「んん、ん」
………頭が回転しない。とりあえず寝てたみたいだね。そう……確か……小町さんに誘われて遊びに来て……料理を作って食べて……歯磨きしに家に帰って……お皿洗いしに戻ってきて……一息ついて………寝ちゃったのかな。
「あ、起きたか。」
「……おはよう比企谷さん。」
……まだ頭が起きてない。とにかく顔洗ってこようかな。
「洗面所使わせてもらっていいかな?」
「あっちを右に曲がったところな。」
「ありがとう。」
冷水で顔を洗う。やっと頭が覚醒してきたよ。寝る前の記憶も思い出してきた、たしか小町さんはお昼ご飯の買い物に出掛けると話してたね。比企谷さんとお留守番するように頼まれた気がするよ。
「一時間とちょっと。寝てた……みたいだね。」
近くに置いてあった時計はそろそろ十一時を指そうとしていた。じゃあもう小町さんは帰ってきてるかな?人に家に来てぐっすり眠るなんて本当に何してるのかな私は。
「悪いね、人の家で寝るなんて……」
「あー、気にすんな。」
……気にするけど楽しい話題じゃないから一度忘れておくかな。
「そういえば小町さんは?」
「友人と会ったから寄り道してくるってよ。さっき『後は若い者同士よろしく。』ってメールが来た」
お見舞いをしていたっけ?違うよね。あ、カマクラさんがいる。目を合わせようとしてみる、サッと逸らされる。……ペットは飼い主に似る。本当だね。
「……そういや聞き忘れてたが、お前がそんなに俺の眼に執着するのは何故だ。」
思わず目を細める。……そうだね、今まで知ることばかり考えてたけど、知ってもらう必要もあるね。……そして
「……少し長くなるよ?」
「小町が戻るまでに頼む。」
あまり行儀良いとは言えないけど体育座りで座りなおす。……デニム素材の短パンだから下着は見えないよ?
「……そうだね、まず前に言った通り心から欲しいと思ったからだよ。君みたいに腐った眼は私のたった十六年の人生で見たことがない、だから興味が湧いちゃってね。」
「……それだけじゃないだろ。」
流石、やっぱり見抜いてるよね。そうだよ、そんなのただの建前みたいなものだよ。でもコレを認めるのは、凄く怖い。口に出してしまえば認める様なもの。だから少し躊躇ってしまう。
「………」
比企谷さんは静かにただ待っていてくれる。こういう時急かされないのは精神が落ち着かせてくれる、ありがとね。私は少し君に甘え過ぎたかもしれない。
「……私は、私に自信が、確信が持てない。でも君の眼への興味は本物だと思っている。」
「………」
少し体が震える。こういう時に止めたりしないのは彼が本当に優しい証拠だ。
「だから、だから私は、君の眼を自分の基準点にしようと考えてしまった。」
「………」
「分かってるよ。こんなのただの我儘で、身勝手な考えということも。」
いや実際は分かっていない。声に出して聞いてもらっているから整理がついてるだけだ。やっぱり私は君の優しさに甘えてしまっている。
「そうだな。我儘で身勝手な答えだ。」
「……うん。」
このまま、君が私を拒絶してくれれば、私は一人で立つしかなくなる。お願い比企谷さん。私の最後の我儘を叶えてほしいな。
「だが、それの何が悪い?」
「え……」
「お前がどんな勘違いをしているかは知らんが、一人で立つことなんて不可能だろ。」
頭が真っ白になる。
「俺も一人で立っていると勘違いしていたが、知らない間に多くに支えられていたからな。」
「………」
「お前が自分を信じたいと、お前が自分を得たいと思うなら」
真っ白になった頭に比企谷さんの言葉が沁み渡っていく。
「奉仕部が、俺たちがお前を手助けする。」
「っ」
なんで君はそんなに優しい。なんで私はその優しさを振り払えない。
……そっか。これは優しさじゃないのか。これが君の「在り方」なんだね。
「君の在り方は、とても綺麗だね。」
「……ほれ、涙拭け。」
「涙?」
頬を触れてみると水が、涙が伝ってた。とりあえず受け取って拭ってみる。次から次へと零れてくる。
「好きなだけ泣け。誰も咎めないからよ。」
「……ありがとう。」
………
…………
……………
…………………
部屋の外
「小町が部屋に入れないッ!」