図書室のしっかりとした作りの椅子に腰かけレポート用紙を取り出す。私は今から奉仕部で手に入れた情報を整理するつもりだよ。まず三人に共通してること、それはお互いに信頼しあってるところだね。あの漫才、あれも信頼の証かな?
そして雪ノ下先輩。才色兼備・文武両道・氷の女王などの噂は本当だろうね。必至に何かを守ろうとしてる姿は犬みたいだったよ。……ばれたら怒られるかな?
次に由比ヶ浜先輩。彼女はいい人だ。すぐに察して気遣いができるという印象を受けたよ。そして現在唯一把握できてる雪ノ下先輩の弱点。
最後は比企谷先輩。腐った眼をしている人。わりと饒舌みたいだね。あと彼らの椅子の位置から彼のパーソナルスペースは広そうだね。
うん、十分な情報が手に入ったよ。彼達は例えるなら三角形だね。一辺外れたら簡単崩れる、だけど三角形はお互いに支えあって丈夫な形をしているよ。確かに私が一辺。そう、比企谷先輩をとったら彼女達は崩れてしまう、だから雪ノ下先輩は私を警戒し攻撃的になる。それなら筋が通ってるし何より私が納得できるよ。……まあ全てが杞憂だけどね。私の目的は、まずお礼を言う。次に腐った眼を観察?する。これが私の目的だよ。彼自身にはそこまで興味は無いね。まず彼の眼をのんびり眺めるには彼のパーソナルスペースに入り込めるようになる必要がある。っとそろそろ最終下校時間かな。それなら次の作戦に移させてもらうよ。次の作戦は「憧れのあの人(仮)との下校!?作戦」ってね。という訳で今私は校門の側に立っている。比企谷先輩が来たら帰りを誘う。すごくシンプルな作戦だね。おっと来たよ。さて作戦開始だよ。
「あっ。比企谷先輩一緒に帰りませんか?」
「…………あー………若葉だっけ?」
「そうです。八千代でもいいですよ?」
「いや、じゃあな、若葉。」
さも当たり前の様に名前呼びを拒否し同時に帰りの誘いまで拒否してくるとは思ってなかったよ。他人を拒否してるのか私を警戒してるのか一体どちらかな?というか急がないと彼が自転車に乗ってさっさと帰ってしまう。それだけは絶対にさせないよ。奉仕部襲撃は今に繋げるために行ったことだからね。
「当たり前の様に帰ろうとしないで下さい。お礼もまだ言えて無いですから。」
「はぁ。で、お礼って何のだよ。」
「昨日私がナンパにあってる時、助けてくれたじゃないですか。」
「……人違いじゃねぇの?」
「確認した全ての特徴が当てはまってる人なんてそうそういませんよ。」
「特に腐った眼をしている人は。」と付け足してやる。おお、凄く眼が腐ってるよ。感情とかで腐りっぷりが変わるのかな?感動物のドラマみると眼が綺麗になるかもね。まあ綺麗になられたら私的価値は無に等しいけどね。さて比企谷先輩?
「はぁどういたしまして。じゃあな。」
「だから帰ろうとしないでください。」
「えーまだ何かあるの?」
助けた事を認めて一緒に帰ること拒否する作戦できたか。しらっばくれるのは許さないし、今私を突き放しても私は目的を達成するまで纏わりつくよ?だから君には多少卑怯な手を使っても一緒に帰ってもらうよ。
「一緒に帰りましょう。私ナンパに遭ったの初めてでまだ怖いです。お願いします。」
「…………友達は?」
「私は帰宅部なので、帰宅部の友達しかいなくて……」
最後の言葉を濁してみる。チラっと見ると、わあさっきより眼が腐ってる。このまま腐り落ちたりしないかな?少し不安になるよ。さて、このご時世男より女のほうが有利にできてる。観念してもらうよ。
「比企谷先輩。一緒に帰りましょう?」
「……………はい。」
たっぷり悩んで逃げ場がないのを悟ってくれたみたいだね。うんうん、賢い人は好きだよ。次は「腐った眼を観察できるよう距離を縮める」が目標だね。逃げ回れると時間が掛かって面倒だね。だからこの時間はとても重要だよ。なにから聞き出すとするかな?彼女達についてかな。
「比企谷先輩。もしかして奉仕部の先輩達どちらかが彼女さんですか?」
「は?………それ雪ノ下の前で言うなよ。俺がボコボコにされるから。」
「わかりました。それじゃあ由比ヶ浜先輩ですか?」
「はぁ。俺に彼女がいるように見えるか?」
「…………」
「おい、なんでそこで黙るんだよ。」
仕方ないと思うよ。確かに君は眼が腐ってて髪ボサボサ・中肉中背だけど、顔は整ってる。髪を整えて眼を隠せばモテそうだよ。それに道路側を歩いてくれてるし……うん、モテるよ君は。まあ彼女はいないらしいね。
「彼女はいなそうですけどモテそうです。」
「えーなにそれ葉山かよ。つーかお世辞はいらんから。」
「お世辞じゃないですけどね。」
「あーやめやめ。じゃあお前はどうなんだよ。彼氏いんの?」
「いませんよ?ファーストキスも初恋もまだです。」
「いや、そこまで聞いてないから。」
それにしても道路側を歩いたり、女の子に歩幅を合わせたりとかは慣れてるみたいだね、でも彼女はいない。身近にいる女の子かな。妹、幼馴染、従妹とかがいると見たよ。早速探っておくかな。
「じゃあ比企谷先輩って妹さんか従妹さんいますか?」
「いるけどなんで知ってんの?」
「彼女さんがいない割には動きが自然でしたから。」
もちろんエスコートの方だよ。本人は私が何を企んでるか探ってるみたいで少し挙動不審だね。というか私を探ってもほとんど無意味じゃないかな。悪意も善意もないから解りにくいと思うよ。
「そんなんで分かるもんなのか?」
「はい、無理にやるのと自然にやるのでは大きく違いがでますから身近に女の子がいるのがわかります。」
「へぇー。」
……少し警戒の色が濃くなったね。もしかして鎌かけだったかな?それはともかく、妹か従妹がいるのか。その子と仲良くなれば情報、それも正確な情報が手に入るよ。そろそろ家が近いね。彼の家の場所が把握出来れば上出来だけど、どうだろう。
「お前、家どこなの?」
「あそこの曲がり角を右に曲がって真っ直ぐ行った所です。」
「じゃあもう大丈夫だろ。じゃあな。」
「ここ比企谷先輩の家ですか?」
「そう表札に書いてあるだろ。比企谷って。」
「本当ですね。それじゃあ比企谷先輩。さようなら。」
「おう。じゃあな。」
今日は本当に運いいよ。一発で彼の居場所がわかり、名前、彼女の有無、妹または従妹がいることがわかって、家の場所までわかった。神様がいるならよっぽど私のことが好きなんだね、笑っちゃうくらいだよ。ああ本当に明日が楽しみだよ。
………
八千代の日記
今日は知り合いが増えたよ。明日が楽しみだね。
お弁当を二つ作るから寝坊しないようにしないとね。
………