スーパーロボット大戦H/ハーメルン   作:一条 秋

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14 それぞれの事後

 タナトス、そして赤い特機との交戦から数時間が経過した頃。

 紛争抑止委員会の採掘基地一帯を燃やしていた火災は粗方鎮火し、焼け跡に降り立った光秋とライカは、各々機体のセンサー類を駆使して生存者の捜索を行っていた。

 

(……反応無し、ですか)

 

 各種センサーの反応を走査し、シュルフツェンのモニターに映る辛うじて原型を留めている黒焦げになった数件の建屋を眺めながら、ライカは心中に淡々と呟く。

 DC戦争初期の頃から第一線で戦ってきたライカにとって、目の前の惨状も、生存者無しという探索結果もすっかり見慣れたものであり、死者たちの冥福を祈るくらいのことはしつつも気持ちが動くことはない。あくまでも”仕事”の一部でしかないのだ。

 念の為2回目の走査を行うと、基地跡南側を担当しているライカは北側を担当している光秋のニコイチに通信を繋ぐ。

 交戦直後よりはいくらかマシになりつつも、未だ疲労の残る光秋の顔がモニターの端に映し出される。

 

「バレット1よりホワイト1へ。こちらに生命反応は確認されず。そちらはどうです?」

『こっちもダメですね。一度合流するので、その場で待機を』

「了解」

 

 応じながら振り返ると、飛び立ったニコイチが自分の許にゆっくりと降りてくる。

 シュルフツェンの正面に着地するや、ニコイチは辺りを見回す様に頭部を左右に振り、通信映像に映る光秋は瞑想でもするかの様に目を閉じる。

 

『…………本当に、ダメみたいですね』

 

 ややあって目を開けながら呟くと、光秋は顔を左に向け、それを追ってライカも同じ方向――西の空を見上げると、赤くなり始めた太陽がゆっくりと山々の間に沈みつつある。

 

『生存者が無しとなると、これ以上ここに長居するのは危険ですね。日ももうすぐ暮れるし』

 

 現状を簡潔にまとめると、光秋は基地跡から離れた場所で待機しているレイディバードに通信を繋ぐ。

 

『ホワイト1よりマザー1へ。委員会への連絡はどうなってますか?』

『こちらマザー1。ここから一番近い基地と連絡がとれました。ひとまずそこに向かってくれと』

『了解。我々も一度帰還すます。合流してすぐに向かえるようにしておいてください』

『了解』

 

 操縦士の返答を聞くと、光秋は映像越しにライカを見やる。

 

『聞いての通り、ここでの捜索はこれで終了。マザー1に合流後、最寄りの委員会基地に向かいます』

「了解」

 

 応じると、ライカはシュルフツェンを飛び立たせ、同時に上昇したニコイチと並んでレイディバードの許へ向かう。

 ふと繋いだままの通信映像に目を向けると、目をつむった光秋が手を合わせている。

 

「……お祈り、ですか?基地の人たちの」

『……そんなところですね』

 

 ライカの問いに、光秋は合掌を解いて答える。

 

「……私見ですが、あまり戦死者のことを引きずらない方がいいですよ。機動兵器に乗っている以上、殺されるのはお互いさまです。いちいち気にしていると、大尉まで引っ張られて……」

『いやいや、流石に僕もそこまで考えてませんよ。割り切りがいいというのか、薄情というのかはわからないけど、会ったこともない、しかも状況的に自分の力の及ばない所で死んだ人たちのことまで背負えませんて。ただそれとは別に、合掌の一つもしてあげないと悲しいかなって。要は、僕の中で割り切る為の儀式みたいなもんですから。もう済んだし』

「それならいいのですが……大尉にもしものことがあれば、非特隊のみんなが困るんです。くれぐれも無理はなさらないでください」

『了解』

 

 釘を刺すライカに微笑んで応じると、光秋はレイディバードの格納庫に降り立ち、ライカもそれに続く。

 2機の合流を確認すると、レイディバードは荒地を滑走路代わりにして上昇し、連絡にあった委員会基地へ向かう。

 

 

 

 

(どうしてだよ、どうして俺たちを置いて行ってしまうんだよ………!)

(…●◆…、この世界から奴ら……フ…ナ……カーが消え平和が戻った……だが今回のもやはり末端に過ぎなかった……もうこれ以上あ奴らのせいで辛い思いをする者達を増やさぬために、遥か次元を超え奴らの本拠地を我は叩かねばならない)

 

――ああ、またこの夢か……。

 

 そう自覚しながら、飛鳥は目の前の光景を見やる。

 赤い炎を纏った鳥と、自分に似た大人が会話しているのが見える。

 今回の夢は、まるでお別れのようだと感じた。

 

(…………お前は我らと共に身体と心が傷つきながらもファ●テ◆カーと戦い抜いた……ここから先は我、いや我ら四神の王に任せろ)

(だからってあんまりじゃねえかよ!ずっと俺の相棒…………親友で側にいるって約束破るのかよ!!)

(…………あの日出会ってから十年共に過ごした日々は我にとって素晴らしいモノだ……)

(だったら俺も連れてけよ…………お前……一人じ……ゃ戦えないだろ…………)

(……一人じゃない……それに……●●にはこの先を共に生きる大事な人がいるだろ……)

 

 赤い鳥が首を向けると、金髪の長い髪に赤い瞳の綺麗な女の人が不安そうな面持ちで立っている。

 

(……これからはあの子を、●●●ト嬢ちゃんを幸せにしろ……今まで心配かけた分……それ以上に幸せにしろ……あとレ●●もな)

(…………………………………………わかった、でもさよならは言わないからな!またいつか、例え何十年、何百年、何度生まれ変わっても俺は……お前と友達だ!また会おうぜD!!)

(!ああ、我……俺の友達……仮面を戦士……◆◆飛●の名を忘れない!また会おう相棒(親友)!!)

 

 青、白、緑の閃光が空を駆ける中、赤い鳥は光に包まれ空へと消えていった。

 

 

 

 

「ん……またあの夢か……」

 

 

 目を擦りながら体を起こすと、赤い鳥の石像が見下ろすように立っている。

 それを眺めながら、飛鳥は先ほどまで見ていた夢のことを考える。

 

(今日の夢に出てきた大人はまるでオレの数年後の姿にしか見えなかった……それに赤い鳥と石像にはどことなく似てる気がする……)

 

 そんな思考を中断する様に、祖父・源三の声がかかる。

 

「ここにおったか飛鳥、今からワシとヴァルキリーズ極東支部に向かうぞ!」

「どうしたのさじいちゃん?」

「桃矢君が意識を失ったとルイーネが連絡を寄越してきたんじゃ、Dトレーラーを起動させ……いや研究所を極東支部の近くに転移させよう」

 

 端末を素早く操作して転移座標を打ち込み、キーを押す。静かな振動音が響き転移が始まる中、『Dトレーラー』に乗り込んだ飛鳥に源三が思い詰めた顔で話しかける。

 

「飛鳥、しばらくワシらは拠点を日本に移すぞ……そこでなんだがの、学校に通う気はないかの?」

「……いいよ……オレは……オレなんかが……」

「……飛鳥、そんなふうに自分を責めるでない……そんな事をシンヤとマリ―、蓮が望むと思っとるのか?」

「………でも!オレだけ生き残って……」

「よいかの飛鳥、生き残ったのには必ず意味がある……それに後ろばかりを向いてる今の飛鳥を見たらどう想うかの?……悲しむじゃろうて」

「…………」

 

 諭す様に語りかける源三に、飛鳥は口をつぐむ。

 

「3人とも飛鳥が前向きに生きることを望んでおるに違いないとワシは想う……桃矢君も同じ意見じゃ……ん、着いたようじゃな」

 

 転移が終わったことを告げるアラームが鳴り、移動床が動くと隔壁が開き、Dトレーラーを走らせる。

 しばらくし進んで巨大な施設――ヴァルキリーズ極東支部が姿を現す。

 

「……じいちゃん、オレ……学校に行ってみるよ……父さん、母さん、蓮がそう望んでるならオレ頑張るよ……」

「そ、そうか!すまんがワシはこれから司令に会いに行く、飛鳥はDトレーラーをナビが指示する場所へ運んでくれ」

「うん、じいちゃん」

 

 慌ただしくも飛鳥の返答に笑顔を浮かべると、源三は座席から降りて司令がいる執務室へ歩いていく。

 残された飛鳥はナビ起動させ、オートモードにしたDトレーラー(特殊整備車両)をヴァルキリーズ極東支部の敷地内に走らせる。

 

「……オレが生き残った意味……わからないけど今は桃兄を助けなきゃ……」

 

 そう呟き、Dトレーラーが停まったのを感じると、必要な機材をまとめて座席から降り、モモタロウが横たわる整備ハンガーに向かう。

 

 この日、新田飛鳥はヴァルキリーズ極東支部整備主任・城田虎次郎と出会い、キジット達以外のはじめての親友になった。

 この事はすでに定められていた運命。

 父と母と弟を失った少年・新田飛鳥と、夢で見た『赤い鳥』が出会うとき、幾星霜の永き時を超え中国大陸に伝わる伝説の四神の王、新たなティルレガシイが目を覚ます。

 

 

 

 

 光秋一行が委員会基地へ向けて移動を開始した頃。

 鬼・ルミエイラ部隊の全滅を確認した非特隊とヴァルキリーズは、極東支部への帰還準備を始めていた。

 そんな中、戦闘の疲労がある程度回復した恭弥と一夏は、2人の事情を光秋から聞いていたエリックの指示に従って伊豆基地へ一時帰還していた。

 

「にしても、まさか着替え取ってこいって指示されるとはねぇ」

『まぁ、午前中のスクランブルで着の身着のまま出てきてそのままでしたからね。俺はまだしも、恭弥さんはまた服借りないといけなくなるし』

「そうなんだけどねぇ……」

 

 会話を交わしながら荷造りを済ませると、恭弥と一夏は自室を出て格納庫へ向かい、それぞれシルフィードとユニコーン・白に搭乗して極東支部へ飛び立つ。

 

「……ところで一夏君、白大丈夫か?戦闘が終わってからこっち、ドタバタして遅くなっちゃったけどさ」

 

 言いながら、恭弥はモニター越しに右隣を並んで飛ぶ白を見やる。

 

『はい。エネルギーはしばらく休めば回復しますから。伊豆基地から極東支部まで移動する分には問題ありませんよ』

「それもあるけど、何度か弾掠ってただろう。戦闘が終わった時、左腕に痕があった気がするんだけど……」

 

 通信画面越しになんてことない様子で答える一夏に応じながら、恭弥は白の左上腕を注視する。

 クロイツリッター・グランツハーケンのビーム弾がすれすれを過ぎていったそこは、戦闘終了直後に見た際には装甲表面が少し爛れていた。しかし今、爛れは完全に消え去り、全身にいくつかついていた細かな傷も綺麗さっぱり消えて、新品同様といっていい純白の艶やかな装甲が白を包んでいる。

 

『あれくらいなら大丈夫ですよ。白って自己修復機能があって、傷くらいは放っておいても勝手に塞がりますから。ただ、装甲の材料を定期的に補充しなきゃいけないけど……それを言ったらシルフィードだって……』

「まぁねぇ……」

 

 一夏の言わんとすることを察しながら、恭弥は伊豆基地を発する前、搭乗直前に見たシルフィードの全体像――戦闘、特に終盤のモモタロウが撃ったグレンの余波で負ったはずの細かな傷が全て消えていた――を思い出す。

 

「出撃前にまさかとは思ったけど……やっぱり、シルフィードにも自己修復機能あるのかな?」

『……そういうことなんじゃないですか?状況から考えて……』

 

 半ば確信を含んだ恭弥の呟きに、一夏は緩く同意する。

 

「……カノンちゃんのアトランティアもそうだけど、アレに比べたら僕らのはまだ地味――!」

 

 さらに続けようとしたその時、視界の端を白くて丸い、さながら火の玉の様なものが行き過ぎていくのを見て、恭弥は言葉を詰まらせる。

 

『……恭弥さん?』

 

 突然言葉が切れたこと、なにより画面の中の恭弥の顔が引きつりだしたのを見て、一夏は心配そうに声をかける。その気持ちを拾ってか、白自体も寄り添う様にシルフィードとの距離を詰めてくる。

 

『恭弥さんっ』

「!?……あ、あぁ、ごめん……」

『大丈夫ですか?急に黙り込んで……もしかして疲れてます?』

「いや、確かに疲れてはいるけど、心配されるほどじゃないよ。ただ、今そこを…………その……人魂(ひとだま)が通っていったような気がして……」

 

 献身的に接してくれる一夏に頼もしさを、1歳差とはいえ年下にそんな態度をとらせてしまう自分に情けなさを覚えつつ、多少迷いつつも恭弥は感じたままを正直に答える。

 

『人魂?』

(……まぁ、そうなるだろうな)

 

 返ってきた言葉に眉を寄せる一夏、そんな予想通りの反応を見ながら、恭弥は気まずそうに心の中で呟く。

 

『え?恭弥さん”視える人”なんですか?』

「周りはそういうけど、僕自身は十中八九見間違えか、でなきゃ今みたいに疲れの所為だと思うんだけどね……ただ、昔から人魂を見たかもとか、見かけた人影がすぐに消えた気がするとか言ってたら、オカルト好きのサークルに半ば強引に入れられちゃってさぁ……以来、軍に入るまで法螺(ほら)話に付き合わされてたんだよねぇ……いや、それはそれで面白かったんだけど」

『へー……大変だったんですね。恭弥さんも』

「まぁ、それなりにね……」

 

 懐かしくも素直に楽しめない思い出話を緩く交わしながら、恭弥はなんとなしに真正面を眺め、視線の先にある極東基地を幻視した。

 

 

 

 

 恭弥の視線の遥か先――ヴァルキリーズ極東支部の格納庫では、横浜地区の戦闘から帰還した機体たちの収容作業が行われていた。

 

「コードM、モモタロウの収容急げ!」

「主任、ガタイがでかすぎてハンガーに収まりません!」

「ああ~仕方ねぇな、じゃあ戦機人用ハンガーを2つ空けるしかないか……」

「わかりました!今すぐ2つ空けます!!」

 

 虎次郎の指示に従って早急に整備ハンガーが2つ空けられ、そこに戦機人2機に抱えられてようやくモモタロウのが収まる。

 その間にも、虎次郎は隣の非特隊が使っている格納庫からの通信に応じる。

 

『主任、非特隊と一緒に来た髑髏の特機、大き過ぎて戦機人用のハンガーに入りません』

「そっちもかよ……」

 

 モモタロウと同じ事態に呆れながら、問題の髑髏の特機が地下に降りてきた時を思い出す。

 30メートル程度のモモタロウよりさらに巨大な50メートル級の巨体は、元来20メートル級の戦機人の運用を前提とした当格納庫にはギリギリの大きさで、身を屈めて窮屈そうに通路を移動していた。

 

(確か、頭のてっぺんに生えてた角が天井を擦ってたよな……)「わかった。ハンガーを2つ……いや、必要なだけ空けろ。あとのことは非特隊の指示に従ってくれ」

『了解です』

 

 通信越しの返事を聞くと、虎次郎は改めてモモタロウに目を向ける。

 その巨体をなんとなしに眺めていると、妙な感覚を覚える

 

(コイツ……昔から知ってるような……?)「……んな訳ないよな……ん?」

 

 考え事をしていて気づかなかったのか、いつの間にか傍らに知った顔が数人佇んでいる。

 

「アリス、それに第三分隊と……」

「カノンね。さっき恭弥に紹介してもらった」

「あ、そうだったな。で?どうしたんだ?」

「虎、少し時間をくれる?」

「いいけどさ……」

 

 一同を代表して制服に着替えたアリスが問うと、全員が整備ハンガー2つ分のスペースに横たわるモモタロウの許に歩み寄る。

 と、全員がいきなり頭を下げる。

 

「……アタシたちを助けてくれてありがとう……モモタロウ」

「……何があったんだ?」

 

 物言わぬ巨人に感謝を示す一同、それを横から見て首を傾げている虎次郎の許に、頭を上げたカノンが歩み寄ってくる。

 

「モモタロウの両腕と陣羽織になってるパーツ――私たちが初めて見た時はそれぞれ猿、犬、雉の姿をしたロボットだったんだけど――それが鬼とルミエイラ、あと途中で乱入してきたカイザーの戦いに割り込んで、私たちに協力してくれたんだよ」

「カイザーって、あの髑髏の特機か?」

「そう。で、お蔭で鬼とルミエイラを全部倒して、カイザーのパイロットともどうにか話をつけて、帰り際に聞いた話じゃ避難誘導を円滑に進める一因にもなってたそうで、一応みんな丸く収めることができたんだけど……」

 

 虎次郎の疑問に答えながら事情を説明すると、カノンは再びモモタロウに顔を向ける。

 

「その後みんなで第四分隊と合流して、主人みたいな白い人型ロボットと合体してモモタロウになって、将鬼っていうの?空飛ぶ鬼を倒してくれたんだけどね…………まさかこんなことになるなんてね……」

 

 説明を続けながら、カノンはバツが悪い顔をする。虎次郎は知らないことだが、自分の趣味ど真ん中の光景――合体やら、スーパーロボットらしいダイナミックな戦い方やら――を見てはしゃいだ直後にこのようなことになってしまい、カノン自身少しだけ気まずさを覚えているのだ。

 モモタロウの足元で繰り広げられている光景が、その気持ちに拍車をかける。

 

「モモちゃん、目を開けて……答えてよ……せっかく会えたのに……ひどいよ」

「アカネ、あのバカなら大丈夫よ……必ず目を覚ますわ」

 

 沈黙を返すだけのモモタロウに涙ながらに呼びかけるアカネ、それを姉のノゾミが支えながら立ち去る姿に、虎次郎も胸を痛める。

 

(痛々しくて見てらんねぇ……)

「アカネさん……大丈夫かな……?」

「お前も心配してくれんのか?」

「アカネさんにはさっきお世話になったからね……」

 

 虎次郎の問いに、カノンは出撃前に受けた検査、その案内をアカネにしてもらったことを思い出しながら答える。

 その時、

 

「カノちん、ここにいたんだ」

「フィルち?」

 

突然名前を呼ばれたカノンは辺りを見回し、自分の許に駆け寄ってくるフィルシアを見つける。

 

「どうしたの?IAD組はヴェーガスごと地上の格納庫じゃ?」

「カイザーのパイロットの尋問やるっていうからついてきたんだけどさ、カノちん呼んできてくれって」

「なんでそこで私?」

「同じ様な境遇の人がいれば向こうも安心するかもしれないって。とにかく一緒に来てよ」

「……けっこう気の強そうな人だったから、あんま効果は期待できない気がするけど……わかった」

「ちょっと待って」

 

 フィルシアの説明にカノンが応じるや、2人の許にアリスが歩み寄ってくる。

 

「特機のパイロットの尋問をやるなら、私も加えてもらえないかしら?ヴァルキリーズで彼と最初に接触したのは私たち第三分隊だしね」

「うーん……そういうのはアインに訊いてもらわないとわからないけど……ま、とりあえず一緒に来てよ」

「わかったわ……それと虎、この後してた約束だけど……」

「ん?……あぁ、飯食い行こうってやつか?今から尋問するってんなら、流石にもう無理だよな。そうでなくてもアリスは分隊長なんだから、報告書とか書かなきゃいけないし、俺もモモタロウどうにかしなきゃいけないし」

「えぇ……」

 

 虎次郎の返事に、アリスは浮かない顔になる。

 

「ま、お互い仕事なんだし、仕方ねぇよ。それに飯なら、時間が合えば食堂で一緒に食えばいいだろう?」

「いや、虎、私2人のこと知らないからはっきりとは言えないけど……そういう問題じゃないと思うよ?」

 

 それが虎次郎なりの気遣いなのだと理解しつつも、カノンは半ば呆れながら指摘し、アリスは悲しそうな顔を俯ける。フィルシアに至ってはやれやれと言わんばかりに肩をすくめ、両手を挙げて首を横に振っている。

 

「……まぁいいや。とりあえず私行くから」

「おう。ご苦労さん」

 

 気まずい雰囲気から逃げることも兼ねてカノンは隣の格納庫へ向かい、フィルシアとアリスもそれについていくと、虎次郎は3人の背中に呼びかけて再度モモタロウに顔を向ける。

 

「なあ、あんた……早く目を覚ませよ……あの2人、特にアカネはなあんたが生きてることを信じて4年間過ごしてきたんだからな」

 

 そう言ってモモタロウをどうするか悩んでいると、隔壁が開いて整備ハンガーにギリギリ入るか入らないかくらいのトレーラーが搬入されてくる。

 それが静かに止まると、扉から赤い髪に白いコートを着た少年が1人降りてくる。

 

「ん、なんだお前?此所はアブね……」

「……モモタロウの整備はオレに任せてくれるかな?」

 

 注意しようとする虎次郎に短く返すと、少年はコートから見たことのない端末を取り出す。

 それを作動させると何もない空間に無数の画面が浮かび、その中をさまざまな文字が流れていく。同時にトレーラーの後部コンテナからアームが伸びてモモタロウの体を引き上げ、さらに大小複数のアームが伸びると陣羽織の雉、左腕の猿、右腕の犬を外し、モモタロウの合体解除シークエンスを行っていく。

 

「……各部の損傷の自己修復40%、意識レベルは…………じいちゃんに聞かないとダメか」

「すっげえなあ、なあこの端末は何なんだ?見た事ない型だけど」

 

 見たことのない機器に技術者としての好奇心を刺激されたのか、虎次郎が横から顔を寄せてくる。

 

「……興味あるのか?」

「ああ!もちろんだとも……でさ少し貸してくんない?」

「いいけど……」

「サンキュー……なるほど此所をこうすると……すげえ!戦機人のアナライズも出来るのか!!」

 

 消極的ながらもとりあえず受け答えしてくれる少年に手渡された端末を操作すると、さまざまなデータが表示され、思わず感嘆の声を上げる。

 

(正直、俺たちが使う端末より性能がいいな……)「ほしいなコレ……」

「……あと1つあるからやろうか?」

「マジで!サンキュー!!ってお前誰?」

「…………オレは新田飛鳥だ」

「んじゃ俺も、此所ヴァルキリーズ極東支部整備主任を担当している城田虎次郎ってんだ、よろしくな飛鳥!」

「あ、ああ……よろしく」

 

 虎次郎が差し出した手を、少年――飛鳥は恐る恐るだが握り返して握手を交わす。

 それからいろいろと話をしていくうちに、虎次郎は飛鳥が著名人・新田源三の孫であること、自分と同じくらいメカに詳しいことを知り、先ほどまでの陰鬱な空気を吹き飛ばす勢いで盛り上がった。

 

 

 

 

 同じ頃、隣の格納庫は打って変わって重苦しい雰囲気に包まれていた。

 悪戦苦闘の末にようやく整備ハンガーに固定させることができた髑髏の特機――マジンカイザーSKLの足元に集まった連邦軍人たち――ヴェーガス砲術士アイン・ドック中佐、同通信士リン・スメラギ大尉、同機関士シンジ・アンカー大尉――の顔は一様に緊張で強張り、離れた位置からその光景を眺めているヴァルキリーズ所属の女性整備士たちも皆心なしか腰が引けている。付け加えるなら、リンとシンジの肩にはそれぞれヴェーガスから持ってきたアサルトライフルが提げられている。

 そんな中、フィルシアに連れられたカノンとアリスがアインたちの許にやって来る。

 

「アイン、連れてきたよ」

「ん。ご苦労さん……そちらは?」

 

 フィルシアに応じつつ、アインは想定外の人物たるアリスを見やる。

 

「当支部第三分隊隊長のアリス・神山・ティグリスです。私もヴァルキリーズ代表として尋問に立ち会いたいのですが」

 

 すぐに姿勢を正して自己紹介しつつ、アリスはこの場にいる軍側のまとめ役と思しきアインに要件を述べる。

 

「ヴァルキリーズが?」

 

怪訝な顔をするアインに、アリスはさらに続ける。

 

「我々もこの特機と遭遇し、成り行きとはいえ戦闘に参加しました。その場で指揮を執っていた者として、パイロットの事情確認はしておきたいと思いまして」

「……そういうことなら……了解した」

「ありがとうございます」

 

 思案の後に承諾したアインに、アリスは頭を下げる。

 その時、カイザー頭頂部の髑髏のオフジェ――カノンによると「スカルパイルダー」――が外れて浮き上がり、下顎が左右に開いて翼を形成すると、小型の垂直離着陸機となったそれが一行の許に降りてくる。

 

「いよいよだな……各自警戒を厳に」

「「了解」」

 

 着陸したパイルダーに向ける眼差しを鋭くしたアインの指示に、リンとシンジは一層警戒を強めながら各々アサルトライフルを構える。

 両手でしっかりと保持しているにも関わらず、遠目にも銃身が小刻みに震えて見える様子に、カノンはフィルシアの耳元に問う。

 

「もしかしてあの2人、銃使うの初めて?」

「初めてかどうかはわからないけど……アポカリプス――特隊に合流する前のヴェーガス隊に付けられるはずの名前だったんだけど、そこはもともと対ゴースト部隊で、こういうシチュエーションにはみんな慣れてないからさ」

「そういうこと」

 

 と、カノンが納得する間にも頭蓋骨を模したキャノピーが上がり、パイルダーからカイザーのパイロット――ナガイ・ゴウトが出てくる。

 周囲を見回して自分に2つの銃口が向けられていることを確認するが、当のナガイは表情一つ変えことはない。

 

(ま、来る途中の様子からして、予想はできてたけどな……)

 

 気が短いところがあるナガイだが、決して考え無しというわけではない。突然の転移から数時間、自分が現れた場所やここに来るまでに見た光景から、この世界が前にいた世界よりも自分が元いた世界に近いことは察しがついていた。理由がどうであろうと、一応の共闘を行おうと、そんな世界で出会い頭に巨大ロボットに乗って暴れればいい印象を持たれるわけもなく、銃くらいは向けられるだろう。

 そんな冷たい納得をしながら、自分も彼らに抱いている警戒心を自覚しつつ、元来険しい人相を仏頂面にしてアインへ向ける。

 

「あんたがここのメンバーのリーダーってことでいいのか?オッサン」

「そうだ。地球連邦軍非常事態特殊対策部隊のアイン・ドック中佐だ……それにしても開口一番に『オッサン』とは、随分ご挨拶だな。御年40の身としては否定できないのが悔しいところだが」

「悪りぃな。育ちはあんまよくなくてよ」

 

 率直な印象を声に出すナガイ、それにアインが敢えて軽口で応じると、半ば自虐的に返しながらパイルダーを降りて床に降り立つ。それに合わせて2つの銃口が向きを変え、パイルダーに乗っている時と変わらず胸周りに合わせられるが、ナガイは気にせず話を続ける。

 

「それで?言われた通りついてきてやったが、これから俺をどうしようってんだ?」

「まず君について教えて欲しい。君が何者なのか、何処からどういった経緯で来たのか、何故戦闘に介入しいたのか、その他いろいろとな。部屋を用意したので案内する。ついてきて欲しい」

「要するに尋問かよ……」

 

 予想していたアインの返答に、ナガイは辟易と漏らす。

 その時、アインの脇からカノンが躍り出てくる。

 

「えっと、ナガイさんだよね?さっきも言ったけど、言う通りにした方がいいよ。非特隊の人たちはいい人たちだし、素直に協力すればナガイさんの力にもなってくれると思うし」

「その声……あのマントロボの奴か。俺の力ってぇと、こっちでの働き口でも紹介してくれるってか?」

 

 この場で唯一自分と同じ境遇――異世界から迷い込んだ者であるカノンの勧めに、ナガイは思い付いたことを言ってみる。

 

「そんなとこ。私もまだ手続き中だけど、帰るまでこっちで暮らせるようにいろいろ手配してもらってる」

「そうかよ…………ま、背に腹は代えられねぇか。わかった。部屋に案内してくれ」

「協力に感謝する」

 

 カノンの返答に、ナガイは渋々自分を納得させ、短く応じたアインの後をついていく。

 その後をナガイの背中に銃を合わせたリンとシンジが、その後ろをカノン、フィルシア、アリスがついていく。

 

「そういえばさ、日本ではこういうシチュエーションだと、相手にカツ丼食べさせるんだっけ?」

「それたぶん刑事ドラマの中だけだと思うよ?この世界ではどうか知らないけど」

「こっちでもドラマの中だけよ」

 

 冗談とも本気ともつかないフィルシアにカノンが自信なさ気に返す横で、アリスが律儀に説明してくれる。

 

 

 

 

 その頃、極東支部執務室では、リトスと源三が面談していた。

 

「久しぶりじゃのリトス君、ああ今はヴァルキリーズ極東支部司令じゃったかの?」

「せ、先生……」

 

 学生時代の恩師の笑顔に、リトスは旧友たち――新田シンヤ、マリー、叶カズヤ、ホムラ、ユン、J――の顔を思い出しながら、自然に頬が緩んだ。

 

「リトス君には早く連絡を寄越そうとしたんじゃがなかなかできなくて本当にすまんの」

「い、いえ……それよりもこのデータに記載されているのは間違いないんですか?だとしたら鬼は……」

 

 再会の喜びも束の間、目の前の巨大スクリーンに映し出された鬼の肉声と、地球人の声紋パターン・言語データを見て訊ねるリトスに、源三は静かに頷く。

 

「うむ、リトス君の予想通りじゃ……鬼達の拠点を破壊した際得られた制御端末らしきものから取り出せたデータから奇跡的に肉声が入ったデータをサルベージすることに成功したんじゃ聞いてみるかのリトス君?」

 

 リトスが頷くと、源三は手元の端末を操作し、問題のサルベージした音声が流れる。

 

『……ルガス……テラン……ヌコデム……ウラ……シンサス……ハイキス…………テラン………………ムモムモツアロー……ハクニン……』

 

 スピーカーから響く声に、2人はしばし聞き入った。

 

「……先生、鬼達は……いえ彼等は何が目的で地球に現れたのですか……」

「わからん、ただひとつわかるのは彼等は何か焦っている……」

「焦り?」

「そうとしか思えない行動を4年前の侵攻が始まった時から感じるわい……その焦りの原因、それさえわかれば何かしら対策は出きるかもしれん……引き続きワシは回収した端末の解析を進めるとしよう……あとリトス君……ひとつ頼みを聞いてくれんかの?」

 

 真剣な眼差しを向ける源三の頼みを、リトスはすぐに了承する。

 返答を聞いた源三は笑顔を浮かべ、整備ハンガーに収容されたモモタロウに関する打ち合わせが行われた。

 

 

 

 

 しばらく飛んで委員会基地に着陸したレイディバード、そこから降りた光秋とライカは、コンクリートの大地に立って周囲を見回してみる。

 周辺には格納庫や宿舎、倉庫などになっている建屋が並び、中心部に佇むひと際背の高いビルは司令部だろう。先ほどの報告を受けてか、いつもこうなのかはわからないが、敷地の外縁部には主戦力たるHMMAS・ロトスやPD・アンタレスが一定間隔に並び、人がそうする様に首を左右に振ってどこまでも広がる荒地に目を光らせている。

 

「……さながら、陸の孤島ですね。数キロ四方のコンクリートの上に肩寄せ合って」

 

 周囲の状況に光秋は素直な感想を漏らすものの、傍らのライカが応じる様子はない。

 ライカはライカで、外周警戒を行っている機体の中の1機に釘づけになっていた。

 

(あの四脚機は…………)

「……ミヤシロさん?」

「!……すみません。なにか?」

「いや、さっきからどうしたのかと……」

 

 ハッとするライカに応じつつ、光秋は視線を追ってライカが眺めていた機体に目を向ける。

 全長は10メートル少々といったところか。人型の上半身を4本脚の下半身に載せた赤いケンタウルスといった趣のソレは、右手にHMMAS用の大型マシンガンを持ち、左腕はレールガンと一体化、肩と背中にミサイルポッドと思しきケースを備えた、見るからに火力重視型だ。

 

「……見たところ、アレだけ他の機体と形が違いますね。委員会が雇った傭兵か……?」

 

 周囲を見回して同型機がいないことを確認しながら、光秋は首を傾げる。

 その疑問に答える様に、ライカが口を開く。

 

「大陸を拠点に活動する傭兵――マイケル・ジョンソンの乗機、デストロイアですね。御覧の通りの重装備による飽和攻撃で敵を殲滅するパワータイプで、総火力は昼間のタナトスをも上回るとか。その分重量が増して機動性がガタ落ちし、大量に積んだ装備の反動制御を行いやすくする為に四脚を採用したといわれていますが。パイロットのジョンソン氏は長年大陸で傭兵を営んでいるベテランで、実力こそ『死神』や『騎士』には劣りますが、積み重ねた実績、それによって築いた信頼性から、今でも一定数の依頼が舞い込んでくるそうです。知る人ぞ知る、というやつかもしれません」

「……詳しいですね?」

 

 機体の特徴だけでなく、パイロットの略歴まですらすらと述べるライカに、光秋はただ感心するばかりだ。

 

「……ちょっと、気になることがあったもので」

 

 そう手短に答えるライカの脳裏には、大陸遠征の際、自分が乗っていたガーリオン・カスタムの腕を吹き飛ばした赤い四脚機――目の前のデストロイアの姿が過る。

 あの後奇跡的に生還したライカであったが、九死に一生を得たことをただ喜んでいたわけではない。強敵を前にして生き残った以上、牙を砥ぐことを――対峙した相手を調べて対策を練ることを怠ってはいなかった。名が売れているタナトスやアリシオンと違って、最後に目撃したデストロイアだけはすぐにはわからなかったものの、それでも北欧方面軍時代に暇を見つけては根気よく調べていった結果、いろいろとわかることはあった。今光秋に語って聞かせたのは、そうした調査結果をライカなりにまとめた結果だ。

 

「要するに、射撃武器が多くて、パイロットは経験豊富なベテランと?」

「そう解釈してもらってかまいません」

「なるほど……」

 

 ライカの返答に、光秋は顎を撫でて思案顔を浮かべる。

 しかしそれも束の間、すぐに手を下ろす。

 

「いけない、少しのんびりし過ぎましたね。早いとこここの司令に挨拶してきますか」

「はい」

 

 短く応じると、ライカは光秋の後を追って基地中央に建つビルへ向かう。 

 

 

 

 

 夕日に照らされて赤く染まる空と海、その中にあってもひと際赤色を映えさせる巨大な人型ロボットが、どこまでも続く大海原上空を真っ直ぐに飛んでいく。

 そのロボット――新ゲッター1のコクピットに収まるイシカワ・ケンジは、左手に夕日を眺めながら内心焦っていた。

 

「たくよー、訳わかんねぇ連中撒いて、荒地が終わったと思ったらずっと海じゃねぇか。いつんなったら他の陸地に着くんだよー……?」

 

 かれこれ数時間。変わることのないモニター越しの景色に愚痴を溢しながら、沈みゆく太陽を見つつ落ち着かない様子で足を上下させる。

 

(……引き返すか?だが、またあの黒いのと白いチビ、あと灰色の奴に鉢合うのもなぁ……)

 

 顔を後ろに向けながら、その先にいるであろう数時間前になし崩し的に交戦した黒と白、灰色のロボットを思い浮かべ、眉間に皺を寄せる。

 

「にしても、あの灰色のロボットはどっかで見た気がするんだよなぁ……どこだっけなぁ……」

 

 数種類のロボットたちと交戦したイシカワだが、その中で唯一初めて見た感じがしない灰色の機体の記憶を探ろうと頭を捻るものの、手がかりになりそうなものは浮かんでこない。

 その時、前方から3つの影が近づいてくる。

 

「何だありゃ――いや、アレもどっかで見たような……」

 

 航空機に手足が付いた様な青い細身の機影に、イシカワは灰色のロボットの時の様な既視感を覚える。

 直後、青い機体から通信が入る。

 

『接近中の所属不明機に告げる。こちらは地球連邦軍東南アジア方面軍である。貴官の所属と飛行目的を明らかにせよ』

(またこういう手合いかよ……)

 

 スピーカーから流れる勧告に数時間前にも似た様なことを言った奴――当人曰く「白い犬」――のことを思い出して渋い顔を浮かべながら、イシカワはペダルに足を掛ける。

 

(構うのも面倒臭ぇ。このままトンズラさせてもらうぜ)

 

 心中に呟くやペダルを深く踏み、ゲッターの速度を上げて3機の上を行き過ぎようとする。

 もっとも3機のパイロットたちからすれば、それは得体の知れない存在――外見的特徴でいえば空飛ぶ赤鬼が突進してくるようにしか見えない。

 

『う、うわぁ!』

『バ、バカ者!』

 

 中央を飛ぶ隊長機が止める間もなく、恐怖に耐えきれなくなった左翼機が左手のレールガンを発砲する。

 

「チッ」

 

 舌打ち混じりにレバーを振ると、イシカワは55メートルの巨体に似合わない小回りでそれを躱してみせる。

 が、恐慌状態に陥った左翼機の発砲は止むことがなく、遂に右手からミサイルを発射する。

 

「だー!ウザッテェーッ!」

 

 叫びつつ、迫ってくるミサイルを左腕を盾にして受け流すや、イシカワは右手に肩から出したゲッタートマホークを握らせ、すれ違いざまに左翼機の左腕を肩の付け根から斬り落とす。

 

「それで言い訳つくだろう?とっとと()ぇれッ!」

 

 吐き捨てるや、さらに速度を上げて3機から離脱する。

 

『隊長!追いましょう!』

『ダメだ。今のまま追撃しても墜とされるだけだ。えぇい!パトロール帰りの遭遇戦でなければ……』

 

 急かす右翼機を止めながらも苦虫を噛む隊長機、その声を通信に聞きながら、イシカワは鼻を鳴らす。

 

「へっ。リオンみてぇなヤラレメカが、ゲッターに敵うわけねぇだろう……リオン?」

 

 無意識に口を突いて出た単語に、イシカワは我がことながら動揺する。

 刹那、記憶の一部を覆っていた靄が一気に晴れていく。

 

「そうだ!ありゃリオンだ!アーマードモジュール・リオン!……待てよ……」

 

 青い航空機モドキのロボット――リオンの名を呟きながら、灰色のロボットが脳裏を過る。

 

「……俺が知ってるのと微妙に形は違うが…………そうだ、ありゃゲシュペンストじゃねぇか!パーソナルトルパー・ゲシュペンスト。細けぇ型まではわからなかったが……で?俺はそういった情報を何処で知ったんだ?…………クソッ。肝心な部分が思い出せねぇ」

 

 未だ靄が残っている記憶に唾棄する一方、イシカワは先ほど交戦したパイロットが言っていたことを思い出す。

 

(そういやあのリオン、東南アジア方面軍って……てことは、ここは俺が元いた世界に近いってことか?だとしたら……)

 

 得られた情報とそこからの推測をまとめながら、赤く染まる地平線の彼方を眺める。

 

(真っ直ぐ行きゃあ、この世界の日本にたどり着くってことか……)「よっしゃあ!ひとまず日本に向かうかっ!」

 

 知らない場所をうろついているよりまマシといわんばかりに断じると、イシカワはトマホークを肩にしまい、当面の目的地を定めた乗り手の心境を引き写した様に、ゲッターは軽い足取りで前進を再開する。

 

 

 

 

 格納庫から歩くこと数分。

 個室に通されたナガイはパイプイスに腰かけ、テーブルを挟んで座るアイン、その後ろに佇むアリスと向かい合う。同道したカノンとフィルシアは部屋の隅に佇み、壁に背中を預けて見物を決め込んでいる。ちなみにカツ丼はない。

 

「では早速、君の簡単な自己紹介を――」

「その前に、そろそろ銃下ろしてくれてもいいだろう?ここまで来たら逃げも隠れもしねぇよ」

 

 アインの言葉を遮るや、ナガイは傍らでアサルトライフルを向け続けるリンとシンジを見やる。

 

「そうだな。失礼した。2人とも、銃を下ろせ」

「しかし……」

 

 アインの指示にリンが静かに従う一方、シンジは不安そうな目をナガイに向けながら食い下がる。

 

「彼は我々に協力的な態度を示した。こちらもある程度は応えなければならん。もう一度言う。銃を下ろせ」

「……了解」

 

 再度の指示にシンジが渋々銃を下ろしたのを確認すると、アインはナガイへの尋問を再開する。簡単な自己紹介の要求。どうやってこの世界に来たのか。何故出現してすぐに戦闘に介入したのか。

 それらに対して、ナガイは記憶の一部が曖昧であると前置きして淡々と答えていく。ナガイ・ゴウト、20歳。前にいた世界から職業や所属といえるものはなく、強いていうならカイザーを足にした旅人の様なことをしていた。この世界にい来た経緯は曖昧なものの、空に空いた大きな赤い穴に吸い込まれ、気づいたら転移先の街中にいた。戦闘に介入したのは鬼とルミエイラが攻撃してきたからで、戦い始めてからのことは無我夢中でよく覚えていない。

 

「……一応訊くが、転移した直後に頭痛を感じなかったか?」

「あぁ。頭が割れるかと思ったぜ」

 

 午前中に上がってきた報告を思い出して問うアインに、ナガイはその時のことを思い返してか痛々し気に顔を歪める。

 

「私と一緒だね。記憶が曖昧っていうのも、やっぱり時空崩壊を通ってきたからかな?」

 

 それを聞いて、カノンは自分自身のことも振り返りながら推測を述べる。

 と、

 

「私からもいいかしら?」

 

それまでアインの後ろで黙って問答を聞いていたアリスが、ナガイに探る目を向けながらテーブルに歩み寄ってくる。

 

「さっき、相手が攻撃してきたから戦闘に介入したと言ってたけど、貴方自身にこの世界の勢力……連邦軍とか、私たちヴァルキリーズとか、そういうものと敵対する意思はあるのかしら?」

(……この女、俺を戦闘狂かなんかと思ってやがんな……ま、初対面がアレじゃ仕方ねぇのかもしれねぇが……)

 

 再び冷たい納得をしながら、ナガイはアリスの目を見て答える。

 その所為でアリスは鋭い眼光を直視することになってしまい若干腰が引けるが、ナガイは構わず口を開く。

 

「一つ言っておくが、俺は戦闘狂とかそういう類じゃねぇ。仕掛けてきた分には容赦無く潰すが、少なくとも俺の方から何かしようって気はさらさらない。この世界の軍隊にケンカ吹っかけたところで一文の得にもならねぇしな」

「……そう。それならいいわ。ありがとう」

 

 一応答えてくれたことへの礼を言うと、アリスは元の位置に戻る。

 

「ま、カイザーとガチでやり合えるようなロボット持ってる軍隊がいるなら、俺がこの世界でカイザーに乗って騒ぐのもアレが最後かもな」(それならそれでありがてぇんだが……)

 

 シルフィードと白にカイザーを転倒させられた時のことを思い出しながら呟くと、ナガイはちょっとは楽ができるのではないかと少しだけ期待する。

 しかし、

 

「最後に、戦闘行為に介入した君の処分だが……」

(やっぱこうなるかよ……)

 

続くアインの言葉に、薄々予想していたナガイは心中に嘆息を漏らす。

 

「自衛の為というのは理解したが、やはり然るべき立場にない者が戦闘に介入したのは問題だ。付け加えるなら、意図したものでないにしろ、君の所為で我が部隊の隊員たち、そしてヴァルキリーズの方々が余計な危険にさらされ、周囲にも少なからず被害が出た。異世界人に我々の理屈を当てはめていいかどうかは迷うところだが、敢えて当てはめるなら、この責任はとるべきだろう」

「責任っつたってなぁ……」

 

 アインの言うことをある程度理解しつつも、具体的に何をしたらいいかわからないナガイは頬杖を突き、逃避したい気持ちを表すように明後日の方を見る。

 

「そこでだ。君、連邦軍に――厳密には我々非特隊に入らないか?」

「……結局そうなんのかよ…………」

 

 続いて出たアインの――聞き手によっては典型的な――提案に、ナガイは辟易とした気持ちを隠すことなく顔を歪める。

 

「正直に話せば、君の機体と、君自身の操縦技術は我々としても是非欲しいところだ。それに入隊してくれれば、戦闘介入の件についてある程度擁護することもできる。加えて、尋問前に君が気にしていた働き口にもなるだろう」

「そーだけどよー……要は協力しなきゃ豚小屋行きってことだろう?」

「どうとってもらっても構わん。それに強制する気もない。入る意思がないのならば、我々もできる範囲で君がこの世界にいる間の支援をさせてもらおう。こちらも保護した責任があるからな。最終判断は君自身が下してくれ」

「……」

 

 表裏のない様子で続けるアインに、ナガイはそっぽを向いたまま無言を返す。

 

「突然のことだ。すぐに返事をしなくてもいい。明日の今頃までゆっくり考えてくれ。非特隊としては以上だが、ティグリス分隊長からは?」

「私からも特には。ただ彼の処遇についてですが、一応司令にも報告させていただくので、ヴァルキリーズとしての正式な回答はしばしお待ちください」

 

 振り返ってアリスの返答を聞くと、アインは再びナガイを見る。

 

「承知した。それとナガイ君、念の為この後検査を受けてくれ」

「検査だと?」

「この世界に出現した際、頭痛がしたと言ったな。それに記憶が曖昧とも。万一に備えて、他に異常がないか確認して欲しい」

「ふんっ、まさか別の世界に来て健康を気遣われるとは思わなかったぜ」

 

 皮肉とも感心ともつかない様子で返すと、ナガイは席から立ち上がる。

 

「で?検査って何処行きゃいいんだ?」

「あ、私が案内するよ。さっきも行ったしね」

 

 名乗りを上げるカノンに、アインは室内を見回す。

 

「なら、フィルシアとシンジもついていってくれ。()()()な」

「りょーかい!」

「了解」

 

 それぞれ応じると、カノンを先頭にナガイ、フィルシア、シンジは部屋を出ていく。

 カノンの先導で検査へ向かう道中、フィルシアが好奇心の目でナガイに歩み寄る。

 

「それでナガイさん、さっきの話どうするつもり?」

「……何のことだ?」

「非特隊に入るか入らないかって話。実際に対峙してみた人間としては、入ってくれるとすっごい助かりそうだけどねぇ。カノちんもそう思うでしょ?」

「だねぇ。今んとこ、戦力はリアル系ばっかだから。シルフィードとかユニコーンとかニコイチとか、あと私のアトランティアとか、一部微妙なのはあるけどさぁ。この辺でゴリゴリのスーパー系が1機でも入ってくれると、一緒に戦う上ではありがたいかも」

「……なんだよその『リアル系』とか『スーパー系』って……いや、俺も何でだか聞き覚えはあるが……」

 

 カノンの独特の表現に、ナガイは眉間に皺を寄せる。

 

「一つ言っておくが、俺は戦うことに関しちゃ他人の都合なんざ考えねぇぞ。『戦いたいから戦う』、それが俺とカイザーだ。お前らが助かるとかどうとか知ったこっちゃねぇ。さっき助けられた借りもちゃんと返したしな」

「うわぁ、戦闘中もちらっと思ったけど、そんな台詞が素で似合う人だからすごいよ」

「でもそう言ったって、入らないとなるとこっちでどうやって生活していくの?それとも、元の世界に戻れるアテでもあるの?」

「…………」

 

 カノンが素直な感想を漏らす横で痛いところを突いてくるフィルシアに、ナガイは渋顔を作って無言を返した。

 

 

 

 

 日がすっかり落ち、辺り一帯が暗闇に包まれた頃。

 基地司令との挨拶を終えた光秋とライカは、レイディバードに戻るや、真っ直ぐ運転席へ向かう。

 

「今戻りました。どうです?日本の本隊と連絡つきましたか?」

「大尉……いいえ。ダメですね。無線はうんともすんともいいません」

「……やはりですか」

 

 光秋の問いに操縦士はお手上げといった様子で応じ、予想通りの展開にライカは小さく呟く。

 

「『大陸特有の磁気嵐』。話には聞いてたけど、実際体験してみるとけっこう厄介ね」

「……メイシール少佐」

 

 唐突に加わった4人目の声にライカは振り返ると、板チョコをかじったメイシールがドアの隙間に佇んでいる。

 

「確か、最初の時空崩壊が起こって以降、大陸上空に恒久的に発生するようになったんですよね。その所為で大陸上空の高高度飛行が難しくなって、今みたいに長距離の通信も繋がり難くなって」

「だから機械的な監視も難しくなり、それを利用したテロリストの駆け込み、それに伴う革命者の結成、さらにはDCが居城する理由にもなった」

 

 メイシールが出した磁気嵐の話題に、光秋は現状確認ついでに概要を語り、ライカもそれに続く。

 

「そういうことね。それで?加藤大尉。これからどうするの?」

「とりあえず、レイディバードの補給は取り付けました。明日の朝には出発できるでしょう。肝心の視察対象が消えてしまった以上、いつまでもいても仕方ないし、あの赤い特機の報告もしなければなりませんしね」

「……つまり、今夜は機内に泊まるってことね」

「そうなりますね。基地の宿舎は空きがないようですし」

 

 置かれた状況を簡潔にまとめるメイシールに、光秋は首肯を返す。

 

「大尉、意見具申です」

「なにか?」

 

 言いながら手を挙げるライカに、光秋は顔を向ける。

 

「今夜の見張り、我々も独自に行うべきかと」

「というと?」

「司令部への行き来の際に監視態勢を視ましたが……委員会への失礼を承知で言えば、その多くが見ていて頼りないものでした。機体越しにも注意力散漫が見え見えで。あれではどんなに数を並べたとしても、危険を見逃し、気づいた時には致命的な距離まで近づかれている可能性が高いかと」

「だから、こっちはこっちで見張ろうと?」

「はい」

 

 確認する光秋に、ライカははっきりと頷く。

 

「…………百戦錬磨のミヤシロさんがそう言うなら、そうなのかもしれませんね。委員会にどう言うか少し困るところはあるけど……わかりました。僕が先に出て、12時に交代しましょう。ミヤシロさんはその間休んでてください。クリスタス少佐はシュルフツェンのチェックお願いします」

「了解」

「わかったわ」

 

 しばしの思案の後に決断し、指示を出すと、光秋はキャビンを通って格納庫へ向かう。

 

「……!」

 

 それを見て何かを思い出すや、ライカはキャビンに置いてある鞄に手を突っ込み、取り出した物を持って光秋の後を追う。

 

「加藤大尉!」

 

 格納庫に出るなり呼びかけると、ちょうど何処からかニコイチを出現させた光秋が振り返る。

 

「ミヤシロさん?何か?」

 

 問われる間に歩み寄ると、ライカは光秋に鞄から出した愛用の栄養ドリンクを渡す。

 

「まだ疲れが取れていなかったようなので。よかったら」

「ありがとうございます」

「それと……」

「?」

 

 光秋が受け取ったドリンクの瓶を見ながら礼を言うや、ライカは周囲――特にキャビンを警戒しながら顔を寄せ、光秋も左耳を向ける。

 

「少佐にシュルフツェンのチェックを頼んでいましたが、封印の件、大丈夫でしょうか?今のところバレていないようですが?」

「一応カモフラージュは厳重にしてもらいましたからね。少佐といえど、『CeAFoS』に注視して調べないとまずわからないとは思いますが……仮に今バレたとしても、流石の少佐も大陸(ここ)じゃ何もできないでしょう。少なくとも帰るまでは現状維持で行けますよ」

「……だといいのですが」

「考えても仕方ない、もともと思い付いた時点で危ない橋なんだ。ここまで来たら、僕等の運が続くのを信じましょう」

「……そうですね」(あるいは、それしかないですね)

 

 ライカが含んだ返答をすると、光秋はワイヤーを伝ってニコイチに乗り込み、左膝を着いていた機体を立ち上がらせると後部ハッチから出ていく。

 それを見送ったライカはキャビンに戻り、膝の上のノート端末を操作しているメイシールと向かい合う様に腰を下ろす。

 

「男の見送りなんて、随分マメじゃないの?」

「私と大尉はそんな関係じゃありません。変な言い方は慎んでください」

「あ、そっ……」

 

 心なしか怒りを含んだライカの返しに素っ気なく応じると、メイシールは端末を鞄にしまって席を立つ。

 

「大尉の頼み通り、私はシュルフツェンのチェックをしてくるわ。貴女にはいざという時頑張ってもらわないといけないんだから、しっかり休んでちょうだい」

 

 言うとメイシールは鞄を提げ、返事を待たずに格納庫へ向かう。

 

(言われなくてもそうします……)

 

 その背中に心の中で返すと、ライカは携帯端末の目覚ましをセットし、靴を脱いで座席に横たわる。

 

(とりあえず、一人にしてくれたのはありがたいですね。お蔭でゆっくり寝られます)

 

 理由はどうあれ、もともと苦手意識の強いメイシールと2人きりになるという状況を回避できたことに感謝すると、ライカは眠りの世界に落ちていった。

 

 

 

 

 横浜での一件の事後処理を一通り終えたエリックは、自室の椅子の背もたれに疲労が溜まった体を預けたのも束の間、事前に受けていた連絡に従って伊豆基地に回線を繋ぐ。

 

「非特隊所属、ヴェーガス艦長のエリック・ノヴァ大佐だ。ランドルフ司令に取り次いでもらいたい」

『了解』

 

 おそらく手筈を聞いていたのであろう通信士が短く応じると、手許の端末の画面に白いものが目立つ老人が映し出される。

 それを確認するや、エリックは座っている姿勢を正して画面越しに相手の目を見る。

 

「本日付で非特隊に合流しました、ヴェーガス艦長エリック・ノヴァ大佐であります」

『伊豆基地司令のレイカー・ランドルフ中将だ。ノヴァ大佐、まずは合流早々のゴーストと鬼の鎮圧ご苦労だった』

「いえ……」

 

 好々爺然とした顔で労いの言葉をかけるレイカーとは対照的に、エリックは知らぬ間に肩を強張らせる。

 

『さて、その鬼……実際にはルミエイラを合わせた部隊との交戦における人員運用についてだが……』

(……来るな)

 

 本題に入ろうとするレイカーに生唾を飲みながら、エリックは数時間前に通信越しに交わしたカノンとの会話を思い出す。

 

(鬼相手に出し惜しみなどできず、使えるものは何でも使った方がいいとう判断をしたことに後悔はない。ルミエイラの増援も考えれば、結果的に正しい判断だったのだからな…………ただ、それと手続き上民間人扱いの人間を戦場に立たせたことは別だな。『責任は俺がとる』とは言ったものの……合流早々に更迭か…………)

 

 心の中で嘆息を漏らしながら、レイカーの一言を待つ。

 

『非特隊への協力を申し出てきたという少女、その手続きに関する書類が昼間送られてきたのだが、どうも不備があったようでな。早急に再発行してほしい』

「……はぁ?あ!いえ……失礼しました」

 

 一瞬何を言われたわからず、つい素っとん狂な声を上げるが、すぐに謝罪して状況を確認する。

 

(どうなっている?書類はまだ作成中だぞ?そもそも今日伊豆に何かを送った覚えも、報告も来ていない。さっきまで事後処理にいっぱいいっぱいでそれどころじゃなかったしな…………となると、司令はいったい何を言って…………)

『ノヴァ大佐』

「!……はっ」

 

 レイカーの声に現実に戻されると、エリックは改めて画面を見据える。

 

『大丈夫か?』

「……はい」

『ならいい。()()()した書類だが、また何かあるといけないので私の許に直接持ってくるように。いいな』

「……了解」

 

 穏やかな表情とは裏腹に有無をいわせない強い語調で語るレイカー、その独特の気迫に()てられそうになりながら、エリックは首肯を返す。

 

『以後、()()()()()()は極力無いように。私もそう何度も不備を庇える力はないからな』

(……そういうことなのか?)「……はっ。以後気をつけます」

 

 言外に含んだ意味を漠然と察すると、エリックは直立不動の姿勢で返答し、それを見届けたレイカーは画面から消える。

 途端にエリックは肉体的疲労に加えて心労も抱えた体を今度こそ椅子に預けきり、それを見計らっていたかのようにカトリーヌが部屋に入ってくる。

 

「予想以上にお疲れの様ね」

「……すまない……ハチミツ入りだな」

 

 言いながらカトリーヌは机に紅茶が入ったティーカップを置き、一口飲んだエリックは渋みの中の仄かな甘味に疲労が少しだけ和らいだように感じる。

 

「支部内の売店に売ってたの……それで、伊豆は何て?」

「……結論を言えば、高槻という少女の件はなんとかなった……いや、()()()()()()()()()よ。伊豆――というよりランドルフ司令がな」

 

 カトリーヌに答えつつ、エリックはまた一口紅茶を飲んで口を湿らせる。

 

「流石は極東防衛の要、加えて戦時中から連邦内部の思惑が多数渦巻いていた伊豆基地の司令ということかな?上手く誤魔化してくれたようだ。もっとも、釘も刺されたがな……」

 

 何度も庇えないと言ったレイカーの顔を思い出しながら、力無い苦笑いを浮かべる。

 

「ところで、髑髏の特機のパイロットの方はどうだ?」

「さっきアインが報告書を送ってくれたわ。詳しいことは後でそっちに目を通してもらうとして……非特隊への参加については、いい反応は得られなかったみたい……」

「そうか……そうだろうな……」

 

 異世界に迷い込み、そこの軍隊と小競り合いとなり、今はその軍隊と行動を共にしている。急展開の連続にまいっているであろう特機のパイロットに多少の同情を抱きつつ、エリックはもう1つの懸案を思い出す。

 

(あのネメシス08の少年、どうするかな…………)

 

 

 

 

 極東支部上空に差しかかったシルフィードと白は、管制塔の指示に従って地下格納庫の出入り口に降下し、そのままエレベーターで地下に下りて非特隊が借りている格納庫へ向かう。

 それぞれに乗機を固定し、手荷物を持って機体を降りると、恭弥はヘルメットを脱いで襟元を緩め、ようやくひと息つけた実感を得る。

 

「ふぅー……」

「お疲れですね」

「一夏君もな」

 

 返しつつ、白式を解除しいて制服に変わった一夏を見やる。

 

「とにかく、これでしばらくは息がつけるよ。僕、近くの更衣室で着替えてくるから。終わったら食堂行こう」

「あ、それなんですけど……」

 

 恭弥の提案に、一夏は若干申し訳なさそうに応じる。

 

「俺、城崎さんの方が気になってて。悪いけどそっちに行かせてください。飯も行く途中で何か買って、見舞いがてら済ませてきますから」

「そっか…………マメだねぇ、一夏君も」

 

 言われて懲罰前に病室で会った、本人の言うことを信じるなら「過去から来た少女」のことを思い出すと、恭弥は軽くからかうつもりで茶化す様に言ってみせる。

 しかし、

 

「そりゃあ、最後に見た時は大分落ち着いてたけど……城崎さん、知らない場所に独りでやっぱり不安でしょうからね。俺も似た様な……って言うとちょっと違うかもしれないけど……とにかく少しだけ気持ちわかるから。時間があれば少しでも一緒にいてそれを和らげたいんですよ。光秋さんふうに言えば、『迎えた責任』っていうのもあるし」

「……あぁ、そう……?」(一夏君って……やっぱり……)

 

予想に反して真面目な返答が来たことに恭弥はやや狼狽えつつ、中華街でのアリアとの一件の際に感じた感触を思い出す。

 

「そういうわけだから、俺行きますね。あ、就寝時間までにはちゃんとヴェーガスに戻るんで」

「そりゃあ、極東支部(こっち)にいる間の宿舎代わりにするって、ノヴァ大佐言ってたからね……わかった。またあとで」

 

 恭弥の返事を聞くと、一夏は着替え諸々が入った鞄片手に速足で病棟へ向かう。

 

「…………まぁ、誰にでも優しいってことなんだよな……僕もシュウさんふうに言えば、君のそういうところが好きなんだけどな」

 

 大多数の人々と感覚的な部分で若干ずれている様子を心配する一方、その”ずれ”に対する率直な感想を遠くなった一夏の背中に投げかけ、恭弥は更衣室へ向かう。

 

 

 

 

 途中の売店で夕食を購入すると、一夏は一路昼間の病室を目指す。

 部屋の前に着くとドアをノックし、

 

「……はい?」

 

若干不安の混じった返事を聞くとドアを開く。

 

「どうも」

「!?織斑さん!」

 

 一夏が顔を見せるや、ベッドの上のユイは一瞬ぴくっと体を跳ね上げ、病床衣姿の姿勢を心なしか正す。

 

「無事だったんですね!」

「なんとか。ここいいですか?」

「どうぞ」

 

 数時間前に別れて以来気になっていた相手との再会に嬉々としつつ、ユイはどうにかベッド脇の椅子を勧め、一夏は鞄を床に、夕食の入ったビニール袋をサイドテーブルに置いてそこに座る。

 

「具合どうです?」

「さっき先生に診てもらった限りでは、明日には退院してもいいと。点滴も抜けましたし」

「それならよかった」

 

 管の抜かれた左腕を示すユイに、一夏は心底安堵した笑みを浮かべる。

 

「……?」

 

 その穏やかな笑顔がユイの中を一瞬ざわつかせるが、本人はそれが何なのかわからず、一夏は一夏でビニール袋から焼きそばパンとペットボトル入りの紅茶を取り出す。

 

「城崎さん、飯は?」

「あ……さっき食べました」

「そっか……すみませんけど、俺ここで食べさせてもらっていいですか?」

「お気遣いなく。織斑さんは戦いから帰ってきたばかりなんですから。しっかり滋養つけていただかないと」

「いや、そこまで大袈裟じゃ……」

 

 気まずい雰囲気を誤魔化すつもりで大義そうに応じるユイに困った顔で返すと、一夏は焼きそばパンの封を切る。

 と、

 

「それともう一つ…………『ユイ』って呼んでもいいですか?」

「……え?」

 

迷いながらも唐突に申し出る一夏に、ユイは束の間返答に困る。

 

「いや、嫌なら別にいいんですけど……」

「いえ……そういうわけでは…………でも、突然どうしたんです?」

 

遠慮がちに補足する一夏に、ユイは気になったことを訊いてみる。

 

「俺はそういう方が言いやすいから……あと、タイムスリップとかいろいろややこしいから、とりあえず”今”の年齢差で関われたらなぁって。昼間の話だと歳近いみたいだから」

「……言われてみればそうですね」

 

 タイムスリップ諸々の要素が挟まるとややこしいという点に共感しつつ、ユイは一夏の考えに同意する。

 

「そういうことなら。私もその方がやりやすいですし」

「よかった」

「ただ……私も『一夏さん』と呼んでもいいですか?」

「全然。よろしくな、()()!」

「……こちらこそ、()()()()!」

 

 笑顔で自分の名前を――それも呼び捨てで――呼ぶ一夏に、ユイはまたもざわつきを覚えながらも、負けないくらいの笑顔で返す。

 それを見て確認事項を消化しきった一夏は、袋から出した焼きそばパンに噛りつく。

 

「…………私からもいいですか?」

「ん?」

 

 少し迷った様子で訊いてくるユイに、一夏は紅茶でパンを流し込みつつ、すっかり普段の調子で応じる。

 

「その……一夏さん、私とそんなに歳変わらないんですよね?」

「あぁ。今16」

「1つ上か……その……そんな若い人が、何で軍に、それも見るからに特別なところ入って戦ってるのかなって……私がいた時代は大戦の真っ只中だったから、10代の子が志願して兵隊になるなんて珍しくなかったけど、話を聞く限り流石に今は違うみたいだし…………もしかして、訊いちゃいけないことでしたか?」

 

 そこまで言ってみて、ユイは自分がデリケートな問題に踏み込んでいるのではないかと不安になる。

 が、一夏は皺一つ寄せることなく答えてくれる。

 

「んー……詳しくは機密で話せないんだけど、簡単に言うとスカウトさらたからだな」

「スカウト?」

「もともと軍とは別の機関にいたところを、光秋さん――昼間のメガネの人と、その上司の人に誘われて、俺がやりたいことと合ってたから引き受けて、今こうして非特隊の隊員やってるわけだ」

「やりたいこと?」

「仲間を守るってこと」

 

 ユイの問いに、一夏はさらっと、しかし2人が出会ってから初めて見せる真剣な眼差しで応じる。

 

「守る、ですか……?」

「俺、両親がいなくてさ」

「……」

 

 唐突な告白にユイは軽い衝撃を受けるものの、当の一夏はなんてことのない様子で話を続ける。

 

「歳の離れた姉と2人で暮らしてて、ずっとその姉や友達、その親御さんたち、近所の人たちに助けられて――守られて生きてきたんだよ。だから、今度は俺が、俺に関わる人たちを守りたいって思ってて、光秋さんたちの誘いは渡り船だったから」

「……そうなんですか」

 

 どこか誇らしげに語る一夏に、ユイは静かに返す。

 

「あとは、報酬が結構よくてさ。これで家計の足しになれば万々歳だよ」

「……そうですか」

 

 付け加えられた先ほどまでとは正反対な――非常に世俗的な理由に、ユイは脱力気味に返す。

 

「そういうユイは?何で軍隊なんかに入ったんだ?」

「……私は……」

 

 訊き返してくる一夏に、ユイは以前上官に同じようなことを語った時を思い出し、もう手が届かなくなった懐かしさに口を詰まらせてしまう。

 それを見て訊いてはいけないことを訊いてしまったと感じた一夏は、バツの悪い顔をする。

 

「悪りぃ。変なこと訊いちゃったか……」

「!いいえ。そういうわけじゃ……ちょっと昔のこと思い出しちゃって……」

 

 余計な気を遣わせたことを慌てて詫びると、ユイは以前語ったことを思い出しながら答える。

 

「別に国の為とか、正義の為とか、そんな恰好いいことじゃないんです……ただ、まだ私の寿命は長いから……あの悲惨な戦争をこの目で見て、この目で感じて……後の世代に語り継いでいきたいって、そう思って…………」

「……そっか」

 

 静かに応じると、一夏は焼きそばパンを一口かじる。もっとも、内心では若干引っ掛かるものを感じていた。

 

(……俺と大して歳の変わらない女の子が、そんな気持ちでなぁ……)

 

 と、語り終えたユイの顔に陰が差し、そのまま下を向く。

 

「でも……まさかこんなことになるなんて…………見て語り継ぐどころか、そこから遠いところに来ちゃうなんて…………」(私、これからどうしたらいいんだろう…………)

 

 最後の方は口の中に呟き、その明文化された気持ちが、ユイを再び先の見えない不安に陥らせる。

 その時、

 

「……でも、”今、ここ”にいるのもユイだろう?」

「……?」

 

静かにかけられた一夏の言葉に、ユイはゆっくりと顔を上げる。

 

「確かに、もう三次大戦を見ることはできない。でも、その一部始終を知っているユイがこの時代にいるのは……上手く言えないけど、なんか意義があると思うんだよ。ユイだからできることっていうのがさ……どうしたらいいかわからないなら、これから見つけていけばいいんじゃないか?俺も協力する。もちろん恭弥さんや光秋さん、ライカさんだって、今ならカノンやルルさん、ナイトウォーカーさんだっているんだ。こうして出会ったのもなんかの縁だ。一緒に見つけていこうぜ」

「……はい。ありがとうござます……」

 

 ぎこちないながらも必死で思いを伝えてくる一夏。その言葉に悩みながらも柔らかに笑う姿に、ユイは再度広がろうとしていた不安が収まるのを感じ、掻き消えそうな礼に目頭が熱くなるのを自覚する。

 同時に、そんな姿を誰かに見られることに恥じらいを覚える。

 

「……悪い。俺ちょっとトイレ行ってくる」

 

 言うや一夏は食べかけの焼きそばパンをサイドテーブルに置き、そそくさと部屋を出ていく。

 

「…………ズルいですよ。一夏さん……」

 

 自分の心境を察した様なタイミングのよさに、ユイは一夏が出ていったドアを睨みつけながら、笑顔で静かに泣いた。

 

 

 

 

 パイロットスーツから制服への着替えを済ませると、恭弥は支給品の端末を用いてフィルシアたちと連絡をとり、極東支部内部の食堂で落ち合う段取りをつける。

 

「……速く来過ぎたか……先に注文とって待ってるか」

 

 ピークを過ぎた食堂には、自分以外ヴァルキリーズのスタッフが疎らにいるだけであり、とりあえずと受付に行って注文を済ませ、トレイを受け取って大人数が一度に座れるテーブルに腰を下ろす。

 

「おっ、お疲れ恭弥」

「虎……それと……?」

 

 名前を呼ばれた方向に顔を向けると、虎次郎と見知らぬ赤毛の少年が、それぞれトレイを持って自分の許に歩み寄ってくる。

 

「今から飯か」

「うん。他のメンバーが来るの待ってるんだけど……そっちも?」

「あぁ。ようやく仕事がひと段落してよ……」

「そっか……」

 

 疲労を含んだ虎次郎の返事を聞きながら、恭弥は赤毛の少年に顔を向ける。

 

「その子は?」

「あぁ、こいつは……」

 

 と、虎次郎が答えようとしたその時、

 

「桂木曹長!お待たせー!」

 

ハツラツとした声がそれを遮り、3人が声のした方を見やると、声の主であるフィルシアを先頭に、サクラ、カノン、リグル、ナガイが各々トレイを持ってやって来る。

 

「ごめんねぇ。リグルが迷子になっててさ。見つけるのに時間かかっちゃって」

「……だって、カノンが戻ってきたって聞いて、居ても立っても居られず……そもそもこの砦の造りが複雑すぎるんです!」

 

 頭を下げるカノンの横で肩身狭そうにしたのも束の間、すぐにリグルは目くじらを立てて不満を露わにする。

 

「いやいや、僕もさっき来たところだから気にしないで」

 

 そう恭弥が応じる間にも、新たに来た一行は席に着く。

 

「……ところで桂木曹長、織斑曹長は?」

「一夏君なら城崎さんのとこ行ったよ。夕食もそっちで済ませてくるって」

「織斑って、あの変なパワードスーツ着てた奴だろう?……不安がってる女の子にさりげなく寄り添うか……やるな!そいつも」

 

 サクラの問いに恭弥が答えると、虎次郎が――若干邪な――笑みを浮かべながら感心した様に呟く。

 

「そんな変な意味じゃないだろう。もっとも僕もそんなふうに茶化しちゃったんだけどさ…………優しいんだよ、一夏君は」

「そういうもんかなぁ……」

 

 フォローする恭弥にフィルシアが応じると、誰ともなしに食事を始める。

 

「……ところで虎、その赤毛の子、誰?」

「あぁ、そうだったな」

 

 カノンの問いに、先ほど言い損ねた虎次郎は改めて少年を紹介する。

 

「新田飛鳥、新田源三の孫だそうだ」

「にった……げんぞう……?」

 

 その説明に首を傾げる非特隊一同を代表して、恭弥が訊き返す。

 

「あ、お前ら知らないのね……まぁいいや。ほら、飛鳥」

「う、うん……」

 

 その光景にお手上げといった様子で応じると、虎次郎は飛鳥に話を振る。

 

「新田飛鳥です……みなさんが連邦軍の……」

「非常事態特殊対策部隊、通称・非特隊ね」

「早い話が、弱きを助け強きを挫く正義の味方……の様に見える、疲弊した連邦軍が立ち直るまでの間、面倒事を優先的に引き受ける便利部隊ね」

「フィルシア……もう少し言い方があるでしょう……」

 

 恭弥の紹介に包み隠さない補足を加えるフィルシアに、サクラが少し呆れた様に漏らす。

 

「…………」

 

 それから何を話していいかわからなくなったらしい飛鳥に、虎次郎が助け船を出す。

 

「こいつさ、一見ただの中坊に見えるけど、スゲーんだよ。特別製の端末片手に、あのモモタロウの整備をサクサクやっちまってさ」

「!」

 

 その効果はあったようで、「モモタロウの整備」と聞いたカノンが飛鳥の許に身を乗り出してくる。

 

「え?君があのスーパーロボットの整備してるの!?」

「え!?……えぇ、まぁ……じいちゃんの手伝い程度ですけど……」

 

 高揚しながらも真剣な眼差しで訊いてくるカノンに、飛鳥は若干身を縮ませる。

 

「カノン」

「え?……あぁ、ごめん……」

 

 傍らのリグルに注意されて自分の様子を自覚すると、カノンは乗り出していた身を引っ込め、さっきよりは落ち着いた態度で話を再開する。

 

「いやー、私あぁいうロボット大好きでさぁ。つい興奮しちゃって」

「戦闘中もハイテンションだったよね。特にモモタロウが合体した時なんか」

「まーね。合体ロボットはロマンなんだよ。ナガイさんもわかるでしょ?」

 

 その時のことを思い出したフィルシアに応じつつ、カノンはさっきから黙って食事を続けるナガイに声をかける。

 

「……何でそこで俺に振る?」

「深い意味はないよ。ただ、なんとなく”同類”の匂いを感じてさ」

「”同類”な……」

 

 カノンの返答にスープを飲みながら応じると、ナガイは少し考える。

 

「いや、俺もよくわからんな」

「えー?それがSKLに乗ってる人の台詞?」

「何でそこでカイザーが出てくんだよ……ただでさえ頭ん中に靄が掛かってんだ。これ以上よくわからん話はやめろ……」

 

 顔一杯に不満を浮かべるカノンに、ナガイは辟易としながら返す。

 その横では、虎次郎があることを思い出す。

 

「そういや恭弥、お前まだ幽霊とか視えんの?」

「視える?」

「虎……」

 

 飛鳥が首を傾げる傍ら、当の恭弥は眉間に皺を寄せる。

 

「え?桂木曹長ってそういう人?」

「あぁ。スゲーんだよこいつ。ガキの頃からさ、どこそこに女の影を見たとか、人魂が流れてったとか――」

「虎!ナイトウォーカーさんも食いつかないで!」

 

 興味を示すフィルシアに中学時代までを振り返って嬉々として語る虎次郎。そんな2人を恭弥が怒鳴る横で、サクラは呆れた顔を浮かべる。

 

「幽霊ってそんな……非科学的な……バカバカしい」

 

 こうして若干の騒がしさを交えながら、少年少女たちの夜は更けていく。

 

 

 

 

 一方、ヴェーガス艦内のとある部屋では。

 

「…………」

 

 すっかり時間の感覚を失ったユウが、手錠で繋がれたままの手にプラスチック製のフォークを持って、刺した

物をどうにか口に運ぶという難儀な食事が黙々と行われていた。

 食事を運んできた人はトレイを置くやすぐにドアを閉めてしまったので、拘束されてからずっと着けられたままの手錠が外されることはなく、テーブルやその代わりになる物がないことも合わさって、非常に食べ難い食事だ。

 

「……食事の時くらい外してくれればいいものを」

 

 誰に言うでもなく愚痴を溢すと、ユウは先ほどから艦内が静かになっていることに気づく。

 

(……さっきの用は終わったのか?……そもそも、何がどうなってるっていうんだ!?何でオレがこんな目に遭わなきゃいけないんだよっ……!)

 

 状況がわからないことからくる不安、不遇な現状に対する不満、それらが着実に胸の内に堆積し、しかしぶつけようのない怒りにユウはただ悶々とするのだった。




 読者のみなさま、大変お待たせしました。
 スパロボH、連載再開です!

 今後も遅めの更新となると思いますが、引き続きお付き合いよろしくお願いします!



以下お知らせ

・『The Knight of Atrantia -贖いの騎士と氷の王女-』リメイクに伴い、アトランティアの破損・修復の描写を修正しました。
・ゲッターロボ及びマジンカイザーSKLの全長を変更しました。

 いずれもストーリーそのものに大きな変化はありません。

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