「うーうー♪うあうーうあうあうー♪」
適当にリズムを取りながら目玉焼きをお皿に移動する。今私は比企谷家で朝食を作っている。小町さん曰く「兄をものにするには兄からの愛だけでなく小町からのテストつまりKTを受けてもらう必要があるのです!」らしい。余談だけどボディの項目に×がついていたよ。確かに私は身長低いしスタイルがいいわけでもないけどね。
「ふむふむ、八千代さんは……メモメモ」
こっちでノートに色々書き込んでいるのは小町さん。ノートの表紙には「兄の嫁候補!」と書かれている、5~6ページぐらい進んでるのかな?そんなにライバル?がいるのかな……。とにかく朝食ができたから一度、手を止めて貰わないとね。
「さて小町さん、比企谷さんを起こしてきてもらっていいかな?」
「……いえ、せっかくですし八千代さんが起こしてきてくれませんか?兄の寝顔は滅多に見れませんよ?」
ふむ、寝顔はともかく眼を見させてもらおうかな。そんなに朝が得意そうには見えなかったし寝ぼけてれば見ても覚えてないだろうしね。
「うん、なら起こしてくるよ。」
「いってらっしゃーい」
……そういえば比企谷さん、というか男子、男性の部屋に入るのは初めてだね、お父さんの部屋にも入ったことないし。少し楽しみだよ。やっぱり昨日レジャーシートを綺麗に畳んでいたから几帳面に片付けてるかな?
コンコン
「入るよ?」
ガチャ
へぇ割と片付いてる、中々大きな本棚があるのが特徴的だよ。中は漫画、小説、ライトノベルあと音楽とアニメのCD。おっと人の趣味をじろじろ見るのは無礼だね。
「比企谷さん、起きて」
「ん、んぅ」
おお、やっぱり眼を閉じればただのクール系のイケメンさんだね。でも、私はその君より普段の君の方が好きだよ。何一つ面白くないからね。さて早く目を開けてくれないかな。そうだ、起きないお姫様には童話の様な起き方をしてもらうよ
チュ
「んあ?」
「やあ、おはよう。眠り姫さん?」
「なんで若葉が……いや、さっきお前なにした?」
「ん?眠り姫を起こすのは王子様のキスだよね?だから手の甲にチュっと、ね。」
「お前何してんの!?」
「流石に唇は当ててないよ。鼻を当てて口で言っただけ。」
「あ、あーそうか、他にも聞きたい事はあるがまずなんでお前いんの?」
うんうん、面白いぐらいうろたえてくれてナイスリアクションだったよ。それと小町さん、了承はとってあると思ってたんだけどね。これじゃ私が本人の了承も得ずに人の部屋に上がり込むような人みたいだよ。
「小町さんにお誘いされたからね。さて朝ご飯の前に顔洗ってきたらどうかな?」
「何してんだあいつ……。とにかく顔洗ってくるわ。」
「うん、いってらっしゃい。」
ここに残るわけにもいかないしリビングに戻る。小町さん?何ニヤニヤしてるのかな?いや、それより君にはいう事があったよ。
「小町さん?比企谷さんに伝えてなかったのかな?」
「えっ、あ、あー。サプライズになって驚くかなーと思いまして?」
「それは私は仕掛け人ではなく驚かされる側ということ、だよね?」
「そ、それは「小町はよー」お兄ちゃんおはよう!ナイスタイミング!」
「は?」
………。少し反省の色が見えたから今回は忘れておくよ。でも次はしっかり私も遊ぶ側にいれてもらうからね。いや、これはこれで楽しかったかな。それでもじっくり眺めるには遊ぶ側の方が得だからなやむね。
「んじゃ、食おうぜ。」
「はーい。」
「うん、そうだね。」
「いただきます。」してからまず牛乳を一口。うん、甘い。この牛乳の甘味を理解できない人は意外と多い。嘆かわしいね。
「しかしお前が牛乳飲んでるとあれだな。」
「……身長にコンプレックスをもってるみたい、かな?」
「小町が牛乳飲んでるのも似たような理由だからな。」
「ちょ、お兄ちゃん!?」
「別に私はコンプレックスとは思ってないよ。牛乳もこの甘味が好きなだけだね。」
「『別に私は』って小町の擁護は一切無し!?」
今日の小町さんは一段と元気だね。それはともかく本当にコンプレックスではない、確かに高身長に憧れが無いわけじゃないけど、あくまでも憧れだからね。絶対、コンプレックスではない。
「小町だって……小町も牛乳好きなだけだもん……。」
「あーわりぃ、からかいすぎたか?」
「おや、がんばれお兄ちゃん?」
「お前は応援しか、しないのかよ」
「種を撒いたのは君だからね。刈り取るのも君だよ。」
とりあえず比企谷さんは小町さんをあやし始める、流石お兄ちゃん慣れたものだね。まあほっといてよさそうだね。目玉焼きにぷつっと穴を開けトローと流れてくる黄身に醤油をかけ、一口。うん、美味しい。私は基本目玉焼きには基本醤油、たまに塩をかけるよ。
「それでは八千代さん!もう一回、お兄ちゃん呼びをどうぞ!」
「え」
「この小町が聞き逃すと思いですか?」
……もしかしてハメられたのかな?いやここまで計算の内のわけがない……よね?それよりさっきのはからかい交じりだったけど改めて言うのは、なんというか、恥ずかしい。
「っ、本当に言わせる気、かな?」
「当たり前だのクラッカーです!」
ふ、古い。しかもこれじゃあ私まで遊ばれてるみたいだよ。さっき叱ったのを忘れたのかな?それよりこの状況より早く抜け出そう。恥ずかしさで止まってても意味がない。
「お、お兄ちゃん?」
「っ」
そ、そんなに勢いよくそっぽ向かなくてもいいよね。なんか、恥ずかしいしそっぽ向かれてたしでこう、縮こまっちゃうよ。うぅー、なにそんなにご満悦なのかな小町さん?
「……ごちそうさま。一回家に帰って歯磨きしてくるよ。すぐ戻ってくるね。」
「ほーい」
「……おう。」
つ、疲れたよ、精神的にこんなに消耗したのはいつぶりかな。とにかく家に帰って歯磨きして比企谷家に戻ってお皿洗う。とりあえずはこんなところだね。……恥ずかしかった。