると、妖怪たち……否、幻想郷の住人の大半が、大妖精のような症状に見舞われる可能性があるからだとの事。
なので霊夢は彼女に頼み、更にインベスに一番詳しい戒斗に聞くよう頼んだそうだ。
本来彼女は、殺人などと言った記事はあまり書きたがらないのだが、霊夢の話を聞いてそれは危険すぎると判断したからだ。
それを聞いた戒斗は腕組をしながら、少し考える。
そして考え終わると、文の方に顔を向ける。
「……分かった。良いだろう。俺が元いた世界で起きた出来事を中心に、話してやる」
「有り難うございます」
「だが、その前に1つ……輝夜、何処か別の空き部屋を貸して欲しい。この話は二人だけでしたい」
戒斗は輝夜の方を向き、別の部屋で、しかも二人きりで話したいと告げる。
それを聞いた面々は驚き、特にチルノに至っては、何故二人きりで話すのかを問い詰める。
しかし戒斗は沈黙、それを見たチルノは一発殴ってやろうかと思ったが、それを永琳に止められてしまった。
チルノは離せと叫ぶが、永琳は彼女を無視し、輝夜の代わりに要求に答える。
「…分かりました。優曇華院、貴女は彼らを何処か空いてる部屋へお連れしなさい」
「え、あ、はい。分かりました。それではお二人とも、こちらへ」
「…済まないな」
イナバは戒斗たちに付いてくるよう指示し、二人は彼女の後について行く。
その際、戒斗は永琳に、礼を言って。
戒斗たちが部屋から退出すると、チルノは戒斗たちを追いかけようとする。
が、永琳に服の袖を掴まれ、無理矢理止められていた。
「ちょ、待ちなさ…」
「おっと、チルノちゃんはダメよ」
「ぐへっ!……何よ何よ!何でアタイたちが一緒に話を聞いちゃダメな訳!?」
チルノは叫ぶが、それに対しては、誰も答えない…
それを見たチルノは体を震わせると、怒りを露にしながら能力を発動する。
それに対して永琳は反応できず、思わずチルノを離してしまい、その一瞬の隙をついて彼女は逃走してしまった。
しかし永琳はそれを追いかけようとせず、輝夜やてゐも、意味深な顔をしていた。
「……多分だけどあの貴殿が話すのは、そのインベスの能力だけじゃないと思うの。多分、インベスそのものの『正体』とか」
「…姫様も、気付いていらっしゃったのですね」
「大妖精がああなったのを見たら、なんとなく分かるわよ。それにあの貴殿、私に空き部屋を貸してほしいと告げる前に『自分の元いた世界で起きた出来事』って述べたもの。恐らくは、インベスの正体とかにも深く関わる可能性が高いはずよ」
~~~
空き部屋を紹介された戒斗と文は、テーブルを中心に向かい合うように座る。
文はペンとメモ帳を再度取り出しながら、戒斗の方を向いた。
「さて、インベスについてや貴方の世界で起きた出来事について、洗いざらい話してもらいましょうか」
「いいだろう……まずは、俺が元いた世界で起きた出来事から話そう。そこから始めた方が、話も分かりやすいだろうからな」
そう言って戒斗は、自身の世界で起きた出来事について語り出す。
事の始まりは、自分達のいた世界で『インベスゲーム』が流行っていた事。
ある時、一人の男が、戦極ドライバーなるもので、アーマードライダーと呼ばれるライダーに変身し、そこから自分や様々な者たちが変身し始めた事。
ある日、一番最初に変身した男の仲間が、インベスたちの住まう『ヘルヘイムの森』と呼ばれる場所で、とあるゲームを提案、その森でロックシードを集めていたが、それはその男たちが『ユグドラシル・コーポレーション』と呼ばれる、戦極ドライバーを開発した場所と、ヘルヘイムの森の秘密を暴こうと言う作戦だった事。
その秘密が、自身がいた世界が、ヘルヘイムに飲み飲まれると言う真実と、そのために戦極ドライバーが開発されたと言う真実だった事。
それらを話した上で、文は質問をする。
「つまり、そのヘルヘイムが、大妖精さんに生えてた植物……って事ですね。で、ある時を境に、その症状が、戒斗さんの世界で広まり始めた、と。そう言う事ですね?」
「大体は、な。その事実を知ったのは……まぁ、これは後で話す。どうやらユグドラシルは、俺たちを実験台(モルモット)としてドライバーの性能を確かめていた上に、ヘルヘイムの秘密を防ごうと、裏でコソコソとやっていたそうだ。そんなある日、インベスが町のやつらを襲うのには、俺たちビートライダーズの仕業だと疑われ始め、そして」
「その時に『インベスの正体を知った』……ですか?」
彼女の言葉に、戒斗は静かに頷く。
ある日、彼がその男と共に共闘し、他のアーマードライダーを撃退した後、ユグドラシルのアーマードライダーが現れ、対峙しようとしていた時だった。
その男が、ユグドラシルのアーマードライダーの後ろに、一人の男がいるのを発見していた。
その男もアーマードライダーだったが、その男はドライバーが破壊され、変身ができない状態だった。
その男が、偶然その近くで生えていた、侵食したヘルヘイムの植物に実る、果実を食べた。
その果実を食べた男は、体の内からヘルヘイムの植物が生え、そのまま体を包み込んでしまった。
やがてしばらくすると、その男は【インベスになってしまった】。
その男がユグドラシルのアーマードライダーたちに討伐された後に、彼はヘルヘイムの真実を知ったそうだ。
「それ以降は特に話す事はないが……何か聞きたいことはあるか」
「…、……そうですね……インベスに攻撃された人は、その植物が生えてきたんですよね?となると、そのインベス化というのは、インベスに攻撃された人はならなかったんですか?」
「それは俺も分からん。俺はそういうのには興味がなかったからな。ただ……ヘルヘイムの植物が生えたという事は、当然その果実も実る。それを口にしてしまえば、インベスになるのは間違いないし、普通の人間には戻れない。…どちらにしろ植物が生えてきたら、神経ごと引っこ抜かない限り、助からんだろうな」
「成程……大妖精さんみたいな妖精の部類でも、体の構造そのものが変わってしまえば、よほどの体じゃない限り死ぬ可能性も十分にありますね」
文はメモを取りながら、静かに告げる。
戒斗はゆっくりと立ち上がると、そのまま部屋を退出しようとする。
すると文は彼を引き留め、更に尋ねる。
「でも、異世界の住人だったとはいえ、元は同じ【ヒト】という存在だった……それを貴方は、なんの躊躇いもなく、殺していったんですよね……なんの戸惑いもなかったのですか?」
「…弱者は負ければ終わり、強者は勝てば生き残れる。それだけの話だ。生き残るためや、目的のためなら、手段は選ばない。それはどこの世界も、同じことだろ」
「成程、そういう主義者ですか。それはそれで面白いですね」
文は聞くと、クスリと笑う。
そしてメモ帳を閉じながら、よっこらせと立ち上がっていた。
「出来るだけ暗くならないようにしながら、書かないといけませんねー、これは」
「つまり捏造する、と」
「しないとこれはこれで重すぎますよー旦那ー。ま、ある程度要点は押さえて書くつもりですから、安心してください」
文の言葉に戒斗は疑いを持つものの、疑っても仕方ないだろうと考える。
そして戒斗が部屋を退出すると、一人残った文は、ふふ、と笑っていた。
「駆紋戒斗……中々面白い人ですね、彼は。これは彼について、調べがいがありそうです」
~~~
戒斗が部屋を退出したその頃、戒斗たちが話し合っていた向かいの部屋に、チルノは隠れていた。
理由は勿論、戒斗たちの話を盗み聞きするためだった。
が………
(…そういう、事か……通りでみんなの周りで話したがらないわけだね…)
チルノが話を聞いたのは途中からで、その際分からないことばかりだった。
だが、インベスの正体について聞いたときの内容は、しっかりと聞いてしまった。
(……戒斗は特に、なんの躊躇いもなく、インベスたちを倒していたみたいだけど………アタイだったら、絶対に無理だ…)
チルノは戒斗たちが話していた内容を思い出しながら、一人考える。
もし、大切な人が、インベスみたいな、全く違う【異形】となったら……
その人を元の姿に戻せず、倒すしかないとしたら……
文が話の中で述べたように、体の構造……細胞や神経が変わってしまえば、妖精や吸血鬼でも、死んでしまう可能性は確かにある。
殺してしまえば、それっきりになるだろう……
だからチルノは、嫌だった。
もしも自分の知る誰かがインベスとなって、その者と戦うことになるのが。
そのものを傷つけ、殺すのが。
それは恐らく、当然誰もが思うだろう………自分にとって大切な存在を、自らの手で殺すのは嫌だと。
チルノはそう考えると、大妖精がああならなくてよかったと、本気で思っていた。
(…あいつ、あんな事言ったけど……あいつも、誰か大切な人がそうなったら、本当にその人を……殺せるのかな…)
同時にチルノは、戒斗自身がどうなのかを考えるが、深く考えても分かるわけがない……
とりあえずチルノは考えるのをやめ、大妖精の部屋に向かおうと考える。
「―――きゃああああああ!!!」
矢先だった。
突然、どこからか悲鳴が聞こえ、チルノは慌てて立ち上がる。
「今の悲鳴……そんなまさか!!」
チルノは大慌てで部屋を出て、『ある場所』に向かって飛行する。
―――今の悲鳴……あれは紛れもなく……
チルノは飛行するスピードを上げ、急いでその場所に向かう。
やがて目的の部屋が見えるが、よくよく見ると部屋の扉が、無惨な姿になっている……
それを見たチルノは更に限界までスピードをあげ、その部屋に突入する。
部屋の中には、この間戒斗が取り逃がしたビャッコインベス……そして………その奥には……酷く怯える、一人の少女………
「―――大ちゃん!!」
「…………チル……ノ…ちゃん…!?」
大妖精が、そこにいた。
~~~
遡ること約3分ほど前。
大妖精は病室で、ゆっくりと目を開いていた。
「…ここ、は……どこ…?」
大妖精は体をゆっくり起こしながら、辺りを見回す。
そして自身が病室にいるのだと気付くと、どうして病室にいるのかを疑問に思っていた。
「ここって…確か……永遠亭の…?ということは私……あれ…でもなんで私…ここに……っ!」
すると大妖精の頭がズキリと痛みだし、思わず頭を押さえてしまう。
それと同時に、自分が何故ここにいるのか、その原因を思い出していた。
「っ…思い、出した……私…チルノちゃんの、家に…遊びに、いく、途中で……変なの拾って……それをポケットに…入れた、瞬間……見たこと…ない、妖怪たちに……襲われ、て……それで…っ!」
痛みが強くなったのか、大妖精は再び頭を押さえる。
…ここにいる理由が分かったとはいえ、まだ傷も癒えてないので、これ以上起きているのは難しい……
そう考えた大妖精は、一旦まだ寝ておこうと思い、ベッドに横になろうと
『―――ギシャァァァァァ!!』
「…えっ……」
した瞬間、突然部屋の扉が破壊され、そこからビャッコインベスが現れていた。
突然の出来事に、大妖精は一瞬、なにが起きたのかが分からずにいた。
が、それがこの間襲ってきたインベスたちと何処か似ていると分かると、大妖精は恐怖のあまり叫んでいた。
「きゃああああああ!!!」
『グルルルルルルル……』
「い、いや!こないで!!こないでぇー!!」
大妖精は迫り来るビャッコインベスに向けて、弾幕をいくつか撃ち込む。
が、怪我をしているせいで威力が足りないのか、ビャッコインベスは怯みもしなかった。
ビャッコインベスは爪を構えながらゆっくりと前進し、大妖精を追い詰めていく。
―――いやだ……誰か……誰か助けて……!
大妖精はそう願うが、未だに誰も助けに来ない……
そしてビャッコインベスが右腕を振り上げ、爪を構えるのを見た大妖精は、恐怖のあまり瞼を閉じた時だった。
「―――大ちゃん!!」
突然、ビャッコインベスの背後から、聞きなれた声が聞こえてきていた。
ビャッコインベスは後ろを振り向き、大妖精も瞼を開いて、奥を覗いてみると、そこには青い髪の少女が、部屋の前に立っていた。
「…………チル……ノ…ちゃん…!?」
「大ちゃん!今助けるから!!氷符『アイシクルフォール』!!」
『ギシ!?ギシャアアアア!!?』
大妖精は少女―――チルノがいる事に驚きを隠せないが、チルノはビャッコインベスに向けて、スペルカードを放つ。
そして大量の弾幕がビャッコインベスに襲いかかり、弾幕が直撃したビャッコインベスは、そのまま大妖精の隣から後ろの壁を突き抜けていった。
が、その際運が悪いことに、大妖精が身に付けていた服がビャッコインベスの爪に引っ掛かってしまったのか、大妖精も共に放り出されてしまっていた。
「え……きゃああああ!?」
「Σしまった大ちゃんが!!?」
チルノは慌てて外を見ると、大妖精は床に倒れており、対してビャッコインベスは、既に立ち上がっていた。
そして起き上がったと同時に再び爪を構え、大妖精に振りかざそうとする。
このままじゃ危ないとチルノは思い、弾幕をぶつけようと思った瞬間
『カモォン!バナーナアームズッ!!ナイト・オブ・ス・ピ・アーッ!!』
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
『ギ、ギシィ!?』
大妖精の悲鳴を聞きつけてやってきた戒斗が即座に変身、そのままバナスピアーでビャッコインベスを外へ突き飛ばしていた。
バロンはバナスピアーを再度構えて突撃し、その間にチルノは大妖精のところへ向かう。
同時に永琳や輝夜、イナバが駆けつけ、輝夜は壊された壁を見て、溜め息をついた。
「大ちゃん!大丈夫!?」
「え、えぇ……それより、今の…」
「―――あら、何事かと思って急いできてみたら……」
「大妖精さん!お目覚めになったんですね!!」
「案外早く回復したみたいで良かったわ。…、……で、この壁は誰がやったのかしら………?」
「(ギグッ)あ、あのインベス、バカだったのか知らないけど、大ちゃんに襲い掛かったらびみょーに体がずれて、そのまま壁に……」
「……チルノちゃん………?」
「ごめんなさい!!」
約一名、大妖精を救うためにとはいえ、壁ごとインベスをぶっ飛ばしたのを誤魔化そうとしてボロを出していたが……
大妖精は外で戦闘中のバロンが気になるのか、チルノにそこの通路から見せて欲しいと頼む。
チルノもバロンの戦闘がどうなっているのか気になったためそれを承諾、先程ビャッコインベスとバロンが出て行った通路まで大妖精を連れてゆく。
外の戦況は、バロンが一方的に追い詰めており、大妖精はバロンを指差しながら、あれは誰なのか尋ねる。
「……チルノちゃん…あの…鎧みたいな人は……?」
「アイツ?アイツは戒斗。あ、今の姿はバナナ……じゃなかった、バロンだよ」
「…戒斗……さん…」
大妖精はポツリと呟き、それを見たチルノは首を傾げていた。
~~~
一方バロンの方は、着々とビャッコインベスを追い詰める。
この間のように逃げられないよう、出来るだけ間合いを離さず、素早く相手に連打をかましていく。
『ギシャァァァ!!……グルル…』
「今度こそ終わりだ!」
『カァモン!バァナァナスカアッシュ!!』
「ハァァァ!!」
『ギ…ギシャァァァァァァ!!』
バロンはカッティングブレードを一回倒し、バナスピアーを構える。
そしてエネルギーが集まると同時に、素早くビャッコインベスにエネルギーの塊を叩き込む。
まともに攻撃を受けたビャッコインベスは悲鳴をあげ、その場で爆散していた。
バロンは構えを解くと同時に変身を解き、通路から見ていたチルノたちの方へ歩み寄る。
「やったね戒斗!!」
「あぁ。…しかし、この間のやつがこの建物に忍び込んでいたとはな」
「ってアンタが逃した奴だったんかい!このバカ!!」
「ごふっ!?…チルノォ……貴様ぁぁぁぁ!!?」
「おー戒斗ーやっちゃえー!!」
「Σ輝夜様何言ってるんですか!?」
「あらあら……楽しそうね…ふふっ」
チルノは素直に喜ぶが、次の戒斗の一言に対して、思わず氷の塊をぶつけてしまう。
もろに氷の塊が直撃した戒斗は、チルノに向けて一発殴り、そのまま乱闘が始まる。
それを見た輝夜は余計に駆り立て、イナバは輝夜に対して驚き、永琳に至っては微笑みながら喧嘩をする二人を見ていた。
だが、今いる面々の中で、たった一人だけ、ボーッと喧嘩をしている二人を見ている者がいた。
それにいち早く気付いたのは永琳で、彼女はその人物に話しかける。
「…あら?どうしたの、大妖精さん」
「ふぇっ!?あ、だ、大丈夫です……!」
「本当かしら……さっきからボーッとしてたから、まだ起きてるのは無理があるかと思ったのだけれど…」
その人物は大妖精で、彼女は永琳に声を掛けられると同時に小さな悲鳴をあげ、おどおどしながら答える。
すると喧嘩に疲れたチルノが大妖精を心配し、永琳たちは(主にチルノが壁を壊したせいで)元の場所で寝せるのは、患者の身を預かっている故に、気乗りがしないでいる。
「大ちゃん大丈夫!?無理してないよね!!?」
「え、あ、うん……少しきついかも……」
「うーん……誰かさんのせいで部屋の壁が壊れたから、そこで寝せるのもどうかしらねー。この建物、石で出来てるから、たぶん細かい破片も落ちてるだろうし……」
「本当、戸はともかく、壁まで壊れている部屋で寝るのは、少々抵抗があるでしょうねぇ」
「だから悪かったってば!!」
「なら、医務室から近い空き部屋にまで運びましょうよ」
「そうね。そうしましょうか」
イナバの言葉に永琳は賛同すると、何処か空いてる部屋を探すように告げる。
イナバは「後部屋が今一番綺麗な部屋にしましょう」と言いながら、空き部屋を探しに行った。
それと同時に永琳は、戒斗に(男で力あるからと言う理由で)大妖精をおぶるように指示する。
戒斗はため息をつきながら、大妖精の前まで歩みより、声を掛ける。
……が
「全く……おい、大妖精」
「…」
「?おい、大妖精」
「…」
「おい貴様、呼んでいるのが聞こえんのか!!」
「Σひゃい!?!!?」
声を掛けられた大妖精は、何故か返事をせず、ただボーッと、戒斗を見つめていた。
戒斗はそれに気付かないままもう一度声を掛けるが、それでも返事をせず、遂に彼は大声で呼び掛ける。
それに驚いた大妖精は、思わずバランスを崩しそうになり、後ろに倒れそうになるが、戒斗は咄嗟に反応して大妖精の手を掴んで立たせていた。
大妖精は咄嗟に謝罪をし、反応しなかった理由を恐る恐る話す。
「あ、あの!ごめんなさい!!ちょ、ちょっと…ボーッと…してて…」
「ちっ、世話を焼かせやがって……貴様をおぶっていくから、さっさと乗る準備をしろ」
「え、あ、は、はい……」
戒斗は舌打ちしつつ大妖精をおぶる準備をする。
それを聞いた大妖精は急に顔を赤らめるが、先程みたいに困らせるはいけないと思い、恥ずかしがりながらおぶってもらう。
一方、それを見たチルノ以外は、ヒソヒソと話し合い、各自心の中で何故かニヤリとしていた。
「バ戒斗ー!降ろす時もちゃんとゆっくり降ろしてやってよねー!!」
「チルノ、貴様も手伝わんか!!そして後で殴る!!」
(…永琳。今の大妖精の様子……)
(えぇ。彼女にはまだ自覚がないでしょうけど、恐らく【アレ】ですね)
(やっぱりねー……ふっふっふ。これは面白くなりそうなヨ・カ・ン♪)
(問題はチルノちゃんね……うっかりボロを出さないようにしなくちゃね♪)
(確かに、主にバカルテットの連中……特にチルノちゃんに知られたら、色々面倒だしね♪)
約二名、なにかを考えていたが、当然それは、誰も知る由がなかった。