「はい、悪いけど頼むよ由比ヶ浜先輩。それじゃあ放課後に」
小町さんから貰った電話番号で由比ヶ浜先輩に連絡をする。お願いする主旨は二つ。一つは今日の奉仕部を休部にしてもらうこと。二つ目は……今はナイショだよ。私は昨日、頭に血が上った状態で告白をしてしまいその挙句答えを聞く前に逃げてしまった。でも逃げたのは正しいと思っているよ。とにかく私は真正面から君を見つめよう。さて次の行動に移るかな
「八幡さん。おはよう。少しいいかな?」
「…………なんだ?昨日のアレか?」
「いや、今日と明日は一緒に食べれないからね。これは今日のお弁当、明日は自分でお願い」
「わかった、ありがとよ」
ここからが君に対する本題。これだけは君を不幸にしてもしなければならないからね。心の中で悪いけど先に謝るよ。
「それと後二つ。まず応えは明後日、つまり水曜日の放課後に聞くよ」
「……ああ」
「もう一つは、君を傷付けてしまうかもしれない」
「……どういうことだ?」
「その答えは明日解るよ。じゃあね」
戸惑いしか見せない八幡さんに背を向け学校に行くため歩き始める。私は君にそんな顔をさせたい訳じゃないけどこれは君に必要な試練だと思ってる。私の勝手なエゴだから後で好きなだけ罵ってくれていいからね。うん、次動くのは放課後、奉仕部でだよ。
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「さて、まずは今日集まってくれた皆様に感謝します」
「それで若葉さん。これは一体どういう事なのかしら。奉仕部すら休ませて」
「そうですね。それでは説明させていただきます」
話を始める前に由比ヶ浜先輩に頼んだもう一つの成果を見る。雪ノ下先輩に由比ヶ浜先輩、川崎先輩、一色さん。察しのいい人なら気づいているだろうけど、そう、八幡さんに恋愛感情を持つ人達を集めて貰った。
「行き成りですが私、若葉八千代は比企谷八幡に告白をしました」
「っ!!」
眼に敵意を宿らせ睨みつけてくる雪ノ下先輩。驚愕と不安、様々な感情が入り混じった表情の由比ヶ浜先輩。平常を保とうとしているが全く保ててない川崎先輩。焦燥に駆られた顔をしている一色さん。君達にも謝るよ。だが情けはかけない
「返事はまだ貰っていません。明後日に聞く予定です」
皆、安堵の溜息を吐き出しそして再び顔を引き締めた。そう、それでこそ私も真っ直ぐ前に進める。君達がそこで安堵しきったら君達は不完全燃焼で終わってしまう。そんなの私も望まないよ。
「そこで皆さん。どうしますか?」
「…………どういうこと?」
怪訝そうな顔で私を睨む川崎先輩。言葉が少なすぎたね。これじゃあ恋愛相談しに来たみたいだよ。勿論そんな敵を増やすような真似はしないけどね。
「申し訳ありません。言い直します。明日一日ありますが皆様はどうしますか?」
「えっと、若葉さん?つまりわたし達にまだチャンスがあると?」
「その通りです。一色さん」
軽く微笑んで肯定する。これが私のエゴで自分勝手な最悪な考え。きっと八幡さんも君達も傷つけてしまう。それでも私はこれが正しいと考えた、なら迷う必要はないよ。
「やっちーなんで?なんであたし達にこんな事するの?」
「申し訳ありません。私の我儘です。気が済むまで罵ってください」
「質問の意図が伝わってないようね。正しくは何故私達にチャンスを与えるか、よ」
質問の訂正をしてくれる雪ノ下先輩。ふふ、私も質問の意図に気付けないくらい困惑してるのかな。でも昨日、スプーンを落としたあの瞬間から私はもう止まらない。止まる気は無い
「綺麗に終わらせるためです」
「……終わらせるため、ですか?」
「はい、要するに私は成功するにしてもしないにしても納得したい訳です」
「これ以上自分の事は話しませんよ」と付け足し彼女達を見やる。さっきまで困惑と不安、焦りなどの表情は消え去り決意を決めた顔になっている。ふふ、そうだよ、それでこそ私が納得できる解がだせる。
「さて決意が決まったようですが降りる人はいますか?」
「…………」
手をあげる人などいない。君達も真正面から向き合ってくれるみたいだね。嬉しいよ。さて参加者が揃ったらルールの確認をしないとね
「それではルール説明をします」
「まず皆様は明日、全員バラバラの位置に待機してもらいます」
「八幡さんに一人一人の場所を巡らせるので自分の思いをぶつけてください」
「そして水曜日に再び待機場所を回らせ八幡さんの返事を聞きます」
「その前にもう一度告白をするのも有りです。いいですか?」
「…………」
全員真剣な顔で頷く。基本のルールを決めたら次は細かい方もやらなくてはいけない。もっと人数いると思ったから十ヶ所探したけど半分しか使わないみたいだね。選択の幅が広がると喜ぶかな。
「……まずはあなたが選んでくれないかしら?」
「雪ノ下先輩……。皆さんもいいですか?」
「好きにしなよ、どうせ返事を聞く場所で結果は変わらないでしょ」
「わたしも賛成です。このまま借りを作って終わるのは嫌ですから」
「うん、やっちーが選んで」
君達は、君達までもが御人好しなのかな……?最悪暴力を振るわれることすら覚悟していたから大分拍子抜けしたよ。まあ決めていいなら私はここにしようかな。『私』と八幡さんの初めて出会った場所でね。
「では私は…… を頂きます」
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「それじゃあ、さようなら。皆様の恋が実るといいですね」
奉仕部の扉を開け外気に触れる。私がやれることは全てやった、不安心配恐怖焦り色々な感情があるけどもうすることも出来ることも無い。だから例えフラれても納得して終わりに出来ると思うよ。……最もフラれる気は無いけどね。さあ始めよう八幡さん。これが君に対する試練だよ。果たして君は乗り越えられるかな?
窓ガラスに映った私の眼は、楽しそうにキラキラと輝いている