スーパーロボット大戦H/ハーメルン   作:一条 秋

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17 その一秒 スローモーション

 どうせ何もしなかったらやられるんだ。

 どうせタダでは帰れないんだ。

 だったらやってやる。

 

 ユウの頭にはこのような言葉が繰り返されていた。

 怖くないと言えば嘘になる。

 それでも彼の勇気は身体を動かした。

 

「飛べ!ネメシス08!!」

 

 自由落下するネメシス08の背中と腰から光の布が発生した。

 この青い発光現象は、近年発見されたイミュー粒子が圧縮されて起きるものである。

 ネメシス08は、機体自体から多量のイミュー粒子が放出されるため、それをふんだんに使った独自の推進システムを駆使し、飛行が可能ということだ。

 扱いが非常に困難なイミュー粒子を上手く扱えるようになったネメシス08だからこそできる芸当だ。この技術も奇跡と言われ、同系列のテンペストやギガンティックではこれは不可能だった。

 

「敵は……右か!」

 

 ネメシス08が重厚な弾幕をくぐり抜けながらゴーストに接近する。

 左右のカタパルトに固定されたテンペストとギガンティックは咄嗟に射撃のリズムをネメシス08に合わせ始めた。

 

『ネメシス08!?まさか……あの子を出したの!?』

『まったく何考えてるのかねウチのリーダー』

 

 テンペストのパイロットであるサクラと、ギガンティックのパイロットたるフィルシアが互いに息を合わせながらそんなことを言う。彼女らは優秀で、ユウ同様に正規のパイロットではないものの、やはり機体との親和性が高く、戦闘での評価は高い。

 

『ノヴァ大佐!これはどういうことで――』

『説明は後だ。各機、ネメシス08をアシスト。本機を主力にしてゴーストを撃退する』

 

 巨大な蛇と戦った時に見かけた妖精の様な機体のパイロットの戸惑った声と、エリックの揺るがない意志を含んだ指示を意識の端に聞きながら、ユウは自分が現状の中心になっていることを直感的に理解する。

 

「オレの動きに合わせてくれた?よし!」

 

 ネメシス08が四方八方に軌道を変えながら徐々に間合いを詰める。

 が、直後に光の弾雨に捕まってしまう。

 

「!」

 

 真っ只中に放り込まれると直感して身を硬くしたのも一瞬、上空から躍り出た白い一本角に翼状の大型スラスターを備えたPTらしき機体が左腕の装備を前に出し、そこからシールドを発生させて庇ってくれる。

 

『行って!』

「!……おぉ!」

 

 PTからの通信に応じるや、ユウはその陰から出て弾雨の止んだ空をさらに進む。

 時折脚部からホーミングビームを撃ってみるが、ビットが展開するエネルギーフィールドに拒まれる。

 しかし、距離が近づくうちに手応えが増していくのを感じていた。

 妖精と今の一本角、これまた蛇との戦いで見かけたマントを羽織った機体が各々光弾を放ち、本体にダメージこそ与えられないものの、その動きを狭い範囲に縫い付けてくれる。

 それを察したユウは、近距離でマシンガンを掃射した。

 

「うおぉおぉお!!!」

 

 叫びと共に放たれた弾丸はビットを撃ち抜き、瞬く間にエネルギーフィールドを破壊した。

 ネメシス08は青い光の軌跡を残しながら空を自由に飛び回る。

 その超次元的な光景と、手に持ったマシンガンという現実的な武器が、非常にミスマッチだ。

 しかし、ネメシス08の戦う姿は美しい。

 非特隊のメンバーは誰もがそう感じた。

 

「あとは本体を……!」

 

 黒い翼を羽ばたかせてこちらへ向かってくるゴースト。

 その大きさは30メートルほどで、頭頂高15メートルのネメシス08と比べると約2倍の大きさだ。

 ゴーストはネメシス08同様に大空を自由に飛び回りながら、翼から再び光弾を発射する。

 

「速い!?追いつけるかネメシス!」

 

 ゴーストの翼からは赤い光が溢れ、うっすらと空に軌跡を残しながら、自らに初めて手傷らしきものを負わせたネメシス08を翻弄する。

 いくらネメシス08が高性能だからといって、パイロットが素人だ。

 攻撃予測や回避行動などがまだ不十分で、未だ本体に直撃を与えていない。

 

「くっそ、どうする!」

 

 ビットによるエネルギーフィールドが消失した今、ロングレンジ攻撃も通用するはずなのだが、ゴーストもそれを警戒してか、先ほど以上に俊敏に動いて中々標準が合わない。

 しかも、空中というのは非常に不安定な戦場で、火器の発射による反作用で態勢が崩れやすい。しかもゴーストからの攻撃をかわしながらだ。

 

「援護が不安定になってきた……長期戦はキツイのか?」

 

 ネメシス08が放つホーミングビームは、弧を描くようにゴーストに向かっていく。

 ホーミングビームは、ミサイルよりも高誘導かつ高威力なビーム兵器なのだが、そのエネルギー消費は激しく、そこまで多用できない。

 現に、ネメシス08のコクピットには撃ちすぎの警告が鳴り響いている。

 ユウは正直にこれに従うことにしたが、攻め手を一つ失ってしまった。

 

「他に武器はないのか!」

 

 ネメシス08はマシンガンで迫り来る敵のホーミングビームを撃ち落としながら接近のチャンスを伺う。

 その間ユウは、回避しながら武装マニュアルを読み込んでいた。

 ビームランスとホーミングビームの他に、ソニックレールガンというものがあるらしい。

 ソニックレールガンは、ネメシス08の両肩に装備されたシールドに内蔵されているものだ。威力は高いが連射はできず、しかも反動が大きい。

 恐らくこの状況で使用して外せば、必ずゴーストはそれをチャンスと見るだろう。

 

「ソニックレールガンか……当てられるか、オレに……」

 

 ユウはネメシス08に左肩のソニックレールガンを構えさせた。

 そして一旦ゴーストから離れるように高度をとり、宙返りをしてから発射姿勢をとった。

 その動きに脅威を直感したのか、ゴーストは他の機体に目をくれず、左右に大きく動きながら狙いを定めたネメシス08を追ってくる。

 コクピットのモニターに表示されるロックオンマーカーが重なる瞬間を待つ。

 その間にもゴーストは近づいてくる。

 

「早く……早く…………早くしろ…………!」

 

 ゴーストが大きな口を開けた。

 その瞬間、ロックオンマーカーが一つに重なり、緑から赤へ色が変わった。

 その時ユウには、この世界の時間が遅くなっていくように思えた。

 それほどに、冷静でいられた。

 スローモーションの1秒で、ユウは極限まで集中力を高めた。

 

「………見えた!狙い撃つ!!」

 

 ロックオンから1秒後、ギリギリまでゴーストを引きつけてからソニックレールガンの音速の弾丸が発射された。

 反動でネメシス08がきりもみ回転の状態になる。

 ユウはそんな中でも冷静で、ゴーストを見ずに回し蹴りをいれた。

 大口を開けていたゴーストは、その脆い部分に弾丸を喰らい、さらに回し蹴りをいれられ、無様に吹き飛んで行った。

 

「サクラさん、フィルシアさん!他の機体の人たちも!!」

『ほいほーい』

『私に命令しないで!』

『撃ちまくれっ!』

『『了解!』』

 

 無抵抗なまま飛ばされたゴーストに、ヴェーガスからテンペストの左肩大口径ビームキャノンとギガンティックの背部キャノン砲2門が発射され、周辺を飛んでいた妖精、一本角、マントの機体からもそれぞれ光弾が放たれる。

 それらの攻撃は一直線にゴーストへと向かっていく。

 それが当たるのを確認する前に、ネメシス08は槍を構えて追撃に入った。

 

「これで、トドメだァァア!!!」

 

 ビームと実弾の集中砲火がゴーストの翼を貫き、巨大な体躯に深い傷をいくつも刻む。

 まるで血のように赤い光が吹き出す。

 そしてその光を斬り裂き、青い光のマントをなびかせながら、穴だらけになったゴーストを貫いた。

 ゴーストは形状崩壊を起こし、消滅した。

 

「終わった…………」

 

 その光景を見届けるや、ユウは全身の力を抜いてシートにもたれかかった。

 息は荒い。気付けば全身から汗をかいている。

 ユウ自身、気付かぬうちに予想以上の体力を消耗していた。

 

『ネメシス08は第一デッキに収容します。真ん中のハッチね。ナビゲートは機械が勝手にやってくれるから』

 

 通信士の女性がナビをしてくれた。歳は20代後半くらいだろう。

 

「わ、分かりました。レーザーセンサー確認……これでいいんですよね?」

『確認しました。あ、そうだ、アタシはリン・スメラギね。よろしくっ』

「……………」

 

 返事はなかった。ユウはコクピットの中で眠りについていたのだ。

 その間にも、ヴェーガスは妖精――シルフィードらの収容を済ませ、ヴァルキリーズ極東支部へと舵をとった。

 

 

 この日、ユウの高校生活は断たれ、戦いの世界へ飛び込んでいくのだった。

 

 

 

 

 その頃、とある太平洋上空では。

 

「迷ったぁぁぁ!!」

 

 空と海で青一色が埋め尽くす世界でひと際目立つ赤い巨人――新ゲッター1のコクピットの中で、イシカワが頭を抱えて絶叫していた。

 

「クッソー……いらん知恵回して余計なことするんじゃなかった……」

 

 そう言いながら思い出すのは、昨日の夕方――リオン隊との遭遇戦の後のこと。

 このまま真っ直ぐ進めば、インドネシア、あるいは別の地区のスクランブルとまた鉢合せしてしまう、それを面倒に考えたイシカワは、人気(ひとけ)が無いと思われる太平洋側に針路をとり、迂回して日本へ向かうことを思いつくや、即実行しいた。

 しかし、地図も方位磁石も持たず、星や太陽の位置から方角を知る術もなく、さらには大部分の移動を夜間に行ったことから、自分がどの辺りにいるのか、そもそも今東西南北どっちを向いているのか、完全にわからなくなってしまったのだ。

 

「チクショー。ゲッターに乗ってんのに海の上で野垂れ死にってか?恥ずかしくて死んでも死にきれねぇよぉ…………」

 

 独特の羞恥心を抱きながら、途方に暮れた目で周囲をあてどなく見回す。

 と、

 

「…………ん?」

 

遠くの空を一直線に飛ぶ影を見つけ、イシカワは目を凝らす。

 よく見ると、コンテナに翼が生えたような独特な形の飛行機のようだ。

 

(また連邦軍か?メンドクセーなぁ。潜って隠れるか?……いや、待てよ?アレを追えば、少なくともどっかの陸地には着くわけだよな……?)

 

 しばしの思案の後、イシカワはレバーを握り直す。

 

「なら、今はそうすっか。それでこっちの日本に着けばよし、着かなきゃ行った先でリベンジってことで……あ、そうだ。オープン、ゲット!」

 

 新たな方針を定めると、咄嗟に思いついたことに従ってゲッターを3機の航空機に分離させる。

 

「少なくとも、ロボットのままよりは目立たねぇだろう。これくらいの距離離れて飛べばわかんねぇだろうし」

 

 楽観的に断じるや、その状態で連邦機の後を距離を保ちながら追う。

 

 

 

 

 極東支部へ帰還後、非特隊は事後処理に追われた。

 ユウのネメシス08搭乗の経緯報告と正式なパイロットとして扱う為の手続きは言わずもがな、シルフィードら先発機たちを地下格納庫へ移動させての整備――シルフィードは自然治癒、白はブロックの補充、アトランティアはリグルによるマントの補修――、IAD3機――特に先陣を切っていたネメシス08――の点検、各パイロットの報告のまとめ等々。

 それらに忙殺されている間に時間は過ぎ、時刻はあっという間に昼に差し掛かる。

 その頃になってようやく忙しさから解放されたユウは、極東支部の食堂で食事をとっていた。時間的には昼食だが、鳥型ゴーストの騒動で朝食を食べ損なった身には今日最初の食事だ。

 と、少し遅れて他の非特隊の面々も食堂にやってきた。

 

「君がネメシス08に選ばれた適合者(ヒーロー)?意外と普通の男の子ね」

 

 集団の先頭を歩くエメラルドグリーンのショートヘアが眩しい少女が声をかけてきた。声からして、ギガンティックのパイロットであるフィルシア・ナイトウォーカーだということはユウに理解できた。

 

「新型ロボットのパイロットはそんなもんなんだよ、フィルち」

「そういうもんなの?」

 

 それにどこか嬉しそうな様子で続くのは、サイドテールが活発な印象を抱かせる男物の礼服を着た少女だ。こちらも声からしてマントの機体――アトランティアのパイロットとわかったが、ユウは彼女の名前は知らない。

 その後ろには、連邦軍の制服を着た男2人とワンピース姿の少女が続いている。

 いずれも年齢はユウと同じか、大して離れてはいないようだ。

 それぞれに注文した品が載ったトレイを持った一行は、ユウが座っているテーブルに腰を下ろす。

 その内、ベーコンレタスサンドを載せたトレイを持ったフィルシアはユウの隣に座った。

 

「日本人だよね?ウチはアメリカの方の出身なんだよー」

「そ、そうなんですか」

 

妙にフレンドリーで脈絡のない話にユウは戸惑う。

 しかし、その拍子抜けした感じがユウの緊張を解していたのも事実だ。

 それを察知してか、他の面々も声をかけてくる。

 

「えっと、桂木恭弥っていいます。一応連邦軍でパイロットやってます」

「俺は織斑一夏。同じくパイロットやってます」

「私は高槻カノン。なし崩しでなんか一緒に戦うことになっちゃったみたいだけど、一つよろしくねぇ」

「よ、よろしく……」

 

未だ遠慮が抜けきらない男2人とは対照的に、フィルシアにも負けないフレンドリーな調子で話しかけてくる男装少女――カノンに、ユウは若干困惑する。

 そして、

 

「……えっと、そちらのワンピースの人は?」

 

 この場で唯一無言を貫いている少女に、ユウはその氷壁の様に硬い雰囲気に若干腰が引けながらも、好奇心に負けて訊ねてみる。

 

「リグル・フォン・エルプールと申します」

「……はぁ……」

 

 名前だけを告げるや再び無言になる少女――リグル、その雰囲気以上に硬い態度に、ユウは声をかけたことを少し後悔する。

 

「リグル~、いつまでもそんな態度じゃ、この先もたないよ~?」

「……」

 

 薄々自覚はあるのか、呆れ気味なカノンの指摘に、リグルはバツの悪い顔をする。

 そんな中、もう一人のパイロット――サクラ・ルルも食堂に入ってきた。桜色の髪を後ろで纏めてある、まだ顔に幼さの残る少女。しかし、その態度は大人びている。

 その後ろには、赤毛の少年とジャージ姿に「GUEST」と書かれた札を提げた少女が続いている。いずれも歳はユウより少し下、中学生くらいか。

 

「お、サークラぁ!飛鳥も」

「食事中くらい静かにしてよ」

 

 フィルシアの呼びかけに素っ気なく応じながら、サクラは野菜のスープを持ってユウの横に座り、赤毛――飛鳥もそれに続く。

 

「ユイ、もう歩いて大丈夫なのか?」

「はい。衰弱は回復したみたいだからいいだろうって。独りぼっちの食事も寂しくなってきましたし」

「それもそっか。確かに飯は大勢で食った方が美味いもんな」

 

 対して一夏と親しげなやり取りを交えた少女――ユイは、その隣に腰を下ろす。

 その傍ら、サクラはユウをチラと見ると、野菜スープに口をつけた。

 

「キミ、ユウ君だよね。歳は?」

「16だけど……」

「んーやっぱり…………適合者(ヒーロー)は子供に限られてるのかしら……」

 

 サクラはそれだけ言って再びスープを飲んだ。

 

「さっきから気になってたんだけど、適合者(ヒーロー)って何のことですか?」

「僕も気になるな。さっきから出てくるけど、どういう意味なんだ?」

 

 ユウと、それに続く形で訊ねてきた恭弥に、サクラは面倒くさそうにスープを置いた。

 

「ユウ君はともかく、桂木曹長は迂闊です。文脈から軍事機密だとうことはわかるでしょ?少なくとも、部外者がいる所でできる話じゃありません」

 

 呆れた様子で言いながら、サクラはユイと飛鳥に硬い視線を飛ばす。

 途端、ユイは居心地の悪い表情を浮かべる。

 

「……あの、私あっち行ってますね」

「俺も……」

 

飛鳥もそれに追従し、各々席を立とうとする。

 が、その時、

 

「そんな必要()ぇよ」

 

やや強い調子で一夏が呼び止めるや、少し鋭くなった目線をサクラに向ける。

 

「サクラもそんな言い方ないだろう?ユイたちが邪魔みたいな態度して」

「そうは言っていません。ただ、機密を守ることも軍人としての務めです。私はそれに従っただけ。織斑曹長こそ、その辺の認識が甘いのではありませんか?」

「……」

 

 立場上の正論を説くサクラに、一夏は口籠ってしまう。が、その目は未だ納得していない。

 そんなギクシャクした雰囲気に耐えかねてか、ユイが一夏の袖を引きながらやや強い調子で言う。

 

「いいんですよ一夏さん。私たちが聞こえない所に行けばいいだけなんですから」

「そうそう。今は空いてるから席も余裕あるし」

 

続く飛鳥が言う様に、昼食時のピークを過ぎた所為か、確かに食堂内は空席が目立ち、席を選ぶ余裕がある。

 現に言う間にも、2人はトレイを持って椅子から立ち上がっている。

 

「……わかった。じゃあ俺も行くよ」

 

 そんな2人の気遣いを察してか、一夏もトレイを持ってそれについて行こうとする。

 

「というわけで恭弥さん、俺あっちにいるんで、必要なことがあったら後で教えてください」

「わかった……その、悪いな」

「いいんですよ」

 

 自分の発言が原因で場を悪くしたと軽く悔やんでいた恭弥にそっと返すと、一夏はユイと飛鳥を追って席を離れる。

 と、一連のやり取りを見ていたカノンが、気まずそうにリグルと顔を合わせる。

 

「えっと……私らもあっちに行った方がいいのかな?」

 

 言いながら、カノンは窺う目をサクラに向ける。

 

「カノンさんは一応非特隊預かりの身だし、今後も共同で戦う機会が増えることを考えると、情報は極力共有しておいた方がいいかもしれません。その代わり聞いたら守秘義務が課せられるでしょうが。リグル様は……失礼ながら、遠慮していただけると……」

「わかりました」

 

 後半は相手が相手だからか、やや歯切れ悪く告げるサクラに短く応じると、リグルもトレイを持ってユイたちの許へ向かう。

 残ったのはユウ、恭弥、フィルシア、サクラ、カノンの5人だ。

 それを確認したサクラは、目でフィルシアに「説明して」と促すが、フィルシアは知らんぷりだ。

 ユウに視線を移しつつ、仕方ないと自ら口を開いた。

 

「キミが乗ったIADネメシス08系列の機体、通称"ネメシスタイプ"は、リリスと呼ばれる人工半生命体が基になってて、そのリリスがIADとして起動した時に、HEROという文字と一緒にDNA情報が提示されるの。そのDNAはリリスのものとの関連性は皆無なんだけど、そのDNAの持ち主以外が乗っても全く動かないのよ」

「そんなプログラム、開発者も組み込んだ覚えがないんだってさ。ただ単に電気信号を送れば動くはずだったのにね」

 

 フィルシアの補足も含め、ユウは目を開いたり閉じたりしながら聞いていた。機械系に強いユウでさえも、理解するのに少々時間がかかることがあった。

 それを見たサクラがスープの入った皿を持ち上げながら説明をまとめた。

 

「要は、ネメシスタイプが私たちを選んだってこと」

「選ばれた子供……どこかで聞いたことあるわね」

 

 ユウはやっと、自分がネメシス08に乗り込んだことが偶然ではないと知った。

 ネメシス08に彼の生体反応が記録されたのではなく、元々組み込まれていたということになる。

 ユウはパンの一欠片をつまんで言った。

 

「つまり、オレたちがやるしかないってことですね」

「そーゆーことっ!」

「異論はないわ」

「またメンドーな機体だことで……」

「それなんて汎用人型決戦兵器?」

 

 フィルシア、サクラ、恭弥、カノンの感想を聞くと、気になっていたことが解決したユウはまた食事を楽しみ始めた。

 と、それに合わせる様にフィルシアはトレイを持って立ち上がる。

 

「言うことは言ったし、私もあとはあっちで食べるよ。面白そうだしね」

「それなら私も行くよ。リグルも心配だし」

 

 カノンもそれに続くと、フィルシアはユウを一見する。

 

「そう、じゃあ一緒に行こう。あと、ユウ」

「はい?」

「敬語なんかいいよ別に。お互い同い年なんだし、仲良くしよっ!」

「え、あぁ。分かった!」

「そんじゃね。サクラもゆっくりと親密になりな。恭弥、フォローよろしくー!」

「うっさい」

「任されて、と言っておこうかな?」

 

 各々の返事を聞くと、フィルシアはカノンを伴ってユイたちの許へ向かう。

 そして2人がいなくなったのを合図に、一同の間には静寂が流れた。聞こえるのは食器が当たる音とスープが喉を通る音だけ。

 サクラは見た目とは裏腹に大人っぽく、非常にテーブルマナーがいい。

 ユウはそれを見て、パンくずを拾ったりしてみる。

 気まずい空気を感じ始めたユウは横目でサクラを見た。

 こうして見ると、普通に可愛い娘だなと思った。

 

「何」

 

 その視線に気付いたサクラは、目を瞑ってスープの後味を味わいながら言った。

 ユウは少しビクっとしたが、怒ってる様子でもなさそうなので安心した。

 

「いや、黙ってれば綺麗な顔なのになぁって」

「いや、ユウ君それは……」

 

 ユウの正直な感想に、それまで黙って食事をしていた恭弥が呆れた表情を浮かべる。

 が、当のサクラは急に顔を赤くし、吹き出しそうになったスープを飲み込んでから早口で言った。

 

「ば、バカじゃないの!ここは軍の部隊なのよ!いつでも戦場に飛び込んでいくのよ!き、綺麗とか、そういうの、そういう余計なこと考えないで!」

 

綺麗という言葉にさほど動揺したのか、「黙ってれば」という半ば失礼な言葉には怒らない。

 彼女自身、大人っぽい態度をとってはいるものの、まだ少女の心は持っているようだ。

 サクラはスープを飲み干し、足早にトレイを片づけに向かった。

 が、

 

「ちょ、まさか聞いてたの!?」

「さぁ、どーでしょうねぇ〜」

 

3歩と歩かない内に移動したメンバー全員の視線に気づき、動揺しながらの問いにフィルシアのはぐらかす様な返事が返ってくる。

 トレイを返して駆け足で食堂を出ていくサクラを見送り、ユウは「禁句だったか」と思いながら、天井を見上げてパンの最後の一口を飲み込んだ。

 

「なんか、楽しそうなとこだな」

「ホントに……一両日中に大分賑やかになったなぁ……」

 

 感じたままを呟いたユウに、恭弥が移動組を眺めながら感慨深い声を漏らす。

 

「……折角だし、僕たちもあっち行かないか?」

「え?……でも……」

 

 恭弥の提案に、ユウは移動組を一見し、あの輪に入っていいものか躊躇してしまう。

 

「どうせ大事な話は終わったんだし、知り合いがこんなたくさんいて2人きりの食事ってのもなんか変だろう?これから一緒に戦うってことでも、親睦は深めておいた方がいいだろうし、さぁ!」

「……そ、それじゃあ……」

 

 やや強引に誘う恭弥に折れると、ユウはトレイを持って一同の許に移動する。

 

 

 

 

 遡ってネメシスタイプの説明が始まった頃。

 テーブルを移動したユイ、飛鳥、一夏は、それぞれ腰を下ろして改めて食事を始める。

 移動する原因となったやり取りを思い出しながら、ユイは隣に座る一夏を見る。

 

「……あの、一夏さん」

「ん?」

「さっきは私たちの為に怒ってくれて、ありがとうございます。どうであれ、気にかけてくれるのは嬉しかった……ただ、それで部隊に亀裂が入るのは……」

「……」

 

 申し訳なさそうに語るユイに、飛鳥も気まずさから顔を俯ける。

 

「そんな顔するなよ。お前らの為っていうより、俺がサクラの態度に腹が立って言っただけだしさ……それに、あいつの言うこともわからなくもないし……」

 

 2人のそんな様子に一夏まで申し訳なさを感じていると、一同の許にリグルがやってくる。

 

「リグル様?」

「どうしたんです?」

「貴方がたと同じです。私も退席した方がいいと言われまして」

 

 一夏と飛鳥に手短に応じると、リグルは席に座って食事を再開する。

 

「「「「…………」」」」

 

 相も変らぬ氷壁の様な態度に、ユイたち3人は圧倒され、自ずと口が重くなり、一同の間に気まずい沈黙が広がる。

 と、少ししてフィルシアとカノンもやってくる。

 

「あれ?2人までどうして?」

「話は終わったからね。こっちで一緒に食べる方が面白そうだし」

「私はリグルが心配っていうのもあるしね」

「カノン……!」

 

 飛鳥の問いにフィルシアとカノンはトレイを置きながら応じ、カノンに小さい子供の様に言われたリグルは羞恥に顔を赤くする。

 と、フィルシアが一夏に、やや真剣な目を向ける。

 

「でさ一夏、さっきのことなんだけど……」

「さっき?……なんだよ?」

「サクラだけどさ、別に悪気があってあんな言い方したわけじゃないんだよ。あいつ真面目だから、それが高じてついキツい言い方になっただけで……」

「大丈夫だよ。俺もその辺わかってるつもりだから」

 

 柄にもなく狼狽えるフィルシアに、一夏は努めて平常心で返す。

 

「サクラの言う機密は守らなきゃいけないっていうのは、軍人やってるなら当たり前だろうし、俺だって実際それを理由に恭弥さんやユイの質問をはぐらかした。俺の認識が甘いっていうのも正しいんだろうさ。ただ、もうちょっと言い方があるんじゃないかと思ったけど……それを言ったら俺もそうだった気がするし……ユイたちもごめんな。変な心配かけてさ」

「いいえ。私は別に……」

「俺も謝られても……」

 

 軽く頭を下げる一夏に、ユイと飛鳥は反応に困ってしまう。

 

「……一応、後でサクラにも一言言っとくかなぁ」

「謝るの?」

「謝るっていうか……まぁそうかな。俺自身、『悪いことした』って気持ちがあるなら、謝っといた方がいいだろう。ユイたちが心配するほどじゃないだろうけど、こじれるとやっぱ後で面倒だし」

 

 カノンの問いに、一夏は自分の気持ちを整理しつつ応じる。

 

「なんていうかさ、サクラって”大人”だよなぁ……俺と大して歳変わんないのにさ」

「まぁねぇ。確かにそうだけど……」

 

 天井を見ながら不意に思いついたことを呟く一夏に、フィルシアは意味深な笑みを浮かべてさっきまで一同がいたテーブルを指さす。

 直後、

 

「ば、バカじゃないの!ここは軍の部隊なのよ!いつでも戦場に飛び込んでいくのよ!き、綺麗とか、そういうの、そういう余計なこと考えないで!」

「「「「!?」」」」

 

食堂全体に響き渡る勢いのサクラの叫び声に、フィルシア以外彼女に会って間もない面々は、初めて見るその狼狽した様子に目を丸くする。

 その間にもサクラは早々に食事を終え、完食したトレイを返しに行こうとする。

 が、歩いてすぐに移動組の注目の視線にさらされる。

 

「ちょ、まさか聞いてたの!?」

「さぁ、どーでしょうねぇ〜」

「!!……」

 

 一同を代表したフィルシアの返答に、サクラは顔を真っ赤にして、すぐにトレイを返すや食堂から逃げる様に走り去る。

 

「…………ふっ!」

 

 一連の光景に呆然としたのも束の間、一夏が顔を綻ばせたのを合図に、一同の間に笑みが伝播する。リグルでさえ、手で隠したものの口を歪ませた。

 

「なんか、意外ですね。サクラさん?……に、あんな一面があるなんて」

「だな。なんか安心した」

 

 一同の感想を代弁するユイに、一夏は大きく首肯しながら言う。”軍人”としてだけではない、自分たちと同じ年頃の、年相応なサクラの一面を垣間見えたことが、知らぬ間に抱いていたらしい彼女への”硬い”先入観を壊してくれたようだ。

 そんな中、ついに恭弥とユウまでやってくる。

 

「どうもー」

「恭弥さん」

 

 声をかけた恭弥に一夏が応じると、2人は手近な席に座る。

 

「……なんか、さっき出て行った人以外、またみんなそろっちゃいましたね」

「だねぇ~」

 

 ほぼ移動前と同じ状態になった周囲に飛鳥は素直な感想を溢し、それにカノンも賛同する。

 

「いいんじゃない?ごはんは大勢で食べた方が美味しいっていうし。でしょ?一夏、ユイ」

「だな」

「ですね」

 

 それを受けて気楽に告げるフィルシアに一夏とユイも続くと、一同は再度食事を再開する。

 

「そうだフィルち。ちょっと訊きたいんだけどさ」

「なに?」

「この世界のロボットアニメってどんなのやってんの?やっぱ本物があるから結構リアルな描写とかあるのかな?……まさかとは思うけど、本物があるが故に動きにリアリティーがないとかなんとかいって廃れていったとか!?」

「うーん、どうだろう……?私あんまアニメとか真剣に観るタイプじゃないし……」

 

 カノンの割と真剣な問いに、フィルシアは天井を見上げながら思案する。

 そんな光景に、ユウは再び呟く。

 

「本当、楽しそうなとこだな」

「『軍隊』って聞いて感じるイメージとはほど遠いですね」

 

 それを聞いたらしい飛鳥に顔を向けると、ユウは彼とは互いに自己紹介がまだだったことを思い出し、自分から口を開く。

 

「えっと……ユウ・ヴレイブっていう。聞いたと思うけど、今日から連邦軍でパイロットやることになった……君は?」

「あっ……飛鳥、新田飛鳥です。じいちゃ――祖父の仕事の都合で、今ヴァルキリーズにお世話になってます……」

 

 人付き合いに慣れていない者同士ぎこちなく紹介を交わすと、ユウはその中で感じた疑問を述べる。

 

「新田?……もしかして、新田源三の身内、とか?」

「あ、はい。今話してた祖父です」

「本当か!?」

 

 当てずっぽうな推測が的中したことに我ながら驚きながらも、ユウはさらに飛鳥と会話を重ねていく。

 モモタロウ騒動で良くも悪くも有名になった飛鳥の祖父・源三だが、それ以前から複数の分野で権威として名を挙げていた。機械工学もその一つであり、機械好きのユウにとっては趣味の分野の著名人、その関係者と語り合えるというのは嬉しい体験だ。

 話を重ねていく内に、飛鳥自身機械には興味があり造詣も深いことがわかり、ユウにとってはいつしか「趣味の分野の著名人の孫」から「同好の士」にクラスチェンジしていた。

 そんなふうに各々気ままに談笑を楽しみながら、非特隊の昼食は進んだ。

 

 

 

 

 和気藹々とした昼食を済ませたユウは、そのまま非特隊メンバーとヴェーガスに戻り、与えられた個室のベッドの上で横になっていた。家から持ってきた私物などはなく、必要最低限の家具があるだけの寂しい部屋だ。

 

「ヒーロー…………オレなんかで……」

 

 昼食時、特に飛鳥との会話で覚えた興奮が落ち着いて冷静になったのか、電気も点けずにただ天井を眺めながら独り呟く。

 と、部屋のドアがノックされる。

 

「はい?」

 

 体を起こしながら応じると、恭弥と一夏が部屋に入ってくる。

 

「どうも」

「えっと……恭弥さんに、一夏さん……ですよね?」

 

 声をかける恭弥に、ユウは少し頼りない様子で返す。短い間に大勢の名前を紹介された為に、やや混乱しているのだ。

 

「正解。一度にたくさん名前言われても混乱するよなぁ」

「それとフィルシアちゃんも言ってただろう?敬語はいいよ。僕等もその方がやりやすいから」

「じゃあ……恭弥、一夏」

 

 共感する様に頷きながら一夏が応じ、恭弥が昼食時のことを受けて指摘する。

 それに応じて口調を改めると、ユウは2人の顔を交互に見ながら問う。

 

「どうしたんだ2人して?オレになんか用か?」

「休息がてら、男4人でその辺ぶらつかないかと思ってさ」

 

 答える恭弥に、ユウは新たな疑問を抱く。

 

「4人?」

「ヴェーガスの外で飛鳥も待ってるよ」

 

 言いながら一夏は床を指さし、それが「ヴェーガスの外」を指しているのだと理解しつつ、飛鳥の名前を聞いたユウは少し心が躍るのを自覚する。

 

「……まぁ、部屋にいてもすることないしな……わかった。行く」

「そうこなくちゃな!」

 

 言いながら一夏は親指を立て、ユウが簡単に身嗜みを整えるのを待って、3人はヴェーガスの外へ向かう。

 

 

 

 

 ヴェーガスを出た恭弥たち一行は、艦体が収まっている格納庫入り口のそばに佇む飛鳥の姿を見つけると、やや速足でそこに歩み寄る。

 

「飛鳥君、待たせた」

「いいえ……大きな(ふね)ですねぇ……」

 

 恭弥に応じつつ、一行の背後に停泊しているヴェーガスを眺めてやや感動を含んだ声を溢す飛鳥。それにつられる様に、飛鳥のそばに着いた恭弥たちも後ろを振り返り、改めてその巨大な、それでいて蒼を基調とした流線形がどこか優雅な雰囲気を醸し出す艦体を眺める。

 

「ヴェーガス、だっけ……?」

「そう。ネメシスタイプの運用を前提に開発されたっていう、事実上の専用母艦」

「一応、詰めれば20メートル級までなら少し入るみたいだけどな」

 

 改めて自分が乗ることになった艦の名を呆然と呟くユウに、恭弥と一夏も同じ表情を浮かべつつ、それぞれ知っていることを話す。

 と、

 

「航空巡洋艦ヴェーガス。イミュー粒子を利用した発電システムを搭載した連邦軍の最新鋭艦ね」

「フィルシアちゃん?」

 

話を聞いていたかの様なタイミングで説明を述べるフィルシアの声に恭弥は振り向き、その後ろにサクラ、カノン、リグル、ユイの姿も認める。

 

「どうしたんだ。みんなして?」

「フィルちの提案で、女同士集まって親睦を深めようってことになってさ。ユイも折角退院できたんだし、少しは外の空気吸わせた方がいいでしょう?」

「どこも考えることは同じか……」

 

 一夏の問いにユイを見やりながら答えるカノン。それを聞いて、ユウは思ったままを呟く。

 と、飛鳥が若干の興味を浮かべた顔でフィルシアに歩み寄る。

 

「イミュー粒子?この艦、イミュー粒子の発電システムで動いてるんですか?」

「うん。大人たちからはそう聞いてるけど」

「イミュー粒子……?」

「……」

 

 飛鳥の問いにフィルシアが答える傍ら、恭弥は首を傾げ、視線を向けられた一夏も肩をすくめる。

 それが聞こえたのか、出会ってから今まで物静かな印象が強かった飛鳥が、何かに弾かれた様にやや熱のこもった声で語り始める。

 

「知らないんですか?DC戦争の頃に研究されてたっていう『イミュー粒子』。加熱すると多量の電子を放出する性質があって、その温度も1000℃未満と非常に低温なことから、この粒子を用いた次世代の発電システムに大きな期待が寄せられてるって……ただ、イミュー粒子の扱いが非常に困難で、実用化には十数年かかるって言われてるけど」

「へー、そうなんだ」

「またスゲー艦が回されたんだなぁ、俺らんとこ」

「……って、今まで知らずに乗ってたのかよ……」

 

 素直に感心する恭弥と一夏、そのどこか抜けている雰囲気を少し心配しつつ、ユウは控えめなツッコミを入れる。

 一方、カノンは面白いものを見る目を飛鳥に向ける。

 

「流石スーパーロボットの整備士。先端技術もバッチリってこと?」

「EOT……でしたっけ?100年くらいで本当に飛躍的な進歩ですね」

「あぁいや、別にそういうわけじゃ……祖父ちゃんが参考程度に調べてたのを横から見たくらいで…………そもそも、イミュー粒子関連の技術はEOTじゃありませんよ」

 

 入院中に調べた言葉を語彙から引っ張り出して頼りなく述べるユイに、カノンの称賛にどう返していいか困っていた飛鳥は訂正を入れる。

 

「EOT――エクストラ・オーバー・テクノロジーの定義は、『現在の人類の科学力を超える技術の産物』です。イミュー粒子自体、もともとはイスダルン国で研究されていたもので、あくまでも『現在の人類によって発見・確立された技術』ですから、EOTの定義からは外れます」

「え!?そうなのか?」

「僕はてっきり、超技術をまとめてそう言うのかと……」

 

 親切丁寧、それでいて簡潔に述べられた飛鳥のEOT講釈に、一夏と恭弥はそれぞれ鳩が豆鉄砲を食った様な顔をする。

 

「EOTの具体例としては、大陸から発掘される遺物が代表的ですね。あと鬼の残骸とか、モモタロウもそうかな。テスラ・ドライブもEOTから得た情報を基に完成を見たと聞いたことがあります」

「……そこ行くと、シルフィードなんかもそうなのかな?」

「さぁ?俺はちゃんと見たことないからなんとも……」

「……中学生に技術の講習されるって……大丈夫なのか?この部隊……」

 

 さらに続ける飛鳥に、咄嗟に浮かんだことを訊ねる恭弥。そんな光景を見て、ユウは不安混じりに再度ツッコミを入れる。

 その傍らでは、カノンが少し不安を浮かべながらサクラに耳打ちしている。

 

「さっきからいろいろ凄い話してるけどさ、サクラ的には大丈夫なの?新型の発電システムとか、『機密事項だ!』とか言って怒らない?」

「別に……今新田君が話してたことも、ちょっと調べればすぐに出てきますし」

「今のが『ちょっと調べれば』、ねぇ……流石この世界ってことか」

 

 事務的に返すサクラの言葉に、カノンは遠くを見る様な目で呆然と呟く。

 

「ちなみに、このイミュー粒子の発電システムを搭載したADこそIAD――イミュニック・アーマードールであり、基本的な構造は同じでも、圧倒的な出力によって飛躍的に性能が向上することか知られています」

「……要するに、心臓を変えるだけで大幅にパワーアップするってことかぁ」

「それだけで20メートルもないサイズで特機並の活躍ができるっていうのか?……スゲェなイミュー粒子」

 

 その間にも続いていた飛鳥の講釈に、恭弥と一夏も呆然と応じる。

 その時、

 

「?……あの、あれ何です?」

「何って――!」

 

空の一部が弧を描く様に歪むさまを見て訊ねるユイ、その指先を追った一夏は、直後にそらに巨大な黒い穴が開くのを見る。

 

「あの穴って!?」

 

 すぐに他の面々もその異常に気づき、代表してカノンが驚愕の声を上げる間にも、穴から黒い鎧の巨人――クロイツリッター、およびクロイツリッター・グランツハーケンが続々と現れる。

 そして、

 

「…………ベネクティオ」

 

それらに道を譲られる様にして現れた黒いシルフィードというべき容姿の機体――ベネクティオに、恭弥は無意識の内にその名を溢す。

 黒銀の妖精を見据える目に数瞬前までの気楽さは無く、ライカ救援の際に初接触した時の手強さを思い出し、知らぬ間に汗ばむ手を握り締めた。


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