遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~   作:久本誠一

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そういえば大学決まりました。
前回のあらすじ:夢想の前に超久々に表れた青眼使いの男。相変わらず自分の名前すら言わずに言いたいことだけ言って去っていきました。


ターン54 鉄砲水と『D』と冥界の札

「………というか親父さあ、なに初対面の()に店番やらせてるわけ?こんな親もって恥ずかしいのはこっちなんだよ、ったくもう」

 

 文句を言いつつ、2人で厨房から出る。ケーキ?残念だけど、まだまだこの親父には勝てないことを思い知らされただけで終わってしまった。なんで菓子作りと紅茶にだけは異様にハイスペックなんだこの人は。

 

「何言ってんだお前は。どうせコレなんだろ?せっかくうちの店を継ぐどっかの馬鹿息子以外の候補が出てきたんだ、テストぐらいやっといてやらにゃあいかんだろ」

 

 僕のもっともな意見を鼻で笑い、ニヤニヤ笑いながら小指を一本立ててみせる親父。ちょっと顔が火照ったのを隠すためにごく自然な動作で反対側を向き、赤くなったであろう顔を見られないようにする。とはいえあくまで気休めで、多分バレバレなんだろう。その証拠に、すぐ横から聞こえてくる忍び笑いがこれ見よがしに大きくなったし。

 

「いいじゃねえか素直な子で。お前にはどう見てももったいないからな、逃げられないうちに捕まえとけよ?」

「るっさい!おーい、むーそうー!」

 

 なぜか店の外でどこか遠くを見ていた夢想に内心感謝しつつ、何をしてるのかと彼女に呼び掛ける。まだどこか心ここにあらずといった様子だったが、それでも反応はあったのでちょっとホッとする。

 それにしても、こんなに空が曇っているのは変だ。まだお昼だってのに、今にも振りそうだなんてレベルじゃないぐらい黒くて分厚い雲が空を覆っている。嫌な予感がすごくするけど、ふむ。

 

「サッカーサッカー、なにか怪しいものが見つかったらすぐに教えてね」

 

 突然のお願いにも嫌な顔一つせずにデッキから出てきてくれるシャーク・サッカー。いつもすまないね、との思いを込めて頭を撫でてやると、気持ちよさそうに喉の奥からゴロゴロと声を出して甘えてくる。かわいい。でもこれ鮫じゃなくて猫だよね、なんて思っていると、なんか精霊が見えない2人からの冷たい視線を感じたのでそそくさと店内に戻る。まったく、変な目で見ないでほしいもんだ。ここにちゃんと精霊はいるのに。

 

「じゃあ見張りよろし……く………?」

 

 いた。さっきまで間違いなくいなかったのに、今でははっきり見える。ビルよりもでかい精霊が町全体を取り囲むようにひい、ふう、みい……なんと、4体も。

 

「チャクチャルさん、解説!」

『私か!?』

 

 いやだって呼んだら一発で返事くれるし、わりと博識だから何聞いても答えてくれそうだし。これ本人(?)に直接言ったら前半部分について私はペットかタクシーかとか言って怒りそうだから口には出さないけど。

 

『またろくでもないこと考えて………まあいい、あれは帝だな。水、炎、風、土の四大元素そろい踏みだ』

 

 そう言われて4体の人型をもう一度ぐるりと見回してみる。よくよく見れば確かにあの一角に立ってるの、どことなくメビウスに似てる気もする。なんか角とか生えてるけど。なんかメリケンサックみたいなの腕に付いてるけど。ちなみに僕の知ってるメビウスの武器はアイス・ランスという右腕を氷の槍にして突撃しつつ突き刺すというシンプルかつロマン(中二病)あふれるもので、個人的には大好きな攻撃です。

 

「やっぱなんか違うじゃん」

『まあ聞きなさい。あれはそれぞれ剛地帝グランマーグ、烈風帝ライザー、爆炎帝テスタロス、そして凍氷帝メビウスのカードだな。従来の帝シリーズが真の力を解放した姿で、それぞれ進化前の上位互換の能力を持つ』

「なるほど、解説お疲れ様」

『うむ。それはよしとして、どうも様子が変だ。あれだけの力を持つ精霊が一度に4体というのははっきり言って異常。何かしらの意図があるのだろう』

 

 冷静な、というより明らかに面白がってる風なチャクチャルさん。困ったものだ。

 

「そんでそんで?そもそもあんな町の端っこに突っ立って、何やってるのさ」

『見ればわかるだろう?この町に結界を張って外から遮断している………いや、中から出られないようにしているのか?先に言っておくとあの程度の結界なら突破できないこともないが、その際のエネルギーで近くの建物ぐらいは軽く吹き飛ぶだろうな』

「あら残念」

 

 そんなもん僕が許可出すわけがない。絶対やっちゃだめだよ、と念を押してから改めて4つの巨体を見上げる。

 

「で、もうちょっと穏健な方法ってある?」

『一番単純な方法だと、そのカードの使い手を見つけ出してだな』

「………だいたいわかったよー」

 

 デュエルでぶちのめすか物理的にどうにかするか、とにかく力づくなんだろう、まあこっちとしても、関係ないところに迷惑がかからない範囲でなら穏健に終わらす気はあんまりない。僕の町であんなでっかいもん勝手に出すんじゃないよまったく。

 

「とりあえず親近感あるしメビウスから行ってみ」

「いつまでも何くっちゃべっとるんだアホ息子」

「痛っ!」

 

 集中して喋っていた最中、いきなり後頭部に激しい痛み。見ると、うちの親父が凶器と思しきレジの帳簿を片手に呆れ顔で仁王立ちしていた。

 

「ほれ、早いとこ店入るぞ。曇ったせいでちょっと冷えてきたしな」

「あー、えっと……」

『始まったぞ、マスター!場所はそこのビル屋上、メビウスとザボルグが動き出した!』

「ええ!?」

 

 なぜかちょっとうれしそうな響きを含んだチャクチャルさんの言葉に聞き返そうとして親父の後姿から、そして店内の夢想から目を離した次の瞬間。

 

「だ、誰なの!一体どこから、って………!」

「おやおや、少々静かにしていただきましょうか。あなたは人質、別に悪いようにはしませんよ」

「夢想!?」

「嬢ちゃんっ!」

 

 その一瞬の間に、店内の様子が激変していた。後ろから謎の男にプロレス技でいうところのスリーパーをかけられ身動きできない、というかどうもさっき一発殴られでもしたのか気を失ってる状態の夢想。そのまま長身にサングラス、そしてなぜかライダースーツというものすごく怪しい恰好のまま、その謎の男がこちらへにじり寄ってくる。

 

「誰だっ!俺の店で何してやがる?」

「おや、人の名前を聞くならば自分から名乗るのが礼儀ではありませんか、遊野堂さん。そうですねぇ………まあここは、ミスターTとでも名乗っておきましょうか。あなたの息子さんとはこれから何度も会うことになるでしょうし、以後お見知りおきを」

「ミスターT?」

 

 あまりといえばあまりの名前である。だけど、そんな名前に反応を示した神がいた。

 

『この男の気配、どこかで感じた気もしていたが、やっと思い出した……!マスター、こいつは人間じゃない!』

「へ?」

 

 改めていつまでも夢想に密着してるこれまで見た中でも最っ高の屑野郎をまじまじと見る。特に(やってることを除いて)おかしなところはないし、そもそも親父に見えてる時点で精霊が実体化したという線はないだろう。それにしてもぶん殴りたい、ちょっと近づきすぎてない?

 

『まずはその煩悩を抑えてくれ、マスター。それにしてもミスターTが1枚噛んでいたのか』

「何?知り合い?」

『昔の同業者みたいなものだ。奴自体はただの駒だからどうでもいいんだが、バックがかなり厄介でな』

 

 よくわからないけど、チャクチャルさんがここまで言うからにはよっぽど厄介な相手なんだろう。まったく、斎王とゆかいな仲間たちだけでこっちは手一杯だってのに。なんでこう、去年もそうだったけど変なのを相手してる時に限ってまた別の変なのが割り込んでくるのかね。あの時もノース校に勝ったーって喜ぶ暇もなく封印されてた三幻魔とかいきなり出てきたし。

 

「今となってはあれもいい思い出なんだから、人生わからんもんだね。………それで、ミスター?なんでもいいけど、その娘さっさと放してよ。見てる側としてはひじょーに不愉快なんだけどさ」

「これは失礼。ではそのかわり、一つこちらの条件を呑んでいただきたいのですが。あなたの所持しているこの時代にあってはならないカード………具体的には地縛神、及び時械神のカードを今この場で処分しなさい。そうすればこの女性には一切手出しせずにお返しします」

 

 チャクチャルさんたちと夢想、どっちか選べということらしい。だけど、それによって向こうに何の得が生まれるのか。とりあえず本人に聞いてみよう。

 

「(チャクチャルさん、メタイオン先生)」

『………実際問題、私たちは本来この世界に存在しえないカードだからな。消えろというのもわからない話ではない。なにせ、ここにこうしている方がおかしいんだ』

 

 この神様とは思えないぐらい弱気な発言に、一瞬こっちまで返事に詰まる。それを攻めどころと見たのか、ニヤリと笑みを浮かべるミスターT。

 

「さあ、どちらを選びますか?私もあまり暇ではないので、早いうちに決めていただきたいのですが。ああ、ではこうしましょう」

 

 左腕で意識のない夢想を締め上げながら、右手をスッと親父に向けて伸ばして指を鳴らす。

 

「うっ……!?」

 

 すると一体何をやったのか、数メートル離れた位置にいた親父がいきなり地面に崩れ落ちた。

 

「親父っ!」

「おっと、動かなくて結構です。彼はこのように私が預かりますので。民間人は邪魔になりますからね」

 

 親父の体が地面にぶつかる寸前、ライダースーツと手袋に包まれた腕がその体をキャッチする。そこにいたのは、なんとミスターT。いつの間に移動したのかと夢想を捕まえていた方を見ると、そこには依然としてミスターT。

 

「な、な……」

『相も変わらずの数に頼んだ無限湧き戦法か。だが注意しろマスター、あれは見間違いでも錯覚でもない。すべて本物のミスターTだ』

「「さあ、どうしましたか?あなたの大切な大切なカードを取るか、はたまた自分のご友人、そして肉親を取るか。選んでください」」

 

 チャクチャルさんを手放すなんて、そんなこと僕にはできない。だけど、あっちの2人についてもそれは同じだ。

 

「「どちらかを選べば、もう片方は助かります。こちらとしては、あなたがどちらを選んでも問題ないのですよ。あなたが立ち直るまでの間に、斎王の計画は完成する」」

「ぐっ………」

 

 完全に板挟みの状態。こんな時、漫画やアニメならヒーローが颯爽と現れて悪を退治してくれるんだろう。だけど、今ここにヒーローは、十代はいない。なら、どうすればいいってのさ。

 

「ちょっといいかな?本来ならば僕が手を出す義理はないが、斎王の企みについて何か知っているというなら話は別だ。お前たちにデュエルを申し込む、2人まとめてかかってこい!」

 

 僕の後ろの建物の角を曲がって、ちょうどこれまで死角になっていた位置から白いスーツに銀髪の男がコツコツと革靴の音をアスファルトに響かせながら歩いてくる。僕はその顔をよく知っている。僕がユーノの時の魔術師に時間を止められているうちに学校にやって来た、史上最年少のプロデュエリスト。

 

「エド・フェニックス!」

「ふん、少し様子を見てみれば情けない。そんなに手放したくないものがあるなら、自力で掴み取ればいい。それができないと、それは自分のせいではないと自分に言い聞かせながら生きていくことになるんだ」

 

 そう言いながら何か思うところがあるのか、少し遠くを見るような目つきになったのを僕は見逃さなかった。エドとはろくに話をしたこともないしなんとなく嫌な奴だとなんとなく思ってたけど、きっと彼なりにも色々なことがあったんだろう。ほんの少し、エドに対する認識を改めた。

 

「それで?早く返事を聞かせてもらおうか。なんなら1対2なんてケチなことは言わない、僕のハンデとしてこの清明にパートナーをやらせるタッグデュエルにしたっていいんだぞ」

 

 前言撤回、やっぱこいつヤな奴だ。僕がタッグ組むのがハンデとか、日ごろどんな目で見られてんだ僕。8パックデッキとはいえ僕だってエドには一回勝ってるのに。

 

「「いいだろう。もとよりエド・フェニックス、斎王はともかくとしても私はお前のことをよく思っていないからな。ここでどちらも潰せるというならば僥倖」」

「決まりだな。清明、僕の足を引っ張るなよ!」

「いや足引っ張るなて。………黙って聞いてりゃみんなして好き勝手!いいよ、こうなったらやってやる!ド派手にデュエルと洒落込もうか!」

 

「「「「デュエル!」」」」

 

 始まったタッグデュエル。なんだかエドの掌の上で動かされてるような気もするけど、その江戸のおかげで助かったので深くは考えないことにする。ライフポイント、フィールド、墓地の全てを共有する、近頃では珍しいルールだ。そういやなんか三沢がこんなルールで大会してみたいとか言ってたことがあったっけ。

 

「先行は私だ。ダブルコストンを攻撃表示で召喚、カードをセットしてターンエンドだ」

 

 ダブルコストン 攻1700

 

「こちらの先行は君に任せよう」

「そりゃどーも。僕のターン、ドロー!」

 

 ダブルコストンはその名の通りダブルコストになるモンスターだが、そのほかの能力は持ち合わせていない。大方もう一方のミスターTにアドバンス召喚させるつもりなんだろうけど、そうはいかない。

 

「モンスターをセット。さらにフィールド魔法、レミューリアを発動!」

 

 地面から白い神殿がせりあがってきて、だいたい僕らの膝ほどの深さにどこからともなく湧いてきた水が満ちる。水属性モンスターの攻守はこれで200ポイントアップする、僕のフィールドの用意が整った。

 

「カードも1枚伏せて、ターンエンド」

「お前のエンドフェイズに速攻魔法、終焉の焔を発動!トークン2体を特殊召喚する」

 

 黒焔トークン 攻0

 黒焔トークン 攻0

 

 すでにフィールド上にはダブルコストの能力を持つモンスターが存在するというのに、なぜかさらにリリース要因となるモンスターを並べるミスターT。着実に相手の場にモンスターが増えていくってのは、あんまり気分のいいものではないのだが。

 

 ミスターT&ミスターT LP4000

モンスター:ダブルコストン(攻)

      黒焔トークン(攻)

      黒焔トークン(攻)

魔法・罠:なし

 

 清明&エド LP4000

モンスター:???(セット)

魔法・罠:1(伏せ)

場:忘却の都 レミューリア

 

「私のターン。永続魔法、冥界の宝札を発動!そしてトークン2体をリリースし、アドバンス召喚!出でよ、ダーク・ホルス・ドラゴン!」

 

 全身黒く染まった2Pカラーのホルスが、まるで鳥のように甲高い鳴き声を上げる。やっぱり思った通り、アドバンス召喚で来たか。

 

 ダーク・ホルス・ドラゴン 攻3000

 

「冥界の宝札がある限り、私がリリース2体以上でのアドバンス召喚に成功するたびカードを2枚ドローする。ダーク・ホルスでセットモンスターに攻撃!焼き尽くせ!」

 

 ダーク・ホルス・ドラゴン 攻3000→??? 守800→1000(破壊)

 

「跡形もないか。………ほう?」

 

 ミスターTの言うとおり、確かに僕の伏せたモンスターは黒い炎に焼き尽くされた。だけど、それで終わらせたりはしない。シュルシュルとタコの足がホルスの翼に、爪に、くちばしに、胴体に巻きついて締め付け、動きを封じていく。

 

「ここでシャクトパスの効果発動!このカードは自身を戦闘破壊されたモンスターに呪いをかけて動きを封じ、攻撃力を0にする!」

 

 ダーク・ホルス・ドラゴン 攻3000→0

 

「ならばこれならどうかね?ダブルコストンでダイレクトアタック!」

「まだまだっ!リバース発動、ドレインシールドでその攻撃を無効にする!そして無効にした攻撃力ぶん、僕のライフは回復する」

 

 清明&エド LP4000→5700

 

「ほう……カードをセットし永続魔法、悪夢の拷問部屋を発動。ターンエンドだ」

「エド、後は頼んだよ」

「頼んだよ、じゃない!フィールドがほぼ空じゃないか!もういい、ドロー!カモン、デビルガイ!」

 

 D-HERO(デステニーヒーロー) デビルガイ 攻600

 

 エドが召喚したのは、レベルもステータスも共に低い下級モンスター。確かにホルスは倒せるが、ダブルコストンには勝てない。もしかして、もっと攻撃力の高い下級モンスターを引けなかったのだろうか。

 

「デビルガイのエフェクト発動、このカードは攻撃表示の時に1ターンに1度相手モンスターを2ターン先の未来へ飛ばすことができる!デスティニー・ロード………消え失せろ、ダブルコストン!」

 

 ダブルコストンの姿がゆがみ、そのまま消えていく。

 

「このエフェクトを使ったターン、僕はバトルができない。だが、魔法カードを使うことならできる!魔法カード、ミスフォーチュンを発動!相手モンスター1体の元々の攻撃力の半分の数値分ダメージを与えることができる」

 

 ミスターT&ミスターT LP4000→2500

 

「いいぞー、エドー!」

「いちいちのんきなもんだ、まったく。それはそうと、このステージは僕には合わないな。フィールド魔法、幽獄の時計塔を発動」

「え、ちょっと!?」

 

 いくらフィールド魔法が重複するようになったとはいえ、それは自分と相手が使う場合においての話。フィールドを共有している今、レミューリアが崩れ落ちて足元の水が引いていき、替わって地面から12時を指した時計塔がせりあがってくる。でも、いくらなんでも人のカードを勝手に上書きされるとは思わなかったぞ。

 

「カードを2枚セットして、これでターンエンドだ」

 

 ミスターT&ミスターT LP2500

モンスター:ダーク・ホルス・ドラゴン(攻・シャクトパス)

魔法・罠:冥界の宝札

     悪夢の拷問部屋

     1(伏せ)

 

 清明&エド LP5700

モンスター:D-HERO デビルガイ(攻)

魔法・罠:2(伏せ)

場:幽獄の時計塔(0)

 

「続いては私のターンだ」

「その前に、相手ターンのスタンバイフェイズを迎えたことで時計塔の針が動く、つまり時計塔に時計カウンターを1個乗せさせてもらうがね」

 

 ギィ、ときしむ音を立てながら、驚くほどの速さで時計の針が動く。そして指し示す時間が3時となったとき、再びその動きが止まった。だが、それ以上何も起きない。

 

「魔法カード、帝王の深怨を発動。手札から攻撃力2400かつ守備力1000のモンスター、邪帝ガイウスを見せることでデッキからこのカード以外の帝王と名のつく魔法及び罠をサーチすることができる。帝王の烈旋を加え、そのまま発動!このカードは相手モンスターをリリースしてアドバンス召喚を行うことができるカードだ。デビルガイをリリースし、邪帝ガイウスを召喚!」

 

 邪帝。いわゆる帝シリーズの1体で、なぜか闇属性だけ2種類の帝が存在するうちの片方。えーと、効果はどっちがどっちだったっけか。

 

「邪帝はアドバンス召喚に成功した時、フィールドのカードを1枚除外することができる。私が選択するのは、ダーク・ホルス・ドラゴン!」

 

 ガイウスがくるりと自分の横を向き、胸の前に作り上げた闇のエネルギー弾を自らの横でタコ足に縛られたホルスめがけて打ち出す。動きを一切封じられたホルスは抵抗することもできず、無言のままに次元の隙間へと消えていった。

 

「ガイウスがその効果で闇属性のモンスターを除外した時、相手プレイヤーに1000のダメージを与える。受け取れ、エド・フェニックス!」

「ぐっ………いいだろう、だがこの貸しは高くつくぞ!」

 

 清明&エド LP5700→4700

 

 1000の衝撃。だけどそれだけではない。悪夢の拷問部屋は効果ダメージが発生した時、さらに300のダメージを追加で与える効果を持つ。一見地味な削り方だけど、こういうのがじわじわとこっちの首を絞めてくるのだ。

 

 清明&エド LP4700→4400

 

「貸しは高くつく、か。果たしてそうかな?トラップ発動、闇次元の開放!自分の除外された闇属性モンスターを、攻撃表示で特殊召喚する!甦れ、ダーク・ホルス・ドラゴン!」

 

 ダーク・ホルス・ドラゴン 攻3000

 

 一度除外を経由したことでシャクトパスの効果からは切り離され、完全な姿となって甦った黒い竜。こんなコンボを仕掛けていたとは、さすがに人間じゃないだけあってデュエルの腕も相当なものだ。

 

『私が言うのもなんだが、人間じゃないのと強いのは関係あるのか?本当にそこ関係あるのか?』

「(カミューラもなんだかんだ言って強かったし、タニヤも三沢相手にあそこまで強かったし。ラビエルのことは今でも全力をぶつけあった相手として尊敬してるよ)」

『そ、そうか』

 

 それと稲石さん。なんとなく仲直りするきっかけがつかめなかったから最近は全然会ってないけど、ここでおみやげ買っていってあげよう。線香とか。

 

「これで終わりだ!邪帝ガイウスでダイレクトアタック!」

「いいや。トラップ発動、D-フォーチュン!このカードは相手の直接攻撃宣言時に発動でき、墓地からD-HERO(ディーヒーロー)を1体除外することでそのターンのバトルフェイズを強制終了させる!」

 

 半透明のデビルガイがまるで十代のネクロ・ガードナーのように自らの体を盾にしてガイウスの攻撃をはじく。とはいえ、なかなか危ないところだった。

 

「1度は凌いだか。カードを2枚伏せ、これでターンエンドだ」

「よっし、今度は僕のターン!」

 

 威勢よく言ったものの、戦況はあまりよろしくない。なにせ攻撃力2400と3000が相手なのだ。とはいえ先ほどのダイレクトアタックの時に感じた痛みから考えても、これは数か月ぶりの闇のデュエルだ。間違っても負けるわけにはいかない。

 

「ちょっと強引だけど、突っ切らせてもらおうかな!手札から瀑征竜-タイダルの効果発動!手札の水属性モンスター2体を除外して、このカードを特殊召喚!」

 

 氷弾使いレイス、そしてグリズリーマザーのカードを相手に見せてからポケットに入れ、タイダルをモンスターゾーンに置く。

 

 瀑征竜-タイダル 攻2600

 

「まずは1体、タイダルでガイウスに攻撃!ウェイブ・オブ・タイダル!」

「リバースカード、冥王の咆哮を発動。悪魔族が戦闘を行う時にライフを払うことで、相手モンスターの攻守をその数値ぶんダウンさせる。まあ、500ポイントも払えば十分だろう」

 

 ミスターT&ミスターT LP2500→2000

 瀑征竜-タイダル 攻2600→2100(破壊)→邪帝ガイウス 攻2400

 清明&エド LP4400→4100

 

「タイダル!くっ、ここでカードをセット。これでもうハンドレスか、ターンエンド」

 

 ミスターT&ミスターT LP2000

モンスター:ダーク・ホルス・ドラゴン(攻・闇次元)

      邪帝ガイウス(攻)

魔法・罠:冥界の宝札

     闇次元の開放(ホルス)

 

 清明&エド LP4100

モンスター:なし

魔法・罠:3(伏せ)

場:幽獄の時計塔(1)

 

「私のターン。スタンバイフェイズを迎えたことで、そちらの時計塔の針がまた動くか」

 

 その言葉通りに時計が時を刻み、先ほどからまた3時間分動いて6時を指す。だが、依然として何も起こらない。

 

「このカードは、墓地からレベル5以上のモンスターを除外することで特殊召喚できる。来い、邪帝家臣ルキウス!」

 

 先ほど痛い目にあわされたガイウスをデフォルメしたマスコットのような小さな悪魔。右手でお手玉サイズの闇の球をクルクルともてあそびながら、挑戦的な目つきでこちらを睨みつけてくる。

 

 邪帝家臣ルキウス 攻800

 

「ガイウスとルキウスをリリースし、アドバンス召喚。出でよ、闇の侯爵べリアル!」

 

 闇の侯爵べリアル 攻2800

 

「冥界の宝札の効果で2枚ドロー。またルキウスがアドバンス召喚に使われたことで、相手の伏せカードをすべて確認することができる。なるほどメタル・リフレクト・スライムか、たいした問題ではないな。だがもう1枚は………いや、いいだろう。バトルの前に1つ教えておいてやるが、べリアルがフィールドに存在する限りお前たちはべリアル以外のモンスターを魔法及び罠の対象にすることができず、攻撃対象にも選べない。これで終わりだ、ホルスでタイダルに攻撃!」

 

 黒い炎が視界を埋め尽くすほどの勢いで吐き出され、みるみるうちに炎に邪魔されて何も見えなくなる。ここで唯一効果がありそうなのはエドの伏せたなんかよくわかんないカードで、フリーチェーンなのはわかるが今使う意味があるものかどうかもわからない。

 だけど、このカードを見た時のミスターTの反応が気になった。幽獄の時計塔はエドのデュエルディスクにセットされてるから僕には効果を見ることができないけど、もしかしてこのカードが役に立つのだろうか。どうもミスターTは効果を知っているみたいだけど、もしかしたら今の反応を見て僕がこのカードを使うことまで想定済みの高度な罠なのかもしれない。どうする?どうすればいい?

 

「………ええぃ、どうせこのままじゃやられるんだ、こうなったらどうにでもなれ!リバーストラップ、エターナル・ドレッドを発動!時計塔に時計カウンターをさらに2つ乗せる!」

 

 ものすごい勢いで時計の針が動き、あっという間に6時間が経過して最初の12時の位置に戻る。それがきっかけになったのかこれまで一度もならなかった鐘がいきなり重い音を出し始め、ゆっくりと12階の音が誰もいない町に響き渡った。

 が、無論それだけで、ホルスの炎がこちらに到達した。

 

 ダーク・ホルス・ドラゴン 攻3000→清明&エド(直接攻撃)

 

 そのままこちらを襲うであろう戦闘ダメージに備え、とっさに顔の前で腕を組んでガードする。

 だが、いつまでたってもこちらの体を吹き飛ばす炎の衝撃が来ない。たっぷり20秒は経ってから恐る恐る前を見てみると、とっくに攻撃をやめてミスターTのフィールドに舞い戻っているホルスが見えた。あ、あれ?

 

「まったく………幽獄の時計塔に時計カウンターが4つ以上乗っているとき、こちらが受ける戦闘ダメージは0になる。知らずにエターナル・ドレッドを使ったのか、見ている方がひやひやする」

 

 ジトーッとした声音のエド。さぞかし冷たい目でこちらを見てるのだろう。

 

「コホン。まあでも感謝するよ、おかげでこのターンは生き延びれた」

「確かにな。カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー。スタンバイフェイズにデビルガイのエフェクトが切れ、先ほど除外したダブルコストンがお前の場に戻る」

 

 ダブルコストン 攻1700

 

「魔法カード、デステニー・ドローを発動。手札からD-HEROを捨てることで、カードを2枚引く。僕が捨てるのはこのカード、ダッシュガイだ」

「ならばこの瞬間、ダーク・ホルス・ドラゴンの効果発動!相手がメインフェイズに魔法カードを使用した時、墓地からレベル4の闇属性モンスターを特殊召喚することができる。私はルキウスを選択!」

 

 邪帝家臣ルキウス 守1000

 

 これまでのターンでは墓地にレベル4の闇属性がいなかったため効果を発動できなかったダーク・ホルスも、ルキウスをアドバンス召喚に使用したことでようやく蘇生先を手に入れた。まあ、それもエドがなんとかするだろう。

 

「それがどうした!カモン、ダイヤモンドガイ!」

 

 全身からクリスタルを生やしたトゲトゲしている戦士。攻撃力はダーク・ホルスやべリアルには遠く及ばないのだが。

 

 D-HERO ダイヤモンドガイ 攻1400

 

「ダイヤモンドガイのエフェクト発動!デッキトップのカードを確認し、それが通常魔法ならばそのカードを墓地に送ることで次のメインフェイズにコストを踏み倒してその効果を使用できる、ハードネス・アイ!当然通常魔法、終わりの始まり。ルキウスに攻撃したいところだが、べリアルを倒さない限り他のモンスターを攻撃することはできないからな。カードをセットしてターンエンド。これで僕もハンドレスか」

 

 ミスターT&ミスターT LP2000

モンスター:ダーク・ホルス・ドラゴン(攻・闇次元)

      闇の侯爵べリアル(攻)

      ダブルコストン(攻)

      邪帝家臣ルキウス(守)

魔法・罠:冥界の宝札

     悪夢の拷問部屋

     闇次元の開放(ホルス)

     2(伏せ)

 

 清明&エド LP4200

モンスター:D-HERO ダイヤモンドガイ(攻)

魔法・罠:2(伏せ)

場:幽獄の時計塔(4)

 

「私のターン。もう終わらせてもいいでしょう、ダブルコストンをリリースしてアドバンス召喚!我が主の名のもとに、全てを(ダークネス)に染め上げろ!怨邪帝ガイウス!」

 

 一瞬先ほどと同じガイウスが召喚されたように見えたが、それを指摘しようと思った瞬間その体全体に大量の闇が吸い込まれていった。それを吸収してみるみるうちにその体が膨れ上がり、これまでの割とスマートな体つきから一転して筋骨隆々とした体形になっていく。

 

 怨邪帝ガイウス 攻2800

 

「怨邪帝ガイウスは闇属性モンスターを利用してアドバンス召喚に成功した時、フィールドのカード2枚を除外して1000ダメージを与え、それが闇属性モンスターだった場合同名モンスターをすべて除外させる効果を持つ。ククク、幽獄の時計塔とメタル・リフレクト・スライムを除外だ!」

 

 もはや闇の球を作り出すようなこともせず、時計塔よりも大きくなったガイウスが腕の一振りで塔を叩き潰し、僕の伏せたスライムカードを同時に踏みつぶそうと一歩を踏み出す。

 

「やむを得ないな。リバースカード、ダブル・サイクロンをチェーン発動!僕の場に存在する幽獄の時計塔と、お前の闇次元の開放を破壊する!」

「むっ………ダーク・ホルス!だがスライムの除外は確定した、よって1000ダメージは変わらず受けてもらおう」

 

 闇次元の開放は、いわば闇属性かつ除外されたモンスター用のリビングデッドの呼び声だ。つまり、それが破壊されれば呼び出したモンスターも倒れ、モンスターが敗れれば本体も破壊される。攻撃力3000を誇るダーク・ホルスを倒したのはデカいけど、スライムがやられたことでダイヤモンドガイ1体だけではこれからの攻撃をしのぎ切れない。

 

 清明&エド LP4200→3200→2900

 

「問題ないね。時計カウンターが4つ以上乗った時計塔が破壊された時、そこに囚われていた囚人が解き放たれる!出でよ、D-HERO ドレッドガイ!」

 

 崩壊した時計塔の瓦礫を跳ね飛ばして現れた上半身裸の男。傷だらけの両手両足には重そうな鎖をつけ、顔には鉄のマスクをはめられていて口しか見ることができない。その男は自分が自由の身になったのが信じられない、といった様子でキョロキョロと辺りを見回し、手足を自由に動かせることを確認すると喜びの余り獣のように一声吠えた。

 

「ドレッドガイは解き放たれた時、墓地のD-HEROを2体まで特殊召喚することができる。ドレッド・ウォール!甦れ、ダッシュガイ!」

 

 D-HERO ダッシュガイ 攻2100

 

「だがこれだけじゃない、ドレッドガイの攻撃力は自分フィールドのD-HEROの全攻撃力の合計になる!」

 

 D-HERO ドレッドガイ 攻0→3500 守0→3500

 

「これで形勢逆転さ。おっと、先に言っておくがドレッドガイを特殊召喚したターン、全てのD-HEROはドレッドガイのもう一つの効果であるドレッド・バリアに守られてあらゆる手段で破壊できず、僕の受ける戦闘ダメージも0になる。どうやっても突破はできないのさ」

 

 うわあ悪い顔。というのは置いといて、さすがにプロデュエリストだけのことはある。あっという間にあんな上級モンスターばっかりの相手に対抗できるだけの戦力をフィールドに揃えるだなんて、並みの腕でできることじゃない。だが、ミスターTは依然として余裕の笑みを崩さなかった。

 

「戦闘ダメージが0になるなら、それも構わない。気が付かなかったのかね?私が君のダブル・サイクロンにさらにチェーンしてチェーン3にこの伏せカード………速攻魔法、サモンチェーンを発動していたことに」

「何っ!?」

「サモンチェーンの効果によって、このターン私が行える召喚は3回になる。ルキウスをリリースし、邪帝ガイウスをアドバンス召喚!召喚時効果で、まずはドレッドガイを除外!」

 

 囚人が自由を勝ち得たのもつかの間、その体が闇の中に引きずり込まれて消えていく。そしてドレッドガイは闇属性、効果ダメージは発生してしまう。

 

 清明&エド LP2900→1900→1600

 

「ここで私の手札も尽きてしまいましたからね。トラップカード、強欲な瓶を発動。デッキからカードを引きます。これはこれは………アドバンス召喚されたモンスター、邪帝ガイウスをリリースして怨邪帝ガイウスを召喚!先ほどは言いませんでしたがこのカードはアドバンス召喚されたモンスターをリリースする場合、リリース1体で特殊召喚できるのですよ。そして闇属性モンスターをリリース素材としたことにより、残りのヒーローにも消えていただきましょう!」

 

 2体目のガイウスが身をかがめてダッシュガイとダイヤモンドガイを掴みあげ、そのまま握りつぶす。エドの表情はここからはちょうど横顔しか見えないが、ダメージによる痛みとは別にどこかつらそうに見えた。

 

 清明&エド LP1600→600→300

 

「これで私の手札はなくなり、召喚権も消えた。戦闘ダメージを与えられないのなら、このままターンを終えましょう」

「まだまだ、諦めてたまるか!僕のターン、ドロー!」

 

 引いたカードは………駄目だ!このカードだけじゃ逆転どころか次の攻撃を耐えることもできない!

 

「まったく、どうしようもないのはその顔を見ればわかる。僕が君に手を貸すなんてあまり気に入らないことではあるが、1つアドバイスしよう。あまり細かく言うのはルール違反だが、僕が先ほどのターン何をしたのかよく思い出してみるんだ」

 

 さっきのターン。デステニー・ドローでカードを引き、水晶男を召喚して効果を使い………なるほど、やっと理解できた。

 

「さっきエドが発動したダイヤモンドガイのエフェクトを発動!終わりの始まりの発動条件およびコストを全部踏み倒して、その効果でデッキからカードを3枚ドローする!」

 

 引いた3枚と、手札のカードを見る。よし、道は見えた!ミスターTの最後の伏せカードが気がかりだけど、ここは突っ走るしかない!

 

「自分フィールドにモンスターが存在しない時、このカードは通常召喚できる!天をも焦がす神秘の炎よ、七つの海に栄光を!時械神メタイオン、召喚!」

 

 この状況を変える力を持つ、大きくなったガイウスには若干及ばないものの、それでも圧巻のサイズを誇る僕の第二の神。

 

 時械神メタイオン 攻0

 

「まだだ。魔法カード、二重召喚(デュアルサモン)を発動。これにより僕は、このターンもう1度の召喚ができる」

「ならばその発動にチェーンしてトラップ発動、2枚目の闇次元の開放!ダーク・ホルス・ドラゴンを呼び寄せ、魔法カードが発動されたことでルキウスを蘇生!」

 

 ダーク・ホルス・ドラゴン 攻3000

 邪帝家臣ルキウス 守1000

 

「どうやらメタイオン先生のことは知ってても、その効果は知らないみたいだね。わざわざありがとう、って言いたい気分だよ。来て、霧の王(キングミスト)!」

 

 霧の王 攻0

 

「攻撃力0のモンスターを並べて、何をする気だ」

「エド、ちょっとの間黙って見てなって。墓地からタイダルの効果発動、墓地のシャクトパスと手札の氷帝メビウスを除外してこのカードを特殊召喚!」

 

 爆征竜-タイダル 攻2600

 

「用意は全部整った、これで最後のバトルだ!メタイオンでべリアルに攻撃、ケテルの大火(たいか)!」

 

 メタイオン先生が両手から炎を放つと、それがまるで意思のあるように動いてお互いのフィールドをぐるりと取り囲む。僕のフィールドを包む炎は、触ってもまるで熱くない奇跡の炎、俗に言う生命の火…。だがあちらのフィールドを覆うのは、清らかではあるが何人たりとも逃げられない裁きの炎、とのことらしい。自分でも消えない炎のフィールドを作ることのできるチャクチャルさんがそう言ってたからたぶん間違いない。ガイウスが、べリアルが、痛みを感じる暇もないほどの速さで焼き尽くされて消えていく。

 

「これで2丁上がり!メタイオンが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時、フィールドの全てのモンスターを持ち主の手札に戻し、その合計数×300ポイントのダメージを与える!この効果を受けるモンスターはそっちのガイウス2体にべリアル、ダーク・ホルスとルキウス。これだけならダメージは1500止まりだけど、この効果は僕のフィールドにも範囲が及ぶ!さらにタイダルと霧の王を手札に戻すことで、累計ダメージは2100ポイントだ!」

「「何、まさかこれほどとは……!」」

 

 ミスターT&ミスターT LP2000→0

 

 

 

 

 

 きれいに声をハモらせて、同時に吹き飛んでいくミスターT。やれやれ勝ったと一息ついていると、エドがミスターTに詰め寄っていくのが見えた。

 

「さあ、斎王について知っていることを教えてもらおうか………なっ!?」

 

 なんと、ミスターTの姿が服やらサングラスやらも含め全身がカードの束になって、地面にバサリと崩れた。さすがに慌てたエドがそのカードを拾い上げようとすると、そのカードたちが一斉に透明になっていき、ついには全てがまるで最初から何もなかったかのように消えてしまった。どうなってんのさこれ。

 

「今のが何であれ、とにかく無駄足だったか。僕は斎王に用があるんだ、君自体には用はない。そこの2人の介抱でもしてやるんだな」

 

 すぐに気を取り直したエドが、どこかに歩き去っていく。一瞬引き留めようかとも思ったけど、何を言っていいのかわからなかったし夢想と親父のことも気になるので諦めて見送るのみにする。とりあえず二人とも呼吸は安定してるし、布団ひいて寝かしときゃ夜までには起きるかな。

 

『マスター、ちょっとダークシグナーになってくれ。2人とも放っておくだけだと目が覚めるまでに10日はかかるぞ』

「ごめんちょっと説明して」

 

 いきなりわけのわからないことを言いだしたチャクチャルさん。話をまとめてみると、なんでもミスターTの力のせいで眠らされている2人を起こすには、自然回復を待つよりも別の力を加えてミスターT成分を追い払う方が早くて安全らしい。

 

「なるほどねー。あーらよっと!で?2人の額に手を置いて?………っ!?」

 

 油断してた。というより、甘く見ていた。なんだかんだいってデュエルでは勝てたし、別に大したことないだろうとばかり思ってた。だけど、それはとんだ思い違いだ。ものすごい勢いで、ダークシグナーの力どころか僕自身の体力まで吸い込まれる。ようやく終わるころには疲労感たっぷりで、今にも倒れる寸前ぐらいだった。だけどまさか道のど真ん中で3人そろってぶっ倒れるわけにはいかないので、なんとかよろよろと立ち上がる。

 

『思ったよりがっつりした呪いだったな、ミスターTめ。常人なら今意識があるだけでもおかしいレベルに消耗しているはずだ、向こうが気になるのはわかるがここはいったん抑えてくれ』

 

 布団を敷こう。家の物の配置、変に変わってなきゃいいけど。夕飯も作ろう。もう一歩も動きたくないけど、夜には何か食べないとそっちの方が体に悪い。その頃には2人とも起きるみたいだけど、なにせ親父ときたらケーキと紅茶に関しては僕よりずっと上なのに他の料理及び家事に関しては駄目の一言に尽きるからね。今日初めて来た夢想じゃあ冷蔵庫やらなんやらの場所もわからないだろうし、やっぱり僕がやるしかない。

 親父を担ぎ上げ、夢想を背負う。何がとは言わないけど背中の方が大変柔らかくて一応年頃の男としては非常にうれしいです。

 

『顔赤いぞ、マスター』

「うるさい!」

 

 最後に、もう一度街を取り囲む4体の帝を見る。誰が戦ってるのかはわからないけど、こんな調子だと僕は加勢に行けそうにない。そもそもデュエルが起きてる場所までたどり着けるかどうかも怪しいものだし、もし着いたとしても頭がボーっとしてて使い物になるかどうかもわかったもんじゃない。料理なら半覚醒状態でもできるから問題ないけど、デュエルは体力だけじゃなく脳みそも使う文字通りの全身運動だからね。

 でも、なんとなく十代たちならどうにかなる気がした。なぜ十代たちだと思ったのかは自分でもよくわからない。だけど、あんなにでっかく精霊が出てるんだから十代が反応しないわけがない。それと前からちょいちょい思ってたけど、どうも剣山も普通じゃない何かを持ってるみたいだし。翔はどうせあの二人の最低でもどっちかと一緒にいるだろうから、これも大丈夫なはずだ。悪いけど、夜ぐらいまでは一時的にリタイアさせてもらおう。もう異様な疲れがたまってしょうがないんだ。




そういやエドのデュエルってこれが初か。もうちょっと早いうちにちゃんとシングル戦入れとくんだったな、とちょっと後悔。

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